第35話 話を聞いて思った。
まぁ、北部に関しては、これぐらいにしておこう。
他に情報らしい情報もないようだし、襲撃を掛ける四種族の兵士を捕まえて教えてもらうという手段もあるから。今はそれほど重要ではないだろう。
それよりも今は、この領地にあるものについてだ。
「最後に聞きたい」
「何でしょうか?」
「この領地に北部と南部の丁度真ん中にある湖、こちらでは『清海』と言われる所について聞きたい」
僕はそう訊くと、レイモンドさんは明らかに困った顔をしていた。
そんなに嫌な所なのか?
「『清海』は殿下が行く所ではないと思われます。あそこは魚が一匹もいない湖ですよ。それに」
「その水を飲めば、数日後に死ぬという呪われた水なんだろう?」
「っ⁉ ご存知でしたか。でしたら」
「でも、領主になたのだからどんな所なのか見ておく必要がある」
「しかしっ」
レイモンドさんは更に言い募ろうとしたが、僕は手で制した。
「明日。その湖に視察に行く。道案内の者だけ用意してくれ」
「っ、かしこまりました」
「今日はもう用はないので、下がってよろしい」
「承知しました」
レイモンドさんが一礼して、部屋か出て行く。
他の官僚達もその後に付いて行く。
部屋には、僕とソフィー以外誰もいない。
「・・・・・・部屋の外に人は?」
「おりません」
「そうか~」
僕はようやく安堵の息を吐いて、背もたれにもたれる。
先程まで、いつもと違う態度で人に接していたので、精神的に疲れた。
いくら転生して精神年齢が三十代くらいとは言え、疲れるものは疲れる。
まして、一度も話した事がないのだから余計に気を使う。
「リウイ様。わたししか居ないとはいえ、気を抜き過ぎですよ」
「ああ、うん。ごめん」
僕は背筋を伸ばして、ピシッとした。
その様子を見て、ソフィーはクスと笑う。
「ふっふふ、本当に面白い方ですね」
「? 何が?」
「いえ、普通であれば、適当な返事をするものなのに、真面目に対応するなんて面白いですよ」
「そうかな?」
ちょっと、僕には分からないな。
そう思っていると、ソフィーが僕を抱き締めた。
「ふっふふ、自分の事に無頓着なのは昔とちっとも変りませんね」
「そんな事しらないよ。というか、何で、抱き締めるの?」
「なんとなくです」
ソフィーは微笑みながら抱き締める腕に力を込める。
その分、デカい胸が僕の顔に押し付けられる。
マシュマロのように柔らかいので気持ち良いと思った。
そのまま、抱き締められていると。
「リウイ~、部屋の準備は整ったから、部屋にもどって・・・・・・いいわよ?」
ティナはノックもなしに部屋に入って来て、僕達の現状を見て言葉を無くしていた。
僕も何と言えばいいのか分からず困惑していた。
「な、なななっ・・・・・・・・・」
「ティナ。いつも言っているでしょう。部屋に入る時は、ノックをしてから入りなさいと」
ソフィーはそう言いながら、僕を抱き締めるのを止めない。
「な、なにしてるのっ⁉」
「い、いやぁ、これはその」
「ふっふふ、ティナも一緒に抱き付く?」
ソフィーは微笑みながらティナ訊く。
「し、しないわよっ。それよりも、早くリウイも離れなさいよっ‼」
ティナはソフィーの反対側に来て、僕を引っ張った。
「いた、いたたたっ、ティナ、流石にいたいよっ」
「いいから、はなれろっ」
ティナは僕を引っ張るのを止めてくれなかった。
結局、ソフィーがティナごと僕を抱き締めて、一悶着は終わった。
何でティナがあんなにソフィーと僕を引きはがそうとしたのか分からないけど、僕の『オウエ』に着いて初めての一日はこうして終わった。