第68話 そう言えば、ライオンは雄よりも雌の方が立場が強いんだよな
で、僕達はネメアーさんの家まで戻り、居間で話し合う事になった。
「改めて、自己紹介しよう。儂はリオン・ゼヘクレスだ。そこに居る、勝負に負けたのに負けを認めないという大人げない族長の妻だ」
自分の夫をディスりながら、自己紹介してくれた。
ネメアーさんは若干傷ついた顔をしていたが、自業自得な所があるので何も言えない。
「こっちは、娘達だ。右から 長女レグルス、次女デネボラ、三女シェルタンだ」
リオンさんが紹介した娘達は母親に似て、青い瞳に綺麗な顔立ちをしていて、髪は同じ色だが長さがちがった。長女は腰まで伸ばしたロングストレート。次女は肩口で切り揃えられたボブカット。三女は左側頭部のサイドテールという感じだ。
そう見ていると、長女のレグルスさんが挨拶してきた。
「よろしく~」
笑顔で手をヒラヒラさせながら、挨拶してきた。
何というか、笑顔なんだけど、目が笑っていないという感じだ。
その目は僕を見極めているようだ。
どうやら、姉妹の中で一番注意した方が良さそうだ。
「…………」
次女のデネボラさんは睨むように僕を見ている。
こうも、あからさまに敵意を持って見られると、対処がしやすいな。
意外と顔に出るタイプなのかな?
「ふ~ん」
三女のシェルタンさんは頭の上からつま先まで僕を見ている。
こちらは興味津々に僕を見ているようだ。
この子はどうやら好奇心が強いようだな。
「それで、どういう経緯で、旦那と決闘するようになったのか理由を聞いても良いか?」
「はい。実は」
僕は決闘になった経緯をかいつまんで話した。
「ふむ。成程な」
リオンさんは何度もうなずく。
どんな事を言うのか、ドキドキしながら返事を待つ。
「よし。そちらに従属するとしよう」
えっ⁉ 良いの⁉
「ち、ちょっとまて!」
流石にネメアーさんが慌てて会話に加わる。
しかし、リオンさんはそんなネメアーさんをギロリと睨む。
「何だ。何か問題でもあるのか?」
「問題だらけだ。従属なんぞしたら我が部族の誇りを失うではないかっ」
「誇り? はっ」
何も鼻で笑う事ないのでは?
「部族が無くなったら、その誇りも何もないだろうが。それにだ」
「それに?」
「決闘に負けて、駄々をこねる者が誇りを語るとはおこがましいな」
「ぐぅっ‼」
あっ、ネメアーさんがガックリしていた。
可哀そうだけど真実だからな。夫婦なのに、キツイ言い方だな。
そして、リオンさんは顔を僕の方に向ける。
「我が部族にとって『獣王の掟』は絶対だ。その掟により、我が部族は魔国に従属しよう」
そして、リオンさんは頭を下げた。
母親が頭を下げたので、娘達も同じように頭を下げた。
ネメアーさんは頭を下げず、顔を背けていたが、リオンさんの一睨みで渋々だが頭を下げた。
う~ん。まぁ、向こうは従属するって言ってしまったから従うしかないな。
「さて、次の部族に行くだろうが、その前に一つ決めてもらいたい事がある」
「何でしょうか?」
「娘は誰を連れて行く?」
「……はい?」
すいません。意味が分かりません。
「ちょっと意味が分からないのですが?」
「なに、簡単な事だ。我ら人獅子族が魔国に従属した証として、娘の一人を連れて行けば良いと言ったのだ」
「はぁ、そういう意味ですか」
良かった。てっきり側室に誰が良いという意味かと思った。
「ついでに妾としてくれてやるから。好きにしていいぞ」
「いやいや、それは駄目でしょう」
「そうだ。娘をこんな馬の骨にやるなど、とんでもない事であろうが⁉」
「……その馬の骨に負けたのは、どこのどいつだ?」
「かはっ⁉」
もう、止めてっ。ネメアーさんの体力はもう一桁だから。
「それに有能のようだから、今のうちに唾をつけておいてもよかろう」
「……せ、せめて、娘さんの気持ちを確認してからでも」
「だ、そうだが。お前達はどうだ?」
リオンさんが訊ねると、三人は互いを見合わせる。
「う~ん。わたしは保留で」
「わたしは断ります」
レグルスさんは保留。デネボラさんは拒否。最後の一人は。
「じゃあ、あたしが行くね」
シェルタンさんが挙手した。
「よし、デネボラにしよう」
「はぁ、何故ですか。母様っ」
「勘だ。それに、少しは男慣れしろ」
「ですが」
「もう決定事項だ。文句は受け付けん。どうしてもと言うなら」
リオンさんは腕をポキポキと鳴らす。
「力づくで言う事を聞かせてやる」
それを見て、皆黙った。
ここは説得しないとだめだ。何故なら。
「「………………」」
アマルティアとカーミラさんが僕を睨んでいるのだから。
後で、リオンさんを説得するとしよう。