第25話 お呼び出しが掛かった
ガープ兄さんが言っていた「妙な魂」という言葉は気になるけど、それは今度、機会があったら訊く事にしよう。
今は他の兄さん達に出来るだけ話しかける方が先だ。
そう思い、次は誰に話し掛けるのだろうと思っていると、目に入ったのはアリオク兄さんとシャイタン兄さんだった。
二人共、何故か上半身裸になって自分の筋肉を見せつけるポーズを取っている。
その二人から汗臭い臭気が漂っているので、二人の周りに人は居なかった。
しかし、そんな汗臭い空間にフェル姉さんは何のためらいもなく踏み込んだ。
「あいも変わらず、あんた達は顔を会わせると、こうして汗臭い事をするわね」
フェル姉さんがそう声を掛けると、二人はポーズを取るのを止めて、フェル姉さんに顔を向ける。
「おお、姉上。ご機嫌麗しゅう」
「久しぶりだな。姉貴。元気そうで何よりだぜ」
シャイタン兄さんは貴族がするような礼をして、アリオク兄さんは手をあげて挨拶をしてきた。
「元気そうね。シャイちゃん。アリーちゃん」
ふむ。フェル姉さんは二人をこう言っているのか。
ちょっと名前が可愛いので二人に合っているかという事は別にして、二人はどう思っているのだろう。
「姉上、その名前で呼ぶのは少々止めて頂きたいのですが」
「俺もだぜ。姉貴。流石にちゃん付はちょっとな」
「あら、お似合いだと思うのだけど?」
「「似合っていない似合っていない‼」」
二人は同じタイミングで、首と手を横に振った。
う~ん。こういう所を見ると、血がつながった兄弟なんだなと思う。
「ところで、姉上。その手の中に居るのは?」
このまま話をしても埒が明かないと思ったのだろう。シャイタン兄さんが、フェル姉さんの腕の中にいる僕を指差す。
「初めて見る顔だが、誰だ?」
アリオク兄さんは、僕の顔をジッと見る。
兄さんは目つきが悪いので、何だが華睨まれている気分だ。
とりあえず、ここは笑顔で答えよう。ニッコリ笑顔で。
「・・・・・・・・(ニコ)」
「・・・・・・ほぅ、大した玉だな。俺の眼光にビビらないで、笑顔を浮かべるとは」
ただ、笑顔を浮かべただけなのに、何故かアリオク兄さんに感心された。何故だ?
「アリーちゃん。あまり、ウ~ちゃんを苛めないの」
「ウ~ちゃん?」
「ふむ。姉上がちゃん付する者は皆、家族かお気に入りの者と記憶している。この場は家族しか連れて来られないようになっている。なので姉上がお気に入りの者を連れて来るとは思えない。だとすれば、我々の家族。しかし、わたしは兄弟姉妹の顔は把握している。最近、生まれた末の弟以外は」
へぇ、シャイタン兄さんはどうやら、筋肉至高主義であっても頭まで筋肉ではないようだ。
アリオク兄さんはシャイタン兄さんが言っている意味が分からず、首を傾げる。ああ、この人は脳筋のようだ。
「ふっふふ、流石はシャイちゃん。目の付け所が違うわね。という訳で、正解はドルルルルルっ」
フェル姉さんが何か巻き舌をしだした。
「正解はわたし達の末の弟のウ~ちゃん事、リウイよ」
姉さんは僕を突き出すので、僕は頭を下げた。
「初めまして」
「おお、お前が末の弟か。はっはは、俺はアリオクだ。よろしくな」
「わたしはシャイタンだ。よろしく頼むぞ。我が弟よ」
兄さんたちは、僕の頭をポンポンと軽く叩いたり、撫でたりした。
「はい。よろしくお願いします」
「おうっ」
「こちらこそな」
「ところで、兄さん達はどうして、上半身を裸にしているのですか?」
