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第17話 訓練開始

「よし、このくらいで良いだろう」

 王女様が馬の身体を洗い終え、布で綺麗に拭いた。

 馬は身体を揺すり、気持ちよさそうに嘶く。

「シブライア、お前は厩舎に戻れ。私はこの者を連れて行きたい所がある」

 王女様は湿っている布を絞り、バケツに残っていた水をそこらに投げ捨てたわしと布を入れる。

「さて、参ろうか」

「お願いします」

 道を案内してくれるのだ、礼はするべきだ。

 王女様を先頭にして歩き出そうとしたら、シブライアと言う馬が僕の所に寄って来た。

 つぶらな瞳で僕を見る。

 何かするのかなと思っていると

 ガブッ⁉

 シブライアが口を開いて僕の頭を噛んできた。

「いて、いてててってて、いったい~~~~~!」

 生まれて初めて馬に噛みつかれた。

 あまりの痛みで声をあげてしまう

(確か、馬の咬合力こうごうりょくは結構強いって何かの本で読んだなっ、繊維を消化するために顎が発達しているとも書いていたな)

 その本に書かれていた事を目の当たりにして、僕は痛いとしか言えない。

「いててっててててててっ! いたいいたいいたいいたいいたいっ!」

 馬にしてみたらそんなに力を入れて噛んでいるつもりはないだろうが、噛まれている身からしたら途轍もなく痛い。

「こら、シブライア、人に噛みつくなとあれ程言っただろう。早く、ぺっしろ。ぺっ」

 王女様が言っても、シブライアは噛むのを止めない。

 何度言っても止めないので、王女様が「仕方がない」と言って拳を握りだした。どうやら実力行使をするようだ。

 シブライアもそれに気付き、僕の頭を噛んだまま逃げ出した。

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~‼‼」

 ドップラー効果で僕の声が響く。

「こら、待てっ、シブライアっ!」

 王女様の声が遠くに聞きながら、シブライアは駈け出す。

 それから三時間後、僕は厩舎で発見されたそうだ。

 シブライアは全速力で王女様から逃げるためそこらを駆けていた。その速さに耐えきれず気を失ってしまった。

 全速力で駆けたので疲れたのだろう。シブライアは厩舎に向かった。

 厩舎に着くとシブライアは噛んでいた僕を藁の上に置いて、顔を舐めながら顔を押し付けていた。

 王女様が厩舎に着いて、シブライアを説得して解放された。

 僕は気が付いたら、何処かの部屋のベッドで寝かされ、看病していたメイドさんから事のあらましを聞いて分かった。

 僕はあの馬が何であんな事をしたのか気になり、メイドさんに聞いてみた。

 それによると、あの馬はあまり人に懐かないのだが、懐いた人には噛みつく癖があるそうだ。

 動物には親愛を示すために相手の体を噛む習性があると聞いた事がある。

 なので、噛み付いたのは納得できた。でも、何で僕を厩舎に連れて行ったか分からない。

 それも訊いてみたら、気に入った物を自分の塒に置く習性があるそうだ。

 変わった習性だなと思っていたら、腹の虫が鳴りだした。

 そう言えば、まだ朝食を食べていない事を思い出した。

 ここから食堂までどう行ったら良いだろうと思っていたら、メイドさんが「王女様を御呼びいたします」と言ってきた。

 何で、そんな事をするのですかと訊くと「王女様が『自分の馬が無礼な事をした。お詫びに朝食を共にとろう』と申しています」と言ってきた。

 それを聞いて、僕はあまりの事に唖然とした。

 いやいや、そんな事しなくていいですから。

 という前に、もうメイドさんは部屋を出て行ってしまった。

 どうしようと悩んだが、ここは断るべきだろう。王女様が来たらそう言おう。

 メイドさんが出て数分もしない内に、王女様達がやって来た。

 先程の事は、私の馬が無礼な事をした許せみたいな事を言ってきたので、僕は全然気にしてないので、大丈夫ですよと言うと、王女様はちょっと驚いたような雰囲気をした。

 仮面をしているのでよく分からないが、何となくそんな気がした。

 そして、王女様がお詫びに食事をしようと言うと、僕は丁重に断った。

 だが「お詫びなのだから、これくらいしても良いだろう」と言ってくる。

