閑話 母親の日記
〇月〇日。
愚息ことリウイと一緒に魔都を出て、数日を経てようやく『オウエ』に到着した。
まだ領内に入ったばかりなので、今だ十二氏族の者達とは会敵してはいない。
てっきり、領内に入った瞬間。襲い掛かって来ると思っていたので少々期待外れであった。
まぁ、その分。都市に行けば、存分に暴れられるだろう。今から楽しみだ。くっくく。
それにしても、最初は愚息がここに来たいと言った時には、思わず耳を疑った。
あいつの乳母からその話を聞いた時は、頭が痛くなりそうであった。
その内、修業で行かせるつもりだったが、今はまだ早い。
強力な魔獣と契約したとはいえ、今だ一般の兵士よりも頭一つ分出ているぐらいの強さしかない。
なので、わたしは謁見の間に行き、愚息の考えを反意させようとした。
しかし出来なかった。
愚息め。わたしが密かに集めている可愛い服コレクションの事を何処で知ったのだ!
この事を知っているのは、イザドラの母親しかいないのだぞ。
イザドラの母親とは親しくしているので、どんな性格かは良く知っている。
娘とは違い、見た目も性格もおっとりとした女性なのだが、口は堅い。
なので、その線から漏れる事はないと断言できた。
では、何処から漏れたのだ?
分からないが、愚息に問い詰めても口は割らないだろう。
この歳の子供にしては、頑固な所がある。少し脅したぐらいでは話さないだろう。
仕方がなく、わたしは妥協点として一緒に付いて行く事にした。
全く、この強かさは誰に似たのやら。
わたしではないので、旦那か?
あいつ意外と強かな所があるからな。
最初あった時も、身分を隠してわたしを護衛として雇い、色々な所に連れ回した。
そうしていると、まぁ、あれだ。情が出来るというか、あいつは弱いのだが、根性だけはあった。
どんなに強い奴と戦って倒れても、何度でも立ち上がり最終的には勝った。
泥臭く惨めな姿だったが、そんな姿を見ていると思わずキュンとしてしまった。
その内に、旦那の身分が分かった。当時は王太子だった。
何で、身分を隠していたのかと言うと父親の命令だそうだ。王位を継ぐ前に世間を知って来いと言われて、王宮を出されてどうしようかと悩んでいたら、偶々わたしと出会いそのまま一緒に行動するようになったそうだ。
わたしは旦那が王太子だと知ると、直ぐに旦那の傍から離れた。わたしみたいな流れ者と一緒になれば旦那に迷惑が掛かると思ったからだ。
しかし、わたしが何処に居ても旦那は見つけてきた。
そして必ずこう言う『わたしの奥さんの一人になってくれないか?」と。
別に他に奥さんが居ても問題ないが、逃げた手前、気恥ずかしくて断った。
だが、旦那は諦めずに何度も何度もわたしの下にやってきた。
そんなやり取りを七十七回繰り返して、旦那がわたしの所に来る事、七十八回目の時に。
根負けして、旦那の奥さんになる事になった。
その時の喜びようは、正直見ているこっちが恥ずかしかった。
後で知ったが、妻の順位で言えばわたしは三位ぐらいになるそうだ。
つまりは、第三夫人という事だ。
ちなみに次はソアヴィゴの母親だ。かつては芸人だったそうだが、なかなかに肝が据わった女であった。気に入って、イザドラの母親の次に親しくしている。
それと、何故第三夫人で、産んだ子が一番末なのかというと、これには訳があった。
わたしはその、床だと恥ずかしくて、つい力が入ってしまい。旦那を気絶させていたのだ。
それも毎回。なので、中々子供が出来なかった。
そんな訳で生まれた愚息はわたしなりに可愛がっている。
一度、旦那が『本当に儂の子か?』と聞いてきので、少々痛い目にあってもらった。
しばき倒したり、怒らせる事を言って簀巻きにしてそこら辺に転がしたり、馬鹿な事して殴ったりしているが、わたしなりに旦那の事は・・・・・その、あれだ。
た、たた、大切には思っている。
なので、旦那以外の男には身体を許した事は一度もない。
本人もわたしの言葉を聞いて信じてくれた。照れ臭くて、背中を思いっきり叩いた。
暫く、背中が痛そうにしていたので、ちょっと力加減を間違えたようだ。
おっと、少し話が脱線したな。
さて、今は愚息の事だが、あいつはあの歳の子供にしては知恵があるようだ。
何か考えがあってこの『オウエ』に来たのだろう。それを見定めるの半分心配なの半分で付いてきた。
もし、碌な事をしなかったら、縄で縛りつけて一緒に魔都に帰る事にしよう。
帰ったら、旦那が何か言うかもしれんが、そこはイザドラに任せよう。
あいつはわたしの教え子の中でもピカ一の実力者だ。いずれは、わたしを越える逸材だ。
その上、あいつはリウイの事を猫かわいがりしている。
帰って来たら、それはもう喜ぶだろう。
正直、あの母親から良くこんな娘が生まれたなと思う。
その母親が言うには『わたしの父にそっくりです~」とか言っていた。
父か。リウイがもう少し大きくなったら、わたしの家の事を話すとしよう。
まぁ、まだ先の話だがな。
「母さん、そろそろ着くよ」
馬車の中で、日記を書いていたわたしは、外から息子が声を掛けられて、書く手を止めた。
「ああ、分かった」
わたしは日記を閉じて『収納』の魔法の中に入れる。
日記を見られたら、流石に恥ずかしいからな。
さてと、可愛い愚息の為にも少し働くとするか。