第74話 あっ、本当に予想していた人だった
数日歩くと、目的地である『黒森の里』が見えてきた。
まだ、里の入り口がようやく見える所だけど、ダークエルフだからこの距離でも、僕達を視認しているだろうな。
さて、抵抗はしないで、話がしたいとだけ言っても通じるかな。
この樹海の中でも過激派だと聞いているからな。
流石に、いきなり攻撃してくる事はないと思う。多分。
「もうすぐ着きますが、何か良い考えは浮かびましたか? リウイ」
「う~ん。全然」
正直、何も思いつかない。
でも、請け負った以上はこなさないと信用に係わるからな。
それに上手くいけば、ダークエルフ族と天人族の二つが魔国に従属するんだ。
これを活かさない手はない。
問題はどうやって、向こうを納得させる事だけど、どうしたものかな。
そう思いながら歩いていると、突然、アリアン達が身構えた。
「どうした?」
「マスター、どうやら我らは囲まれたようです」
まぁ、ここまで来たんだから、そうなってもおかしくないか。
弓を引き絞る音も聞こえてきた。
矢を放たれる前に、来た目的を話した方が良さそうだな。
僕は皆の前に出る。
「我らは、魔国の使者にして天人族から遣わされた者である。貴殿らの族長に話したい儀があり、面会を求める。どうか、お目通りを」
僕が言って少しして返答が来た。
「魔国の者が何用か?」
「先程も言ったように、天人族の族長の言葉を伝える為に来た。内容については、そちらの族長に直接申し上げたので、此処で話す事は勘弁願う」
「・・・・・・しばし、待て」
そう言われて、僕達は待つ事にした。
少しして、ダークエルフ部族の者? と思われる人が僕達の前に現れた。
何故疑問形なのかと言うと、尖った耳に銀髪はまだ良いんだけど、青白い肌というのは、どうも前世の記憶にあるダークエルフと結びつかないからだ。
そう言えば、ボルフォレもこれぐらい肌が青白かったような気が。
「どうかしたか?」
「いえ、何でもない」
いきなり、頭を傾げたので、向こうが不思議に思ったようだ。
いけない。平常心平常心。
「では、族長はそなたと話しがしたいそうだ」
「そうですか」
何故だろう? そなたの部分が強調されていた気がする。
まぁ、行けば分かるか。
僕達はダークエルフ部族の者に囲まれる様になって、里に案内された。
囲んだのは逃げない様にする為だろう。
僕達は里の中に入った。
入るなり、里の者達が僕達を遠目で見ている。
好奇と不審が混じった視線だ。
そんな視線を浴びされていると、まるで見世物にされた気分だ。
「気を悪くしないでもらいたい。何せ、この樹海には魔人族の者は今まで見る事がなかったのでな」
僕達の前に立ち案内をしてくれる人が申し訳なそうに言う。
まぁ、見た事がない物を見たら、普通はこうなるか。
「別に気にしていないので」
少し気になりはするが、ここは本音を言わない方が良いだろう。
「ところで、貴方達はダークエルフと訊いていますが、僕が知っているダークエルフと少し肌の色が違うのは何故だろうか?」
「それは簡単だ。我らはダークエルフはダークエルフでも、最古のダークエルフであるエルダー・ダーク・ハイエルフだからな」
何か、ボルフォレが言っていた種族と同じなんですけど。
まさか、本当に前世の部下であったボルフォレが族長なのかな?
そんなうまい話はないだろうと思いつつ、そうであったら嬉しいなと思う僕がいる。
何せ、碌にお別れを言う事なく別れたのだ。
せめて、今は元気にしているか知りたいな。
そう思いながら、僕達は里の中を歩いていると、あるテントの前まで来た。
「族長はこの中でお待ちだ」
「分かりました」
僕はそう言って、テントの入口に入る。
アリアン達もその後に続こうとしたが、僕達と一緒に来た人達がそれを遮った。
「「なっ⁉」」
「これは?」
「先程、言った通りに、リウイ殿一人だけテントの中に入ってもらう」
案内をしてくれた人がそう言う。
ああ、それで強調したのか。
「分かりました」
「「リウイ(様)⁉」」
「大丈夫だから」
声を荒げるアマルティア達を笑顔で宥める。
「……どうか、御無事で」
「ああ」
アリアンにそう言って、僕はテントの中に入る。
テントの中に入ると、そんなに広くないテントの中に、部族の者と思われる人達が数人いた。
皆、見定めるかのような目で僕を見ている。
その者達の奥に、座っている人が居た。
族長と言うから、もっと老けた人かと思ったけど、見た目は三十~四十代くらいの男性に見える。
とはいえ、エルフという種族は見た目年齢よりも年を取っているのが普通なので、見た目だけでは年齢は分からない。
「お初にお目にかかる。僕は魔国の使者であるリウイと申します」
「うむ」
頭を下げて一礼して、顔を上げて、族長と思われる者の顔を見る。
鷹の様に鋭い目付き。豊かな顎髭。そして、鼻の頭から右頬に走る傷。
ああ、僕の記憶の中にあるボルフォレだ。
本当に、本当に懐かしいな。