第94話 とりあえず、昆虫人族の巣に戻ります
カーアインスの話を聞いて、僕は少し考えた。
指示を仰ぐと言われても、僕としてはアイゼンブルート族で決めて下さいと一瞬思ったが、こうして言ってくるという事は、もしかして交渉が上手くいかないから、僕の力を借りたいという事なのではないだろうか?
かもしれないが、今の所、情報が不足していて何と答えたら良いか分からないな。
さて、どうしたものかな。
「マスター、此処は一度昆虫人族の所に戻り報告して、カーミラ達と相談して決めたらどうでしょうか?」
「成程。それが良いな」
よし、今はそれで行こう。
「という訳で、カーアインスでいいのかな?」
「ハッ」
「昆虫人族の巣に連れが居るんだ。そこの人達と合流してからで良いかな?」
「ワタシハソレデ構イマセン」
「よし。じゃあ済まないけど、僕達と一緒に来てもらうよ」
「ヤー」
カーアインスの方はこれで良いとして、今度はアンビアさん達に話しを通しておこう。
「ビクインさん、アンビアさん」
僕はカーアインスと話すために気を利かせたのか、少し離れた所で僕達を見ていた。
そんな二人に、僕は呼ぶと来てくれた。
「何かしら?」
「この金属の塊との話は終わったか?」
金属の塊か。言い得て妙だけど、近くに居るのに言うとは。
「……」
カーアインスは何も言わないので、特に気にしていないようだ。
「話し合って、一度昆虫人族の巣に戻る事になりました」
「うむ」
「それで、このカーアインスを連れて行っても良いでしょうか?」
「どうしてだ?」
「次はアイゼンブルート族の所に行こうと思いまして、その道案内役になってもらおうかと」
「ああ、成程な」
「だったら大丈夫ね。わたし達が言えば、賓客待遇にしてくれるわ」
「そうですか。では頼みます」
「承った。これ、誰か」
「はっ」
「情報は入手し、ビクイン達と合流出来た。それと客人が一人増えたと伝えろ」
「はっ。畏まりました」
護衛で来てくれた人が、一足先に巣に戻って行った。
「これでよいだろう」
「ありがとうございます」
これで、カーアインスを連れて行っても問題ない。
では、巣に戻ろうとしたのだが。
「「…………」」
何か、ビクインさんの娘さんの一人がカーアインスと僕達を睨んでいる。
もしかして、敵だと思っているのかな?
「あの、ビクインさん」
「気にしないで良いですよ。あの子は人見知りだから」
「そうですか」
「こら、アルべ。お客様を睨んでは駄目よ」
「でも、お母さん」
「駄目よ」
もう一度強く言われて、アルべさんはむくれた顔をした。
他の子達はどうだろうと思い、僕は他の二人の娘さんにも目を向ける。
「……」
名前は分からないが、アリアンをジッと見ていた。
その目は興味深そうな目をしているので、獣人を見て興味津々のようだ。
「わぁ、久しぶりだね。スイレン」
「そうね。ニーグ」
もう一人の方は、何かスイレンさんの腹部目掛けてダイブした。
そして、頬ずりしていた。
腹部を頬ずりされているスイレンさんは特に気にした様子もなく、楽しそうに話している。
あの子がニーグか。
う~ん。他の娘さん達と何処が違うのか分からないな。
後で、ビクインさんに訊いてみるか。
そう思いながら、僕達は昆虫人族の巣に戻る。
僕達はカーアインスとビクインさん達の娘さん達を連れて、昆虫人族の巣に戻った。
その道なりに歩きながら、僕は気になった事があったので娘さん達に話しかける。
「結局の所、迷子になったのはどっちなんですか?」
「「「お母さん」」」
娘さん達は即答でビクインさんを挙げた。
「ええ~、違うわよ。貴方達が迷子になったから、わたしが探していたのよ」
「ウソは良くないよ。お母さん」
「あたし達家族の中で方向音痴なのはお母さんだけだよ」
「寧ろ、一緒に行動していたのに、気付いたら居なくなるとか、典型的な方向音痴でしょう」
娘達の口撃に、ビクインさんは何とも言えない顔をした。
