第86話 昆虫人族の所に着きました
行先を決めた僕達は、直ぐに昆虫人族の巣で『ネスト』と言われる所に向かう。
行く為の足は、デュラハン族が召喚してくれた首無し馬の馬車にした。
昆虫人族の巣は、アラクネ族の里から馬車に乗っても一日駆けたら着く所にあるそうだ。
連れて行くメンバーは、リッシュモンドの代わりに、スイレンさんが乗った。
昆虫人族の族長とは面識があるそうだ。
なので、連れて行く事にしたのだが、最初どうやってスイレンさんを乗せようかと思ったのだが。
『大丈夫よ』
と言った後に、スイレンさんの姿が煙に包まれた。煙が晴れると、蜘蛛の足の部分が人間の足に変わっていた。
な、なにをしたんだ?
『これはね。あたし達ジョロウグモ種は、こうして人間に化ける事が出来るのよ』
『へぇ、そうなんだ』
『後、もう一つの姿にも変わる事が出来るけど、見たい?』
『またの機会でお願いします』
巨大な大蜘蛛とかになられても、反応に困るからな。
それにしても。
チラリと、僕はスイレンさんの足を見た。
足長っ、モデルみたいだ。
胸も大きいし、足も長いとか、女性が羨む体形じゃないか。
思わず見ていると、殺気を感じた。
なので、見るのを止めた。
『じゃあ、行きましょうか』
スイレンさんが先に乗ったので、僕達も乗る事にした。
席順は前から、スイレンさん、アリアン、ルーティさん。カーミラさん、僕、アマルティアという順番になった。
席順の時は特に揉める事無く、話が進んだ。
てっきり揉めると思っていたのに。
ちょっと拍子抜けしたが、まぁ、良い事としよう。
護衛はデュラハン族とアラクネ族がしてくれた。
馬車の窓から見たけど、アラクネ族って意外に早いんだな。馬車の馬と並走していて驚いた。
そのまま駆けて一日。
昆虫人族の巣である『ネスト』に着いた僕達。
巣の前には、兵士が槍を構えていた。
その兵士は何というか、二足歩行の蟻であった。
「あれも昆虫人族なのか?」
「ええ、そうよ。この樹海では昆虫人族というのは、あたし達アラクネ族を除いた昆虫の姿をした人達の事を差すの」
前世の世界でも、蜘蛛は昆虫は入らなかったからな、それと同じ感覚で考えれば良いんだな。
だとしたら、色々な種族も居ると考えた方が良いかもしれないな。
カブト虫にクワガタ、蝶々とダンゴムシも考えられるな。アリも居るからミミズもありかもな。
はっ、そこまで居ると考えたら、あの黒いGも居るのかな?
う~ん。あれかな、この蟻みたいに、二本足で立っているのだろうか?
あれだな。サラリーマンが良く分からない内に骸骨の魔法使いに転生した小説に出て来るGみたいに、爵位とか持っているのだろうか?
う~ん。あれはあれで、ちょっとした恐怖ものだよな。
それとも、一撃必殺のヒーローに出てきたGを模した怪人みたいな感じだろうか。
どんな感じだろう。それとも存在しないのかも知れないな。
「何者ダ」
「名ヲ名乗レ」
蟻の兵士達が槍を構えながら訊いてきた。
性別は分からないが、意外と高い声を出すんだな。
僕が名乗る前に、スイレンさんが答えた。
「あたしはアラクネ族の族長のスイレンよ。重大な話しがあって来たわ。あんた達の族長達に合わせなさい。全員に」
はい? 全員?
ちょっと意味が分からないな。
そう思って見ていると、スイレンさんが顔を近づける。
「昆虫人族はアラクネ族を除いた虫の姿をした種族の事をさすって言ったわよね」
「はい」
「その関係で、沢山の部族が居るから、族長を一人にはしないで、各部族から一人代表を出して、その者達による部族会で、昆虫人族を統率している」
成程。多民族社会みたいなものと考えればいいのか。
「コレハ、スイレン様」
「重大ナ話デスカ? 分カリマシタ。族長達二伝エ二イキマスノデ、少々オ待チ」
「その必要はないわ」
何だ、何処からか声が聞こえて来たぞ。
何処に居ると思い、周囲を見回した。
「ふっふふ、何処を見ているの? わたしはこっちよ」
その声は上から聞こえたので、上を向いた。
木の上に誰かいる。
でも、木が邪魔して良く見えない。
いったい。誰だ?
