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閑話 カリュドーンの思惑

 俺こと十二氏族が一つ『イシメオン』族が族長エリュマントスが一子カリュドーンは今の状況に困惑していた。

 俺達が居る『オウエ』は先住民族の末裔である十二氏族が持っている領地だ。

 他の土地は侵略者である魔人族の領地になった。

 我らの先祖はそれこそ血で血を洗う戦いをしたが、今では完全に魔人族が優勢だ。

 今の我らが住んでいる土地も、魔人族達が慈悲で残っていると言える。

 そんな状況に十二氏族たちの族長達は受け入れていた。

 俺はどうにも受け入れられなかった。

 もし、受け入れれば先祖達の誇りを捨てる事になる。

 なので、俺は部族の若い者を率いて魔人族の村を襲撃した。

 今回の襲撃はいつもと違い、搾取する方法を取った。

 何故、こんな方法を取ったのかと言うと、去年は不作だったので、食料がいつ底をつくか分からない状況となった。

 なので、長期的に食料を得られる方法を取った。

 こうすれば、俺の部族は食料に困る事はないだろう。

 他の部族には悪いが、これも生き残るためだ。

 もし、この方法が上手くいけば、この方法を他の部族に教えても良いだろう。

 そう思い、俺は村を襲い、怪我人は出しても殺さないように部下達に厳命した。

 殺したらその分、搾取する分が減ると思ったからだ。

 村人は何人か怪我をさせたが、何とか村人達を一人も殺さず村の広場に集めた。

 俺は村長に毎月食料を渡せば、一年間は襲撃しないと取引を持ちかけた。

 とりあえず、今回はそう言う。

 従わなければ村人を全員殺して、食料だけ奪わせてもらおう。

 そう物思いにふけっていたので、気が付くのが遅れた。

 やたら目立つ女が屋根で叫んだ。

 その女に注意を注いでいた所為か、包囲された事に気付くのが遅れた。

 こう完全に包囲されて一点突破も出来ないだろう。

 仕方がなく降伏した。

 部隊を率いた責任を取って、もし俺が殺されても文句はない。

 俺が死んでも、次期族長は弟が継ぐだろう。

 せめて妹の花嫁姿は見たかったが、諦める事としよう。

 俺達は都市まで連れて行かれて、そして今この地の領主の前まで引き出された。

 正直、この領地に領主が着任したという話は聞いていなかった。

 だから、ここまで対応が早いのだろう。

 話を聞いた限りでは、俺達を捕まえたフェルとか言う女の弟がここの領主になったそうだ。

 どんな野郎なのかと思ったら、まだ子供と言える年齢だった。

 俺は十二氏族は最後の一人まで歯向かうだろうと言うと、ここの領主リウイと言ったか、そいつが話がしたいとか言ってきた。

「話だと?」

 ふん。どうせ、十二氏族全てを魔国に臣従しろとか言うつもりだろう。

 そんな話にのるつもりはない‼

「ふん。どうせ、臣従しろととでも言うつもりだろうが」

 俺がそう言うと、リウイは首を横に振った。

「別に無理に臣従しなくてもいいよ。そうするよりも半独立しても、問題ないし」

「はい?」

 半独立? 何だ、それ?

 意味が分からん。

「もし、僕の話に乗るなら自治権を与えてもいいよ」

「自治権⁉」

 こいつ、正気か?

 この大陸は殆ど魔国の領土だぞ。それなのに一地方とは言え、領地の一部を自治権を与えるとか、有り得ない。

 そう思っていると、メイドの一人が台車に何か乗せて持ってきた。

 白い粒に、皿に盛られた白い物体。

 何だ。これは?

「この白い粒が塩だよ」

 リウイは俺が気になっている物が何なのか言う。

 って、塩だと⁉

 塩とは海で採れる物だろう。それをどうやって?

「で、これが豆腐という食べ物なんだ」

 トウーフ? 変わった名前の食べ物だな。

 リウイはスプーンでそのトウーフとやらを掬う。

 ふむ。見た目に反して柔らかそうだな。

 そして、リウイは俺の所まで来た。

「口を開けてくれるかな?」

 こいつ、俺にそのトウーフとやらを食べさせるつもりか⁉

 毒見もしない物を食べるのは、少々勇気がいるが、俺もいずれは部族を率いる男だ!

