第18話 体力テスト
「・・・・・・・・・・と言う訳なんだ」
僕は訓練場を走りながら、三人に王女様と一緒に来た理由を話した。
「ふ~ん、そうなんだ」
マイちゃんが後ろを走りながら答える。
「何と言うか、実にノブらしいといえるな」
ユエは右隣で並走しながら苦笑する。
「頭噛まれたんだよね? 大丈夫。傷とかついてない?」
椎名さんは左隣で並走しつつ、噛まれた僕の頭を心配して、手を伸ばしてきた。
「大丈夫だよ。噛まれたといっても、跡が突く程じゃあないから」
何で、三人に囲まれて走っているんだろうと思いながら、伸びてきた椎名さんの手を避ける。
避けたので、椎名さんが小さい声で「…もう少しで採取できたのに」と言った気がするが気のせいだろう。
「ふぅ、それにしても、僕達は何周したんだろう?」
数えてないが、もう十周はしていると思う。
クラスメート達も、殆どが疲れて休んでいる。
「先頭を走っている西園寺君と天城君は凄いね。少しもペースが乱れないなんて」
二人は争うように先頭で走っている。お互い負けたくないのだろう。
そろそろ僕は限界だ。
休みたいのだが、僕の周りを三人で囲まれているので、道を外れる事が出来ない。
(つ、つかれた。そろそろやすみたいけど・・・・・・)
三人の表情を窺うと、まだ余裕そうだった。
選抜したメンバーの中には女子もいるが、もう何人も休んでいる。
(もしかして、職業を得た事で体力とか色々上がったのだろうか? それとも普段からこれくらい出来る体力なんだろうか?)
どっちなのか悩む所だ。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・・もう、限界」
僕は腰を曲げて立ち止まった。三人は一度立ち止まった。
「もう、普段から運動不足だからこうなるんだよ。元の世界に戻ったら、お腹の脂肪が引っ込むまで走り込みだよ」
「マイ、ちゃん、そ、それは。きつい、よ」
「まぁ、向こうに帰ったらそうしたらいいだろう。ノブ、お前は休め」
「う、うん、ありがとう」
そう言って、ユエとマイちゃんの二人は走る。
僕が道を逸れて座ると、隣に何故か椎名さんも座りだした。
「あれ? 椎名さんは走らなくていいの?」
「うん、わたしもそろそろ限界だったから」
僕達は今だ走るクラスメート達を見る。
「まだ、西園寺君と天城君は先頭を争っているね」
「そうだね。あの二人もいい加減譲ったらいいのに」
「そう言えば、椎名さんは西園寺君と付き合っているって本当?」
「えっ⁉ い、いいいきなり、何の話?」
「いや、前々から西園寺君が椎名さんに告白したとか聞いたから、どうなんだろうなと思って」
「・・・・・・猪田君、その話しは誰から聞いたの?」
「確か、少し前にクラスの男子が話していたのを聞いたけど」
「そう、そうなんだ・・・・・・・・」
椎名さんが顔を背けて、小声で何か呟いている。
小声なので良く聞き取れないが「誰よ。・・・・・・事を言ってた・・・・・のは・・・・・・」と途切れ途切れ何か言っているのは分かる。
(プライベートの事だもんね。噂でも話のタネになったら、嫌だろうな)
そう考えて、僕は椎名さんを見るのは止めて、まだ走っているクラスの皆を見た。
この頃になると、ようやくマイちゃん達の体力が尽きたようで、足を止め僕の所に来た。
右隣は椎名さんが座っているので、左隣でどっちが座るので一騒動あったが直ぐに終わった。
マイちゃん達が休んで直ぐに、走っていたメンバーは足を止めて、地面に倒れた。
「三十六周で全員脱落か、よし、次は素振りを百回してもらう」
側近の人が手で合図をしたら、兵士達が色々な武器が入った箱を持ってきた。
「各自、好きな得物で素振りをしてもらう」
と言われても、僕達は武器を見るのも初めてなので、持つのを躊躇する。
異世界に来て戦争に参加すると決めても、人を殺す物を手に取るには勇気がいる。
「大丈夫だ。ここに置いてある物は全て刃引きされているので、余程当たり所が悪くなければ死ぬ事はない。安心してほしい」
そう言われて、皆おっかなびっくりしながら箱に入っている武器を触る。
箱に入っているのは槍、剣、手斧、小剣といった物が入っていた。
一応、僕達の事を考えられて、使いずらい物は省いているのだろう。
「流石に刀はないか、じゃあこれにしよう」
天城君がそう言って手に取ったのは、ナックルガードが付いたサーベルだった。
「ふん、お前はそれか。なら俺はこれだ」
西園寺君が手に取ったのは諸刃の長剣だ。
二人が武器を取ったので、皆も好き勝手に取った。
僕は何を取ろうかなと思っていたら、マイちゃん達が僕の前に武器を突き出した。
「え、えっと・・・・・・・これは、いったい?」
「ノッ君にはこれだよ」
そう言って、マイちゃんが僕の前に突き出したのは槍だ。
うん、一番安定している物だ。
マイちゃんの事だから、何か扱いずらい物を見つけて来ると思った。
「いや、ノブにはこれだろう」
ユエが僕に見せたのは剣だ。
THE武器の定番中の定番だ。
それにユエが持ってきたのは、それほどそれほど大きくないので僕が素振りをしても、剣の重量で振り回される事はないだろう。
「二人共、猪田君にはこれが一番良いよ」
椎名さんが持っているのは、これはかなり珍しい物で刺突用の剣のようだ。
名前は知らないが、平行に並んだ二本の横木が柄のなっているようだ。
勿論、刃引きはされている。
三人が自分で選んだ武器を、笑顔で僕に押し付けてくる。
(ええ~、ど、どれを選んでも、何かいわれそうだな)
まずい何かないかと思い、周りを見ると丁度良い物があった。
槍の一種だが、穂先は片刃でグレイブという物だ。
この武器を見て、僕は中国の有名な武将が持っていた武器を連想した。
(確か、関羽が使っていた武器は青竜偃月刀と言う薙刀みなたいな物って本に書いてあったな)
あんな義理堅い人になってみたいな。
まぁ、僕の好きな武将は夏候淳と郭嘉と司馬懿だけどね。
「ぼ、僕はこれにするよ」
そのグレイブを取り、三人に見せる。
それを見て、三人は何も言わず、自分が選んだ武器を自分の物にした。
「全員に武器が行き渡ったようなので、では素振り百回、始め!」
一部を除いき僕を含めて、皆へっぴり腰で素振りを始める。
素振りをしていると、兵士の人が来て変な所を矯正する。
僕も変な所を矯正してもらい直した。
時間はあっという間に過ぎて、お昼を告げる鐘が鳴る。
「では、昼休憩にする。各自好きに休みを取るように、次は語学を教えるので、昨日皆様がいらした会議室に向かって下さい」
そう言って、皆訓練場から出て行った。
ようやく、お昼と思うと、お腹の虫が鳴きだした。
「さっきはあんなにへとへとだったのに、お腹は正直だね。ノッ君」
僕は何にも言えず、黙って頭を掻くいた。