「確かに、ビッキーは昔から方向音痴だったな」
「アンちゃん⁉」
「そうだな。子供の頃から、気付いたら居なくなる事なんてしょっちゅうあったからな」
「もう~スーピーまで、酷いわ」
ビクインさんはめそめそと泣きだす。
ふ~ん。ビクインさんにはスーピーって言われているんだ。スピービーさん。
流石に可愛そうだから、少しフォローしてあげるか。
「ですが。こうして、巨人族の事について情報を手に入れる事が出来たんですから、結果オーライでは」
「そうよね。リウイ君は優しいわね」
ビクインさんはそう言って、僕を抱き締める。
「ああ、わたしもリウイ君みたいな優しい男の子が欲しかったわ~」
「ちょっ、母さん」
「ねぇ、リウイ君。いっその事、うちの子にならない?」
「はい?」
「三人いる娘の内に、誰でも娶っても良いわよ」
「いや、その」
「なんだったら、わたしでも」
すいません。いきなり過ぎてついていけません。
せめて、娘さん達に事前に話しをしてから、その話しをした方が良いと思います。
「母さん、何を言っているのっ」
「そうだよ。あたしは結婚する人は自分で選びたいよ」
「……」
アルべさん、ニーグさんが反対する中、ルピドさんだけ何も言わない。
「ルピド。どうかしたの?」
「このリウイという子は、ここの領主だと言っていたわね」
「そうね」
「将来有望かもしれない」
「えっと、つまり?」
「今の内に唾をつけても良いと思う」
「成程」
それ、本人を前にして言う事ではないと思います。
まぁ、今の話を聞いて、何となくだけどビクインさん達の性格が分かった。
ビクインさんはおっとりとした性格のようだが、時折本気か冗談か分からない事を言う人のようだ。
で、その娘さんで、長女のアルべは真面目な性格のようだ。
次に次女のルピドさんはなかなか計算高い性格のようで、油断ならない所があるな。
最後のニーグさんは天真爛漫という感じだな。
それからは、僕に唾つけようと行動するルピドさんとビクインさんを、アリアンとアルべさんが宥めながら進んだ。
ようやく、昆虫人族の巣に着いた時には、もう夕方であった。 僕達はその場で解散した。
ビクインさん達は、他の部族長達にこの件を報告に行き、護衛としてついてきた人達もそれに付き合うからだ。
護衛の人達と別れた僕達は、カーミラさん達が居る所に向かう。
「スイレンさんの話だと、ここに居ると言っていたけど」
教えてもらった通りの道順で行くと、其処には三人が何かの掃除をしていた。
三人とも首にプラカードを下げていた。
プラカードには『迷惑をかけましたので、反省の為に奉仕しています』と書かれていた。
で、三人は道端の掃除をしていた。
プラカードを下げて掃除とは惨い。
声を掛けるのを躊躇っていると、アマルティアが僕に気付いて、顔を赤くしてこっちに来た
アマルティアが掃除を止めたのを見て、カーミラさん達も僕に気付き、何とも言えない顔をして、僕の所に来た。
「ただいま」
「お帰りなさいませ。リウイ様」
「お帰りなさい。リウイ」
帰って来た挨拶をして、僕はカーアインスの事を紹介した。
「後で話があるから、時間を作ってくれるかな」
「ええ、いいわよ」
「お話しの内容はアイゼンブルート族の住処の事ですね」
「話が早くて助かるよ」
「分かりました。後で」
そう言って、アマルティア達と別れた。
別れた僕は、話が出来る場所を探した。
その夜。
僕達は昆虫人族の巣にあるとある家を借りた。
まぁ、家と言ってもこれはどちらかと言うと、箱? みたいな感じだな。
木で枠を作られていて、内装がないのと、一ルームしかないから家という感じがしない。
まぁ、暮らせる様に家具の一式はあるので生活は出来るようだ。
ちなみに、この家に居るのは僕とアリアンだけだ。
カーアインスは家の外で門番をしてもらっている。
この話は、カーアインスを交えないで話したいので、カーアインスは外で待機してもらった。