別に自分の筋肉を見せつけるのなら、此処じゃなくても良いと思うが。
「ふっ、それは簡単な事だ。リウイ」
「そう。簡単な事だぜ」
何か、二人が何かを悟ったかのような顔をしだした。
そして、アリオク兄さんが胸に手を当てた。
「ただ、心の奥底にある魂が叫んだ‼ あいつに己の筋肉を見せつけろっと」
・・・・・・・返答に困る回答だ。
シャイタン兄さんもうんうんと頷いている。
まぁ、それとは別として。二人共、凄い筋肉だよな。そこは凄いと思う。
「それにしても、兄さん達は全身に凄い筋肉をしていますね」
「おお、分かるかっ」
「特に背中の広背筋は凄いですねっ」
背中には筋肉量が多いと、前世で呼んだダイエットの本で痩せるには筋肉をつけるべきだと書かれていたので、僕は腹筋だけではなく背中の筋肉も着くように頑張った。
リバウンドして失敗したのは、良い記憶だな。まぁ、僕がダイエットすると聞いて、何故かユエと椎名さんが邪魔して来たのは、今でも不思議だ。
「こうはいきん? 何だ、それ?」
「背中にある筋肉の事だ。確か、ここら辺の筋肉だったはずだ」
シャイタン兄さんは手を伸ばして、広背筋のあたりを叩く。
「へぇ、そうなのか。まぁ、背中もキッチリ鍛えているからな」
「やっぱり、背中の筋肉が凄いとカッコイイと思うな」
僕がそう言うと、アリオク兄さんとシャイタン兄さんはビクンと身体を震わせた。
「・・・・・・リウイ。本当にそう思うか?」
「うん。やっぱり、男は背中で語るだから」
「男はっ⁉」
「背中で語る⁉」
何故か、二人共、驚いた声をあげる。
あれ? 僕、変な事を言ったかな・
「初めて聞く言葉だが、何故かこう心に響く言葉だぜ」
「うむ。正にその通りだ。わたし達は今まで、全身の筋肉を鍛えてきたが、何故か物足りない気がしていた。それが今何か分かった気がするっ」
「男は背中で語る⁉ 良い言葉じゃねえか‼ 今度から背中の筋肉も鍛える事にするかっ」
「ふっ、これはわたしも負けておられんな!」
何か、よく分からないけど、二人の目に火が宿った。
「う~ん。今でも全身をガチガチのムキムキの身体をしている二人が更に強化されるのか、どんな身体になるんだろう。僕ももう少し大きくなったら、今の二人みたいな身体になりたいな~」
前世では肥満体型だったので、今世ではガチムキになってもいいんじゃないかなと思う。
「な、なん、ですって・・・・・・・・・」
「おお、そうかそうか。じゃあ、今度、一緒にトレーニングを付けてやるよっ」
「最初はキツイかもしれないが、何慣れれば、わたし達のような身体に直ぐになれる」
兄さん達は、僕に見せつける様に筋肉を見せつけるポーズを取りだした。
ふむ。あのポーズを毎日していたら、僕も筋肉が付くのかな?
今度試すためにも、兄さん達がしているポーズを覚えておくか。
そう思っていると、フェル姉さんが僕の目を手で塞いで、何処かに向かう。
「えっ、あの、フェル姉さん?」
「危ない危ない。あのままあそこに居たら、可愛いウ~ちゃんが筋肉のムキムキの化け物にされるところだったわ。純真なウ~ちゃんにはあの二人の毒気は強すぎたようね。さてと、気を取り直して、次の人に所に行きましょうか」
フェル姉さんは僕の視界を遮ったまま、何処かに向かう。
そうしていると、足が突然止まった。誰か見つけたのかな?
「あの子なら良いわね。二人の毒気を流すには良いわね」
姉さんはそう呟くと、あの子とやらの方に向かう。
「はぁい、フレちゃん。元気~」
フレちゃん? 誰だ?
