第34話 この領地の現状を知る。
「はぁ~、疲れたっ」
まさか、領主としての仕事をする前にここまで疲れるとは思わなかった。
「お疲れ様。ウ~ちゃん」
フェル姉が笑顔で僕を労う。
「・・・・・・」
こんなに疲れたのは、フェル姉の所為だよ。
と目で言う。
「そんなに怖い顔をしないで、ちょっと揶揄っただけじゃない」
フェル姉はそう言って、微笑みながら僕の頬を突っつく。
「あれは、ちょっとじゃないから」
「そうかしら?」
別にいつも通りじゃないという顔をするフェル姉。
そう言われたら、そうだけど。でも、場所を選んでほしかった。
あの後、レイモンドさん達に事情を説明しても、信じてもらえなかったのでアリアンに変化を解いてもらい、ようやく信じてくれた。
今は馬車に乗って、領主の館に向かっている。
もう、アリアンが魔獣だと分かったのに乗らないのはに訳があった。
変化したアリアンを見なれている所為か、魔獣に戻ったアリアンを跨ろうとしたら、変化したアリアンの背中に乗っているイメージが頭から抜けない。
何かのプレイに思えてしまい乗れないのだ。
「そもそも、普段から人の姿で歩き回せているから、人だと勘違いされるのだぞ」
「うっ、そこら辺はアリアンの好きにさせているからな。というか、母さん、僕は一度、紹介したようね?」
「・・・・・・・・あったか?」
「前にしました!」
「・・・・・・・そんな昔の事は忘れたな」
「やっぱり、忘れたんだ!」
「愚息よ。人は昔の事よりも、今を生きるものだと思わないか」
「良い事を言っている風に見せて、誤魔化している‼」
流石に僕は一言物申したが、母さんは軽く流した。
僕は不満に思うが、フェル姉が頭を撫でて僕を宥める。
そんな事をしていたら、領主の館に着いた。
館に着くとフェル姉は麾下の軍団を何処に置くか相談する為にレイモンドさんと軽く話した。レイモンドさんが指示したようで、フェル姉は頷き軍団に指示して自分も付いて行った。母さんは館に着くなり「少し、出る」と言って何処かに行った。僕は持ってきた荷物を置くために、まずは領主の私室に向かった。
部屋に入ると、貧しい領地の割に結構金が掛かった部屋であった。
白い漆喰を塗られた部屋。
実用性重視だが、綺麗な装飾がある家具。
魔石が灯りになる魔石灯。
壁にも壁画とか置かれていた。
「結構、立派な部屋じゃないか」
「そうですね。ですが」
シャリュが窓辺に近付くと、枠に指を乗せて横に動かした。
そして、指を見ると埃が着いていた。
「普段から掃除していた訳ではないようですね。恐らく、昔の領主が金を掛けて作った部屋をそのままにしていて、リウイ様が来ると言うので慌てて掃除をしたのでしょう」
そう言えば、僕を出迎えに来たレイモンドさんは執政官だったからな。この部屋を使う事はないのだろう。というか、シャリュが何か小姑みたいな事をするのは、ちょっと驚く。
「まぁ、荷物を置きに来ただけだから、後はティナと部屋の整理をしてね」
「承知しました」
シャリュの言葉を背で聞きながら、私室を出た僕は執務室に向かう。
僕が執務室に着くと、レイモンドさんを含めたこの領地の官僚のような人達が揃っていた。
「待たせた」
「いえ、それほど待ってはいませんので。お気遣いなく」
レイモンドは頭を下げる。
執務に使う椅子をソフィーが引いてくれたので、僕はその椅子に腰を落とした。
軽く動いただけなのに、胸が揺れるので男性の官僚達は思わず目を奪われていた。
そんな男達にレイモンドは咳払いを、気を取り直させる。
「さて、ここについて、教えて貰えるかな。レイモンド」
領主なのだから、執政官に上から目線の言い方で良いと前もってソフィーに言われているので、僕は出来るだけ偉そうな態度を取る。
「はっ、ではこの地域を地図を見ながら説明いたします」
レイモンドさんは手で指示すると、官僚の人が机の上に地図を置いた。
ふむ。地図を見て思ったけど、ここの領地は滋賀県に似ているな。
領地の中央に大きな湖があるからかな。
前世の記憶の違いは、北部は福井県ぐらいあるな。
「我らがいる『カオンジ』です」
ふむ。結構南部にあるな。
