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王女様の心胸

 要塞の防衛に就いていたわたしは、急遽王宮に呼び出された。

 呼び出された理由は、異世界から同胞を呼んだので、お前も宴に参加して歓待しろと言う事だ。

 それを聞いたわたしは、溜息を吐いた。

 軍部の殆どが今回の召喚の儀式に反対していると言うのに、何故したとしか言えない。

 当然だ。自分達の国を守るのに誰がすき好んで、人の手を借りたいと思う。

 しかも、他国の人間ではなく異世界の人間だ。

 これは暗にお前たちに力が無いから、異世界から力を借りたんだと言っているようなものだ。

 父もそれが分からない筈は無かろう。

 大方、宮廷にいる貴族連中に懇願されて折れたのだろう。

 戦場では無類の強さを持つ父だが、どうも政治に関しては駄目駄目だ。

 娘婿として入ったので、政治は苦手なので部下に任せきりだ。

 本来はそう言った事は母上が判断するのだが、ここ最近、母上は病に罹りまつりごとをする事が出来ない。

 なので、父上が代行しているのだが、正直全然できていない。

 かろうじて、宰相や王族派の者達が力を合わせる事で回せている。

 だが、王族派はそんなに多くはない。今、宮廷を牛耳っているのは貴族派だ。 

 貴族派が強く出られたら、父も反対が出来ない。

 粛清しようにも、理由もなしにそんな事をすれば間違いなく内乱になる。

 なので、扱いに困る奴らだ。

(だが、異世界から人を呼ぶのも悪い手ではない)

