表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/756

閑話 イザドラの不満

 わたしことイザドラ・エクセラ・ドラゴニアは内心釈然としない思いを抱きながらも、表面上は楽しくお茶を飲んでいた。

 何が釈然としないのかと言うと、父上が領地経営を学ぶために、わたし達に暫くの間領主として赴任させるように命じた事だ。

 それで、可愛い可愛い弟のリウイが何故か、危険で大した物もない『オウエ』に向かうと言うのだ。

 父上が領地経営を学ばせる為に、領地について調べてその名前が知ったのは分かる。

 だが、リウイの世話をするメイドには元は内政官をしていた者も居る。

 なので、リウイが選んだ『オウエ』がどれだけ危なくて何もない辺鄙な所か知っている筈だ。

 あそこには、我ら魔人族に迎合しなかった先住民族の末裔が多数暮らしている。それだけであれば、問題ないが、時折襲撃を仕掛けてくるのだ。なので、その『オウエ』の開発は一向に進んでいない。

 更に言えば、あそこは北部は海に面しているが、南部は完全に内陸なうえに山が沢山あるのだが、襲撃を仕掛けてくるので、その山に何が埋まっているか調査すら出来ない。

 辛うじて、人が住める都市と村が幾つかあるくらいだ。

 その上、あそこには『清海』がある。海と言っているが、実際は大きな湖だ。ただ、魚が生息していない上に、その湖の水を飲むと呪われると言われているので、誰もその湖には近づかない。

 なので、どのような性質の水なのかも分からない。

 領地経営を学ぶとしては、あまりにも不適合な場所だ。

 正直、父上が無理矢理押し付けたのかと思っていた。

 しかし、違った。謁見の間でその事を問いただしてみたが、本人もどうしてそんな所を選んだのか分からないようだ。

 では、他の兄妹達が脅したのかと考えたが、それも違うと直ぐに理解した。

 なにせ、王位に興味があるのはソア兄上くらいで、他の兄妹たちは皆「やりたい人がやればいいんじゃない?」という心境だ。なので、脅す必要もない。

 その事を含めて、リウイに別室で聞こうとしたら、どうやら自分で考えて決めたようだ。

 流石にあそこは無理だから止めなさいと、やんわりと言っても、可愛いリウイは頑として聞き入れてはくれなかった。

 ふぅ、その意地を張る顔も可愛いのですが、今回ばかりは駄目だと言う。

 決して、遠い領地を選んで離れていくのが寂しいから難癖付けて、わたしが治めようと思っていた所の近くに仕向けようとか、出来れば頻繁に顔を出せる所にしたいなとは少しも思っていません。

 駄目、行きたいのやり取りを繰り返していると、ロゼ姉さんが口を出してきた。

 姉さん曰く、リウイを成長させる為にも、少しは危険な所に向かせるべきじゃ。

 そう言われては、わたしも悩みました。

 可愛いリウイが成長するのは良いと思います。ですが、今回行く所は些か危険すぎるので、もっと安全な所で頑張って欲しいと思ってしまう。

 相反する考えが頭の中をグルグル駆け回る中、リウイがわたしの両腕を掴み、涙目で見上げて来ました。

 うううっ、そんな目をされたら、流石に心が痛みますね。

 なので、仕方がなく断腸の思いで、リウイを行かせる事にしました。不本意ですけど。

 その後、護衛にどれだけ連れて行くか姉妹で話し合った結果、フェルが領地の話を辞退して、リウイの護衛をするそうだ。

 この話は確かに悪くないと思い、わたしも賛成しました。

 フェルは内政以外に関してはピカ一の才能を持っているので、護衛にも最適だからだ。

 これで内政の才能があれば、有力な魔王候補に成れるのですが無いのが残念である。

 本人も「魔王になってもつまらなそうだし、好きにするわ~」と言っているので、魔王の地位に興味がないようだ。

 その分、戦闘、交渉等は文句なしの腕を持っている。

 配下の『魔導弓騎兵団』は機動攻撃を得意とした軍団だ。一度訓練を見た事があったが、練度も士気もどれをとっても精強と言える軍団であった。護衛戦力としても申し分ないだろう。

