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第32話  いざ、行こう。オウエに

 謁見の間で任命されてから数日。

 姉さんの話を聞きながら、僕は準備を整えた。

「よし、こんなものか」

 魔都で手に入れれる物を全て手配した。

 後は現地に行って、何が必要か知りそれを何かしらの手段を使って手に入れればいいだけだ。

 それにしても『オウエ』かどんな所なのだろう。

 話を聞いた限りだと、先住民族の襲撃が激しくて開拓が進まず、飲めば数日と経たずに死ぬ湖があるぐらいしか聞いていない。

 ここで重要なのは、先住民族だ。

 昔は百を超える氏族だったそうだが、魔国との戦いで臣従したり滅ぼされたりして、今では十二の氏族しかないそうだ。

 僕達は彼らの事を『十二氏族』と呼んでいる。

 戦力で言えば、今ある全ての氏族を揃えれば一個軍団規模の戦力はあるそうだ。

 なので、父さんもむやみに手を出して被害を出すのも馬鹿らしいと思い、向こうが『オウエ』から出てこない限りは好きにさせていた。

 代わりに『オウエ』の開拓も十分に進まず、十二氏族の襲撃を受けるばかりだ。

 それはつまり『オウエ』に何があっても、手が出せないという事だ。

 流石にないだろう。

 支配者なのだから、時には犠牲を顧みず強硬手段を取るか姫を愛でるかのような懐柔手段をとれば良いものを。

 僕は現地についたら、後者の懐柔手段をとるつもりだ。

 そうした方が被害も少ないし、後々になっても恩恵があるはずだ。

 この事は誰にも言っていない。言っても、反対されるかもしれないし、まだどんな手段を取るか考えてないからだ。

 現地に行き、出来れば十二氏族の高位の者から話を聞いて妥協点を探すつもりだ。

 まぁ、良き当たりばったりと言われればそこまでだが、行動すればなんかしら結果が生まれる筈だ。

 それに賭ける事にしよう。

『リウイ様、御仕度は整いましたか?』

 ドア越しにシャリュが声を掛けてきた。

「ああ、大丈夫だよ」

『では、お運びいたしますので、部屋に入っても宜しいですか?』

「うん。いいよ」

 僕が許可すると、シャリュが部屋に入って来た。

「これが、お運びする荷物ですか?」

「うん。そうだよ」

 必要最低限な物を出来るだけ旅行用のバックの中に仕舞いこんだ。

 お蔭でバックはパンパンだ。これでも必要最低限の物しか入れてないのにだ。

「重いかもしれないけど、頑張って」

「いえ、大丈夫です。『収納』」

 シャリュがそう言うと、黒い穴が生まれてその穴の中にバックを入れた。

「その魔法。僕でも使える?」

「リウイ様に空間魔法の素質があれば出来ると思います」

 空間魔法か。前世でも使った事がないから分からないな。

「リウイ様。準備が出来たのでしたら、そろそろ」

「あ、ああ、そうだね」

 シャリュに言われて、僕は気を取り直した。

 気を新たにして、僕は部屋を出た。


 部屋を出た僕達は庭に向かった。

 そこに『オウエ』に向かう一団が集まっている。

 僕達が庭に行くと、荷物の詰め込み作業の最中であった。

 そんな中で、フェル姉とティナはつまらなそうに作業を見て、母さんはソフィーディアと談笑していた。

「暇そうだね。二人共」

 僕がそう声を掛けると、フェル姉達は僕を見た。

「そうねぇ、特にわたし達はする事ないし」

「あ~、暇」

 だらける二人。

「それは困りますね。そんな風にだらけている姿を見ていると、大丈夫なのか心配になってきますね」

 そんな二人に、氷のように冷たい声が掛かる。その声を聞いて、二人は肩をビクッと振るわせた。

 二人は恐る恐る振り返ると、そこにはイザドラ姉さんが居た。

「い、イザドラ姉さん。こ、こんな所に何か用?」

「用がなくては来ては行けないと?」

「そ、そんな事ないじゃない。おっほほほ」

 笑って誤魔化そうとするフェル姉。

「わ、わたし、ちょっと荷物の詰め込み作業を手伝ってくるわっ」

 フェル姉はそう言って脱兎のごとく、詰め込み作業の所に行き作業を手伝った。

「わ、わたしも」

 一拍遅れて、ティナもその後を付いて行った。

 二人の後ろ姿を見送り、イザドラ姉さんは息を吐く。

「まったく、あの子は怠け癖さえ直せば優秀なんですけどね」

「そうだね」

 僕もそこは同意するよ。

 イザドラ姉さんは改めて僕を見る。

「リウイ。貴方がこれから向かう所は、魔国の権力が及ばない所と思いなさい。頼れるのは自分達が連れて来た者達と自分だけと心がけなさい」

「うん。分かったよ。イザドラ姉さん」

 僕がそう言うと、イザドラ姉さんは頬を膨らませた。

 そして、プイっと顔を反らせた。

「ね、姉さん?」

「ふん・・・・・・・・・・」

 何か気に障る事でも言ったかな?

 う~ん。・・・・・・ああ、あれか。

 ふぅ、仕方がないな。

「姉上」

「何ですか? リウイ」

 先程とうって変わって、ニコニコした笑顔で答えた。

 色々と考えた結果、最終的にイザドラ姉さんの事は「姉上」と呼ぶことに決定した。

 本人も納得してくれたので、良しとしよう。

「リウイ」

 姉上はそう言って、僕を抱き締めた。

 暫く僕を抱き締める事は出来ないので、今日は好きにさせる事にした。

「はぁ~、何か困った事があったら、遠慮なくわたしに言うのですよ。いいですね?」

「うん」

「間違っても、ソア兄上やロゼ姉さんを頼らないように」

「うん」

「それと手紙は出しますから、ちゃんと返事を書いてくださいね」

「分かった」

「それから、向こうの水を飲んでお腹を壊さないように」

「気を付けます」

「それから、危険な所に近付かないようしなさいね」

「気を付けるね」

「それから」

 貴女、姉ではなくオカンだったっけ?

 子離れできない母親の様に注意事項を言う姉上。

 それは出発する直前まで続いた。


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