第55話 奥地に着いたけど、何か出た⁉
「この道を真っ直ぐ進めば、大森林が見えます。それが我らが言う『奥地』になります」
「そうか」
「はい。ですので、そこまで案内しますね」
「いや、助かる」
「気にしないでください」
と先程から僕の隣で話しかけているのはエアレー族長の孫娘アマルティアだ。
何故だろう。この人初対面なのに、何故か僕に話しかけて来る。
「ご趣味はなんですか?」
「好きな食べ物は?」
「どんな女性が好みですか?」
「ご家族は何人ですか?」
と矢継ぎ早に聞いてくる。
初対面だよな? どうして、こんなに押しが強いのだろう?
同じ女性という立場という事で、アリアンに訊いてみると。
「マスターの情報を入手して、それを伝手にして何かしらの策を練るのでは?」
成程。そういう事か。
まぁ、家族構成ぐらい話していいかと思い話した。
趣味はこれといってないし、好きな食べ物も特になしいし。好きな女性についてはノーコメントにした。まだ、子供だし。前世の好みの女性は、どんなタイプだったかもう忘れたからな。
そうしてアマルティアと話しながら、僕達は進みだす。
でも、こうして話をしてみると思うのが、前世のあの子を思い出す。
見た目はおしとやか女性だったのに、僕に対しては押しが強かったな。
もう会う事は出来ないけど。
「? どうかしました?」
「あ、ああ、何でもない」
昔の事を思い出していた所為か、ぼ~っとしていた。
声を掛けられ、気を取り直す。
ここは敵地なんだから、しっかりしないとな。
気を引き締めて進む僕。
やがて、僕達は十二氏族の人達が『奥地』という大森林の前まで来た。
「ここが『奥地』か」
「はい。そうです」
アマルティアがそう言う。
この森まるで、あれだな。ジ〇リの有名なデカい虫が出る谷の樹海みたいだ。
流石に菌糸飛んでないようだけど。
こんな樹海の中に入ったら、出るのも大変そうだな。
「マスター。どうしますか?」
アリアンはこの樹海に入る前に、一度休憩を取るかどうか聞いている。
そうだな。一度樹海の前で休んで、それから樹海の中に入った方が良いか。
「よし。今日はここで休みを取り、明日この『奥地』に入るとしよう」
「分かりました」
「アーヌル」
「ヤ―、マインヘル」
「お前の隊は二交代制にして、休憩を取れ」
「マインヘル。我ラニハ休憩ハ不要デス」
「休憩というよりも、メンテナンスかな? お前達は自己修復が出来るのだろう」
「ソノ通リデス」
「『奥地』に入ったら、メンテナンス出来る暇があるか分からない。だから、今のうちにしておいてくれ」
「ヤヴォ―ル」
アーヌルは敬礼して、その場を離れた。
さて、次はと。
「アマルティアだったな。ここまでの道案内ご苦労だった。ここからは、僕達だけで十分だ。もう、帰っても良いぞ」
僕がそう言うと、アマルティアは首を横に振る。
「私も残ります。結果を見届けるように祖父に言われていますから」
あれ? そんな事を言っていたっけ?
・・・・・・言ってないような気がするけど。
「い い で す か?」
笑顔なのに、何故か背後に阿修羅が見える。
こ、怖ええっ、椎名さんを思い出す。
「わ、分かった。貴方の好きにすればいい」
「ありがとうございます」
男なら見惚れそうな笑顔を浮かべて一礼するアマルティア。
あ~、怖かった。
さてと、気を取り直してキャンプの準備でもするか。
近くにある水場はアリアンに探して貰って汲んできてもらおう。竈とかは、僕が作れば言いや。
ここら辺の土は粘土質のようだから、少し水を加えると直ぐに固まる。
水が来るのを待ちつつ、アーヌル部下達に指示してある程度掘って穴を作る。
これは熾火を作る為だ。木を組んで燃やすよりも、穴を掘って木を乱雑に入れて燃やした方が、燃えやすいと前世で読んだ本に書いてあった。
木は枯れ木を適当に入れる。
後は持ってきた携帯燃料で名前を炭団という物で火を起こして、燃やせばいい。
この炭団の製法は簡単だ。炭か又は炭の粉末を土と混ぜて、乾燥させれば出来上がりだ。
そんな簡単な方法なのに一度燃えれば、一日中燃焼する優れ物だ。
魔石で火を付ける方法もあるが、長期になるかもしれなかったので、この炭団と魔石を両方持ってきた。なので、燃料に関しては問題ない。
僕は折り畳み式の床几を二人分出して座る。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
アマルティアは一礼して、床几に座る。
「意外に座り心地が良い椅子ですね」
「ああ、良い革を使っているから当然だ」
なんて、名前の魔獣の革を使っているか忘れたが、この座り心地はなかなか良い。
「アリアンが来たら、茶を出すので少し待ってくれ」
「ありがとうございます」
「多分、気に入ると思うんだ」
この茶葉は、僕が城に居る時に、イザドラ姉上に頼んで作った物だからな。
匂いも味も文句無しだろう。
茶を入れた缶の蓋を開ける。うん、良い香りだ。
「ふむ。素晴らしい香りだ」
うん? 聞きなれない声がするぞ?
振り返ると、そこには金髪を首まで伸ばし真ん中分けにして、髪色と同じもみあげと顎髭が繋がり、口髭は黒かった。
肌は青白く、気品のある顔立ちの男性だった。ロココ調の服を着ていた。
「おっと、失礼した。久しく嗅いだ事がない香りを嗅いだので、つい来てしまった」
それは良いのですけど、貴方はどなた様ですか?