「・・・・・・・・・元気だ」
あまり話さない所を見ると、寡黙な性格のようだ。
寡黙な性格でフレちゃんと聞いて、僕は直ぐにピンときた。
ああ、あの人かと。
それにしても、そろそろ手を離して欲しいな。
「じゃん。わたし達の末弟のリウイよ。可愛いでしょう」
フェル姉さんは手を離してくれた。
そして、目に入ったのはフレズヴェルグ兄さんだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
兄さんは何も言わず、僕をジッと見る。
とりあえず、挨拶するか。
「初めまして、リウイです」
「・・・・・・フレズヴェルグだ」
会話終了。今迄の兄さん達の会話の中では一番早く終わったな。
ふむ。ここで話を終るのも、勿体ないな。
「兄さんの背中は空を飛べるのですか?」
「飛べる」
「空を飛ぶとどんな感じですか?」
「気持ち良い」
「好きな食べ物は?」
「肉」
「趣味は?」
「模型」
後半、お見合いみたいな会話になったが、まぁ良いとしよう。
お蔭で、どんな性格か分かった。この時代の模型だから、あれだな。前世で何度か作ったので分かる。
「帆船って、パーツ一つ無くすと、大変だよね」
「・・・・・・分かるか?」
「うん。まぁ、僕はボトルシップが作る方が好きだな」
「・・・・・・・組み立てか? 引き起こしか?」
おお、流石は模型作りしているだけはある。
ボトルシップっと言って、そう言うのは作った事がある人だけだ。
「主に作っていたのは、引き起こしだね」
「そうか。確かに、組み立ては難しい」
「フレス兄さんは偽ボトルシップはどう思う?」
「あれはあれで、悪くない。確かに他の方法に比べたら、手間を惜しんではいる。だが、誰でも手軽に気軽に作れるのは良いと思う」
「そうだよね。確かに気軽に作れるのは良いよね」
「うむ。それで、お前はどれくらいのボトルで作った事があるのだ?」
僕はボトルのサイズを手で示す。
「これくらいかな」
「ほぅ、それはまた。お前の歳にしては大きいので作ったな」
ふっふふ、これでもボトルシップ前世では十歳頃から作っていたからな。
感覚を掴めば、これぐらいだったら余裕で出来る。
僕はフレス兄さんと話を続けた。
「この二人。意外と相性が良かったのね」
フェル姉さんは僕達を見て、呆然としていた。
そうして話していると、部屋の扉が開いた。
部屋に入って来たのはメイドだった。
でも、服の何処かしらに、何かしらの装飾を着けていたので、それなりに偉い人物なのだろう。
「皆さま。お待たせしました。陛下の準備が整いました。これより、わたくしベリルが皆様を謁見の間へとご案内いたします」
メイドが一礼してそう告げる。
それにしても、父さんは僕達を呼び出して、何をするつもりなのかな?
ベリルというメイドの案内で、僕達は待合室から出る。
「ねぇ、フェル姉さん」
「なぁに、ウ~ちゃん」
「どうして、僕を抱き抱えているの?」
皆と一緒に歩く中、何故か僕はフェル姉さんに抱き抱えられていた。
「う~ん。それはね。・・・・・・・ウ~ちゃんが可愛いからっ」
理由になっていない。というか、ためて言う事か?
抱き抱えられている所為か、兄さん達の視線が僕に突き刺さる。
あっ、イザドラ姉さんも何か羨ましそうにこちらを見ている。
(僕を抱き抱えても面白くないと思うんだけどな~)
そう思っている間に、ベリルがある部屋の前で停まった。
部屋に前には、衛兵だろうか、全身鎧を着た二人が立っていた。
二人は互いのハルバードを交差させて、そこから先は進めないという事を示す。
「陛下のお取次ぎを。ベリルが命令通りに殿下達を連れて来ました」
「承知した」
衛兵の人は立ったまま黙り込む。何をしているのだろうか?
