第59話 一夜明けて
ル・ボンさんの屋敷で一夜を明かした僕達。
起きると、メイドさんがあれこれしてくれたのは、実家と変わらなかった。
違うのは専属のメイドじゃない事だろう。
ソフィー、シャリュ、ティナ、元気にしてるかな?
まぁ、帰ったら会えるから問題ないか。
そのまま、部屋を出るとアリアン達と合流した。
僕達は食堂に向かうと、ル・ボンさん達が座って待っていた。
「すいません。少し遅くなりました」
「なに気にする事ではないから、座り給え」
僕達は座ると同時に、メイドさんが給仕してくれた。
「さて、食事の最中だが、我らが領都『チェイシルヴァニア』の道筋を教えよう」
領都か。他の種族にもそういった場所はあるのかな? 分からないけど。
「宜しいか?」
「はい。大丈夫です」
「まずは、この屋敷を出て南に三日ほど行った先に、『イテ』という小さな村がある。そして、その村から東に二日ほど行きった先に、『カルパチアの関』という関所がある故、そこで通行許可を貰い、その関所を通り、西に三日ほど進んだ所に領都がある」
えっ、そんなに遠いの?
合計で八日掛けていくのか。海外旅行よりも凄い日数が掛かるな。
でも、そうまでしないと会えないのだから仕方が無いか。
「という、道のりとわたしの屋敷にある転移魔法陣で領都に直ぐ行くのとどちらが良い」
思わず、椅子からずり落ちそうになった。
そんな簡単な方法があるなら、そっちを薦めてくれよ。
「はっはは、済まない。ちょっとしたジョークだ」
ル・ボンさんは悪びれる様子もなく笑う。
隣に座るシエーラさんも手で口元を隠しながら上品に笑う。
「まぁ、陛下に会えるように、わたしが取り次ぐから大丈夫だ。直ぐに会えるだろう」
「お願いします」
僕は頭を下げて頼み込む。
「ついでに娘にも会わせるが構わないかい?」
「え、えっと・・・・・・・」
昨日の件を話すつもりなのだろうか。
そこの所は分からないけど、まぁ、顔を見せるくらいならいいか。
向こうが嫌だって言ったら、この話は無かった事にすればいいだけだ。
「は、はい。それでお願いします」
ぞわわっ。
な、何だ? 突然、肌が粟立ったんだけど。
訳が分からず、僕は首を傾げた。
「どうかしたのかな?」
「い、いえ、何も」
僕は食事を続けた。
食事が終わると、ル・ボンさんの案内で、僕達は屋敷にある転移魔法陣が置かれている場所に向かう。
屋敷にある地下へと続く道を進み、僕達はある部屋の前に着いた。
「ここに転移魔法陣があるのですか?」
「その通りだ。では、参るとしよう」
ル・ボンさんが扉を開けると、そこには幾何学模様の魔法陣が描かれている以外、何も無い部屋だった。
何処か、殺風景だが、転移魔法陣以外無いという事は、それだけこの魔法陣が重要と言う事だ。
僕はそれを理解しながら、転移の魔法陣を見て苦笑した。
何せ、前世では死に掛けの身の所で、そこに転移されて殺されたようなものなので、どうにもあの時の苦い記憶を思い出す。
もう、転生してそれなりの年月が経ったというのにだ。
「起動完了した。では向かおうか」
ル・ボンさんが魔法陣を起動させると、魔法陣が輝きだした。
僕達はその魔法陣に入った。
すると、魔法陣の輝きをました。一瞬だったので、直ぐに止んだ。
その輝きが止むと、先程とは別の場所に転移していた。
「ここは?」
「領都『チェイシルヴァニア』にある転移魔法陣が置かれている場所だ。我々はこの場所を『門』と呼んでいる所だ」
「門ですか」
まんまだなと思いつつ、僕は周りを見る。
先程と違う場所なのは、直ぐに分かった。
先程の部屋には、装飾品などはなかったが、この部屋には天井にも壁にも装飾が施されていた。