「見て分かる通りこの『カオンジ』は山岳都市と言える場所です。そして近くにも山は近くにありますが、近場の山はほぼ廃坑になっています。後は湖の近くにも山はあるのですが、そこを開発しようとしますと・・・」
「北部にいる十二氏族が襲撃してくると?」
「はい。その通りです」
「北部については、どれくらい情報がある?」
「十二氏族がどのような種族という情報しかありません。何があるか、まったく」
「そうか。じゃあ、十二氏族について教えてくれ」
「はい。まずは、南部によく襲撃してくる四氏族についてご説明いたします。襲撃の頻度から湖近くで暮らしていると推測しております。氏族名は『シルベン』族と『イシメオン』族と『レバニー』族と『ホーユス』族です」
「その四つの氏族はどんな氏族なんだ?」
「はい。まずは『シルベン』族から説明いたします。この十二氏族全てに言える事ですが、彼らは混血の種族です。
「混血か。成程ね」
混血とは、両親が別々の種族で出来た子供の事を言う。
先程あげた『シルベン』族みたいに、両親の種族の特性を継ぐ子もいれば、どちらかの種族の子として産まれる場合もある。
どちらにしろ。そうやって、生まれた子はかなり強い。
最も、そうやって生まれた子供は『穢れた子』と言われて迫害されていたそうだ。
その迫害から逃れて、秘境で暮らしていると言われていた。
まさか、この大陸で暮らしていたとわね。
「はい。その通りです。『シルベン』族は狼の獣人と天人族との間に出来た氏族です。その特性を生かして、上空からの襲撃と嗅覚の良さを活かした斥候などを得意としています」
話を聞いた限りだと、羽が生えた人狼と考えた方が良いのかな?
襲撃を仕掛けるという事は、武闘派集団と取れるな。
「次に『イシメオン』族は猪の獣人と魔人族との間に出来た氏族です」
「魔人族なのに、どうして十二氏族に入っているんだ?」
「この大陸にも魔人族にはいたようです。臣従した先住民族の話を聞くと、どうやら魔人族の血を引いた混血だったと思われます」
「成程」
「この『イシメオン』族は優れた嗅覚にくわえ、見かけによらない剛力で知られています。その上、気性も荒いので、襲撃を掛ける四つ氏族の中で一番襲撃回数が多いです」」
「そうか、気性が荒いね」
「次に『レバニー』族です。彼の氏族は兎耳の獣人族です」
「この種族は別に混血というわけではないのか?」
「はい。確認されている限りでは獣人族は魔法はそれほど得意と言う訳ではないのですが、この種族はかなり使えます。更に獣人族としての身体能力もあります」
魔法を自在に使えて、凄い身体能力か。
「次に『ホーユス』族です。この種族は馬の種族所謂、ケンタウロスが各種族の特徴を持っている氏族です」
「各種族というと、竜人、鬼人、天人、魔人、亜人、人間の特徴を持っているという事か?」
「はい。ですが。亜人族の特徴は受けておらず、獣人の特徴を持っています」
「と言うと?」
「簡単に言えば、下半身が馬で上半身が鬼の顔をしている者も居れば、龍の顔をした者も居ます」
つまり、羽が生えたケンタウロスや蝙蝠の羽が生えたケンタウロスも居ると言う事か。
何というか、珍獣としか言えないな。
「『ホーユス』族は下半身が馬なので、足が速いです。それぞれの種族の特徴を持っています」
「それはつまり、龍の顔をしているのは火が噴けたり、羽が生えているのは空を飛べるという事か?」
「その通りです」
「ふむ、凄い種族のようだな」
他の十二氏族はどんな種族なんだ?
今迄、訊いた種族だとどうやら混血で出来た種族のようだけど。次の氏族そうだと考えた方がいいかな。
「他の十二氏族はどんなのだ?」
「はっ、『バダン』『ネフタリ』『モンガド』『カッサカル』『タシエル』『タゼブル』『ジャミニン』『ゴーゼフ』です。
「それぞれの種族の特徴は?」
「申し訳ございません。今あげた氏族の特徴は分かりません。北部の奥地に居るようなので、見た事もありません」
「そうか。じゃあ、仕方がないな」
目下の問題はその四氏族をどうにかしないといけないのか。
さて、どうしたものかな。




