第13話 ここが拠点か
僕達が歩き出してから、数十分後。
副リーダーのガイウスはその場所を知っているようで、今の所は警備兵にも見つかる事なく進んでいる。
怪我人も居るので足取りは遅いが見つからないのは、何処に警備の兵が居るか把握しているからだろうな。帰ったら警備兵の詰め所を変えるか警邏ルートを変更するように指示するか。
まぁ、今は見つかる事が無いので助かるけどね。
そう思いながら歩いていると、ガイウスがある建物の前で止まった。
何処にでもある二階建ての建物だ。
「ここが拠点ですか?」
「ああ、そうだ。最もここは第一拠点が襲撃を受けて使い物にならなくなった状態になったら使うセーフティハウスみたいなものだ」
「成程」
「他にも、ここと同じような場所が幾つもある」
「そうですか」
という事は、襲撃を受けても直ぐに別の拠点で活動できるようになっているという事か。
これは、何処かの組織の支援を受けていると思った方が良いな。
でも、中央区にそんな大きな組織があったかな。
これも帰ったら確認しよう。
「入るぞ」
ガイウスが玄関を入りドアを開け先に入る。僕達もその後に続いた。
そして、建物に入り中を見る。
結構広い建物だな。高くはないがかなり広さを取っているようだ。
ガイウスはそのまま進み、二階へと進む階段を上がらず、そのまま階段の後ろへと歩きだした。
僕達もその後に続いた。そして、階段の裏に扉があった。
ガイウスはその扉を開ける。すると、地下へと続く階段があった。
「行くぞ」
ガイウスがその階段で下りだしたので、僕達もその階段に続いた。
その階段で下りて行くと、一本道があった。
「しばらく、この道が続くぞ」
先頭を歩くガイウスが声を掛ける。新入りの僕達に気を使ったのだろう。
なので、僕達はその道を進んでいく。
途中、幾つか支道が出来ていた。
「これらの道は?」
「武器庫、活動に使う金が入っている金庫とかだな」
もしかして、ここって結構重要拠点かもしれないな。
だったら、此処を襲えばこのチームの活動を止めれるかもしれないな。
あっ、でも、此処のチームを支援している組織を調べて、その供給源を潰してからの方が良いかな。
そう思いながら歩いていると、ある部屋の前に着いた。
ガイウスがドアを開けて部屋の中に入る。
すると、部屋の中には沢山のベッドと人がいた。
端正な顔立ちで、黒い短髪。ガタイが良い体格をしていた。
着ている服もパツンパツンで窮屈そうにしていた。
白衣を着ている事から、どうやら医者のかもしれない。
「怪我人は?」
「結構いる。ここに全員収容できるか?」
「この大丈夫だ。じゃあ、ベッドに運んでくれ」
「分かった。おぅし、お前等、怪我人をベッドに運べ」
「うっす」
ガイウスの指示に従い、皆、部屋にあるベッドに運ぶ。
「よし。全員運び終えたら、俺達は別室に行く。後は任せたぞ」
「ああ、任せろ」
ガイウスがそう言うと、白衣を着た男性がそう言うと、ガイウスが部屋を出て行った。
僕達、新入りはどうしたらいいのか分からず困惑していた。
「おい。お前等、新入りか? 治療の邪魔だから部屋を出て行け」
「で、でも」
「あん? お前等、何処に行くか分からねえのか?」
「はい」
こうして見ると、怪我人の殆どが正メンバーなので、僕達は何処に行くか分からなかった。
「だったら、この部屋を出て、来た道を戻って直ぐに左に行く道があるから、その道をそのまま真っ直ぐ進むと、右に行く道があるから、その道を進んで、更に左に行って、そのまま真っ直ぐ進めば、扉があるから、その扉を開けると、三つ扉がある部屋に出るから、その部屋にある右の扉を開けて中に入れ。其処が作戦会議室だ」
えっ? ちょ、ちょっと。
「すいません。もう一度お願いします」
「だから、この部屋を出て、来た道を戻って直ぐに左に行く道があるから、その道をそのまま真っ直ぐ進むと、右に行く道があるから、その道を進んで、更に左に行って、そのまま真っ直ぐ進めば、扉があるから、その扉を開けると、三つ扉がある部屋に出るから、その部屋にある右の扉を開けて中に入れ。其処が作戦会議室だっどうだ、分かったか?」
め、メモを取らないと覚えきれない。
僕達はもう一度、メモを取りながら聞いた。
「あ、ありがとうございます」
「おう」
「そうだ。御名前を聞いても良いですか?」
「ああ、そうだな。俺は『プゼルセイレーン』のオデュセ・バシィレタケーだ」
オデュセ・バシィレタケー?
