第19話 この世界の通貨と文字を勉強する
昼食を食べ終え少し食休みをしたら、僕達は昨日会議した部屋へと向かう。
会議室には誰も来ていなかったので、何処に座ったらいいか分からなかった。
「何処に座ろうか?」
「ねぇ、だったら、あそことかどう?」
マイちゃんが指した先には、王様が座っていた席があった。
「いやいや、あそこは駄目でしょう」
僕は手と頭を横に振る。
「いいじゃん、ちょっとくらい。今なら誰も居ないんだし」
「それでも駄目だよ。もし、ばれたら僕達全員打ち首になるかもしれいじゃないかっ」
「マイ、流石にそれはまずいだろう」
「そうだね。悪ふざけでも駄目だと思うよ」
ユエ達に言われて、流石のマイちゃんも止めてくれたようだ。
「まったく、身体だけ大きくなったような奴だな。お前は」
「身体は大人、頭脳も大人、心はいつまでも子供、皆のスーパーアイドル。その名は真田舞華‼」
「面白く無いわ」
ユエが頭に手刀を叩き込む。
今のは、ちょっとね。無理がある。色々な意味で。
それで何処に座ろうかと話していたら、妙齢の女性が会議室に入って来た。
青い髪をきっちりとアップにまとめ、赤い服を隙なく着こなした切れ者と思わせる雰囲気を滲み出す女性だ。切れ長で金色の瞳が僕達を見る。
「異世界から来た方々ですね? わたしは宮廷女官をしております。ミルチャ・メジュリーヌと申します。以後お見知りおきを」
綺麗な人だなぁと見惚れていると、頬とわき腹と尻を抓られた。
「いたっ、いたいいたいたいたいっ⁉」
何故か三人に抓られた。
「綺麗な人が居るからって、デレデレしないっ」
マイちゃんが僕の頬を抓りながら言う。
そんな僕達を見て、クスクスとミルチャさんは笑い出す。
笑った顔も綺麗だなぁと思っていたら、更に力強く抓られた。
ミルチャさんに訊くと、何処でも座って良いそうだ。
一番後ろに行こうとしたら、マイちゃん達が僕の両脇を掴んで一番前に座らせた。
僕を真ん中にして、後ろにマイちゃん、右に椎名さん、左にユエという順番でT字の様に座る。
座って待つ事数十分。クラスの皆がようやく来た。
会議室に入って、彼らの目に入ったのは、僕達が仲良く座っている所だ。
男子は嫉妬と羨望に満ちた目で僕を見るし、女子は冷たい目で僕を見る。
(何で座っているだけで、こんな目に遭うんだろう?)
皆思い思いの席に座り、ようやく勉強の始まりだ。
まず、ミルチャさんが自己紹介をして、それから僕達以外のクラスメート達の名前を聞いていく。
今日は文字書き取りと通貨の事を話すそうだ。
ミルチャさんが何事か呟くと、何処からかデカい巻物が出て来た。
これを見ると、この世界はファンタジーなんだと実感した。
天井に着きそうなくらいの大きさだ。
その巻物が何もしていないのに開き出した。その巻物には、この世界の文字が書かれていた。
見えやすいように、大きく書かれていた。
言葉は問題なく通じたが、文字は僕達が居た世界のどの国にもない文字が書かれていた。
ミルチャさんはそれを丁寧に教えてくれた。
そして、また何処からか紙を出し、更に人数分の羽ペンも用意されていた。
ミルチャさんが手を横に動かすと、紙とペンが勝手に動き、僕達の所に来た。
「その紙で、文字の書き取りを千字ほど書いてもらいます、今日は別にキチンと書かれていたら問題ありません。文字を覚える事を優先してください。それと、そのペンはインクがなくても書けます」
皆、嫌そうな顔をするが、でも字が分からないとこの世界で生きて行くには大変だ。なので、渋々だがペンを取り教えてもらった字を紙に書く。
僕も紙に字を書き始めた。
このミミズのような字を千字も書くのかと思うと、少々気怠いが仕方がない。
ようやく、書き終える。すると、何もしていないに紙とペンが動き出した。自然とミルチャさんの所に戻っていく。
ミルチャさんはその紙を纏めると、突然消えた。巻物も一緒だ。
いきなり、消えたので何が起こったか分からず、皆ざわつく。
「この紙は後日採点して、お返しします」
採点するんだと思いながら、僕はもう少し綺麗に書けば良かったと後悔した。
「では、通貨について話します」
ミルチャさんは良く見せる様に、皆に手招きしてきた。
皆が前に来ると、ミルチャさんはこの世界の貨幣を見せてくれた。
この世界の貨幣は鉄貨、銅貨、青銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨の六つあるそうだ。
ざっと話を聞いて、貨幣の価値が分かった。
この国では貨幣をゴルド言う。
鉄貨一枚で一ゴルド。
銅貨一枚で十ゴルド。
青銅貨一枚で百ゴルド。
銀貨一枚で千ゴルド。
金貨一枚で万ゴルド。
大金貨一枚で十万ゴルド。
白金貨一枚で百万ゴルド。
と言う感じだ。
日本円にすると、鉄貨が一円にあたるようなものと考えたら良いのだろう。
そこまで話を終えて、今日の訓練は終了だそうだ。
ミルチャさんが言うには、初日に教え込みすぎるとついていけなくなるかもしれないので、今日はここまでにするそうだ。
明日からは少しハードになると言っている。
僕達はそれを聞いて、溜め息を吐く。
今日の訓練だけでもきついのに明日から更にきつくなると思うと、気が滅入りそうだ。
ミルチャさんは僕達にそう言って部屋から出て行った。
僕も部屋に戻る事にした。




