第23話 兄さんたちの顔を名前を覚えよう。
僕はオル兄ちゃんに訊ねた。
「ねぇ、オル兄ちゃん」
「・・・・・・・・・・」
あれ? 反応が無いぞ?
「・・・・・・・・・・くう~、生まれて初めて兄ちゃんって呼ばれた‼」
何か、オル兄ちゃんって呼んだら、すっごく喜んでいるのだけど?
僕が不思議がっていると、ユミル兄さんが耳元に手をやった。
「僕達はオルヴェンドの事を、オルヴィエって呼んでいるのだけど、そのオルヴィエはわたし達の中で一番下だから、兄と呼ばれて嬉しいんだよ」
成程。今まで末っ子だったけど、弟が出来て喜んでいるんだ。
う~ん。前世でも弟とか妹が居なかったから、何で喜んでいるか分からないな。
「あれ? でも、確かミリアリア姉さんも僕とそれほど違わないと言っていたような?」
「ミリアとオルヴィエは双子だからね。二人共、どっちが兄か姉かとか思っていないようなんだ」
ああ、そうなんだ。
オル兄ちゃんとミリアリア姉さんは双子なんだ。
ああ、それで二人共、何処か似ているんだ。納得。
喜ぶのはいいけど、そろそろ戻ってきて欲しいな。
「・・・・・・おっと、あまりの嬉しさに少しあっちの世界に行っていたぜ。ふ~、危ない危ない」
少しじゃなくて、思いっきり行っていたけど、ここは言わぬが花か。
「ふっ、あれは少しじゃなくて、思いっきり行っていたと思うがな」
ソア兄上、指摘しちゃ可哀そうだよ。
「あ~、ごほん。ところで、リウイ。何が聞きたかったんだ?」
誤魔化すつもりのようだ。
可哀そうだし、ここは乗ってあげよう。
「えっと、僕の兄さんを紹介してくれると嬉しいな~」
「おお、いいぞ。まずは、年齢順に紹介してやるよ」
オル兄ちゃんは手で示した。
「まずは一番年上の長女ロゼティータ姉さんだ。愛称はロゼティ姉さんだ。俺達姉弟の中で一番の年上だぜ。更に王位継承権第一位だ。見た目感じそうは見えないけどな」
ふむふむ。だとしたら、ロゼティータ姉さんの王位継承権が一番上なんだ。
「次にそこにいるソアヴィゴの兄貴だ。長男だけど、王位継承権第二位という、長男なのに二位という悲しい兄貴だ」
さっきの仕返しなのか、二位の所を凄く強調していた。
だが、ソア兄上は別に気にした顔はしていない。
「次は、次女のイザドラ姉だ。王位継承権第三位にして、次期宰相と呼び名が高い才女だ。性格は冷静にして冷徹。そして滅多に笑わない事が有名だ」
そうなんだ。王位継承権第三位よりも、滅多に笑わない事に驚いた。
僕の所に来るときは、笑顔で僕の相手をするので、笑っている印象しかない。
まぁ、私事と公事と区別しているだけだろう。
「次は次男のアードラメレク兄貴だ。王位継承権第四位。豪放磊落を地で行く人だ」
次が兄貴か、意外と継承権は高いんだ。ちょっと意外。
「次がそこにいる三男のユミル兄貴だ。王位継承権第五位。俺達姉弟の中で一番温厚な人だ。困った事があったら、ユミル兄貴に頼るのも手だぞ」
「はっはは、お手柔らかにね」
オル兄ちゃんがそう言うと、ユミル兄さんは笑いながらそう言う。
多分だけど、何かあってもイザドラ姉さんがしゃしゃり出てくる気がするけど、ここは頷いておく。
「次が三女のフェル姉貴だ。王位継承権第六位。あれで結構ヤリ手の将軍と言われる女傑だ」
そうなんだ。僕の所に来るときは、いつも「ウ~ちゃん」と呼んで抱き締めて来るので、どうもヤリ手というイメージが浮かばないな。
「次は四男のシャイタン兄貴だ。王位継承権第七位。あれがそうだ」
オル兄ちゃんが指差した先には、アラビアンみたいな恰好をしているな。
角が通すように穴があいている布を巻いたような帽子被り、ノースリーブの黒い服を着ていた。
赤銅色の肌をしていた。 大きな黒目。筋肉ムキムキであった。
「一言で言えば、脳筋だ。何事も行動してから考えるタイプだ」
オル兄ちゃんがそう言うと、ソア兄上達二人は否定はしなかった。
成程。脳筋か。
「次は五男のフレズヴェルグだ。王位継承権第八位。獣人族の血を引いているんだ。どんな獣人かは見れば分かるがな」
「何処に居るの?」
僕がそう尋ねると、オル兄ちゃんは指を指した。
そこに居たのは、壁にもたれている人だ。
その人は鷲の顔を顔をしていた。
しかも、背中に羽が生えている。鷲の獣人族か、前世で何人か見かけたな。
