第78話 天人族の城に戻ったら、客が来た。
ボルフォレの娘であるルーティを新たな同行者にして、僕達は天人族の城へと向かう。
道中、何かしらの魔獣の襲撃を受ける事もなく無事に着いた。
無事に着いたんだ。うん、怖くて。
「「「………………」」」
だって、アマルティアとカーミラさんとルーティさんが終始睨み合っているから、魔獣も近づけなかったんだ。
「GAAAAAA‼」
あっ、魔獣が現れた。
「「「っ‼」」」
「GAAAAAA⁉」
三人の眼力に怖くて、魔獣はまた逃げ出した。
そう、寝ている時以外、こうした睨み合いをしているので、魔獣も逃げ出すのだ。
何で、三人が睨み合いをしているのかと言うと、これには訳があった。
そうあれは、僕達が『黒森の里』を出て、その日の夜の事だった。
僕達が野営の準備をしていると。
『リウイ様、聞いてもよろしですか?』
『何かな?』
『父が、貴方の事を大層、気に入っていたのですか。何かあったのですか?』
『さぁ』
そうとしか言えなかった。
流石に僕の前世の部下でしたとか言っても、信じて貰えないからだ。
『そうですか。他には』
そんな感じで、ルーティさんが色々と聞いてきた。
それを見て、何を思ったか、アマルティアとカーミラさんが絡んできた。
『ちょっと近すぎませんか?』
『何がですか?』
『距離が近すぎると思うのだけど』
確かに、肩と肩が触れ合う距離なので近い言えば近いな。
『そうですか?』
『『ええ』』
二人は即答した。
『はぁ、そうですか』
そう言って、離れてくれた。
その後も、僕と話す距離が近いので、アマルティア達は何か気に入らないのか、ルーティさんを睨むようになった。
二人が睨むので、ルーティも身構える様になった。
なので、終始睨み合うようになったのだ。
正直、そのギスギスした空気の中で行動しているので、気が重かった。
僕が口を出すと、面倒くさい事になりそうな気がしたので口を出さなかった。
兎も角、色々とあったけどようやく城の前に着いた。
「はぁ、ようやく城に着いたか」
「そうですね」
「「「………………」」」
僕の言葉に反応があったのは、アリアンだった。
城の前に着くと、衛兵が出迎えてくれた。
「よくぞ、お帰り下さいました」
衛兵が頭を下げてくれた。
「族長殿に報告したい。会わせてくれるかな」
「はっ。少々お待ちを、ただいま、客人が来ておりますから」
「客人?」
「デュラハン族の使者が来ております」
デュラハンの?
これは、何かありそうだな。
そう思いつつ、僕達は一旦客間に待たせてもらう事にした。
僕達は今だに客間で待たされている。
どうやら、長い話をしているようだな。
僕は出された飲み物に口をつけながら、そう思っているといい加減に焦れたのか、カーミラさんが紅茶のカップを置く。
器と器がぶつかる音がやけに、部屋に響いた。
「遅いですね。いい加減、長すぎます」
「そうかも知れないけど話しているのだから、待たないと」
「とは言え、長すぎますね」
アマルティアも流石に溜め息を漏らした。
ルーティも同意とばかりに頷く。
「しかし、どんな話をしているか分からないからな」
「話を聞きたいのですか?」
「うん? まぁ、聞けるのなら」
そんな魔法は会得してないので、流石に無理だな。
「でしたら、ワタクシに良い方法があります」
「へぇ、どんな方法?」
「『眷族召喚』で呼んだ眷族で密かに見るというのは」
「眷族?」
なに、それ?