「あら、久しぶりね。バタバタ」
「はい?」
何、その、慌ただしく動くような擬音は。名前なのか?
バタバタと呼ばれた人は、木の上から下りた。
そのバタバタという人を見ると、見た目あれだ。南米から来た〇面ライダーみたいだ。
何かそんな見た目をしている所為か、何処かの大河を全力でシャウトしてほしいな。
「あっら~、おひさ~ね。スイちゃん」
バタバタの声を聞いて、ずっこけそうになった。
その見た目で、その見た目でオネェですか。
頼むから。野生児のような感じの声を出してくれよ。
スイレンさんはバタバタの口調など気にしないで、ハイタッチしている。
「で、何をしにきたのって言うのも野暮よね」
「あら、話しが早いわ。という訳で、族長会議をしている所に案内してくれる」
「OK。親友の頼みだし、それに巨人族が来ているから、通してあげるわ」
そう言って、バタバタさんは僕達を村の中に入れてくれた。
オネェ口調には驚いたけど、悪い人ではないようだ。
「ところで、その隣にいる子は?」
「あたしの未来の旦那様」
スイレンさんは僕を抱き締めながら言う。
お願いです。そんな事を言わないで下さい。
後ろから、殺気を感じるが、僕は振り返る勇気を持てなかった。
「改めて自己紹介をするわ。わたしはバータラ・バッタと言うわ」
ああ、だからバタバタなのか。
そのネーミングセンスはどうなのと思うが、ここは言わぬが花か。
「ご丁寧な自己紹介ありがとうございます。僕は魔国の使者でリウイと言います」
「ふぅん。結構可愛い子ね」
バタバタさんが、僕をジッと見ている。
虫の目は複眼と言うから、今のバタバタさんの目一つ一つには僕が映っているのだろうな。
「可愛いけど、こんな子が使者ね」
バタバタさんは手を伸ばして、頭を撫でた。
ここに来てから、撫でられた事がないので久しぶりに撫でられた気分だ。
「こ~ら、あまり撫でないの。この子が可愛いのは分かるけど、この子はあたしの玩具 なんだから」
今、何か別な言葉で、言われたような気がするけど、気のせいか。
「ああ、言い忘れていたけど、わたしはグラスホッパー族の族長もしているから」
はい。身は身体を表しています。
「今、会議に出ているのは、わたし以外の部族全員ね」
「ちなみに何人いるんですか?」
「わたしを含めて、全部で7人居るわ」
「どんな人達なんですか?」
「会えば分かるわ」
バタバタさんはそう言って、悪戯を仕掛けた子供のような顔をした。
そして、会議が行われていると思われる場所の前に着いた。
その場所の所には、各部族の兵士達が居た。
ハエ、クワガタ、チョウ、ハチ、カメムシ、トンボ等々沢山の兵士が居た。
その兵士達が、僕達に気付くと一斉に見た。
だが、傍にバタバタさんとスイレンさんが居るのを見ると、何で、こんな所にいるのだろうという顔をした。
「バタバタ様。まだ会議に参加していなかったのですか?」
何か、手の所が鎌のようになっていて、顔が人間だけど額にも目がある人が話しかけてきた。
これはカマキリ種の昆虫人のようだ。
でも、カマキリって昔はバッタと同じと言われていたけど、最近の研究じゃあ、別の種にされたんだよな。でも、こうして話しているところを見ると、バタバタさんとは同族と考えた方が良いのかな。
「ごめんね。知り合いとばったり会ったから」
「はぁ、そうですか」
そう言って、僕達を見る。
「部族長方の客人ですか?」
「そうね。という訳で、入るわよ」
「自分は良いのですが。他の者達はどうでしょうか?」
そう言ってカマキリ人は、近くにいる部族の人達を見る。
皆、顔を見合わせて、どうしたものかなと目で話していた。
そして、話しが終ったのか、一人前に出た。
「部屋の中に入れるのは護衛の方は一人だけで良いでしょうか」
「ええ、良いですよ」
一人だけでも十分だ。
うん? 何かそう言ったら、寒気がした。
気になって、後ろを振り返ると、何かアマルティア達が睨み合っていた。何故か、ルーティさんも混じっていた。
「何をしているんだろうか?」
「さぁね」
何か、スイレンさんが苦笑していた。
「じゃあ、行きましょうか」
「そうだね」