ちゃんと、魔人族の血が引いているのか頭頂部には角が一本生えていた。
「寡黙であまり喋らない所為か、よく分からん」
ふ~ん。そうなんだ。
でも、言われてみれば、前世でも鷲の獣人にあった事があったけど、皆寡黙だったな。
その分なのか、仲間思いだったな。
話してみないと分からないけど、そうじゃないのかな。多分。
「補足すると、無言実行をするという所かな」
「そうだな。あいつは無言で行動する奴だな」
兄上達はそう補足した。悪い人ではないんだな。
「お次は六男のカマプウアだ。王位継承権第九位。こっちも獣人の血を引いているそうだ。まぁ、あれだな、先祖は猪だったんだろうな。多分」
どうゆう意味だろうと思い、訊こうとしたら、不意に僕達の方に男の人が来た。
立派な服を着ており、派手な装飾をこれでもかと付けていた。
黒い髪。額の所から黒い角が見えた。
でも、顔が豚だった。まごう事なく、豚であった。
(先祖が猪だったという、意味が分かった気がする)
オル兄ちゃんが言った意味が分かった。
「ふひひ、兄上、それにオルヴィエ。この者はわたし達の末弟でいいのですか?」
「ああ、そうだ」
「名前はリウイだよ。リウイ、挨拶しなさい」
「リウイです。よろしく、お願いします。カマプウア兄さま」
ペコリと頭を下げて挨拶する。
「おや、歳の割に随分と礼儀正しい子ですね。ふひひ、君はわたしの弟ですから、何でも頼って下さいね。ふひひ」
そう言って、兄上達に一礼して、他の兄さん達と話しに行った。
あれ? 見た目に反して礼儀正しい人だな。
「オル兄ちゃん」
「お前の言いたい事は分かる。カマプウア兄貴はな、見た目に反してすっごい良い人なんだ。兄弟の中じゃあ、ユミル兄貴と並んで良識派で知られている。見た目に反して」
「ああ。それと、皆して見た目が酷いとか言うけど、実はね、秘密があるんだ」
「ひみつ?」
「へぇ、それは初耳だぜ」
「わたしも知らん」
ソア兄上達も知らないんだ。
ユミル兄さんは、手招きしたので、僕達は耳を寄せる。
「本人曰く、実は変化の魔法であの姿になっているそうだよ。何時からかは知らないけど」
「「えっ⁉」」
ソア兄上達は驚いた声をあげる。
「カマプ兄貴って、変化の魔法を使っていたのかよ⁉」
「寧ろ、何で変化の魔法であの姿なのだ?」
「僕も一度、変化を解いた姿を見た事があるけど、別に変な顔でもなかったけど、本人はその姿がコンプレックスみたいなんだ」
「「変化の魔法を使って、あの顔なら元はどんな顔なんだろう?」」
僕とオル兄ちゃんはそう思った。
だが、ソア兄上は何か思い出していた。
「そう言えば、あ奴は・・・・・・・・成程な」
何か、納得している⁉
どんな顔なのか気になるけど、ここは訊かないでおこう。
「オル兄ちゃん、他の人は?」
「あ、ああ、今はこっちの方が先だな。で、次はあの人だ」
オル兄ちゃんは気を取り直して、次の兄貴を紹介した。
指差した方を見ると、男の人達が談笑していた。
片方は、禿頭で白い角が生えている目つきが悪い人だ。
こちらもシャイタン兄さん同様に筋肉ムキムキであった。
もう片方の人は頭頂部に角は生え、額にも目がある三つ目の人だった。
こちらはやせ型で三つ目以外は普通の人間に見える。
「右に居る禿頭が七男アリオク。左の三つ目はデモゴルゴンだ。アリオク兄貴は王位継承権第十位。デモゴルゴン兄貴は王位継承権第十一位だ。アリオク兄貴は竹を割ったような性格で、デモゴルゴン兄貴はクールな性格だ」
オル兄ちゃんはざっくばらんに紹介した。
「アリオクは兄弟の中でも一~二を争う力持ちで、デモゴルゴンは魔人族でも珍しい三つ目族の血を引いているんだ。三つ目族は魔人族の中では生まれた頃から角が無い事と、名前の通りに目を三つ持っている事で有名な一族だよ」
ユミル兄さんがそう補足した。
三つ目族か初めて聞いた種族だな。魔人族にはそんな種族も居るんだ。
「二人に言えるのはそれぐらいかな。他には何もないかな」
「まぁ、この二人に言える事はこれぐらいだろう」
ソア兄上がそう言って、次の人を指差した。
「あれは九男のペイモンだ。王位継承権第十二位だ」
そう紹介した人は、ストロベリーブロンドの髪を腰まで伸ばし、額に角が生えた女のような顔だった。
あれ? 兄貴を紹介しているのに何故九男って紹介したんだ?