そう言えば、同じ性を持った人が家臣に居たような。
その者の親族かな。
だったら、この建物を用意したのも、その人の権力を使ったのかな。
さて、帰ったら聞く事が沢山出来たな。
オデュセ・バシィレタケーが言われた通りの道を進んでいくと、作戦会議室に着いた。
その場所には、既にガイウスとリーダーであるモルぺが居た。
「ああ、ようやく来たようね」
「予想よりも早かったな」
ガイウスがそう言うのを聞いて、何となくだけどここまでの道のりをを教えない理由が分かった。
「あの、副リーダー」
「何だ?」
「どうして、新入り達にここまでの道のりを教えなかったのですか?」
正メンバーの人がガイウスに訊ねた。
「教えなくても、怪我を負っていない正メンバーに聞くなり、医務室に居たオデュセに聞くと思ったので敢えて教えなかった」
「何故ですか?」
「少しでも新入りと正メンバーが交流できると思ったからだ」
それだったら、正メンバーの人に言うべきでは?
てっきり、僕は敢えて道を教えないで、この場所の造りを何となく頭に叩き込んでおけという事だと思っていたけど、違ったか。
「さて、怪我人以外のメンバーは揃っているようだが、その前に」
ガイウスが僕を見る。
いや、正確に言えば、僕の後ろに居る人を見ているようだ。
僕の後ろに居る人と言えば。
「そこアマ。てめえは何でここに居る?」
ガイウスがカーミラさんを睨みつけながら言う。
「わたくし? わたくしはウィルの許嫁よ。許嫁同士が一緒に行動して悪いのかしら?」
あれ? 何か意味は同じなのに少し言葉が変わっているぞ。
何か深い意味があるのだろうか?
「ぐぎぎぎぎ……」
何か、ティナが歯ぎしりしている。
「それは先程聞いた。俺が聞きたいのは、どうして俺達と一緒に行動しているかという事だと聞いているんだ」
「ああ、それね」
う~ん。どういったものかな。
館を出る時につけられて仕方がなく行動を共にしていると言うべきか。それとも、チームに加えてもらおうと連れて来たと言うべきかな。
さて、どう言ったものか。
「その事ね。簡単な事よ」
カーミラさんは重い溜め息を吐いた。
「ここの所、一緒に寝ていた筈なのに気が付くと、ウィルがベッドから居なくなっていたの」
「一緒の?」
「ベッドで?」
「寝ていた、だとっ?」
何か、周りの人達が何か言っている気がする。
「いつもは、わたくしの胸に顔を押し付けながら朝まで眠る筈なのに、何時の間にか胸に当たる感触がなくなっていまして」
「胸に顔をおしつけるっ、だとっ⁉」
そこっ、嘘をつくなよ‼
正確に言えば、寝ていると何時の間にか、僕の寝室に忍び込んで胸を僕の顔に押し当てながら眠っているだろう‼
断じて、僕から胸に顔をダイブなんかしていないぞ‼
まぁ、起きるとその柔らかい胸の感触で二度寝する事はあるけどね。
「もしかして、浮気でもしたのかしらと思い、今日、一緒に寝ていたのですが。わたくしは寝たフリをして、ウィルが出て行くのを追いかけました。そして」
「今に至ると?」
「はい。そうです」
「……ウィル」
「はい」
「この、ネエちゃんは本当にお前の許嫁か?」
「え、えっと……」
正直、その話はした事はあるけど、正式に公表した訳ではないので、許嫁と言われるとちょっと無理があるような。
「……っ⁈」
「っっつ⁈‼」
いきなり、カーミラさんが僕の足を踏んだ。
その痛みで、僕は言葉にならない悲鳴をあげた。
「「? どうかしたか?」」
「な、なんでも、ありません……」
僕は痛みに耐える。
「た、たかに、かーみらは、ぼくのいいなずけです」
「そうか。じゃあ、仮メンバーの女なら、別に問題ないな」
ガイウスはそれ以上、カーミラの事で詮索する事は止めた。
「では、今後についての会議を行う。お前等、良く聞いておけよ」
ガイウスがそう言うので、皆、部屋にある椅子に好き勝手に座る。
無論、僕の両隣にはカーミラさんとティナが座る。
その所為なのか分からないが、何かすっごい見られている感じがする。
「先程の『クリムゾン・ティガー』の襲撃により、拠点の一つであった『カフェ&バー テンダー』は使い物にならなくなった。なので、今後の集会場所を教える」
「ここではないのですか?」
「正直、ここは緊急避難場所といえる所だから。メンバーが入り浸るのは避けたい。なので」
ガイウスは背後にあるこの都市を描いた地図を見る。
そして、地図に記されているある場所を指差す。
「明日の夜に集まる場所は、ここだ」
「そこは何ですか?」
「ここは元は宿屋だったんだが、今は廃業して空き家になっている。明日はここに集まる様に」
「そこの店名は?」
「『天馬亭』だ。覚えておけよ」
ガイウスがそう言ったので、記憶を探る。
そこは空き家だけど、宿屋じゃなくて雑貨屋だったような。
まぁ、明日行けば分かるか。