前世に居た国の一室を思い出すな。
そう思って居ると、ル・ボンさんが歩き出した。
「さて、案内しよう。わたしに付いて来てくれ」
ル・ボンさんの後に続いた。
僕達は『門』がある部屋を出ると、そこは魔石で出来た灯りが当たりを照らしていた。
この森自体が薄暗い所為か、太陽光が入りずらい所為か明かりが照らされているのだろう。
ル・ボンさんの後に続いて歩いていると、前方から見慣れない人いや鬼達が来た。
「これは。ル・ボン様。今日はどのような御用で?」
ふむ。身なりから、それなりに高位の人のようだ。
改めて思ったけど、ル・ボンさんって、結構身分が高いようだ。
「今日は陛下に客人を連れてきた。お目通りを願おうか」
「はっ? その者は獣人と魔人のようですが」
「うむ。魔国の魔人が陛下と交渉に参ったので、わたしがここまで案内して来たのだ」
「そうでしたか、今車を用意させますので、少々お待ちを」
話しかけてきた鬼が一礼すると、その場を離れた。
少し待つと、その人達が「準備が整いました」と言うので、車の所まで案内してくれた。
車は、馬の魔獣を二頭立ての馬車が用意されていた。
結構大きい作りだな、六人は入れそうだな。
僕達はその馬車に乗り込む。そして、馬車に揺られながら、僕は窓から外の様子を見る。
森を開拓しているようで、地面には石畳が敷かれていた。
それに木造じゃなくて、石か何かの建材で出来た建物が幾つもあった。
これが吸血鬼の家か。
出迎えに来てくれた人達は、ル・ボンさんとの話に集中しているので、僕達は気兼ねなく外の様子を見ていた。
吸血鬼というと、太陽光に弱いので朝は歩き回らず夜に動くイメージがあったけど、平然と歩き回っている所を見ると、種として太陽光を克服しているのか、それとも吸血鬼が太陽に弱いというのは嘘なのかと思えた。
まぁ、僕としてはどっちでも良いのだが。
馬車に揺られる事、数十分。
その馬車の窓から、城が見えてきた。
「あれは?」
「あれはこの領都の王宮である『ブカレス王宮』です」
ル・ボンさんは話が終わったのか、僕の独白に応えてくれた。
「じゃあ、あそこに」
「そう。陛下がおられます」
どんな人だろうか、内心考える。
やっぱり、吸血鬼なんだから、とんでもない美形なのだろうか?
それとも、本当の鬼のような顔をしているのかな。
分からないが、どんな人物なのか、会うのが楽しみだ。
馬車が城門を通り、城内に入り馬車から降りる。
「では、わたしは陛下に君達が来た事を報告に行く。陛下が御呼びするまで、別室で待機してくれ」
「分かりました」
ル・ボンさんにそう言って、謁見する為にその場を離れた。
そして、僕達は案内の人達に連れられていき、別室で待たされた。
来客用なのだろう。その部屋は贅を尽くした造りであった。
豪華な彫琢品に並べられていた。
ソファーやら棚やら何もかも、立派であった。
僕達はソファーに腰掛けると、何もしないでいた。
ここまで豪華な彫琢品に囲まれていると、身が縮みそうだ。
アマルティアもこんなに豪華な彫琢品を見る事がなかったのか、座りながらキョロキョロと部屋の中を見回していた。
アリアンだけ平然としている。
魔獣の価値観だと、こんな豪華な彫琢品は興味の対象ではないのだろうな。
僕達は部屋に入り少しすると。
ドアがノックされた。
「ひゃいっ」
アマルティアが裏返った声を出した。
それを聞いて、少々落ち着いた。
「ああ、どうぞ」
「失礼します」
そう言って部屋に入って来たのは、この部屋を案内してくれた鬼が入ってきた。
「陛下がお会いになるそうです。どうぞ、わたしの後に付いて来てください」
「分かりました」
僕達は部屋を出て、案内の人に付いて行った。