 軍部は反対している、国の防衛だけを考えるなら、異世界人の力など借りなくても十分に守れる自信があるが、人間の国はわたし達の居る国一つではない。

 大小様々の国が幾つもある。

 それらの国にも防衛戦力はあるのだが、長期間の攻撃を耐えれるかと言われたら疑問だ。

 戦では何が起こるか分からない。救援を求めるような状況にでもなったら、打つ手がない。

 自国の防衛だけで精いっぱいなのに、どうして他国の救援に行けよう。

 行けたとしても、焼け石に水になる程度の戦力ぐらいしか出せない。

 そんな時に、異世界人を出せば良い。

 この世界の人に比べて、異世界人は数倍の能力を持っていると言われている。

 少数でも送り込こめば、何とか防衛は出来るだろう。

 だから、異世界人を呼ぶのは間違いではないのだが、正直もう少し議論をしてから呼んでほしかった。

「まぁ、過ぎた事を言っても詮無き事だ。どんな奴らが来たか、顔ぐらいは見に行くとしよう」

 わたしは自分の親衛隊を率いて、王宮に向かう。

 要塞から馬で駆けること二日。

 ようやく、王宮が見える所まで来た。

 途中、休憩を挟みながら行進したが、私達は兎も角、馬が疲労困憊だ。

 王都に入る前に、少し休憩をとる事にした。

 わたし達は、大きな木の下で腰を落ち着けた。

 下草が柔らかく受け止めるので、わたし達は思い思いに座りながら休憩を取る。

 馬も鞍や手綱を外して、好きにさせていた。

 仔馬の頃から、世話をしているので逃げる心配はない。

 わたしは皮袋に入った水を飲み、喉の乾きを潤す。

 この皮袋は、見た目だけでは分からないだろうが、実は魔法を使った道具アイテムでこの皮袋に飲み物を入れたら、何時でも冷えた状態で飲める事が出来る物だ。

 喉を鳴らしながら水を飲む。宮廷にいたらはしたないと言われるだろうが、今は外だしここに居るのは気心が知れた者達だ。見られても何とも思わない。

「姫様」

 わたしが飲み終わるのを合わせたように、ハマーン・フォン・テシュオスが話しかけてきた。この男はわたしの親衛隊隊長だ。

「どうした、ハマーン?」

「姫様は、此度の件はどう思っているのですか?」

「別にどう思ってはおらんよ」

 正直に言えば、もう少し議論をして宮廷内を纏めてから召喚の儀式をすれば良いと思うが、言うつもりはない。

 例え信頼できる部下でも、安易に心の内を話すなと両親から言い育てられている。

 なので、例外を除いて心で思っている事を話す事はない。

「軍部では異世界人召喚の儀式を行なった事に不満を持った者が多いそうです。このままでよいのでしょうか?」

「ハマーン、お前の言いたい事も分かる。だが、これは父上と宮廷にいる大臣達が話し合って決めた事だ。わたし達が口を出す事ではない」

「姫様が居ない会議で決まった事なのですよっ、姫様を無視して決めた事など・・・・・・」

「それは違うぞ。ハマーン。私が居ても居なくても、こうなる事は決まっていただろう。それが遅いか早いかだけだ」

「ですがっ」

「そこまでにしておけ、ハマーン」

 私は首を横に振る。

「もう決まった事を話しても意味がない。私達は父上が決めた事に従おう。もし、明らかに間違っていたら、その時は直訴してでも止めれば良い」

「は、はい。分かりました」

 座っていた私は立ち上がり、尻についた埃を落とす。

「さて、休憩は十分だろう。そろそろ向かうとしよう」

 皆にそう告げると、馬に手綱や鞍を着けてる。

 私は自分の馬に跨る。

「では、行くとしよう。もう王宮が見えるのだ。速度はこのままで行くぞ」

「「「はっ」」」

 馬に鞭をやり走らせる。

 部下達も私後をついて来る。


 *************


 私達が王宮に着いた時には、既に宴が始まっていた。

 部下達を連れて、私は謁見の間に向かう。

 謁見の間からは、音楽が聞こえる。

 耳を傾けて聴いてみると、まだ無礼講の様相にはなっていないようだ。

 門を守る衛兵は、私達に気付き敬礼する。

 そして、私が来た事を告げようとしたが、止めた。

「済まないが、私が来た事は告げないでくれるか」

「はっ? ですが」

「何、お前達には何の咎にならないから大丈夫だ」

「いえ、しかし」

「少し、広間に居る者達を驚かしたいだけだ」

「・・・・・・・分かりました」

 衛兵も折れてくれたので、私達は静かに広間に入る。

 扉が開く音で、近くに居る者達は私に気付き、頭を下げる。

 しかし、殆どの者達は私に気付いた様子はない。

 まず、最初に父上に挨拶をしに行く。

 途中で、貴族の御令嬢達が集まっているので、目を向けると、そこには見た事もない服を着た者達が居た。年齢は私よりも少し下だろう。

 男女合わせて全員四十人は居るようだ。

 そして、その者達の顔を見る。人は顔を見ればどんな性格か、大体分かる。

 殆どの者達は、歓待を受けて浮かれている。

(・・・・・・・・・駄目だな、何で自分達が歓待されているか分かっていない)

 確かに彼らを呼んだのは我々だ。だからといって、歓待する訳がない。

 歓待するなら何かしら理由があると思わないのだろうか?

 そんな事も考えつかないなら、余程平和な所から来たのだろう。

 まぁ、中には目端が利いた者は居るようだ。

 特に眼鏡を掛けた男と羽扇を持った女。

 どちらも、近くに居る者に積極的に話しかけて情報を収集している。

(まずはこの国の状況を知るのは大切だ。あの二人はその内、私の下で働かせるとするか) 

 そう考えながら、玉座の前まで来た。

 私が跪くと、連れて来た部下達も私に倣い跪く。

「父上、ただいま参りました」

「急に呼び立てて済まないな。我が娘よ」

「いえ、お気になさらずに。それよりも」

 私は一旦言葉を区切り、先程見かけた異世界人達を見る。

「あの者達は役に立つのですか?」

「分からん。だが、かなり強力な職業を授かった者が多いと聞いている」

「如何に凄い職業を持った所で、役に立たねば、無用の長物でしょう」

「そうかもしれん。だが、我ら人間族を救うにはこの手段しかないのだ」

 父上は断言した。

「・・・・・・分かりました。私も出来る限りの事はします」

「お前には負担が掛かるかもしれんが、頼んだぞ」

「はっ」

 私は立ち上がり、一礼をして父上の前から離れる。

「さて、我が師に挨拶したら、部屋に戻るとしよう・・・・・ん?」

 私の師であるエゼキエル・フォン・アスクレイ侯爵と親しく話している者が居る。

 侯爵は幼い頃から、私に色々な事を教えてくれた方だ。

 今でこそ、閑職に就いているが、昔は我が国の魔法師団の団長を務めており、我が国が誇る魔術師だ。

 ただ、非常に知識に貪欲な御方で、普段は穏やかな人なのだが、自分の知らない事があると、目の色を変えて知ろうとするから扱いに困る。

 我が師ながら面倒な方だと思うが、色々な事を教えてくれたので嫌いではない。

 このような華やかな場では、壁の花になる人が誰かと話す所を見て驚いた。

 相手は誰だと見ると、異世界人達と同じ服を着ている者だ。

(では、あの者も異世界から来た者か・・・・・・)

 侯爵と楽しそうに話す者を見て、興味が湧いた。

 私は話しをしている二人に声を掛ける。

「あら、普段はこのような宴の席では壁の花になっているアスクレイ侯爵が。誰かと真剣に話している所など久しぶりにみますね」

 私がそう声を掛けると、侯爵は驚いた顔をするが、もう一人の男はポカンとしている。

 顔は良く見え無かったので、改めて見た。整った顔立ちではないのだが、見ていると、何故か人をホッとさせる顔だ。

(ふむ、美男子でない、寧ろ不細工のほうだな。しかし)

 何で、この者の顔を見るとホッとするのだろう?