待てよ。そう言えば、ファンタジー物だったら、吸血鬼は人狼とか蝙蝠の姿をした魔物とか、後ゾンビとか眷族にして従えていたな。
眷族というのはそういう感じのものと考えた方が良いのだろう。
「どんな眷族を呼べるんだ?」
気になってそう訊ねた。
「そうですね。狼と蝙蝠と鼠と蛇と虎ですね」
狼と虎以外は隠れて偵察するのは問題ないな。
「それで、どうやって見る事が出来るんだ?」
「ワタクシは五感が同調できます。それとこれで」
カーミラさんは手を翳すと、大きな水晶玉みたいな物が出てきた。
「これで眷族の視界を共有できます」
「じゃあ、それで皆にも見れるの?」
「はい。出来ますよ」
そうか。流石に対談が長すぎるからな、どんな状態なのか見るのも悪くないか。
「じゃあ、それをしてもらおうか」
「はい。お任せください」
カーミラさんは胸に手を置いた。
そして、直ぐに行われた。
「出でよ。眷族達」
カーミラさんがそう言うと、影から、黒い生き物が出てきた。
何か一人用の椅子位の大きさの鼠だな。
「……これじゃあ、何処にも忍び込めないと思うのだけど?」
「ご心配なく」
そう言って、カーミラさんはその鼠に触れる。
すると、その鼠は段々と小さくなっていき、今度は手の平に乗せれるくらいの大きさになった。
「へぇ、大きさも変えれるんだ。便利だな」
「そうでしょう。では、行きなさい」
カーミラさんは手の平の眷属に命じると、眷族は立ち上がり敬礼してから手から降りて行った。
意外に芸が細かいなと思いながら、僕は鼠の行動を目で追った。
そのまま進んでいき、ドアの隙間から出て行った。
「では、水晶で見ましょうか」
カーミラさんが水晶を発動させた。
水晶の画面一杯に、鼠の眷属の目で映るものが映し出した。
鼠自体動いているので、まるでゲーセンのレーシングゲームをしている気分だ。
でも、こうして鼠の視点から物を見るという経験は、そうそう体験できない所為か面白いと思えた。
そう水晶の画面を見つめていると、何時の間にかカーミラさんが僕の傍に来ていた。
しまった。水晶に見とれていて、周囲を疎かにしていた。
「捕まえた♥」
カーミラさんは僕を抱き締めると、僕を持ち上げて、僕が座っていた椅子に座り僕を膝の上に乗せた。
「あ、ああああっ」
アマルティアが大きな声をあげる。
これは、恥ずかしいな。
「うふふ、良いですね。こういうのも」
カーミラさんは僕を抱き締めながら、僕の顎を撫でたり頬を撫でたりしてきた。
それを見て、アマルティアは腰に下げている剣を抜こうとした。
「あら、良いの? 今攻撃したら、この画面は見る事が出来なくなるのだけど」
「むっ、それは困るな」
話が長いから、こうしてカーミラさんの眷属を送っているのだ。見る事が出来なくなったら、何の為に眷族を送ったか分からなくなる。
「む、むぎぎぎぎぎぎぎっ」
アマルティアが凄い顔で歯ぎしりしている。
普段、綺麗な顔をしているから、そんな顔をしていると余計に怖いな。
「ふふふ」
反対にカーミラさんは勝ち誇った顔で、アマルティアを見ている。
むぅ、流石に止めた方が良いのかもしれないけど、後頭部にあたる柔らかい感触の所為で、考えが纏まらない。
「あの、アリアン殿」
「何ですか? ルーティ」
「あの三人は何時も、ああなのですか?」
「ええ、何時もああです」
「……そうなのですか」
何か、ルーティが僕達を、何とも言えない顔で見ている気がするが気のせいだろう。
そうして水晶を見ていると、大きな扉の前まで来た。
鼠視点だからか、どれも大きく見えるが、この扉は見覚えがある。
確か、族長のシェムハザさんと会った時の部屋だ。
恐らくだが、ここでデュラハン族の使者と対談しているのだろう。
鼠の眷属は扉の隙間から、部屋に入り込んだ。
部屋に入ると、僕達がシェムハザさんと対談した部屋だった。
そして、そこではシェムハザさんがデュラハン族の使者と話し合いが行われていた。
シェムハザさんは玉座に座っているので分かるが、デュラハン族の使者の方は後ろ姿しか見えないな。
精々、脇に兜を持っている事しか分からないな。
「カーミラ。話は聞けるかな?」
「はい、お任せを」
直ぐに水晶から、音声が聞こえてきた。
『で、あるからして、この話を受けてくれるとありがたいのだが』
『……まだ、向こうの部族の所から帰って来てないので、返事は遅くなるわよ』
『ならば、その者が戻るまで、この城に滞在させてもらいたい』
『それは構わないけど、向こうがそちらの話に承諾するかは分からないわよ」
『こちらとしても、そちらにそこまで期待していない。故に対談の場だけを設けていただきたい』
『承知したわ』
『感謝する』
どうやら、何かしらの話しが決まった様だな。
それにしても、この声を何処かで聞き覚えがあるような。
『では、これで失』
『うん? 何、……そう。分かったわ』
デュラハン族の使者が退室しようとしたら、シェムハザさんの下に側近が寄って耳元で何事か囁いた。
『使者殿、そちらがお望みの者が先程、この城に戻ってきた』
『おお、では』
『うむ。この場で会わせてさしあげよう』
『感謝する』
『では、誰かリウイ殿達を呼んできなさい』
『はっ』
シェムハザさんの言葉に、側近が応えて部屋から出て行った。
「もう、いいや」
「そうですね」
カーミラさんがそう言うと水晶の映像が途切れた。
ふむ。話を聞いた限りだと、どうやらデュラハン族の使者は僕に御用のようだ。
何の用だか、全く分からないな。
まぁ、会ってみたら分かるか。




