第37話 お金になる特産品を見つけた。
今日はとりあえず、ろ過した水を全て、塩にして持って帰ろう。
塩が出来ると分かれば、商売も出来る。
「じゃあ、釜の中に入っている水をある程度煮詰めて、色が変わったら火を止めて、その水を持って帰るようにして」
「分かったわ。訊いたわね? 言われた通りにしなさい」
「はっ」
部下の人は釜を時折混ぜながら、水を煮詰めていく。
しかし、まさかここが塩湖だったとはな。これだけ広いのだから、かなりの量の塩が出来る筈だ。
更に、確証がないので断言は出来ないが、このまま塩水を煮詰めていけば、色が琥珀色になる筈だ。それはにがりだ。
前世でもこの世界では大豆に煮た豆は見つけた事がある。
流石に味噌と醤油は作る事が出来なかった。だって、その菌が何処にあるのか分からなかったから。
豆腐も僕の領地は海に遠かったのと、海水を運ぶ手間とコストが掛かり過ぎるので断念した。
しかしだ。このままこの水を煮詰めていけば、にがりが出来るかもしれない。
後は、この地方で採れる適当な豆を昔、ユエの家の料理人から習った豆腐の作り方通りに作れば、多分、豆腐は出来るだろう。
ありがとうっ。流石に名前は忘れたけど、ユエの家の料理人さん!
教えてくれた事を忠実に行って、豆腐を作ります。
「あ、あの・・・・・・」
そう考えていると、僕に声を掛けてくる人がいる。
誰だろうと振り返ると、そこには道案内をしてくた住民の人だった。
「り、領主さま。ほ、ほんとうに、何ともないのですか?」
「今の所、何ともない」
「先程の話を聞いていますと、ここの水は塩になると考えた方が良いのですか?」
「その通りだ」
住民の人は呆然として、湖を見た。
まぁ、今まで呪いの湖と言われていた所が、塩になると聞けば呆然とするのも仕方がない。
人が生きる為に、塩は一番重要だ。料理の味付けに必ず使われるし、古代ローマでは塩は給料になったほどだ。塩はラテン語でサラリウムと読む。このサラリウムがサラリーマンの語源になってたと何かの本で読んだ。
「ウ~ちゃん。言われた通りに出来たわよ」
住民の人に何て言おうか考えていると、フェル姉が声を掛けてきた。
僕はそっちに顔を向けると、大釜の中には琥珀色の液体があり、傍には布に上に塩が結構な量が置かれていた。
「でも、ウ~ちゃん。この塩は水っぽいけど良いの?」
「本当は自然乾燥させた方がいいのだけど、そろそろここを発たないと『カオンジ』に戻れないから、絞ってある程度、水気を取ったら箱か何か入れよう」
「分かったわ。ところで、この水も持って行くの?」
フェル姉は大釜の中に入っている水を指差した。
「うん。ちょっと試したい事もあるから」
「試したい事ね。・・・・・・まぁ、いいわ」
フェル姉はそう言って、部下にこの大釜の中の水を運ぶように指示した。
僕達は帰る準備をしていると、茂みからガサガサと音が聞こえた。
その音を聞いて、フェル姉とその部下達、後母さんが戦闘態勢を取る。
ティナは僕の前に出て、僕を守る体勢とる。僕の傍には住民の人がいるので、戦う事になったら、守るか、もしくは一人で逃げてもらう事にしよう。
やがて、茂みの揺れが大きくなってきた。
そろそろ誰か来るなと思い、身構えていると、茂みから出て来たのは子熊だった。
子熊が出て来たので、皆気が抜けた。
「何だ。子熊か」
僕はティナを退けて、その子熊に近付いた。
子熊は僕を見ると、警戒する事なく近付いた。
僕は子熊の頭を撫でると、子熊は気持ちよさそうに鳴いた。
「キュ~」
一頻り撫でると、僕は離れた。
「じゃあ、帰ろうか」
「あら? てっきり家に連れて帰るとか言うと思っていたわ」
「流石にそれは無理かな」
こんな所で、子熊一匹いるとは思えない。近くに親熊が居る筈だ。
流石に親と子を離れ離れにさせるのは、心が痛む。
なので、ここは何もしないのがよい。
「そう。じゃあ、行くわよ」
「うん」
僕は馬の魔獣に跨った。
後ろを見ると、子熊が僕を見ていた。
「ばいばい」
僕は手を振って、子熊に別れを告げた。
そして、僕達は『カオンジ』へと帰還した。