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閑話 カーミラの狙い

カーミラ視点です。

 夜。

 ワタクシ達、吸血鬼族が最も好む時間。

 朝日を浴びても活動は問題ないのだが、種族の特性か本能なのか分からないが、夜になると心が躍る。

 そんな時間だが、このブカレス王宮内を歩き回るのは、メイドか衛兵ぐらいしかいない。

 元来、吸血鬼はあまり外に出歩く事をしない種族だ。

 父や母の様にこの樹海を飛び出して、外の世界に興味を持つのは珍しいのだ。

 かくいうワタクシことカーミラ=ドゥ=ブルロワ=ヴァルゴー二ュも外の世界に興味はある。

 しかし、次期吸血鬼の王候補に名前を連ねているので、気軽に樹海の外に出る事が出来なかった。

 久しぶりに父に会った時にリウイという魔人族の者と一緒に居たのは少し驚いた。

 この樹海に魔人族が居ること自体驚きだった。

 話を聞いてみたら、吸血鬼族を魔国に従属する為の交渉に来たそうだ。

 事前に公王陛下から魔国に従属する旨は聞いていたので文句はないのだが、どうしてこんな子供が来たのだろうか?

 舐められている訳ではないだろうが、何かあるのだろう。

 父も何か話しをしたい様に見えたので、ワタクシは父と共に別室に向かう。

 最初は他愛の無い話をしていたが、途中でとんでもない事を聞かされた。

『そうそう、先程のリウイ殿だが、お前の婚約者になったからな』

『はい?』

 いきなり、そう言われて目をパチクリさせた。

『今、何と言いました?』

『リウイ殿はお前の婚約者だと言ったのだ』

 聞き間違いではなかった。父の口からはっきりと聞こえた。

『・・・・・・失礼ですが。リウイ殿は御幾つでしょうか?』

『今年で十になったばかりだと聞いているぞ』

 十歳ですって、少々若すぎる気がする。

『お前も良い年だ。そろそろ婚約者が一人居てもよかろう』

『そ、それは、そうですが』

『シエーラの見立てではお前にはピッタリな婿だと言っていたぞ』

『母様が?』

 ワタクシが言うのもなんだが、母の人を見る目は確かだ。

 その母が言うのだから間違いないのかも知れないが。

『幾らなんでも急すぎませんか?』

 吸血鬼は血統主義な面がある。なので、結婚の際は、式の直前で初めてお互いの顔を見るという事も珍しくない。

 最も、そういった例もあるし、血縁関係同士で婚儀を結ぶ事もある。

 従兄妹同士などもあるが、叔母と甥。伯父と姪。凄いのだと、祖母と孫というのもある。

 最後のは特殊だが、母と息子が結ばれる事などありふれていた。

 ちなみに、父と母は赤の他人だ。

『お前が何時まで経っても、ボーイフレンドの一人も連れてこないのだから、親として心配して用意させてもらった』

『ですが』

『そんなに悪くない物件だと思うが』

『そう思うのは、御父様と御母様だけです』

『ふむ。であれば、リウイ殿に付いて行くのはどうだ?』

『付いて行く? どういう意味ですか?』

『リウイ殿は吸血鬼族との調印が終れば、別の種族の所に向かうだろう。その際、彼らは樹海の道案内する者が欲しいと思うだろう』

『そうですね』

 この樹海は知らない人が歩けば、一時間もしない内に迷う。

 更に、魔獣は徘徊しているし各部族が張った罠などが多数存在する。

『それで見極めればよかろう。どうだ?』

『・・・・・・御父様がそう言うのなら』

 渋々だが了承した。

 どちらにしても、そろそろ婚約者の一人は居てもおかしくない年齢だ。

 魔人族なのとまだ十歳なのは予想外であったが、まぁ、気に入らなければ、婚約破棄すれば良いだけだ。

『では、道案内でお前を付ける事を、リウイ殿に相談して来るとしよう』

 御父様はそう言って、席を立ちリウイ殿が居る部屋に向かう。

 部屋に着くと、リウイ殿にワタクシが道案内として連れて行く事を了承してくれた。

 その後は、少し雑談してからディナーを共にした。

 食べ終わると、リウイ殿達は各自に用意された部屋に引っ込んだ。

 で、ワタクシは何故、リウイ殿の部屋の前に来ているのかと言うと訳があった。

 別に道案内しながらリウイ殿を知るよりも、ワタクシ達で知れば良い。

 簡単に言えば、吸血鬼の代名詞とも言える吸血だ。

 ワタクシ達吸血鬼は、動物、人の血を吸う事で記憶、思考などを知る事が出来る。

 それで彼がどんな事を考えながら、この地に来たか本当の目的は何か分かるだろう。

 部屋の前に着いたワタクシは、軽く念じる。

 すると、身体の端から少しずつ霧になっていく。これは我が一族が使える|有(二ーク)|能力の一つ『ミストディ』だ。

 文字通り身体を霧にする事が出来る。

 これともう一つのある『ファミリアモン』のどれかがワタクシ達の吸血鬼が生まれた事から使える能力だ。

 大半の同族は二つの能力の内どれか一つだけ使えるが、ワタクシを含めた実力者は幾つかの固有能力を持っている。ちなみに父と母と公王陛下も後者の方だ。

 霧の姿になって、難なくリウイ殿が寝ている部屋に侵入した。

 実体に戻り、部屋を見回した。

 護衛を部屋の中に待機している事などせず、リウイ殿は一人で眠っていた。

 少し不用心過ぎではと思うが、完全に味方とは言えない土地で眠っている所を見ると剛胆かもしれないわねと思えた。

 何にせよ。そろそろ、血を頂くとしようかしら。

 まずは、近づいた時に起きない様に、唇の端を噛み血を出す。