 豪快に口を開けてそのトウーフとやらをを食べた。

「んぐ、んぐんぐ・・・・・・・甘い」

 初めて食べる食べ物だったが、こんなに甘いとは思わなかった。

 舌でつぶせるほど柔らかいのに、こんなに甘いとは。

 しかも、これは豆の味がする。

 だが、どれほど舌を動かしても豆の皮も身は出てこない。

「この豆腐はね、豆を使って出来た食べ物なんだ」

「なんだと⁉」

 豆で出来た食べ物だと⁉

 我が部族の食糧庫には豆はある。

 だが、所詮は煮て塩で味をつけて食べるくらいしかいない。

 しかし、このトウーフは豆で出来た食べ物というのなら、豆を加工すれば沢山出来るという事か。

 上手くいけば、部族の食料問題を解決できるかもしれない。

 だが、このリウイは教えてくれるだろうか?

「教えてもいいけど、条件がある」

「何だ⁉」

 金か? それとも女か? あるいは臣従か?

 むぅ、一度領地に戻って親父殿と相談せねば。

「十二氏族の全ての族長と話しがしたいんだけど、出来るかな?」

 なにっ⁉ 十二氏族全ての族長と話しがしたいだと!

 それだけで、このトウーフと作り方教えてくれるのか。

 むぅ、親父殿の伝手を使えば出来るが、もう一声欲しいな。

「更に、この塩の製法も教えるけど」

「・・・・・その塩を良く見せてくれ」

 俺がそう言うと、リウイは塩が入った袋を持ってきた。

「誰か、この者の縄を切れ」

「領主様、それは⁉」

「抵抗した所で逃げる事も出来ないから、大丈夫だ」

 ふむ。意外に肝が据わっているようだ。

 しかし、部下達は躊躇していた。

 仕方がなく、フェルと言う女が俺の縄を切った。

 ふぅ、自由になると俺は身体を伸ばした。

 そして、リウイが袋を俺に直接渡した。

 俺はその袋を開けて、手を入れた。

 ううむ。今まで触った事もないサラサラ感だ。更に白い。

 俺達が作る方法が駄目なのか、工程が間違っているのかどうも砂が混じってしまう。

 だが、この塩は砂など入っていない。完全に塩だった。

 試しに少し手に取り舐めてみると、こちらの塩の方が味が段違いに美味かった。

「十二氏族の族長たちに話を持ちかけてくれるなら、この塩の作り方と豆腐の作り方を教えるよ」

 親父殿の伝手を使えば出来るだろう。正直、俺達には破格の条件だ。しかし。

「・・・・・・お前、何を考えている?」

 そこが分からなかった。

 だから、そこの所を聞いて、初めてこの話を受けるかどうか考える事にする。

「いい加減に襲撃されなくて、かつお互いに良い関係でいたいから」

「それだけか?」

「それもあるし、後は」

 リウイは俺の目を覗き込む。

「そっちの領地だと不作で食糧問題があるんだろう? だから、一緒に食糧問題を解決してあげるから、僕達と仲良くしない?」

 リウイは笑顔で言った。

 俺は驚愕した。食糧問題については誰も話していないのに、どうして分かったのだ⁉

「・・・・・・何故、不作だと分かった」

「今までの襲撃は、村を襲って食料を奪っていたけど、今回の襲撃は搾取する方法を取ったからピンと来たんだ。領地に食料で問題が起こったなって」

 凄いとしか言えなかった。

 こいつ、只者ではない。

「だが、我ら十二氏族にも誇りがある。魔国の連中にほいほい話など」

 そうは言うが、この破格の条件で話を蹴るのはかなり惜しい。

 なので、これは建前だ。

「誇りね。部族が全滅したら、誇りも何もないと思うが」

 むうっ、正論だ。

 部族があるからこそ、誇りもある。

 このまま話をしても意味はない。

 仕方がない。ここはリウイの話に乗るとしよう。

「・・・・・・話は分かった。だが、十二氏族の族長達と話す場は我らが決めさせてもらおう」

 これくらいは妥協してもらおう。

 このままペースを引っ張られるのも、癪だからな。

「良いだろう。だが、このまま解放してもそちらの領地に付くのは、夜遅くになるだろう。今夜は泊まって行くが良い」

「分かった」

「よし、誰かある」

「はっ。何でしょうか」

「この者達が寝泊り出来る所を至急用意しろ」

「り、領主様、この者達は捕虜なのですぞ。それなのに、部屋などと」

「いいから、部屋を用意しろ」

「・・・・・・・畏まりました」

 部下が一礼して、その場を離れた。

 ふむ。まさか、こうなるとはな。

 捕まった時は予想すらできなかったぜ。

「カリュドーンだったな、よければで良いが、部屋の準備ができるまで、十二氏族について話を聞かせてくれるか?」

「俺が知っている限りだったでいいか?」

「結構」

「なら、話そう」

 それぐらい話しても大丈夫だろう。

 俺はリウイの部下が、部屋の用意が出来るまで話しをした。

 







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