第26話 謁見が終って、姉と雑談します
「父上、何故そんな事をするのでしょうか?」
ユミル兄さんは父さんに問いかける。
父さんは、ユミル兄さんを見る。
「お前達の中の誰かが、王位を継ぐのだ。ならば、少しでも領地運営をして慣れておくのも悪くなかろう」
「成程」
ユミル兄さんは納得した。
「父上。わたし達が参加するのは構いませんが、リウイはまだ十歳です。些か早すぎるのでは?」
ロゼティータ姉さんはこの場に居る皆が思っている事を代弁するかの様に言う。
「別に早くなかろう。我らの先祖にテジョデワンという方が居た。その方は僅か七歳で今の儂の王位を継ぎ、国を見事に纏め当時の魔国の領土を拡張されたのだ。先祖が出来たのだ、子孫であるリウイが領地運営は出来てもおかしくなかろう」
「しかし」
「もう、決定事項じゃ。流石に治める領地くらいは選ばせてやろう」
父さんは僕の頭を撫でながら、兄さん達に告げる。
「さて。話は終わりじゃ。下がるが良い」
父さんは僕を下ろして、退室する様に言う。僕達は言われるがまま、謁見の間を出て行く。
「まったく、父上にも困った者です。こんなに可愛いリウイに苦行を与えるとは」
イザドラ姉さんは僕を膝の上に乗せながら、プンプンと怒っていた。
何で、僕が姉さんの膝の上に居るのかと言うと、これには訳があった。
謁見の間を出た僕達は、用意された部屋に案内された。
僕は椅子に座り一息つこうとしたら、ドアがノックされた。
誰が来たのだろうと思ったら、イザドラ姉さん、ヘルミーネ姉さん、ロゼティータ姉さん、フェル姉さんがやってきた。
ミリアリア姉さんは一人で何処かに行ったそうだ。
僕は姉さん達が何の用で来たのかは直ぐに分かった。なので、ここは好きにさせる事にした。
しかし、部屋に入るなり何故かジャンケンをしだしたのは、意味が分からなかった。
訳が分からず見ていると、イザドラ姉さんが勝った。
そして、いの一番に椅子に座ると、僕を見ながら自分の膝を叩く。
これは膝に乗れと言っているのだと分かった僕は、直ぐに姉さんの傍に行く。
僕が近寄ると姉さんは僕を持ち上げて、膝の上に乗せて頬ずりしてきた。
ヘルミーネ姉さんが羨ましそうに見ているが、まぁ、今は話が大事だ。
「まぁ、父上も、可愛い子には旅させろという心づもりで、リウイに領地運営をさせるつもりかもしれんな」
ロゼティータ姉さんは席に座り、茶を啜りながらそう言う。
「姉さん。父上はそんな生易しい気持ちではありません。これでは『ライトフェールスタッグの子落とし』ではありませんか」
ライトフェールスタッグの子落とし?
初めて聞くな。こっちの諺か?
「ねぇ、姉さん」
「何ですか。リウイ」
「そのライトフェールスタッグのなんとかって、なに?」
「子落としですよ。リウイ。ライトフェールスタッグと言うのは、鹿の姿をした魔物です。名前の通り毛皮が熱を使わない冷光で光るのです。金、銀、緑、紫、青、赤などの様々です。その魔物は山に住んでいるのですが、標高が高い雪山に生息しています」
山で生活しているのか。あっ、何となくだけど子落としの意味が分かった。
「その魔物は子供を生まれて、ある程度身体が大きくなると断崖絶壁を駆け下るという習性があります。見事断崖絶壁を駆け下る事が出来れば、その子供は大人として認められます。ですが、駆け下る事が出来なかった子は、そのまま足を挫いて死んだりそのまま落ちて行き死んだりします」
やっぱり、恐らく子供が駆け下る事が姿を見て『子落とし』という言葉が生まれたのだろう。
「その習性で生き残る子は、二匹中一匹残る程度だそうです。もし、父上がそのつもりなら、わたしにも考えがあります」
ああ、イザドラ姉さんの目に光が、光が消えていくっ。
こ、ここは気を静めさせないと。
とりあえず、頬を叩くか。ぺちぺち。
「リウイ?」
よし、ここでニッコリ笑顔で気を静めさせよう。
「・・・・・・(ニッコリ)」
「・・・・・・もう、貴方の事なのに、何でそんなに平然としているのかしら。この子は」
イザドラ姉さんが笑顔を浮かべて、僕を抱き締める。
よしっ、これで気を静める事は成功だ。
「まぁ、父上がどう思っているか分からぬが、何か考えがあるのじゃろう。ここは父上の手腕を期待しようではないか。のぅ」
ロゼティータ姉さんは父さんがどんな手段をとるか期待しようと言うので、姉さん達は頷いた。
「それもそうね。まさか、父様もいきなり危険な地方を任せるような事はしないでしょうし」
「うむ。父上に任せよう」
フェル姉さんとヘルミーネ姉さんが頷いた。
「ふぅ、仕方がありませんね。姉さんがそう言うなら」
イザドラ姉さんは渋々だが、納得してくれた。
その後、ドアが又ノックされたので、誰が来たのだろうと思ったら、ペイモン兄さんがやってきた。
姉さん達を買い物に誘おうとしたら、皆僕の部屋に居ると言うので、部屋に来たそうだ。
ようやく解放されると思ったが、今度はヘルミーネ姉さんの手の中に納まった状態で買い物に連れていかれた。
まぁ、ヘルミーネ姉さんが喜んでいたので、良い事にしよう。
買い物中、僕は着せ替え人形になったけどね。