 内政に関しては、リウイの乳母のソフィーディアがいれば十分でしょう。内政官としても優秀だと聞いています。

 それに可愛いリウイも居ますからね。この子、この歳で中々の内政手腕を持っていた。

 わたしとは違う考えも持ちながら、見事と言える事を次々と考えつくので、凄いとしか言えない、

 正直、本当に父上の血を引いているのかと思えた。

 顔は父上にもリウイの母親にも似ていなし、この歳にしてはかなり高い魔力を持っている。それに加えて魔獣とも契約したのだ。これはもう異才としか言えない。

 流石、わたしの可愛いリウイと言えばそこまでだが、普通に考えても有り得ない事だ。

 あの父からこんな凄い子が生まれるなんて正に『亜竜が龍王を生む』ですね。

 まぁ、母親の血が濃いだけかも知れませんがね。正直、あの方はわたしでも手を焼く事がある。

「イザドラ姉さん、どうかしたの?」

 おっと、つい物思いふけていて、膝の上に乗せている可愛いリウイの相手を忘れていた。

 わたしとした事が不甲斐ない。

「何でもないですよ。リウイ」

 わたしは可愛いリウイの頭を撫でる。

 すると、この子は目を細めて気持ちよさそうな顔をしていた。

 はぁ、本当に可愛い。

 この顔を見ているだけで、どんなに疲れていても癒される。

 ふぅ、この子が『オウエ』に行くのかと思うと、正直行かせたくないと思いますが、これもこの子の為ですから仕方がなくそうしましょう。

 それに、離れていればわたしの有難味が分かるかも知れませんしね。そうなったら、今度はとんでもない事を言わなくなるでしょう。そうしたら、安心できる。

「ロゼティータ姉さん。砂糖を取って」

「むっ」

 おや? ロゼ姉さんが少し顔をムッとしていますね。どうしてでしょうか。

「あ、ああ、ごめんなさい。ロゼ姉様、砂糖を取って」

「うむ」

 ロゼ姉さんは気を良くして、砂糖が入った容れ物を渡した。

 はて? 今「ロゼ姉様」と言いませんでした?

「リウイ」

「なに? イザドラ姉さん」

「今、ロゼ姉さんの事を『ロゼ姉様」と呼びませんでしたか?」

「うん。今度からそう呼ぶ事にしたんだっ」

 ・・・・・・ほぅ、成程。

 そうですか。そうですか。そう言われて気を良くして、リウイを『オウエ』に行かせる事を承諾したのですね?

 全く我が姉ながら、チョロイと言うか単純と言うか、何というか可愛い姉ですね。

 リウイがそう言って、ロゼ姉さんを言いくるめた姿が目に浮かびます。

 この子、何処で根回しというのを覚えたのでしょうか? まぁ、今はそんな事よりも。

 わたしはカップをテーブルに置いて、リウイの顔を掴みわたしの方を向かせました。

「リウイ」

「なに? イザドラ姉さん」

「ロゼ姉さんだけ『姉様』と言うのは些か不公平ではありませんか?」

 わたしは問いかけながら、リウイの頬をフニフニしました。

 その柔らかい感触を楽しみながら、わたしは不満を告げました。

 別にわたしじゃなくてロゼ姉さんに根回しした事が不満があるのではなく、ロゼ姉さんにだけ『姉様』と言うのは、明らかに不公平なので告げたのです。

 決して、わたしもそんな風に呼ばれたいと思った訳ではありません。

「え、えっと、じゃあ、イザドラ姉さんは何て呼べばいいの?」

「それは自分で考えなさい」

 出来れば『姉様』よりもグレードがあってエクセレントかつビューティーな呼び方を希望します。

「・・・・・・少し考える時間をください」

「よろしい。明日までに思いつきなさいね」

 まぁ、思いつかなかったら、罰としてフニフニすればいいですね。

「え~、ウ~ちゃん。二人には付けて、わたし達にはないの?」

「そうだね。リウ、それは不公平だよ」

 フェルとミリアリアが文句を言ってきましたね。

 あれ? ヘルミーネは何も言って来ないのは変ですね。

 こういう時は抉るように、ボソリと言うのに。

 そう思ってヘルミーネを見ると、何だか申し訳ないような顔をしながら、茶を飲んでいた。

「あら、ヘルミーネ。貴方は何か言わないの?」

「な、何かって?」

「そうだよ。普段ならここは『わたしも、姉さん達みたいに呼んで欲しいな』とか言うのに、・・・・・・あっ、もしかして」

 ミリアリアは何か勘づいたようですね。この子は姉妹の中で一番勘が鋭いですからね。

 人の胸を揉むという、信じられない行動をしますが、そこは愛嬌として受け入れられています。

 一度なんで揉むのか聞いた所『そこに胸があるから』という意味不明で訳が分からない答えが返って来たので、それ以上訊くのは止めました。

 度々、わたし、フェル、ヘルミーネ等の大きな胸を持っている女性の胸を揉んでくるのですが、皆避けたりして対処していた。

「もしかして、リウイにロゼ姉さんみたいに『姉様』みたいな呼ばれ方されているの?」

 ミリアリアがそう言うと、ヘルミーネは不自然に顔を反らした。ヘルミーネ、それは認めていると同じですよ。

「ぶぅ、リウ。姉さん達をそう呼ぶならあたしもっ」

「勿論。わたしもよ。ウ~ちゃん」

 まぁ、良いんじゃないのでしょうか。どうせ、そんなに直ぐに思いつかないでしょうし。

「じゃあ、ミリア姉ちゃんに、フェル姉で」

 って、何で二人は直ぐに思いつくのですか? 反抗期? 反抗期ですか?

「う~ん。お姉ちゃんか、今まで言われた事がなかったから、何か新鮮」

「フェル姉ね。まぁ、良いでしょう」

「・・・・・・リウイ」

「な、なに?」

 わたしはリウイの両頬を引っ張った。

「どうして、二人は思いつくのに、わたしは直ぐに思いつかないのですか?」

「い、いや~」

「反抗期ですか? わたしに反抗しているのですね? そうですか。そうですか」

 わたしは頬を膨らませながら、リウイの頬を引っ張りる。

「そんな悪い子には、お仕置きです。わたしの気が済むまで頬を引っ張らせてもらいますからね」

「ひゃ、ひゃめてよ~」

「駄目です」

 その後は、ベリルが来るまで、わたしはリウイの頬を引っ張りました。

 明日はどんな呼び方するか楽しみですね。

 もし、思いつかなかったら、本気で『オウエ』を行かせるのを阻止しましょうか。






 






 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