第28話 相談しよう
用意された部屋を出た僕は、ロゼティータ姉さんの部屋に向かう。
とは言え、何処の部屋か分からないので道すがら、歩いているメイドさんに聞きながら、僕は姉さんの部屋に向かう。
「ここか」
部屋の前に着くと礼儀として、ドアをノックした。
『だれじゃ?』
「僕です。リウイです」
『リウイか? 入ってよいぞ』
入って良いと言われたので、僕はドアを開けて部屋に入る。
部屋に入ると、ロゼティータ姉さんはヘルミーネ姉さんと茶を飲んでいた。
「どうした? お気に入りのメイドを連れてまで、何か用でもあるのか?」
ロゼティータ姉さんは優雅に茶を飲みながら聞いてきた。
「うん。姉さんに相談したい事があって」
僕は姉さん達が座っているソファーの所までいくと、ヘルミーネ姉さんが手招きしてきた。
何だろうと思い近く行くと、姉さんは無言で僕を持ち上げて膝の上に乗せた。
「~~~~~~~♪」
ヘルミーネ姉さんは僕を抱き締めて、嬉しそうに顔を緩ませる。
いつ見ても、何か怖い顔だけど見慣れると何とも思わないな。
「それで、何が用で来たのじゃ?」
「うん。姉さんに相談したい事があるんだ」
「相談じゃと、良いぞ。わらわでよければ何でも相談するが良い」
ロゼティータ姉さんは嬉しそうに顔を緩ませる。
「わたしも同じ」
ヘルミーネ姉さんは僕を抱き締めながら、耳元で囁くように言う。
大きな声を出せば、僕に耳に悪いと思い囁くように言ったのだろう。
「じゃあ、さっそく良い」
「うむ。いいぞ」
ロゼティータ姉さんは茶を飲んだ。
「今度の領地の件だけどさ、僕は『オウエ』を貰おうと思うんだっ」
「ぶふっっっっ⁉」
「はぁ、やっぱりこうなると思った」
驚きのあまりか、姉さんは口に含んだ茶を盛大に噴き出した。
ティナは頭を抱えて愚痴る。
「・・・・・・・・・本気?」
「うん。本気‼」
ヘルミーネ姉さんが僕の顔を見ながら言うので、僕も笑顔で返した。
「あそこは、危ない。だから、リウイは別な所が良いと思うよ」
ヘルミーネ姉さんは思い留まらせようと、説得してきた。
「大丈夫。色々と考えがあるからっ」
「考えって・・・・・・・・」
あれ? 姉さんは頭を抱えだしたぞ。
「けほっ、けほっ、・・・・・・・馬鹿者‼ あんな所を選ぶのはヴァラディエルかサガモアぐらいじゃ。お主はもっと楽な所をえらばんか⁉」
この反応を見るに、ロゼティータ姉さんは僕が『オウエ』を選ぶのは反対のようだ。
「でも」
「でももしかしもないっ‼ 良いか。お主は十歳になったばかりなのじゃから、自分が出来る事と出来ない事の判別くらいはつけよ。ええい、これもイザドラが甘やかすからこうなったのじゃ!」
いや、それは関係ないと思います。
「リウイ。素直に母さんが薦めた所にしなよ。じゃないと、殿下が怒りのあまり倒れるかもよ」
ティナは姉さんが噴き出した茶を、布で拭きながら僕に考えを改めさせようと説得する。
ふっふふ、しかし。こんな事で曲げるくらいなら、最初からここには来ないさ。
「ロゼティータ姉さん。お願い。僕を『オウエ』に行かせてっ」
「駄目じゃ。リウイはもっと安全な所で領地運営を学ぶべきじゃ」
「そこなんとか」
僕は目に涙を溜めて懇願した。
「うぐっ、・・・・・・・そ、そんな顔をしても駄目なものは駄目じゃ・・・・・・・」
ふむ。この反応を見るに、もう一押しと見た。
ならば、ここは前々から言おうと思っていた事を言おう。
「お願いします。ロゼ姉様」
僕がそう言うと、ロゼ姉様はピクリと身体を震わせた。
「ロゼ姉様か、うむ。悪くない響きじゃな」
嬉しそうな顔をするロゼ姉様。
見ていて思ったけど、姉さんも兄さんもロゼ姉様の事を慕っているというよりも、どちらかと言うとマスコットみたいに可愛がっている節がある。
先程の待合室で、アードラ兄貴がロゼ姉様の頭を撫でていた。
姉様は「わらわはお主よりも年上なんじゃぞ~」と怒っていたが、アードラ兄貴は笑いながら窘めていた。まるで、癇癪を起した子供のなだめる様に。
年上なのに年上扱いされないようなので、ここは僕が年上扱いしよう。
呼び方一つでそこまで変わるかと思うかもしれないけど、これが意外と効果がある。
例えで言えば、双子は本能的にどっちが上か下か決めたくなるのだ。
だから、名目上でも何であろうと『姉様』と敬えば気を良くしてくれるはずだ。
現に、ロゼ姉様はすっごく嬉しそうな顔をしている。
「ふ、ふぅむ。リウイがそこまで言うのであれば、何か考えがあるのじゃろう?」
「うん。色々あるよっ」
「まぁ、これも良い経験になるかもしれん。わらわが口を利いて、護衛には精鋭をあてれば問題なかろう」
よし、これで一人堕ちた。
「ありがとう、ロゼ姉様っ」
「うむ。感謝するのじゃぞ」
ロゼ姉様は胸を張った。
これで説得する人が一人減った。
残るは一人だ。
そう思っていると、ムギュっと僕を抱き締める力が強まった。
「何? ヘルミーネ姉さん」
「・・・・・・・・・・・・」
ヘルミーネ姉さんは黙って僕を見る。
何か伝えたいのだろうか?
「・・・・・・わたしは?」
「はい?」
「わたしも、姉さんみたいに呼ばれたい」
ふむ。これは、わたしもロゼ姉様みたいに呼ばれたいと言っているようだ。
確かに、一人だけそう呼ぶのは不公平だな。
「じゃあ、・・・・・・ヘル姉さん」
「~~~~~~~~‼」
そう呼ばれて、嬉しいのか姉さんは僕を抱き締める手に力を込めた。
「ヘル姉さん、さっきの話」
「・・・・・・いい。リウイがそこまで考えているのなら、わたしは言う事はない。けど」
ヘル姉さんは僕の顔を真っ直ぐ見る。
「あんまり無理はしないでね。無理して怪我をしたら、わたしは悲しいから」
「うん。分かった!」
「なら、いい」
ヘル姉さんはそれ以上何も言わないで、ただ僕の抱き締めた。
「・・・・・・リウイって、年上キラーの才能でもあるのかしら?」
ティナは僕を見て、何か言っているけど、まぁいいや。無視しよう。
こうして、僕は根回しに成功した。後は父さんの前で『オウエ』にすると言えば、OKだ。
その後にイザドラ姉さんを説得すればいいだろう。多分。