「こ、これは姫様。お早い御帰還で、このエゼキエルお帰りを心よりお待ちしておりました」

「それはありがたい。それでそちの隣にいるのが?」

「ええ、異世界から来た同胞です」

「そうか」

 私はこの異世界人を見た。顔をよく見る。

(こやつは逸材だ。使える)

 先程の二人よりも使えるかもしれない。

 私の勘がそう告げている。

「こちらは、我が国の第一王女であらせられる。アウラ・エクセラ・ロンディバルア様です」

 侯爵が私を紹介した。

 異世界人も自分の名前を紹介しようとしたら、音楽が変わりだした。

 このメロディーは、今宵は舞踏会をするようだな。

「舞踏会もするのか。僕は踊った事ないな」

 異世界人がそう呟くと、侯爵が私の顔を見ながら、異世界人に話し掛ける。

「いかがです。姫様と踊るというのは?」

「えっ⁉ でも」

「姫様も偶には踊りませんと、ステップを忘れるかもしれませんからな」

 エゼキエルさんはカラカラと笑いながら言う。

 師よ。私を揶揄っているのか?

 幾ら、最近舞踏会に出ていないとはいえ、一度覚えたステップは忘れはしない。

「侯爵様、流石に失礼ですよ!」

 親衛隊の者が口を出してきた。

 まぁ、偶に踊るのも良いか。

「私は構わん」

「姫様⁉」

「よい、偶には誰かと踊るのも、良い余興になろう」

 私はは手を前に出す。

「さて、異世界から来た同胞よ。踊っていただけるかな?」

 私の親衛隊の者達は睨んでいるし、これでも一応は第一王女だ。

 踊ろうとしたら、否が応でも目立つだろう。

 さて、どうする?

「無作法者ですが、喜んで」

 異世界人は私の手を取ると、私は身体をビクンと震えてしまった。

 まさか、本当に踊るとは思わなかった。

「? どうかしました?」

「いや、別に、そなた、名前は?」

「僕ですか。僕は猪田信康と申します」

「イノータ・ノブヤスか・・・・・・覚えておこう」

 私は僕の手を取り、広間の中央に行く。

 私達は広間の中央で踊る事になった。

 最初は、わたしがリードしながら踊りながら、簡単な事を教えた。

 彼イノータは直ぐに理解して、私の動きに合わせて来た。

(見た目に反して理解が早いな、これは思わぬ伏兵が居た物だ)

 そのまま踊っていたら、何処から殺気を感じた。

 その殺気を感じた方を見ると、三人の異世界の女性が私を敵を見るような目で見ている。

 更に背後には何かの守護霊が見える。

(ふむ、どうやらイノータに惚れているようだな、あの三人は)

 この見た目は不細工なのにモテているのに驚きながら尋ねる。

「ふっふふ、どうやら、そなたの仲間が大層お怒りの様だ」

「は、はい、何であんなに怒っているのか、僕にもサッパリ分かりませんが」

「・・・・・・そなたは、鈍感とか言われないか?」

「いえ、別に」

 私でも分かるのに、どうしてこやつは気付かんのだ?

 まぁいい、そろそろ、音楽が止むな。

「そうか、そろそろ、音楽が止むから、それで終いにしよう」

 イノータは頷き、私にタイミングを合わせるながら踊る。

 音楽が止み、踊るのを止めると習慣で右手を出してしまった。

 これは貴婦人が踊った相手にする者に、満足しましたという意味だ。

 踊った男性は返礼として、指または指環にキスをする。

 そこいらに居る貴婦人がしても問題はないが、私がしたら問題だ。

 私は第一王女だ。もし、私の指にキスでもしたら色々と面倒な事になる。

 ダンスを教わった時には、いつもしていた習慣だったのでついしてしまった。

 まずいと思い、わたしは右手を戻そうとしたら、イノータは跪いて私の右手を取りキスをしてきた。

「っっ⁉」

 私は驚いた。

 声をあげないように我慢したが、この場にいたら不味いと思い、私は親衛隊達が居る所に戻った。

「姫様っ!」

「私は部屋に戻る」

「「「「はっ」」」」

 私達は急いで、自分の部屋に戻る。

 その際、イノータを見ると、先程睨んでいた女達に捕まり訊ねられている。

「面白い奴だ・・・・・・・」

 そう呟きながら、私は自分の部屋に戻る。

 翌日、父上と弟妹達に色々と訊ねられた。









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