もう一緒に入るのは決まっているのに、どうしてあの三人は睨み合っているのだろう。不思議だ。
僕達は各部族の兵士達の間を通り、会議場に入る。
会議場には、円卓の周りを囲むように、各部族の人達が居た。
椅子に座っている人も居たが、どうやら椅子に座る事が出来ない人もいるようだ。
カブト虫のような甲殻を着ている男性が椅子に座りながら、僕達に目を向ける。
「……………」
しかし、一言も発しない。無口なのか、それとも僕の事を胡乱な者と思っているのだろうか。
「あらあら、御客人かしら、ようこそ」
蝶々の羽を持った女性が、おっとりとした口調で挨拶してきた。
「何だ、てめえらっ、何の用だ⁉ ああっ」
蜂の羽と黒い目をした男性にメンチ切られた。
ヤンキー? なのかな。
「……」
蠅の羽を生やした、僕と同い年くらいの子は僕達を見もしないで、何か食べている。
「何じゃ、こやつらは?」
そう言ったのは、この中で一番デカい女性だった。
上半身は女性だったけど、二の足から先が、蟻の身体になっていた。
「何者ダ?」
四枚の羽をもった男性が、槍の穂先を僕に向けている。
この人達が昆虫人族の各部族を纏める部族長か。
「お初にお目にかかります。僕はリウイ。魔国の使者です」
僕が名乗ると、槍の穂先を向けていた人が、槍を下げた。
「失礼シタ。某ハドラゴンフライ部族族長カツタダト申ス」
うん。この武人のような一礼。多分この人は昆虫人族の中でも武闘派で通っているのだろう。
カツタダ殿がそう名乗ると、他の部族長達も名乗りだした。
「タテヅノカブト部族族長。・・・・・・ピサロ」
兜頭の方は、そんなに大きくない声なのに、ちゃんと聞こえる声でボソッと言う。
無口なのに存在感がある人だな。
「わたしは、パピヨン部族族長のボタンと申しますぅ。どうぞ、よろしくお願いしますね」
おっとりとした口調で、少し垂れた目で僕を見ながら、独特のテンポの口調で話す人だ。
う~ん。何か、この人の傍だと、時間がゆっくりと流れているのだろうな。
「ほら、ベルちゃん。お客様が来たから起きましょうね~」
とボタン部族長がそう言いながら、隣で寝ている女の子を起こす。
起こされた子は、目をこすりながら寝ぼけ眼で僕を見る。
「・・・・・・だれ?」
「リウイっていう、魔国の使者よ。ほら、挨拶しましょうね」
「・・・・・・フラリーガ部族族長ベルゼブブ」
端的にそう言って、僕をジッと見る。
敵意とか悪意とかは感じないので、好奇心で見ているだけのようだ。
これで、名前を知らないのは二人だけだ。
見ていると、何か蜂の姿をした男性がメンチ切ってきた。
「ああんっ、てめ、なに見てるんだ?」
何処の高校のヤンキーですか?
と聞きたくなるぐらいに、前世で記憶にあるヤンキーそっくりだった。
「失礼。お名前を伺っても宜しいでしょうか?」
「あん? 何で、俺がてめえに名乗らなければ、ならないんだ?」
僕が名乗ったからと言っても、そんなこと知るかととか言いそうだな。
さて、どう言ったものかな。
「五月蠅いぞ。種虫風情が、代理の分際でこうして部族会議に出れるだけでもありがたい事なのに、それで増長するとは、底が知れるぞ」
何か、蟻の身体の一部を持った女性が、持っている羽根扇子を閉じて言う。
「あんだとっ。この蟻風情が、そんな事を言うとはいい度胸だな」
「まったく、お前達、アぺビーネ族はこうも五月蠅いのだ。お前の妻もお前に負けず劣らず五月蠅かったぞ。まぁ、飛び回って五月蠅い羽音を立てないと飛べない部族だから、仕方が無いか」
「このアマ。こっちだって、手前らアンフォロミ―カ族とは馬が合わねえんだっ」
アペベーネ族の族長代理の人が、アンフォロミ―カの部族長を睨む。
そんな視線を浴びても、アンフォロミ―カの部族長は平然としていた。
このままだと乱闘が起こるかもと思っていると。
「はいはい。二人共、喧嘩は後にして、今はそんな事よりも、もっと重要な事があるでしょう」
バタバタさんが手を叩きながら、険悪な空気を払う。
「ふんっ」
アペベーネ部族長代理の方が顔を背けた。
ハチとアリって、確か同じグループに入っていたよな。どうして、こんなに仲が悪いのだろう?
