第99話 何とか、交渉を終える事が出来た
「ンデ、儂ハコウ言ッタンジャ『儂ノ首ヲヤルカラ、部族ノ者達ハ助ケテクレ』トナ、ソウシタラ、アノ鉄クズ共ハ『貴方ノ首ヲ貰ウヨリモ、賠償ヲ払エバ解放シテヤル』ッテ言ウノダ」
「ふむふむ」
「バイショウトカ言ウノガ分カラナインデ、儂ハ聞イタンジャガ、アイツラノ説明ハサッパリ意味ガ分カランノデ、モウ面倒クサイカラ、サッサト儂ノ言ウ通リ二セヨト言ッタンジャア」
「成程」
予想通り、アイゼンブルート族の理論的考えと言い方で、この巨人族の族長には理解できなかったんだろうな。
「分かりました」
「オオ、ソウカ。デ、儂達ハドウナルンジャ?」
「そうですね。オケアノス族長も死なないで、部族の人達と一緒に住処に帰れる方法がありますよ」
「ホホウ! ソレハドンナ方法ナンジャ?」
「そちらの部族が管理している鉱床で採れる鉱物の何割かを渡せば大丈夫です」
「ナニ? 何デ、ソンナ事ヲスルンジャア?」
「戦いに負けたのですから、そうしないといけないんですよ」
「何デジャア?」
「もし、ここでオケアノス族長が死んだら、部族はどうなると思いますか?」
「ウ~ム。次期族長ノ者達カラ選バレル筈ジャガ?」
「ですが。オケアノス族長は誰を族長になるか決めていないのですから、一悶着起こりますよ」
「一悶着?」
「次期族長候補は、皆階級が違うのですから、下手したら階級ごとに分かれて内乱が起こりますよ」
「確カニソウジャナ」
「その内乱で他の部族が攻め込んでくるかもしれません」
「ムゥゥッ。確カニッ」
「という訳で、族長の首の代わりに、鉱物を渡せばいいんですよ」
「鉱物カ。ウウム。鉱物ヲ渡シタラ武具ト農具ガ作レナクナルンジャガ」
「族長の首を渡す事にくらべたら、安い物ですよ」
「ソウカノウ?」
オケアノス族長は頭を悩ませている。
悩んでいるという事は、僕の話を理解しているというだから、これでもう一押ししたら大丈夫だな。
「族長の首と鉱物の幾つか、どっちが安いとお思いですか?」
「ソレハ、儂ノ首ノ方ガ高イジャロウ」
「であれば、取るべき手段は決まっていますね」
「ムゥ。ソウジャナ」
よし。これで賠償の話は済んだ。後は、この巨人族を魔国に従うようにした方がしよう。
「後、もう一つ美味しい話があるんですが」
「美味シイ話?」
「そうです。僕はこの樹海の外にある国の使者です」
「フム。ソレデ?」
「その魔国と同盟を結びませんか?」
「同盟?」
「そうです。貴方達は労働力と戦力になる人材を僕達に貸し出して、僕達はそちらでは手に入りずらい物を与えるという関係を作るのです」
「儂ラガ、手ニ入リズライ物? 何ジャ、ソレハ?」
「例えば、塩とかどうですか」
「塩ジャト⁉」
ふむ。驚いている所を見ると、流石に塩の存在を知っていたか。
巨人族とは主に調味料で交易した方が良いな。
「自分ラノ所ジャア、塩ガ出来ルンカァ‼」
凄い大声を出すので、耳がキーンとなる中で、僕は答えた。
「はい。そうです」
「ホンナラ、ペペロニハアルンカ?」
ペペロニ? う~ん。何だろう。それは。
僕が考えていると、ビクインさんが近付いて、手で大まかな形を教えてくれた。
「こうね。鷹の爪のように細長くて赤い実の事よ。一口噛んだら、辛くて汗が吹き出るの物よ」
それって唐辛子? だよな。そう言えば、前世に居た世界にある国が唐辛子の事をペペロンチーノと言っていたな。
「それでしたら、わたしの領地に群生してますよ」
アマルティアが口を挟んだ。
よし。それだったら、あると言えるな。
「あります」
「オオ、ソウカ。ソレデ儂達ハ部族カラ人ヲ出セバ良イノダナ」
「はい。そうです」
「ウウム。良イ話ジャナ悪クナイ」
人手を貸したら、部族の活動が停滞する事が分かっているのだろうか?
まぁ、そうならない程度の借りれば良いか。
「そうでしょう。時に伺いますが」
「何ジャア?」
「そちらは米、いやライスを作っていますよね」
「オウ、ソウジャア。儂ラノ酒ハアレデ作ッテイルンジャ」
やっぱり。巨人族の住処に行った時、酒を飲んでいた時、匂いを嗅いだんだけど、何か日本酒に似ていたんだよな。
でも、この樹海だから水を引く水路なんて作る事は出来ないから、陸稲だろうな。
「その酒をもっと美味しく出来る方法を知っていますよ」
「ナント‼ ソレハ本当カ?」
「はい。ですが」
「デスガ? ナンジャ?」
「この方法は秘中の秘でして、おいそれと人に教える訳には」
「ソ、ソコヲ何トカデキンカノ?」
「そうですね。巨人族の住処に戻って、アイゼンブルート族との和睦をする事とその条件を部族の人達に言うのでしたら、教えるのもやぶさかではないですね」
「ホ、本当カ?」
「ええ、本当です」
「ワ、ワカッタ。直グニ戻ッテ、和睦スル事ヲ部族ノ奴ラニ言ウ。約束スル。我ガ部族ノ始祖ガイアノ名ニ置イテ約束スル! ジャカラ」
「分かりました。では、そちらの部族の住処に行く事が出来たら、お教えいたします」
「オオ、ソウカ。オイ。其処オ鉄クズ!」
「何ダ?」
「今スグ、コノ鎖ヲ解カンカッ! 早クコノ話シヲシテ、酒ヲ飲ムンジャア」
気が早いな。
まぁ、僕は飽くまでも、行く事が出来たら教えると言ったので、何時行くとは言っていないんだけどな。
その後は、オケアノス族長の拘束を解いた。
拘束を解かれたオケアノス族長は「ホンジャア、コノ話ヲシニ部族ノ者達ニ行カセテモラウンジャ!」と言って、早くこの話をしたいのか走り出してしまった。
自分の部族の人達を放って。
貴方、族長だよね? 自分の部族の者達を放って行くとか、どうなんだ。
「……とりあえず、この事をケニギンアーヌル族長に話しに行きましょうか」
「ソウですな」
僕達はケニギンアーヌル族長が居る部屋に戻った。




