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閑話 エアレーの胸中

 エアレー視点です。

 儂はエアレー。十二氏族『ゴーゼフ』族長をしておる。

 その儂は今『清海』の水辺の近くにおる。

 無論、魔獣からの襲撃に備えて、部族の者達も連れてきておる。

 儂がここにおるのは、他ならないリウイという魔王の息子にして儂らが暮らしている領地を治めている領主である。

 初対面の時は、子供にしか見えなかったが話してみて分かった。

 この者は異質だと。

 いや、異才と言った方が良いのじゃろう。

 儂が族長になってから数十年。それまでの間も、それ以前も魔国側が交渉してくる事などなかった。

 あったとしても一方的な申し出だけだ。

 何せ「貴様らが治めている領地の支配権は保証してやるから、取れる食料の八割を寄越せ。もしくは、部族の女性を毎年百人献上せよ」と今迄の使者は言っていた。

 流石にそんなに食料を取って行かれたら、儂らは生き残る事は出来なくなる。

 なので、儂らは魔国の支配に反抗した。

 儂が族長になって、二十年ほど経った時の戦いで、向こうの領地を治めていた領主を他の部族の者が討ち取ったお蔭で魔国も我らに干渉はしなくなった。

 もっとも、それにより、一部の部族が無用な略奪をするようになったのは誤算じゃった。

 そのような無用な事をすれば、魔国を刺激するだけだと言っても止めないので困っていた。

 今まで辛酸を舐めてきたので、その溜まった鬱憤を晴らすためにしているようであったので、儂も強く止めよと言えなかった。

 しかし、このままでは不味いと思い何度かせねばと思って居る所で、去年天候の悪化により作物が実りが悪くなった。

 各部族の保存している食料を回す事で、その年は何とか餓死者は出なかったが、このままでは不味いと思、儂らの領地の北にある大森林、儂らは『奥地』と呼んでいる所に部族の者を向かわせた。

 そこには儂らですら知らなかった先住民族の生き残りが居た。

 向こうと話し合おうとしたが、向こうは応じてくれなかった。それだけではなく、儂らの領地に襲撃を掛けてきた。

 その襲撃もあのリウイが着任すると、自然と止んだのは何かあるのかと思えるが、今の所何の情報もないので分からない。

 そんな訳で、儂はリウイという者には、何かあるのではと思いエリュマントスの話を聞いて会う事を承諾した。

 他の部族達は反対こそしなかったが不満そうな顔をしていた。

 特に『レバニー』族族長アルネブ。

 会談中に何かしでかさないかと思いつつ、儂らは会談に臨んだ。

 その席であのリウイと言う者はこう言いおった。

『そちらが襲撃を止めて、食料を献上するなら、そちらの領地には自治権を与える』と。

 儂は耳を疑った。

 今迄の魔国の者達は、儂らの領地を奪う事しか考えていなかったが、この者は違う。

 まるで、お互いに手を取りあって共存していこうと言っているようであった。

 正直信じられなかった。

 なので、儂は一つ提案した。

『奥地に行って、向こうの部族の者達と交渉してくれ』と。

 これが出来れば、文句なしの偉才だ。出す指示に従おう。

 出来なかったら、儂から条件を付けさせる。そして、ゆくゆくはこの『オウエ』の領地を全て儂ら十二氏族の物にする。

 まぁ、簡単に言えば傀儡にするつもりじゃ。

 勿論。その分、良い思いはさせる。儂の孫娘を娶らせる。

 儂が言うのも何じゃが、部族の中でも一~二を争う美しさを持っておる。

 少々、箱入り娘ではあるが、その分知識は豊富だ。後可愛いんじゃし。

 その提案をした時は、少し考える時間をくれと言うと思ったのじゃが、まさか直ぐに返事をするとは思わなかった。

 そして、会談が終わった数日後。

 儂は来るのを待っていると『レバニー』族主導で『シルベン』『イシメオン』『ホーユス』の四つの部族が、向こうの領地と儂らの領地へと至る道を封鎖しおった。

 何かするのではとという予想が当たったが、これはどうしたら良いか考えた。

 一応、この事をリウイに話して、向こうがどう出るか見てから決める事にした。

 封鎖を解除してくれと言ったら、儂はこの件が終わったら孫娘と婚約させようと思い、もし、自力で解決すると言うのならば、お手並みを拝見する事にした。

 そう思って居ると、急に通信が入った。

「そろそろ、そちらの『清海』の岸辺に着きそうだ」と言ってきおった。

 ううむ。まさか『清海』を越えるとは思わなかった。

 あそこの水は飲めば、死に至ると言われているので、今まで、水を飲む者もましてや泳ごうとする者すら居なかった。

 そこを筏に乗って渡るとは、流石に見事と言えた。

 封鎖している四部族の者達も、道は封鎖しているが『清海』に関しては何の対策もしておらぬだろう。

 誰もが考えていない事を思いつき、行動するとは、なかなか見どころがあるようじゃ。

 それにしても、どうやって向こう岸から儂らが居る所まで来れたのじゃ?