「あれは魔法で部屋の中に居る人に話しかけているのよ」
フェル姉さんは僕の表情を見て察したのか教えてくれた。
「魔法?」
「そう『念話』」という魔法よ」
前世ではなかった魔法だな。まぁ、僕が死んでからかなりの年月が経っているのだから、新しい魔法の一つや二つはあっても不思議ではないか。
「確認した。どうぞ、入られよ」
部屋の扉が開いた。そして、僕達は部屋の中へと入って行く。
「姉さん。そろそろ降ろして」
「仕方がないわね」
フェル姉さんは残念そうに呟きながら、僕を降ろしてくれた。
床に降りた僕は部屋の内装を見る。
大理石と思われる材質で出来てピカピカに磨かれた床。天井にも何かしらを描いた壁画があった。
その天井を支える六本の大きな柱。その柱にも何かしらの装飾が施されていた。
部屋の中央には、真っ赤で毛足が多い絨毯があった。
一歩踏み込むめば、まるで腐葉土の上を歩いているかの様な感触だった。
その絨毯の先には十段以上はある石段があり、その石段の頂上には玉座があった。
豪奢な玉座に座っている人物が居る。
肌の色は黒く、強膜も黒く虹彩の部分だけ赤く白髪頭で、額に小さい角を二本生やした男性。
久しぶりに会うけど忘れる事は無い。
この人は僕の父にして、この魔国の王。すなわち魔王オルクス・ブラム・ヴァミリオンだ。
魔人族はこれが本名らしい。
これで貴族となると本名の後に貴族の称号である「フォル」が付き、更に~卿と言われる。
「陛下。ご命令通りに、殿下達をお連れいたしました」
ベリルが一礼する。
「うむ」
ベリルが顔を上げて、そのまま歩き出して石段の何段目かで止まった。ベリルが止まったのを見て、父さんは僕達を見る。
そして、何かを探すように目を動かす。
(何を探しているのだろう?)
僕がそう思っていると、父さんは僕を見る。
「そこ居たか。リウイ。ちこう寄れ」
父さんは僕を手招きした。
手招きされたので、僕はそのまま玉座まで歩き出す。
どこまで行けばいいのか分からないので、取りあえず石段の前で停まった。
うう、背中に兄さん達の視線が突き刺さる。
父さんを見ると、まだ手招きしていた。なので、僕は石段を歩く。
とりあえず、父さんが停まれと言うまで石段を上がる事にした。
そして上がって行くと、石段を上がりきり玉座の傍まできてしまった。
どれぐらいの距離かと言うと、手を伸ばせば掴めるくらいだ。
良いのかなと思っていると、父さんが手招きを止めた。
そして、手を伸ばして僕の襟首を掴み、自分の膝の上に置いた。
「この者は、お前達の末の弟のリウイだ。仲良くせい」
父さんは僕の頭に手を置くと、軽くポンポンと叩きながら僕を紹介した。
えっと、取りあえず頭を下げておこう。
「さて、今日。お前達をここに呼んだのは、こやつをお主らに紹介するだけではない。ベリルよ」
「はい。陛下」
ベリルは指を鳴らした。
すると、突然。何かの地図が現れた。
「「「これは⁉」」」
流石にいきなり地図が現れたので、兄さんも驚いていた。
「これは、何の地図か分かるか? リウイ」
「わかりません」
というよりも、地図自体初めて見た。
「そうか。これはな、我がギンヌンガ魔国の地図だ」
じゃあ、ここに描かれているのが魔国の国土と考えて良いのだろう。
でも、それを見せて何の意味が?
「七日後にもう一度呼び出す。その時に地図に記されている地方を言え、暫くの間この地図に記されている地方の領主に任命する」
そして、父さんは僕を見る。
「無論、リウイ。お前も参加するのだ。よいな」
えっ⁉ 僕も?