 僕は再び断ろうとしたら、王女様の後ろに控えている側近の人達が僕を凄い睨む。

 その目はまるで「手前ぇ、うちの王女様と食事が出来ないってのかぁ?」と言っているようだ。

 迫力に押され、僕は食事をする事にした。

 何処で食べるのですかと訊くと「付いて来い。かなり良い所だ」と王女様が言うので、僕は王女様の後に付いて行く。

 王女様に付いて行くと、そこは王宮内にある屋上庭園の一つだ。

 そこに二人掛けのテーブルと椅子が置かれていた。それを見て、どうやら、対面に座るようだ。

 内心悲鳴を上げた。一国の王女様と対面で食事をするなんて、どこのVIPだよと思う。

 それからは、王女様と対面で食事を取る。

 周りは側近の人と使用人達に囲まれているので、緊張で体が震えた。

 出された料理も、見た目は美味しそうだったが味が全くしなかった。

 緊張したら、美味しい料理も味が分からないんだなという事を知った。


 *********


 朝食を食べ終え、僕は王女様と共に訓練場に向かう。

 正直、訓練場に向かう時は別々に行きたかったが、王女様が「そう邪険にすることはなかろう。これも交流の一つだ」と言われては何も言えない。

 側近の人もそうしろと目で言ってるので、仕方がなく僕は王女様と一緒に訓練場に向かう。

 屋上庭園からかなり歩いて、訓練場に着いた。

 そこには、既にクラスメート達と訓練をサポートする兵士達が居た。

 王女様と共に入って来た僕を見て、皆凄い睨んでいる。

 兵士達は羨望と嫉妬に満ちた目で見てくる。

 僕をそんな目で見るので、この王女様は兵士にも慕われているようだ。

 そして、クラスメート達は殺意に満ちた目で僕を見る。

 王女様と一緒に来るとか、お前、何してたと目で語っている。

 中でも、特に痛い視線が三つあった。

 その視線を辿ると、椎名さんとユエとマイちゃんだった。

 三人の身体から黒いオーラをみたいなものが見える気がする。

(・・・・・・何か、こっちの世界に来てから三人が人間離れしてきた気がする)

 そう思っていたら、王女様が顔をこちらに向ける。

「では、イノータ。訓練をしっかり行え。私は贔屓も差別もする気はないからな」

「・・・・・・はい、分かりました」

 僕はそう答えて、クラスメート達が居る所に向かう。

 列の一番後ろに並ぶ。僕が並ぶと同時に王女様が、用意されていた壇上に上がる。

 王女様の後ろに居る側近の人が前に出てきた。

「訓練を始めるあたって、第一王女アウラ・エクセラ。ロンバルディア様よりお言葉を頂戴する」

 側近の人がそう告げて一歩下がる。半身をそらして、手で王女様に前に出る様に促した。

 王女様はその誘導に従い、前に出る。

 僕らを真っ直ぐに見て話し出す。

「異世界から来た同胞よ。まずは、今日この場に来た事に感謝しよう。そなたらの決断で我が国だけではなく、この世界の住んでいる人間族全てを助ける事が出来る」

 王女様が一旦区切る。そして、ちらりと僕を見る。

「だが、その決断をしても、そなたらはまだ戦える力を持ってはいない。故に、私達が教えれることを全て教える。それを学び、糧にしてそなたらの力にしてもらいたい。その力で、この世界の人間を救って欲しい。私から言える事はそれだけだ」

 そう言って、王女様は下がり、今度は先程話していた側近の人が前に出た。

「まずは、どれほど体力があるのか調べたいので、この訓練場内を走って貰いたい。体力が続く限りで良いので走ってもらたい。もう、走れないと感じたら無理せず休むように」

 僕達はそう言われて、口できついとか俺そんなに体力ないのにと愚痴りながら、訓練場を走り出す。

(さてと、僕も走るか)

 走ろうとしたら、僕の頭と両肩が掴まれた。

 あまりに力強く掴んでいるので、振り向くことも出来ない。

 でも、掴んでいる人が誰だか何となくだが分かる。

「ノッ君」

「ノブ」

「猪田君」

 思っていた通り、椎名さん達だ。

「「「あの王女様と一緒に来たのは、どうゆう事なの?|(だ? かな?)」」」

 今日は厄日かな。

 そう思えてしかたがなかった。




 







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