 向こう岸からでは、儂らの居る所までは見えない筈じゃ。それなのに来れるとは、何かしらの方法であるのか、それとも。

 そして、顎髭を撫でながら儂らは待っていると、微かに地面が揺れ出した。

 まるで巨大生物が歩いているかのように。

 しかも、その揺れが段々と激しくなっていく。

 更に『清海』の水面を見ると波紋が出来ていた。

「な、何事だ⁉」

「落ち着け、何が起こっても対処できるようにしろ‼」

 護衛として連れてきた部族の者が慌てながらも、落ち着きを取り戻そうとしていた。

「御爺様」

 そう言って儂の手を取るのは、孫娘のアマルティアだ。

 腰まで伸ばした黒髪。

 紫色の瞳。可愛い顔立ち。

 腰には部族に代々伝わる製法で作られた片刃の剣を腰に差している。

 腿までスリットが入った服を着ている。

「大丈夫じゃ。気をしっかりと持ちなさい」

 孫の手に力が入るが、儂はそのまま手を握った。

 そうしていると、向こう側からうっすらと何かが見えた。

 遠いので、何だか分からないが、まるで山か島が動いているかの様じゃ。

 その物体がようやく何か見える所まで来ると、その物体が何か分かった。

 それは大きな亀であった。

 この大きさはどう考えても、尋常ではない。ならば、これは亀の魔獣なのだろう。

 亀の魔獣は進み続け、岸辺の所まで来ると頭を下げた。

 そうすると、亀は頭を下げて地面に顎を付けた。

 何かあるのかと思い見ていると、首を伝って頭の上に何かがやってきた。

 見ると、鎧を着た巨人であった。

「あ、あれは⁉」

 護衛の者がその巨人を見て叫んだ。

「何か知っておるのか?」

「あ、あれは『奥地』に居た巨人と良く似ております‼」

「真か?」

「はい。間違いありませんっ」

 護衛の者は断言した。

 ふむ、この者は『奥地』の調査に向かわせた者の一人だ。誠実な性格であるから嘘などつかん。だから、今回の護衛に連れてきたのじゃ。

 その者が言うのであれば、あの巨人達は『奥地』と同じ種族と思うべきじゃな。

 さて、何故そんな者達がここに来たのかと思って居ると、この前、リウイと共に護衛として来た者がやってきて、頭から飛び降りた。

「・・・・・・・・・」

 名前は知らぬが、この者が来たという事は、リウイが手勢を送り込んだという事じゃな。

 だとすれば、この巨人達もリウイの部下達という事か。

 さて、どうしたものかと思って居ると、降りてきた護衛が儂の所に向かって来る。

「っ⁉」

 アマルティアは腰の剣を抜こうとしたが、儂は手で制した。

 そうしている間にも、向こうの護衛は儂の前まで来た。

「貴方、この前の会談の時に居た族長ですね?」

「そうじゃ。我が主が五百の手勢を率いて参りました」

 その護衛は、頭を下げて儂に告げた。

「なに⁉ リウイ殿も来たというのか?」

「はい。その通りです。間もなく参ります」

 護衛の者がそう言うと、ヒュウウウウウという音が聞こえてきた。

 何かが落ちて来る音のようじゃな。

 そして、その音と共に何かが落ちてきた。

 その物が落ちると、地面が隆起して砂埃が舞い上がった。

 儂らは砂埃が目に入らうように手で防いだ。

 やがて、砂埃が止むと其処には、巨人がおりその肩にリウイが座っておった。

「出迎え、ご苦労様。エアレー族長」

 なかなか派手な登場をしおる。うむ。面白い男よ。

 これは、本当に孫を嫁として出した方が良いかもしれんな。

 さて、孫に「この者がこの地の領主で、お主の婿候補じゃ」と言うか。

 そう思い、振り返ると。

「~~~~~~~」

 何と、孫の頬が赤くなっておった。

 これは怒りではないな。どちらかと言うと、好意じゃな。

 ふむ。どうやら、一目惚れしたようじゃな。

 儂も孫は可愛いからな。その内、何かしら理由をつけてリウイの下に送る事としよう。








 

 















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