第56話 この人、本当に吸血鬼?
「申し遅れた。わたしはシャルル=ドゥ=ブルロワ=ヴァルゴーニュと申す」
シャルルと名乗った男性は胸に手を当てて綺麗なカーテシーをした。
「何て呼べば良いのでしょうか?」
「そうですな。人はわたしの事を「善良公」と呼ぶので、そう呼んで頂きたい」
ル・ボン? それって、確かフランス語で善良公だよな。
「それで、そのル・ボン様?」
「ノン。様は結構、気軽にル・ボンと呼んでいただきたい。名も知らぬギャルソン」
う~ん。あれだな。昔こんな風に言う芸人が居たな。
「あの、聞いてもよろしいでしょうか?」
アマルティアはおずおずと手を挙げる。
「ウィ。綺麗なフィーユ」
「あ、貴方は吸血鬼なんですよね?」
「ウィ」
ル・ボンさんは頷いた。
「どうして、ここに居るのでしょうか?」
アマルティアの問いに、どう答えようか考えているル・ボンさん。
「・・・・・・長い話になるので、このような所ではなく、わたしの屋敷に来て話を聞いてくれるだろうか?」
ル・ボンさんは頭を下げる。
思わず、僕達は顔を見合わせる。
いきなり現れた人の屋敷に来てと言われても、反応に困る。
「・・・・・・どうします?」
「う~ん。判断に困るな」
吸血鬼だから、のこのこ付いて行って、そのまま吸血されるかもしれない。
さてさて、どうしたものか。
「マスター、水を汲んできました。・・・・・・あら?」
「おや?」
アリアンが水を汲んだ桶を持ってやってきた。
「おや、シャルルではありませんか。どうしてここに居るのですか?」
「これはこれは、麒麟の姫君。このような所でお目に掛かるとは望外の喜びでございます」
ル・ボンさんはカーテシーする。
って、うん?
「御二人は知り合いなのですか?」
「ええ、古い友人です」
「貴方がこうして居るとは、何かあったのですかな?」
「ああ、実はですね」
アリアンはル・ボンさんにこうなった経緯を話した。
「成程。そうですか。はぁ、あの件がそれほど、尾を引いていたとは」
あの件? もしかして、襲撃の件で何か知っているのかな?
「その件についても話したいので、是非わたしの屋敷に来られよ。歓迎いたしますよ」
「どうしようか? アリアン」
「彼であれば『奥地』の地理と勢力図を知っているでしょうから、付いて行っても問題ないでしょう」
「アリアンがそう言うなら、付いて行くか」
「そうですか。では、参りましょうか」
「あの、僕の連れも一緒でいいですか?」
「どうぞどうぞ。構いませんよ」
そう言って、ル・ボンさんは森の中に入っていく。
僕はアーヌルに野営に中止を命じて、そしてアリアンと何故かアマルティアの二人と、少し離れた所でアーヌル達と一緒にル・ボンさんの後に付いて行く。