 その血を口の中に含み、霧状にして噴き出す。

 これはワタクシだけ使える固有能力で『命じる(オーダー)ブラッド』という。

 血を使って、霧状に噴出して睡眠状態にさせたり凝固させて武器にする事も出来る能力だ。

 ワタクシはベッドに近付き、毛布をどけてリウイ殿の上半身というよりも、首筋を見えるようにする。

 染み一つない綺麗な肌にワタクシは顔を近づける。

 口を開くと犬歯の部分が伸びる。そしてリウイ殿の首筋に牙を突き立てる。

 ワタクシ達吸血鬼は、血は嗜好品のような物で、別に飲まなくても生きていける。

 偶に吸血すると、吸血鬼の眷属になると考える人が居るが、別に吸血したからといっても吸血鬼の眷属になる事はない。

 ワタクシ自身も魔獣の血を吸った事はあるが眷族になった者は居ない。

 そういえば人の血は吸った事は無いわね。これが初めての人にする吸血かと思うと、存分に味わう事にしましょう。

 そうして血を吸っていると、リウイ殿の記憶と知識が流れ込んできた。

 うっ、これは、なんという情報量なのっ⁉

 初めて人の吸血をするけど、こんなとんでもない量の記憶を持っているなんてあり得ない!

 まるで、前世の記憶を継承しているようだ。

 うん? これは今まで映っていた記憶と違う。

 これは⁉ 天まで届く高い建物。鉄の鳥。動く鉄の箱。それにこの人達が着ている服は明らかに、ワタクシ達の服飾技術では出来ない作りをしている。

 何で、このような物が記憶しているとは、どういう事かしら? 

 そのまま記憶を見ていると、綺麗な女性が映った。

 笑顔で話しかけているこの女性は、誰かしら?

 唇の動きから、ノっくんと呼んでいるようだ。それがこの記憶の主の名前かしら?

 そのまま記憶を見ていると、色々な風景が映った。

 やがて、魔法陣が浮かび上がるシーンが出てきた。これは転移魔法陣のようね。

 この規模の魔力と陣の大きさだと、何処かの異世界から転移できるわね。

 もしかして、この記憶の持ち主は異世界から来たのかしら?

 そう思って居ると、場面が変わった。今度は王様と謁見するシーンが出てきた。それからは、風景が変わって戦争しているシーンが目に入った。何処かの部族と戦争しているようね。

 また、場面が変わった。今度は何処かの領地を開拓しているようだった。

 ここに来て、この記憶の主の名前が分かった。イノータというらしい。

 先程のノックンと合わせて、イノータ・ノックンという名前のようね。変わった名前のようね。

 そして、また場面が変わった。今度は魔人族と戦っているわね。

 もしかして、千年前の魔人族の大移動の原因になった戦争かしら?

 この記憶の持ち主は仲間と共に、王宮まで来た。

 途中、敵の家臣を相手にする為、一人また一人と仲間達が離れて行く。

 最後には、この記憶の持ち主ともう一人しか居なかった。

 そして、扉を開けると立派な衣装に身を包んだ魔人族の者が居た。

 その魔人族の者と戦った。

 戦いは、記憶の主が勝ったようだが、ここで突然、映像が揺れた。

 映像が動くと、何と記憶の主と共に魔人族と戦っていた者が裏切りだした。

 音声が出ないので、唇の動きだけで知るしかなかったが、その者は「お前が邪魔だ」という事を言っているようだ。

 更に、その者は自分が殺した証拠を消すために、『転移の石』で記憶の主を何処か転移させた。

 何処かに転移された記憶の主は、使い魔だろうか烏に話しかけていた。

 そして、徐々に映像が暗くなった。恐らく、記憶の主が死んだのだろう。

 また、映像が変わると、今度は母親と父親らしき者達が出てきた。

 姿から、魔人族の父親と鬼人族の母親のようだ。

 その父親が、この映像に向かって話しかける。唇の動きから「リウイ」と言っていた。

 そこまで見て、ワタクシは血を吸うのを止めた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・・・」

 まさか、今までの記憶がリウイ殿の記憶?

 だとしたら、先程の記憶は前世の記憶という事?

 前世の記憶を持っているなんて信じられなかったが、記憶で見たのだから間違いない。

 という事は、前世では異世界から強制的に召喚されて、人間族の王様に好きなように使われて仲間に裏切られて死んだという事なのね。

「・・・・・・なんて、悲しい前世なの」

 ワタクシは思わず、リウイ殿の頬を撫でた。

 血を吸った事で生まれる性的興奮も、リウイ殿の記憶を見て冷めてしまった。

 正直、あのような場面を見て興奮する事は出来なかった。

 思わず抱き締めてしまった。

「ん、んん・・・・・・・」

 リウイ殿は息苦しそうに唸るが、そのまま眠る。

「ふっふふ、こうして見ると可愛い寝顔ね」

 ワタクシはリウイ殿を抱き枕にして眠る事にした。

 ああ、記憶を見た所為かこんなにも愛しいと思えるなんて。

 初めて見た時はただの子供としか思えなかったけど、まさか前世で異世界人だった記憶を持った少年だったとはね。

 そんな人が、婚約者というのも悪くはないわね。

 ワタクシが知らない知識を沢山持っているようだから、退屈はしないわね。

「幾久しく、よろしくお願いしますね。旦那様♥」

 ワタクシはリウイ殿の額にキスをして眠りについた。

 

 

 










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