第44話 使者が来た。
カリュドーンに食料を持たせて、向こうの縄張りに戻させて一週間。
最初、食料を持たせて戻させた事には、レイモンドさんを含めた部下の人達に怒られた。
母さんは『面白い事をする」と言って笑い、フェル姉は『ウ~ちゃんらしいわ』と言って僕の頭を撫でた。ソフィーとシャリュの二人は『気前が良すぎます』と言い、ティナに至っては『あんた、馬鹿でしょ?』と言うのだ。流石にそれは酷いなと思う。
僕としても向こうは襲う事はないだろうと思い食料を渡したのだ。結果、一週間経っても襲撃がないので、皆は驚いたが、僕は胸を張った。
すると、母さんはそんな僕を見て『調子に乗るなっ』と言って頭を叩かれた。
ちょっと痛かったけど別にいい。母さんの顔がほんの微かに微笑んでいたので、どうやら調子に乗らないようにで叩いたと言うよりも、意外と考えている子になって嬉しいのを隠すために叩いたのだと思う。多分。
しかし、そろそろ。何かしら起こると思うのだけどなぁ。
「どうした。愚息よ。手が止まっているぞ?」
昼食中で考え事をしていた僕は、色々と考え過ぎて食べる手を止めていたようだ。
それを隣に座っている母さんに指摘された。
「ああ、ちょっと考え事があってね」
「ふむ。まぁ、今は考えるよりも、食事に集中すべきだ。お前の考えたこの「キノコのキッシュ」は美味いぞ」
母さんはフォークに差したキッシュを一口で半分ほど齧りとった。
美味しそうに咀嚼しているので、母さんの口にあったのだろう。
この『オウエ』は山だらけなので、キノコが多く生えていた。
中にはシイタケやマツタケもあった。
しかし、このキノコ類は市民は食べないそうだ。
何でかと言うと、樹に何時の間にか生えているので不気味と思うのと、昔、空腹のあまり食べた人が倒れたので、それ以来、キノコを食べる人は居なくなったそうだ。
確かに、キノコって知識がないと、どれが毒があるのかないのか分からないよな。
その倒れた人は運がなかったんだろう。
僕も前世で売られていたキノコの形は分かるが、他のキノコについては分からない。
この都市に住んでいる人達も、どれが食べれるキノコか調べるという奇矯な人は居なかったようで、どうしたものかと頭を悩ましていた。
そんな時に、手を上げたのはアーヌルだった。
ロボットなのに食事するの? と思っていると、アーヌル達は食事はしないが物に毒が有るか無しか分かる様に作られているそうだ。
どうやら、味覚分析センサーを付いているのだと分かった。
それを聞いて、僕は都市の部下全員を使ってキノコ狩りをさせた。
採ってきたキノコを片っ端から、アーヌル達に味見させた。
その時のキノコ狩りで犬と一緒に行った者が居た。そのお蔭で黒と白のトリュフが見つけられた。
一応トリュフを味見させたが、問題ないそうだ。
ところで、何で毒見が出来るのに言わなかったのかと言うと、この『カオンジ』ではキノコを食べなくても食料の供給が間に合っており、その上、自分達がこの都市に来た時には、誰もキノコを採って来る事はなかったので、毒キノコしかないと判断していたそうだ。
そしてアーヌル達の毒見のお蔭で、食べられるキノコを知る事が出来た。
採ってきたキノコは全部、キノコと呼称したので、僕は形に合わせて名前を付けた。
まぁ、全部前世の記憶にあるキノコ名前だけどね。
そして、このキノコを使って色々と料理を作った。
キノコ汁、キノコのソテー、キノコの肉巻き、キノコのアヒージョ等々。
お米はこの領地では取れないので、炊き込みご飯は作れなかったが、それでも結構出来た方だと思う。
中でも、黒と白のトリュフを贅沢に使ったパスタとピザは好評だった。
僕はどちらかと言うと、キノコをクリームで軽く煮てパイ生地と一緒に焼いたキッシュが好みだ。
どっしりとしていて、腹持ちが良いの上に久しぶりに食べるパイ生地が美味しかった。
王宮でもパイは出たが、あっちは折りパイなのでこっちの練りパイの方が好きだ。
母さんも練りパイのキッシュが好きなようで、作ればあるだけ食べる。
「そうだね。今はご飯の時間だもんね」
僕も止めていた手を動かして、食事を開始した。
そして食事を終えると、今日は領主がする程の仕事がないので、休日にしてもらった。
今日はティナと一緒に都市を回る事にした。
本来なら一緒に行くべきなのだが、ティナが「どうせなら待ち合わせにしない?」と意味不明な事を言ってきた。
そんな事をしなくてもと良いと言おうとしたら、ティナの手に電気が走ったのを見て頭を縦に振る。
一足に先に朝食を食べ終えたティナはソフィーの手を借りておめかしして出掛けた。
待ち合わせ場所は、都市の中央にある噴水だ。
外に出掛けるという事で、あまり目立たずそれでいて綺麗な服に着替える。
「とてもよくお似合いです。リウイ様」
着替えを手伝ってくれたシャリュがそう言うので問題ないだろう。
姿見で変な所が無いか確認した。うん。何処も変ではないようだ。
「それじゃあ、夜までには帰るから」
「はい。存分に楽しんでらしてください」
シャリュにそう言われて、僕は私室を出ようとしたらドアがノックされた。
「「???」」
今日は休みだと言っておいたので、この部屋に来る者は居ない筈だ。
とりあえず、僕はドアの向こうに居る人に声を掛ける。
「誰だ?」
『レイモンドです。お休みの所、申し訳ありません。火急の用にて参りました」
火急の用?
兎も角聞かないと何も分からないか。
僕はシャリュにドアを開ける様に目で指示した。
シャリュがドアを開けると、レイモンドさんが入ってきた。
「それで火急の用とは?」
「はっ、先程十二氏族の使者と名乗る者が現れて、これを渡してきました」
レイモンドさんの手には羊皮紙があった。
どうやら、ティナの所に行くのに少し遅れるようだ。
リウイの下に手紙が届いた頃、ティナは。
「・・・・・・遅いな~」
ティナは噴水の所で、暇そうにしていた。
母親が見立てて選んだ服を着て、リウイを待つティナ。
時折、水に映る自分を見て、髪を弄る。
そして、リウイが来るのを今か今かと待っていた。
「むぅ、やっぱり一緒に行けば良かったかな」
最初はリウイと一緒に行こうかと思っていたのだが、久しぶりに二人で出掛けるのだから、待ち合わせにしたらと母親に言われたので、ティナもそれも良いかと思いそうした。
それでこんなに待たされるとは思いもしなかったティナ。
「もぅ、来たらこの都市で一番高い物を奢らせてやる」
そう決めたティナであった。