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閑話 とある姉の心配。

 遅い。

 全く、あいつは物を奪うだけだと言うのに、どれだけ時間をかけるつもりだ。

 もう一日経ったじゃないか。

 何が『物を奪っていくだけだから、余裕で終わらせくるぜ』だ。

 余裕どころか、どれだけ時間をかけてやっているんだ。あの馬鹿弟はっ。

 帰って来たら只じゃあ済まさないよ。くっくく。

 そう思っていると、手下があたしが居る丘の所まで来た。

「パイアの姐さん!」

「どうした。ベン?」

 舎弟の一人が息を切らせながら走ってくる所を見ると、何かあったようだ。

「か、かか」

「おい、息を整えろ。それぐらいは待ってやる」

 ベンは深く息を吸って、呼吸を整えた。

「か、カリュドーンの兄貴が手下を全員連れて戻ってきました⁉」

「やっと帰って来たかっ⁉」

 こんな遅くなるとは何をしていたのか問い詰める為に、あたいは駆けだした。

「何か、荷車引いて・・・・・・って、姐さん、もういねえええ⁉」

 ベンが何か言っているような気がするが、そんなのは後だ。

 今は馬鹿弟に一言言う方が先だ!

 そうして丘を下り、村に行くと、広場で馬鹿弟に部族の者達が集まっていた。

「カリュ~~~~ッ‼ そこに直れっ‼」

「げっ⁉ パイア姉貴っ」

 わたし走った速度を維持したまま駆けると、部族の者の肩を借りて飛んだ。

 そして、両足を伸ばした状態で弟の下に飛んで行く。

「な、なぁぼぎふがぢ⁉」

 飛び蹴りは弟の顔に直撃して、弟は吹っ飛んだ。

 転がり続け、ある家の壁にぶつかりようやく止まった。

 そして今だに倒れている弟に跨った。

「お前は! どれだけ! 皆を心配! させたと! 思うんだ! 言ってみろ!」

 馬乗りになりながら、弟の顔を殴りつける。

「ご、ごめん、あねき、でも、これには、じ、じじょうがあって」

「よし、その事情とやらは、わたしの拳で聞いてやる‼」

「い、いや、それは、ただのぼうりょ」

「五月蠅い‼ 心配させたのだから、これぐらい耐えろ!」

「り、りふじん」

「これも姉の義務だ。歯を食いしばれっ」

 あたいは弟を殴り続けた。


「ふぅ、いい汗を掻いた」

 額に浮かんだ汗を拭うあたい。

 はて? この馬鹿弟は何か言っていたような?

 聞こうと思ったが、今は顔をボコボコになっている上に全身が震えているから無理だな。

「うん? そう言えば、この荷車はどうした?」

 襲撃でそれなりの食料を持って行くのは分かるが、襲撃にいった奴らの中には空間魔法を使える奴が居る筈だ。

 襲撃して得られた者はそいつが持つ筈だけど?

「おい、この荷車はどうした?」

「へい。姐さん。これはですね。向こうの領主様が俺達の部族は大変そうだからと言って、食料を荷車に積んで貰ったんですわ」

「・・・・・・はぁっ⁉」

 意味が分からん。

 何で、襲撃して魔人族の領主があたし達に食料を分けるんだ。

「詳しく聞かせな」

「へい、実は」

 ・・・・・・。

 ふむふむ。成程な。

 襲撃に失敗して捕まって、領主の前に引き出されてそこで族長達と話をしたいから食料を分けてくれたか。

 うん。意味が分からん!

 何で、襲撃しに行って、向こうの領主があたい達に食料を分けるんだよっ。

 そこの時点で意味が分からん。

「まぁ、いい。それで、そのりうい? という奴は他に何を言ってたんだ?」

「へぇ。もし、襲撃を止めるなら自治権を与えるとか言っていました」

「自治権⁉ 正気か、そいつ?」

「あっしらには、ちょっと分かりませんね」

 弟と一緒に襲撃に行った奴らも困惑している。

「それで、向こうの領主はどんな奴なんだ?」

 自治権とか言うのだ、余程口が上手い齢を重ねた爺さんだろう。

「ええっと、十歳くらいの子供でしたね」

「子供?」

 十歳くらいの子供が領主?

 う~ん。訳が分からん。

 もういいや。後は親父に全部任せるか。

「あたいから親父に話をつけておくから、お前達は休みな」

「へい。了解です。姐さん」

「親父にも何か持って行った方が良いな。お前等、何を持って行けばいい?」

「でしたら、これとこれを」

 そう言って手下渡したのは、小さい革袋と水が入った大きな器を渡した。

 よく見ると、水が入った器の中には白い物体が入っていた。

「これは?」

「トウーフという食べ物です。向こうの領主が豆を加工して出来た物だそうで」

「豆を? ほぅ、これは」

 あたいは革袋の口を開けて手を入れると、中には白い粒のような物が入っていた。

「塩です」

「はい? 塩?」

 塩は海で出来るものだろう。何で内陸で出来るんだ?

 試しに舐めてみると、しょっぱい。

 だが、砂など入っていない純粋に塩しか入っていない。

「これを、向こうの領主はあたい達に渡したのか?」

「はい」

「・・・・・・・意味が分からん」

 これだけの良質の塩ならあたい達に渡さなくても一儲けできるだろうに。

 ああ、考えると頭が痛くなってきた。

 もういい。全部親父に任せる!

「じゃあ、これを親父に渡してくる」

「へい。じゃあ、あっしらは」

 あたいと話していた奴は、倒れている弟を見る。

「カリュ様の介抱を」

「ほっとけば、その内、起き上がって自分で治療すると思うが任せる」

 そう言って、あたいは親父に見せる物を持って、その場を離れた。

 親父の所に行って、持ってきた物を見せながら捕まった奴らが話していた事を話した。

 話しながら、あたいはトウーフを摘まんだが、美味しくてつい殆ど食べてしまった。

 親父は憎々しげにあたいを見ながら、塩とトウーフを味わう。

「むうっ、これだけの良質な塩を作るとはいったいどんな方法を使ったのだ?」

「分からねえ。でも、これだけの塩を作れるんだ。向こうも豊富な知識はあるようだ。上手くいけば」

「我ら十二氏族が生き残る道も見つかると?」

「ああ、そうだ」

 親父は考え込んだ。

「・・・・・・明後日は十二氏族の定例会議だ。その席でこの塩の件を話そう」

「頼むぜ。親父」

 それから、あたいは親父と少し話をして、気晴らしに狩りに出た。

 あの塩なら、焼いた魔獣の肉につけても美味いと思ったからだ。 

 








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