第49話 賭けをしよう
「「・・・・・・・・・・・・」」
互いの言い分を聞いて、お互い言葉を失う。
向こうは襲撃を止め、ある程度の食料を渡すなら自治権を与えると言われて、戸惑っている。
僕としても、向こうの種族が言う『奥地』には魔獣だけではなく、まだ先住民族がおり、その部族の一つから最近まで襲撃を受けていたという話を聞いて戸惑う。
もう先住民族はこの場に居る十二氏族しかいないと思われていたのに、まだ存在していたとは。しかも話が通じないみたいだし。
どうしたものかな。正直、対処に困るな。
しかし、こうして向こうが話しに乗って来たのだから、僕としてもこれを機にして十二氏族の人達と上手くやっていきたい。
どうしたら、上手くやって行けるだろうか。
悩んでいると向こうから声を掛けてきた。
「自治権の為に食料をどれくらい渡せばよいのだ?」
牛の顔をした獣人の人がそう訊いてきた。
名前は、えっと、アウズンブラだったかな?その人が僕に訊いてきた。
そうだな。ここは戦国時代一の民政家と言われる偉人を真似て見る事にした。
「年に取れる収穫物の四割程度で良いかな?」
「「「はぁっ?」」」
僕がそう言うと、皆何を言っているんだ、こいつみたいな顔をした。
向こうの人達は分かるけど、何故に母さんやアリアンまでそんな顔をするかな?
「四割だと?」
「残りの六割は、我らの物にしてもよいのか?」
竜人族の人と猪の顔をした獣人が困惑しながらも聞いてきた。
名前は竜人族の人がチンロンで、猪の獣人はエリュマントスだったけ。
このチンロンという人が着ている服はチャイナ服にソックリだ。
服の名前は知らないが、作りは同じと見た方が良いな。
そして、このエリュマントスさんはこの前捕まえたカリュドーンにそっくりだな。
族長の息子みたいな事を言っていたから、似てるのも当然か。
「そうだ」
流石に五割は取り過ぎだと思うからな、ここは四割ぐらいにしておこう。
前世の税率も大体三割ぐらいだった。あれは、あの土地が特殊だったから出来たのであって、他の土地ならこれぐらいがしないと駄目だろう。
「・・・・・・本気でするつもりなのですか?」
そう訊くのは、ワルタハンガというラミアだ。
時折「シー、シー」と言いながら二股に分かれた舌を出している。
蛇が舌を出すのは威嚇とか匂いを感知する為とか言われている。
その名残で舌を出しているのかな?
「無論、本気だ」
まさか、四割でも不満なのか?
これ以上税率を下げたら、この領地の発展が出来なくなる。
「「「・・・・・・・・・・」」」
うん? 何で黙るのかな?
「それで領地が回るとは思えないのだが」
人馬族の人が疑問交じりで問いかける。
名前はディオメデスだったな。
前世の領地ではあの土地の特殊性はあったけど回っていたし、戦国時代の後北条の領地ではそれで回っていたから大丈夫だと思うのだけど。
「大丈夫だ。それでも十分に領地を回せる」
ましてや、後北条の領地の半分ぐらいしかない領地だから大丈夫だろう。
「信じられないな。その根拠は何処にある?」
虎耳に虎の尻尾を生やした女性が聞いてきた。
ボノビビだったかな? 浮かべている顔には理解不能と顔に書かれていた。
「根拠か。それについてはしてみないと分からない」
「そんな何のアテもない税率で領地を運営できると思っているのか⁉」
「戯言もたいがいにせよっ」
床を叩きながらそう聞いてくるアウズンブラ。
マルコシアスも白い牙を見せながら咆える。
う~ん。これは僕が何と言っても信じて貰えないだろうな。
さて、どうしたものかな。
「お、お二人共。落ち着て下さい」
ラタトスクさんがアタフタしながら、アウズンブラを宥めようとしている。
何か、一種即発の場でラタトスクさんがアタフタしているのを見ると、何故かホッコリする。
周りの人もそう思ったのか、皆ラタトスクさんを生暖かい目で見る。
「これ、落ち着け。皆の衆」
エアレーがそう言って、他の族長達を宥める。
最年長の威厳なのか、エアレーの言葉を聞いて、叫んでいた二人も憮然としながらも静まっていく。
「お主の言い分には何かしらの根拠があるようじゃが、それには目に見える形が見えぬ。その時点で信用しろと言われても無理があるじゃろう」
「むっ」
確かに、僕はこの領地に着いたばかりなので目に見える成果といえる物がない。
それをこれから見せると言われても、向こうはその結果が出るまで信用しないだろう。
さて、どうしたらいいかな。
「そこで一つ提案がある」
「提案?」
僕がそう訊くと、エアレーは頷いた。
「お主は食料を渡してくれるのであれば、自治権を与えると言った。それは間違いないな?」
僕はコクリと頷く。
「儂らからすると、いつ『奥地』から襲撃受けるか分からない状況で、食料は失いたくない」
あっ、そこまで言って分かった。これはもしかして。
「そこで提案じゃ。お主の手勢を『奥地』に向かわせて、我らの領地を襲わないように交渉してくれるぬか?」
やっぱり、そう来ると思った。
「・・・・・・しかし、僕の所兵士が行っても話すのも無理なのでは?」
話しを聞いた感じだと、その『奥地』の人達に使者を出したのに、話しをする必要性がないトイウ返事を貰ったと聞いている。
それだったら、僕が言っても無駄なのでは?
「向こうは『我ら』と話す必要性はないと言った。じゃが、この領地の領主であれば話を聞く必要はあると思うじゃが」
屁理屈じみた論法だな。
しかし、その『奥地』とやらに行けるというのは、悪くはないな。
何があるか分からない土地だ。何かしら珍しい資源もあるかも知れないし、それにアラクネも居ると言っていた。
アラクネが出す糸で服を作れば高級品になると、前世の知識であった。
最悪、アラクネの部族と糸の交易を出来るようにしたいな。
「その『奥地』に行くまでの道は?」
「それは我らが案内しよう。それで我らの提案に乗るか?」
僕は目をつぶり考える。
そして、目を開ける。
「その話乗った」
「「っ⁉」」
両隣から驚きに満ちた声が聞こえる。
「そうか。では、そちらの準備が整い次第。連絡をくれるか?」
「どうやって連絡を取れば良い?」
「それについては、ほれ、ラタトスクよ」
「は、はい」
ラタトスクさんはポケットから何か出して、それを僕に渡した。
何かの結晶のようだけど、何だろう?
「これは?」
「儂らの独自の技術で開発した。遠距離通信魔道具『オアント』じゃ」
「オアント?」
「うむ。この魔道具があればこの領地内であれば、十分に会話できる」
「これは、凄い物だな。貰って良いのか?」
「構わん。この魔道具は儂らの領地では量産する事に成功している。じゃから、一つや二つ渡しても構わんよ」
この魔道具を量産しているとは、凄い技術力だな。
流石と思うのと同時に、これの技術力は使えると思った。
「分かった。では、僕達はこれで」
僕は立ち上がろうとしたら。
「うむ。準備が整い次第、連絡を入れるのじゃぞ。ある程度の所まで来たら、出迎えをだそう」
「了解した」
僕が立ち上がると、母さん達も立ち上がりそのままテントを出る。
出る際、何故かアルネブと名乗った人が僕を睨んでいたような気がするが、気のせいだろう。