「さて、魔国の使者とやら、妾はアンフォロミ―カ部族長であるアンビアだ。以後よしなに」
「これは、ご丁寧にどうも」
何か、何処かの女王様みたいな口調で話すんだなと思いつつ、頭を下げた。
「ほれ、お主も自分の紹介をせぬか」
「あん? 何でだよっ」
「相手が名乗ったのに、自分が名乗らないのは、無礼であろう。お主の妻にこの事を言ってやろうか?」
「このアマっ、・・・・・・っち、分かったよ。俺はアぺビーネ部族族長代理のスピービーだ。夜露死苦なっ」
何か、昔のヤンキーみたいな事を言っているな。
「代理という事は、族長は何かあったのですか?」
「ああ、そうだよ。だから、こうして俺がここに居るんだよっ」
ううむ。それでカリカリしているのかな?
「落ち着け。姉が心配なのは分かる。だからと言って、お主がいきり立っても何の解決にはならんぞ」
「・・・・・・分かったよ」
アンビアさんにそう言われて、スピービーさんは複雑そうな顔をした。
仲が悪いからそう言われて悔しいのかな。
「ビクインがどうかしたの?」
「・・・・・・行方不明なんだよ」
「何ですって⁉」
バタバタさんの驚きと話しを聞いて、そのビクインという女性が、アペビーネ部族の族長でスピービーさんの姉という事か。
「どうして行方不明なのっ⁉」
「姪っ子たちと一緒に、蜜を採取に行くって言って、村を出たんだ。少しして、巨人族の集団を見かけたと部族の奴が言うから、慌てて探したが見つからなかったんだ」
「姪っ子たちもなの?」
スピービーさんは首を横に振る。
「もしかして、巨人族に捕まって人質にされた?」
「いや、あの脳筋族にそんな考え思いつきもしないだろう」
脳筋って、巨人族って、異世界でもそういう感じなんだ。
そう思っている間も、部族長達の会話は続く。
「やつら、今度は何の為に、進軍して来たんだ?」
「分からん。あいつらは何が目的で戦うのか、さっぱりだからな」
「食料不足でしょうか?」
「それはないな。この樹海には魔獣が多数生息している。食料不足になどなる事は、まずない」
「だったら、今度は何が目的なんだ?」
「・・・・・・それを知る為にも、誰かが偵察に行くべきだ」
「同意」
ピサロさんとカツタダさんは偵察を出すべきだと言う。
うん。その意見には賛成だけど。
「その偵察には、誰を出すの?」
スイレンさんが口を挟んだ。
まぁ、そうなるよな。
部族長達も、そう言われて考え込んでいる。
「・・・・・・ああ、そうだ」
「うん? どうかしたか?」
「そこに居る魔国の使者をよ。行かせたらいいじゃね?」
スピービーさんは名案とばかりに手を叩く。
そう言うと、皆僕を一斉に見る。
「ソレハ」
「愚策ダナ。リウイ殿ガ偵察ニイクメリットハナイ」
「でもよ。俺達の所から使者を送るよりも危険はないだろうぜ」
「何故そう言える?」
「俺達よりも、自分達の姿に似ているんだ。戦闘でもしなければ大丈夫だろう」
何だ。その人類、皆兄弟みたいな意見は。
とはいえ、その内、巨人族の所にも行こうと思っていたので、別に悪くは無いな。
でも、僕が行くと言ったら、面倒そうな事が起こりそうなので言わない。
この中の部族長の誰かが、スピービーさんのように提案したらその流れに乗るとしようか。
「良いわね。その案」
そう言ったのはバタバタさんだった。
「バータラ、ソレハ如何イウ意味カ分カッテ言ッテイルノカ?」
「勿論よ。あの脳筋族だからわたし達が行くよりも、リウちゃんが行った方が話を聞くと思うわ」
すいません。そのリウちゃん? って、僕の事ですか?
バタバタさんを見ていると、その通りとばかりに頷かれた。
ちゃんづけは止めて欲しいな。
「それに、その内、巨人族の所に行くようだったし、ついでに行かせたらいいじゃない」
「シカシ」
「このまま話していても何の意味もないわ。誰かが巨人族の内情を知らないといけないわ」
「それをそこの使者殿にやらせるのか?」
アンビアさんの言葉に、バタバタさんは頷く。
その後は、多数決で決める事となった。
こんな所で民主的な事で決めるのか。
名前を無記名で、賛成か反対かを紙に書くそうだ。
結果。賛成四。反対三。
流石に押し付けてばかりでは悪いと思ったのだろう。僕達の他に各部族の中から選抜した腕利きと一緒に行く事となった。




