第40話 これはゴーレムじゃない。ロボットだ!
レイモンドさんの案内で、僕達は領主の館を出て都市の一角に来た。
そこに件のアイアンゴーレムが居るそうだ。
僕は〝居る〟と聞いた時点で、それがゴーレムなのかどうか怪しく思えた。
魔国ではゴーレムは物扱いなので、どちらかと言うと〝居る〟ではなく〝有る〟と言うのが普通だ。
なので、僕はこう思う。もしかして、意思を持っているのではと。
あれかな、魔王が勇者と魔族と人間と共存をする為に頑張る話に出て来る機械族みたいな人達なのだろうか。
それとも、動物やら車とかに変形出来る金属生命体みたいな存在だろうか。
流石に変形とかは出来ないだろうが、巨人くらいはあるのかな。
「ねぇ、そのアイアンゴーレムは何処にあるの?」
フェル姉は気が逸っているのか、少しピリピリしていた。
レイモンドさんもそれが分かっているのか、少し身体を震わせている。
「も、もう少しで着きますから」
レイモンドさんの声に怯えが混じっている。
「フェル姉、少しは落ち着こうよ」
案内してくれる人に噛みつく事はないだろうと思い、フェル姉を宥める。
「でも、こうしている間にも、村は襲われているのよ。早くしないと」
フェル姉、結構長く一緒に暮らしていたけど知らなかった。傷ついた人達を見逃せない性格だったなんて。
「わたしがイザドラ姉さんに怒られるじゃない!」
僕の感動を返せ‼
そう思っていると、ようやく、レイモンドさんの足が止まった。
「ここにアイアンゴーレム達が居ります」
案内されたのは畑だった。
明らかに人為的に掘り起こされたと思われる所が延々とあった。
都市内にしては結構な広さだ。
あれだな。東京ドームくらいは有りそうだ。
畑に居る時点で、もう意思を持っているのは分かった。
問題はどれくらいの大きさなのだろうか。
「おお、丁度良い所におりますな。お~い!」
レイモンドさんが手を振りながら大きな声を出す。
僕達はその声を掛けた方向に目を向ける。
すると、そこには鍬を持って地面を耕している物体があった。
距離があっても、問題ないくらい分かる大きさだ。
三、いや五メートルくらいは有りそうだ。
無骨な鎧を纏った人型だ。
パッと見では巨人に無骨な白い鎧を着せたような外見だ。
それが、鍬を持って畑を耕すとかシュール過ぎる。
レイモンドさんの声が聞こえたのか、畑を耕していた物体の一機が作業の手を止めた。
そして、僕達の所に来る。
物体が歩く度に、地面が微かに揺れる。
僕達から約十歩ぐらい離れた所で停まった。
それにより姿が良く分かった。
目の部分はゴーグルみたいになっていた。
手足の部分は人間と同じだ。
身体は鎧を纏っているようだ。
鎧が無い部分は黒いゴムのような柔軟性がある素材が使われていた。
「何カ用カ? レイモンド」
所々、カタコトだったけど言葉を話した。
「ご、ゴーレムが喋った⁉」
フェル姉は驚きのあまり、目を見開き口をポカンと開けていた。
「ご紹介がおくれました。この者はケンプファゼーリエ・トゥープアーヌルと申します」
「けんぷふぁぜーりえ? あーぬる?」
フェル姉は意味が分からないとばかりに首を傾げる。
ケンプファって確かドイツ語で戦士だったよな。だとしたらトゥープはTYPEの意味だろう。
じゃあ、アーはドイツ語のAだな、ヌルも0だな。
「今日の内に紹介しようと思ったのだが、事情が変わってな今紹介する」
レイモンドさんは僕が良く見える様に身体を動かした。
「こちらにおられる御方はこの度新しく領主となったリウイ様だ。今後とも失礼のない様に接する様に」
「領主? ツマリハレーンスへリカ」
「そのれーへんすへり? というのは分からないが、ともかく粗相がないように接しろ」
「了解シタ」
そう言って、ケンプファ長いのでアーヌルでいいや。そのアーヌルが騎士が王に拝跪するかのように、僕に跪いた。
「アイゼンブルート族ケンプファゼーリエガ一機、トゥープアーヌル。御身ニ忠誠ヲ」
アイゼンブルートは確か鉄血だったけ。何故にドイツ語? と思うが、ここはこのアーヌルに応えよう。ドイツ語だし、ドイツ語で言った方が良いのかな?
「えっと、・・・・・・モーガイ? だったけ」
確か、ドイツ語の大義はこんな意味だったと思う。
僕がそう言うと、アーヌルの目が光った。
「音声認識確認。コレヨリ、我ラ第七独立大隊ハマインヘルノ命令ニ従イマス」
「じゃあ、早速で悪いのだけど」
「何ナリト、マインヘル」
「近くに村に襲撃されているようだから、この都市の防衛についてくれるかな」
「ヤー」
アーヌルはそう言った。
「ちょっと、ウ~ちゃんが頼んでいるのに、やーとは何よ、やーとは、こんな無骨な見た目でいやーを可愛く言っても、可愛くもなんとも思わないわよっ」
フェル姉が怒り出した。
そうだよな。意味が分からない人からしたら、そう聞こえるよな。
アーヌルも無表情だけど、言って何か変だったのかという空気を出している。
「フェル姉、多分だけど、アーヌル達の種族の言葉でヤーは了解という意味なんだと思うよ」
「はい? そんなわけ」
「ソノ通リデス」
アーヌルがそう言うので、フェル姉はえっという顔をした。
「じゃあ、後はレイモンドの指示に従ってね」
「ヤー」
「フェル姉、そろそろ領主の館に戻ろう。そろそろフェル姉の部隊の準備も整ったと思うから」
「そうね。行きましょう。ウ~ちゃん」
僕達はレイモンドを置いて、領主の館に戻った。
これが僕とアーヌルとの最初の出会いだった。
後にアーヌルの種族全てが、僕の麾下に入る二つの軍団の内一つ『鉄血機甲五色備え』となる。