そうして待っていると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
僕がそう言うと、ドアを開けられた。
そして、ルーティさんが入って来た。
「待たせましたか?」
「いや、大丈夫だよ。他の二人は?」
「まだ、掃除、いえ奉仕活動をしています。あの惨状は殆どあの二人が作ったようなものですから」
「そうか」
その中には、君が作った物もあるのではと思うが、ここは言わぬが花だな。
意見を聞きたいので二人を待つ事にした。そうして少し待っていると。
「遅れました!」
「待たせたかしら?」
ノックもしないで、アマルティア達が入って来た。
「いや、まだ何の話もしてないから大丈夫だから」
僕がそう言うのを聞いて、二人は安堵の息を漏らした。
「で、早速だけど、話があるんだけど」
「それは、先程この家に入る時に見かけた金属の鎧を着ている者と関係しているのかしら?」
「そうなんだ」
僕は、カーアインスが此処にいる理由を三人に話した。
「成程。で、ワタクシ達の意見を聞きたいと?」
「そうなんだ。という訳で、三人の意見を聞きたい」
「意見と言いましても、このままアイゼンブルート族の住処に行くだけでは?」
「いや、このまま行っても、巨人族の族長の事で話したら終りかも知れない。それに、何故、巨人族はアイゼンブルート族の住処に攻撃して来たのかも知りたい」
「ふむ。そういう事でしたら、巨人族の族長を捕まえているのですから、その者から聞けば良いのでは?」
「それだったらこうして話す事無く行けば良いでしょう? でも、こうして話すという事は、リウイは事前に情報取集したいという事でしょう」
「そうですね。であれば、巨人族の住処に行って、事前に情報を仕入れたらどうでしょうか?」
「伝手も無いのに、どうやって行くの?」
「ないのでしたらいっその事作ると言うのは如何でしょうか?」
「つくる?」
ルーティの言葉に、僕はオウムの様に訊き返した。
「はい。伝手が無いのであれば、これを機に交渉して、魔国の臣従するようにしたらどうですか?」
ふむ。伝手ないのだったら、伝手を作ればいいか。
何処かの王妃様みたいな言葉だな。
「でも、その意見は良いな。それで行こう」
いやぁ、あのボルフォレの娘だから、もっと過激な意見が出てくると思ったけど、意外と建設的な意見を言うんだな。
正直、驚いた。
「じゃあ、アリアン。外にいるカーアインスを連れてきてくれないか」
「分かりました」
アリアンは一礼して、外に出て、カーアインスを連れて来た。
「オ話シハ終リマシタカ?」
「ああ、意見は纏まったよ」
「デハ、何時頃、我ガ領地ニ行キマスカ?」
「その事なんだけど、ちょっと話があるんだ」
「何カ?」
「ちょっと寄りたい所があるんだけど良いかな?」
「寄リタイ所? 其処ハ?」
「巨人族の住処」
僕がそう言うと、カーアインスは首を傾げたのだと思う。
「何故、直接我ラノ基地ニ行カナイノデスカ?」
「巨人族がどうなっているか、ちょっと確認してからでも良いかなと思って」
「成程。了解シマシタ」
カーアインスは納得してくれたようだ。
「そうだ。明日此処を出て、そのままアイゼンブルート族の住処に行くから、僕達と一緒に行動で良いよね?」
「問題アリマセン」
話し合いが終り、僕達はこの家で一夜を明かした。
ベッドはないので、布団を敷いて寝た。僕が真ん中で、皆はその周りを囲むように布団を敷いた。
何か、皆に見られる様で眠りにつくのに時間が掛かった。
で、一夜明けると、僕達は広場に集まった。
「皆、揃ったかな?」
僕の言葉に、皆頷いた。
「じゃあ、これから巨人族の住処に向かう。そして、どうなっているか情報を収集する」
「「「はいっ」」」
「頑張りましょうね~」
うん、そうだな。
って。
「何で、ビクインさんが此処に居るんだ?」
見送りか?」
「わたしも貴方達に着いて行こうと思ったのよ」
はい?