第36話 転生しても知識は役に立つ
山岳都市と言える『カオンジ』に着いたその日の夜。僕達は歓迎の宴を招かれて、そこでその領地の郷土料理を味わいながら、眠りについた。
翌日。
起きた僕は直ぐに支度を整えた。
「よし、こんなものか」
姿見で自分が着ている格好に違和感がない事を確認する。
「リウイ様の背丈に合わせた物をご用意しましたが、大丈夫ですか?」
ここの領地で作られている生地で作られた服を着ている。
流石にこの領地に来るまで着ていた服では目立つので、この領地で作られている服を着る事にした。
この格好なら、万が一、十二氏族の兵士達に見つかっても僕が魔国の王子だと思われないだろう。
「問題ないよ。ソフィー。後は任せたよ」
「はい。お帰りなる頃には、この領地の収益、特産品、土壌などを調べておきます」
「頼むよ」
収益は勿論だが、特産品があればそれを使って商売できるし、この領地の土壌を調べれば、どんな作物を植えれば育つか分かるので、重要だ。
そこら辺はソフィーに任せて、僕達は『清海』に向かう。
僕は部屋を出て、庭へと向かう。
そこで僕と一緒に『清海』に向かう人達が待っている。
僕が庭に向かうと、待っていたのは母さん、フェル姉、フェル姉の部下と思われる人達二十名、ティナ、アリアン、道案内として付いて来てもらう地元の住民、最後に何故かメルビ―ナ先生。
このメンバーで『清海』に行くのだ。
見送りに来てくれたのか、レイモンドさんも居た。
「どうか、御無事でお戻りください」
「勿論だ。なるべく、早く帰って来るつもりだ」
「はっ、お帰りをお待ちしております」
レイモンドさんは頭を下げた。
僕は頷くと、ティナが馬の魔獣の手綱を持って、こっちに来た。
その馬の魔獣に跨ると、周りを見た。
「では、これより『清海』に向かう。各自、装備の点検だけは怠らないようにっ」
僕はそう宣言すると、皆馬の魔獣に騎乗した。
アリアンも馬の魔獣に騎乗するのを見て、良いのかなと思った。
今は人間の姿をしているが、アリアンは魔獣だ。だったら、元の姿に戻っても良いのではと思うが、本人が戻るつもりはないのだから、魔獣に乗っているのだろう。
なので、好きにさせる。
総員、騎乗したのでフェル姉と部下の人達十名と住民を先頭にして、その後をアリアン、ティナ、メルビ―ナ先生、僕、最後尾は残ったフェル姉の部下達と母さんという順番で進んだ。
『カオンジ』を出た僕達は、半日ほど北に駆けると、目的の『清海』に着いた。
湖に見ると、本当に綺麗な湖だ。
近くに寄って見ても、本当に透明な青色の湖だった。
陸地に近い所は水底まで見えていた。
それだけ透明なお蔭か、魚が一匹も泳いでいないのが分かる。
「結構広いな、この湖。どれだけ広いのだろう」
「わたし共も分かりません。北部の地図でもあれば詳細に分かるかも知れませんが、正直、この湖がどれだけの広さか見当もつきません」
「深さも同じかな?」
僕がそう訊くと、案内役の住民の人が頷いた。
ふむ。この湖は呪われた湖と言われているのは、魚が一匹も居ない事もあるのだろうな。
「それで、本当にこの湖の水を飲んだ人は死んだの?」
「はい。数日苦しんだ後に亡くなりました」
「亡くなる時は、どんな状態でした」
「はい。身体の不調を訴え、更に寒気、吐き気、異常な高熱、下痢などでした。最後にはミイラの様に体中の水分が無くなった様な顔になっていました」
ふむ。コレラに似ているな。
この湖にはコレラ菌が居ると考えた方が良いのかな。
まぁ、だったら、対処のしようはある。
「フェル姉。頼んだ物はある?」
「ええ、持ってきたわよ」
フェル姉は手で合図した。
すると、部下の人達は、布と木炭と大きい漏斗を持って来てくれた。
木炭があったのは良かった。後は。
「後、砂と石を持ってきて小さいので良いから」
「砂と石? それで何をするの?」
