第58話 まずは、吸血鬼の王様に会おう
「話を聞く所、吸血鬼の王様であられるクルースニク殿は、穏健派と考えた方が良いのかな?」
「そうですな。我が主どちらかと言うと、穏健派寄りの知性派といった所ですな」
「知性派か、他の種族はどんな派閥が幅を利かせているか分かりますか?」
「そうですな。過激派なのが、人獅子、巨人、ダークエルフ族の三つですね。反対の穏健派なのは、昆虫人、天人族の二つですね。我ら吸血鬼族もどちらかと言うと、こちら寄りですね。最後に中立派なのはアラクネ、デュラハン、アイゼンブルートの三つです」
ふむ。こうして聞くと、このまま吸血鬼の使者を連れて、十二氏族の族長達の所に連れいけば解決のような気がする。
でもだ。このまま連れて行って終わりと言うのは、味気ないし。こうして来たのだ。
このままこの『奥地』を治外法権にするよりも、魔国の領土に組み入れた方が良いな。
だとしたら、まずは何処から、従属を求めるべきか。
穏健派が先かな。過激派な最後の方にしよう。
それとも、中立派からか? う~ん、迷うな。
悩んでいると、ル・ボンさんの隣に居る奥さんが口を開いた。
「リウイ様で良かったかしら?」
「はい。そうです」
「リウイ様。つかぬ事を聞きますが、貴方ハバキという鬼人族の女性を知りませんか?」
「えっ⁉」
何で、ここに母さんの名前が出て来るんだ?
「昔、この『オルピー樹海』から出た時に知り合いになりまして、わたくしが樹海に戻るまで、一緒に旅をしていましたの」
「ああ、そうなんですか」
母さん、そんな事を言ってなかったぞ。帰ったら聞こう。
「ハバキは僕の母です」
「まぁ、そうなのですか⁉」
シエーラさんは凄く喜んだ顔をする。
「これは、また凄い縁だ。まさか妻の友人の息子とこうして会えるとは」
「僕もそう思います」
「これも何かの縁だ。わたしに出来る事があれば、何でも言ってくれたまえ」
ル・ボンさんは胸を叩く。
そう言われると、何か言わないと駄目だろうな。
う~ん。何て言おうかな。
「マスター」
そう思っていると、アリアンが小声で話しかけてきた。
「なんだい?」
「ここまで来たのですから、この機会を活かして、吸血鬼の王に会うのは如何ですか?」
「それは、流石に」
「会うだけです。話をしてどんな人物か知るのも悪くないと思いますが」
ふむ。確かに、それは悪くない考えか。
流石に断れるかもしれないな。まぁ、話を振るぐらいなら良いか。
「じゃあ、早速ですが。いいですか?」
「うむ。わたしに出来る事であれば、何でもしよう」
「その吸血鬼の王様に会わせて頂ける事は出来るでしょうか?」
「・・・・・・そんな事で良いのかい?」
「ええ、それだけで十分です」
「であれば、陛下が居る所に案内してあげようではないか」
「ありがとうございます」
僕は頭を下げる。
ふぅ。断れると思ったけど、良かった。
「それはそうとして、リウイ殿」
「はい」
「貴方は婚約者はおられるかな?」
「? いませんが?」
何で、そんな事を聞くのかな?
そう言えば、何で僕には婚約者が居ないのだろう。 何でだろう?
「・・・・・・良し」
今、アマルティアがガッツポーズを取ったように見えたけど、気のせいか?
「そうかそうか。それは良い」
「ええ、本当に」
うん? ル・ボンさんとシエーラさんは手を叩いて喜ぶ。
「リウイ殿。どうかな。わたしの娘を婚約者にしていただけないだろうか」
「・・・・・・はい?」
「いやぁ、娘にもそろそろ、婚約者を作ろうと思って居た所に、妻の友人の息子さんが来るとは幸先が良い。如何かな?」
「い、いえ、如何も何も、そのお嬢さんの気持ちを考えた方が良いと思います」
せめて、娘さんにこの話をした方が良いと思います。
「・・・・・・・・・」
あれ? 何かアマルティアがジト目で僕を見るのだけど、何で?
「はっはは、確かにそうかもしれないが、娘はあれで奔放なので、君のような落ち着いた者が婚約者だと、わたし達も安心できるのだよ」
「いやいや、せめてお嬢さんにこの話をしてからにしません」
政略結婚するにしても、せめてこれくらいはしても良いと思う。
「何、わたしの目から見ても、君は好感を持てる人柄のようだ。なので、問題ない。娘は次期吸血鬼の王候補に入っているが、問題ないだろう」
「いえ、問題ありまくりですっ」
次期吸血鬼王の候補って、それだけ強くてカリスマがあるという事だろう。
そんな人を婚約者とか、寿命が縮みます。
「はっはは、今宵は良い日だ。妻の友人の息子がわたしの娘の婚約者になるとは、いやはや、素晴らしい縁であるな。はっははっは」
ル・ボンさんとシエーラさんも楽しそうに笑う。
何か、もう婚約決定したようは空気だな。
「・・・・・・・・・」
アマルティアはムスっとした顔をして、そっぽ向く。
その後は、談笑しながら、僕の身分とこの地に来る事になった経緯を話した。その話をしていて、この屋敷に来る理由の一つににもなった茶葉を提供して、一緒に飲む事なった。
ル・ボンさんはこの茶を飲むなり「うん。素晴らしい香りに味だ。向こうの大陸に行った時は、良く飲んだものだ」と言って懐かしそうに言いながら飲んでいる。
この土地でも茶葉は取れるそうだが、発酵できる場所が存在しないので、茶葉が発酵できないそうだ。
ふむ。だとしたら、この茶葉で交易が出来るかな。
そう考えながら、僕は何かもっと有益な情報がないかと聞きながら談笑した。
ル・ボンさんが「今夜は我が屋敷に逗留されたら、どうかな? 妻の友人の息子でもあるし、娘の婚約者だ。もはや、身内当然だ。そんな者を野宿させるのは心苦しい」と言われたので、お言葉に甘えて、僕達は屋敷に泊まる事になった。