第1話 それから五年後
新章に入ります。
十二氏族が言う『奥地』で暮らしている部族の全てを、魔国に従属させる事に成功した事で、十二氏族の全てが僕に従属した。
これにより『オウエ』の領地は完全に僕の、ひいては魔国の領地となった。
それにより、何の支障も無く土地の開発に専念できた。
山を開発すると殆どが金山、銀山であった。
中には、神鋼が採れる鉱脈もあったが、それ以外は特に特筆すべきものはなかった。
流石に前世のように魔法銀と神金剛の鉱脈は無いか。
まぁ、代わりに交易品に使える木材や装飾品があるので良しとしよう。
そう考えながら、僕は今、手紙を書いている。
宛先はイザドラ姉上だ。
何故、姉上に手紙を書いているのかと言うと、これには訳があった。
僕が『オウエ』の領地を支配できた事を報告の為に、魔都に上がった時に姉上と一悶着が起こった。
まぁ、直ぐにロゼティータ姉さんが来て治まったけどね。
何で、姉上が一暴れしたのか訊ねたら。
『まだ婚約者も居ない可愛い可愛い弟の傍にいる邪魔虫、ではなく、不届き者が居ましたので、少々灸を据えようと思いまして』
それを聞いたロゼティータ姉さんは『地形を変える程の力で何が、灸を据えるじゃ。この大戯けっ』とカンカンに怒っていた。
そして、僕がお供で連れて来た人達をまるで仇を見るかのような目で見ていた。
流石に止めて欲しいと頼んだら。
『では、領地に戻ったら近況報告の手紙をわたしに出しなさい。そうしたら止めてあげます』
何故そんな事をしないといけないのか分からないが、とにかく了承した。
以来、手紙を書いている。
前に手紙を書くのを忘れて一ヶ月ほど放置していたら、とんでもない量の手紙が送られてきた。
しかも、内容は『どうして手紙をかいてくれないの?』という文字を全ての手紙に端までビッシリと書かれていた。
思いが重いと洒落を言いたくなるぐらいの手紙だった。
以来、定期的に書いている。また、あの手紙を見るのも御免だから。
「という訳で、今は作物の品種改良に着手していますっと」
報告する事を書いた僕は手を止める。
「ふぅ、ここまで書けばいいか」
肩をもみほぐしながら、僕は身体を伸ばす。
長時間書いていた所為か、喉が渇いたな。厨房に行こうか。
領主なんだから、メイドか誰か呼べば良いのかもしれないけど、どうも人を呼ぶのに慣れない。
なので、喉が渇いたりお腹が減ったりしたら、いつも直接厨房に向かう。
で、立ち上がり、部屋を出ようとしたら。
廊下からバタバタという足音が聞こえてきた。
そして、扉が開いた。
「何かありましたか? リウイ様」
扉を開けると、アルネブさんが居た。
メイド服を着て。
「い、いや。ちょっと別に」
どうして呼んでもいないのに、僕が部屋を出ようとしたら、こうして来るのだろう。
「喉が渇いたのですか? それともお腹がすきましたか?」
「え、えっと……」
その押しの強さに、僕はタジタジであった。
そうしていると、またバタバタと足音が聞こえて来た。
今度は、大きな音を立ててドアが開いた。
「ちょっと、貴方⁉」
「何かしら?」
アルティナが大きな声をあげる。アルネブさんは逆に冷静に返した。
「何で、ここに居るのよっ」
「リウイ様が用事がありそうだったので来ましたのですが?」
「あたしの仕事を奪わないでくれるっ」
「そうでしたか。そんなつもりはなかったのですけど」
二人は睨み合った。
はぁ。アルネブさん達が来てから、どうしてかこういう口論がしょっちゅう起こっていた。
僕は二人の口論が終るまで、二人を見た。