「集めたら見せるから」
僕がそう言うと、フェル姉は部下達に指示をした。
やがて、部下の人達は小石と砂を大量に持ってきた。
「ウ~ちゃん。持ってきたわよ」
「ありがとう、じゃあ持ってきた漏斗に小石、砂、木炭、布の順で居れてくれる」
「? 分かったわ」
フェル姉は何をするのあか分からない顔をしながら、言われた通りに漏斗に物を敷き詰めて行く。
「じゃあ、そこの湖の水を入れてくれる。ああ、筒の下には瓶を置いてね」
「愚息よ。話を聞いていたのか、この湖の水は」
「大丈夫、こうすれば水の微生物、じゃなかった。悪い成分はろ過出来るから」
「ろ過? 何だ、それは?」
「簡単に言えば、これで湖の水を飲めるようにする方法だよ」
「・・・・・・本当か?」
「うん。本で読んだから大丈夫」
前世で呼んだ本だけど大丈夫だろう。
「ふむ。まぁ、間違っていても、何とかなるか」
母さん。その言い方だと、僕が嘘を言っているみたいに聞こえるから止めて。
「よし、フェル。その方法で行え」
「はぁい。分かりました」
フェル姉は部下に湖の水を汲んできてもらった。
その様子を、案内してくれた住民の人は怯えながら見ている。
死人が出ているのだから、この湖は呪われていると頭っから信じているのだろう。
そして、部下の人達が汲んできた水が漏斗に流された。
まず水は布に沁み込み、そして木炭の中を通って行き、砂は水を吸収して、最後に小石の中を進んで筒の下にある瓶の中に流れていく。
「最後に、このろ過した水を大釜の中に入れて沸騰させて終わり」
「沸騰させるのは、何故だ?」
「ろ過しきれていない悪い成分を完全に消すためにする作業だよ」
「そうか」
「ふ~ん。じゃあ、誰か~、釜の中にこの水を入れて沸騰させて」
「はっ」
フェル姉が指示すると、部下の人達が釜にろ過した水を入れて、火を点けて沸かす。
僕は沸騰するまで時間が掛かるだろうと思いどうしようかと思っていると、ふと、アリアンが『清海』をジッと見ている事に気付いた。
「アリアン。何かあった?」
気になって声を掛けると、アリアンは僕の方を見た。
「マスター、いえ、知り合いの気配がしたので探っていました」
「知り合い?」
ここ湖だよな。だとしたら、この湖に住んでいる魔獣かな。
「どんな知り合いなの?」
「一言で言えば、巨体に似合わず温厚な性格をした者です。わたしの知り合いのなかでも一番温厚ですね」
「へぇ~ところで、それって」
「ウ~ちゃ~~~ん‼」
僕はアリアンの知り合いはどんな人なのか訊こうとしたら、フェル姉が大きな声で僕を呼んだ。
何だろうか? 沸騰して冷ましたら普通に飲める筈だけど。
僕はフェル姉の下に行く。
「どうかしたの?」
「これ見て」
フェル姉は釜を指差した。
何かあるのかと思い、僕は釜の中を覗き込んだ。
沸々と沸き立つ水の中に白い結晶のような物が出来ていた。
「水を沸騰させていたら、何時の間にか出来たけど、これ、何か分かる?」
「・・・・・・誰か、お玉ないかな? 出来れば、穴が空いている奴」
「う~ん。流石に穴が空ているのはないけど、お玉はあるわ」
フェル姉は部下にお玉を持って来させた。
僕はお玉を貰うと、その白い結晶水ごと掬った。
水を捨てて、白い結晶だけお玉の中に入れたままにした。
「これは、もしかして・・・・・・」
僕はその白い結晶を舐めた。
白い結晶は口の中に入ると、直ぐにしょっぱい味が口の中に広がった。
「これは、塩だ」
「塩? でも、塩って、海か山に行かないと取れない筈よ。どうして、湖の水を沸かしたら、塩が出来るの?」
「確かに、海の水を沸かせば塩になるし、山に行けば岩塩もあるけど、塩湖と言われる塩水の湖もあるんだ」
「塩湖。じゃあ、この湖はの水を沸かしたら」
「塩になるね」
それを聞いて、皆騒然とした。
まさか、この湖は塩湖だったとは思いもしなかった。
これは特産品になるな。