「女のような顔だが、あれで男だ」
リアル男の娘だ‼
うわぁ、本当に女性みたいな顔なんだな。
「博識で色々な事を知っている奴だ。まぁ、その分、アクが強いがな」
まぁ、男の娘だから、アクが強いだろうなぁ。
「おいおい、ソア兄貴、俺が紹介していたのに、何で兄貴がするんだよっ」
「お前が余計な事を色々話すからな、分かりやすく伝えた方が良かろう」
ソア兄上は次の人を指差した。
「次は十男のロノウェだ。王位継承権第十三位。兄弟の中では魔法の扱いが、かなり得意だ」
そう紹介した男性は、額に赤い角が生えいる上に、褐色の肌をした黒目の男性だ。
よく見ると尾を生やしていた。
「口が達者で、知恵者だ。それとあいつの職業が特殊だ」
「特殊?」
「ああ、あいつの職業は魔獣使いだ」
「魔獣使い?」
前世では聞かなかった職業だ。
「魔獣と話しが出来るそうだ。実際、あいつの魔獣師団は強力な魔獣を使役している」
「へぇ~」
今度、その魔獣を見せて貰おうかな。
「次はあいつだ」
ソア兄上は、次の人を指差した。
その人は何と言うか、骨と皮しかない男性だった。
うっすらと血管が見える。その上、目が血走っていた。
側頭部に山羊のような角が生えていたし、顔も骸骨みたいだった。
「十一男のガープだ。 あんな見た目だが、あれで普通の状態だ。王位継承権十四位で、死霊使いだ。配下の不死兵団もかなり出来る」
死霊使いか。ゾンビとか操れるのかな?
だとしたら、あれだな。バイオハザードとか出来るのかな?
今度、機会があったら聞いてみよう。
「その次はあそこで酒を飲んでいる奴だ」
兄上が指差した先には一人で酒を飲んでいる。
その人は青い肌で角が無い代わりに、髪が全て黒い鱗の蛇になっていた。
瞳孔の部分も縦長であった。
「十二男のナーガラジャだ。見て分かる通り、あいつの一族は体の何処かが蛇になっているという種族だ。あいつは兄弟の中で一番気難しい奴だ。あいつと話していると、時々、訳が分からない時に怒り出す」
そうなんだ。でも、足は普通の人間の足なんだ。
ラミアみたいに足も蛇にではないのか。
「良い忘れていたが、あいつの王位継承権はお前より下の十七位だ」
「えっ⁉ 何で?」
「あいつの一族は、数年前まで魔国に属さない種族だったからな。その関係であいつ母の身分がそんなに高くない。まぁ、本人も王位に興味は無さそうだがな」
僕より先に生まれても、別に継承権は高いという訳ではないのか。
「次が四女のヘルミーネだ。こやつの王位継承権第十五位だ。生まれは悪くないのだが、四女と生まれた順番でこの順位だ。リウイはいつも接しているから、どんな者か分かるだろう?」
「うん」
時々、ブレーキが壊れたダンプカーみたいな行動を取るけど、それを除いたら別段悪い人ではない。
むしろ、姉妹の中で一番優しいのではと思っている。
ちなみに僕に一番甘いのはイザドラ姉さんだ。
「次はあそこに居る奴らだ」
あれ? 今まで嫌な顔を一つしなかった兄上が、何で嫌そうな顔をするのだろう?
僕はオル兄ちゃんとユミル兄さんを見た。
二人も兄上が嫌そうな顔をする理由が分かっているのか、苦笑していた。
「あそこに居るのは、十三男と十四男だ」
兄上が指差した先の二人を見た。
片方はオールバックにした金髪。角が無い代わりに、背中に白い羽を四枚生やしていた。
琥珀色の瞳をしていた。
もう片方は、銀髪で容姿端麗で魔人族らしく側頭部に闘牛みたいな角を生やしていた。
腰には剣を差しているので、職業は剣士なのかな?
「金髪の方はヴァラディエル。見て分かるが、天人族の血を引いている。銀髪の方はサガモアだ。こちらは剣の腕が立つ」
「うん、それで」
「以上だ」
えっ⁉ 今迄の人に比べて、極端に説明が短くないですか?
「ふっふふ、兄上。二人を苦手と思うのは分かりますが、リウイにはちゃんと説明してあげても良いと思いますよ」
ユミル兄さんは、ソア兄上の説明があまりに短い事に苦笑しながらも窘める。
「知らん」
「ふっふふ、仕方がない。リウイ。あの二人はね。わたし達兄弟の中で一~二を争う武闘派なんだ」
「武闘派?」
「いやいや、ユミル兄貴。あの二人はそんな優しい表現で例えるべきじゃあねえだろ。あの二人はどっちかと言うと、戦闘狂だろ」
戦闘狂か。前世でも居たな。
でも、天人族の血を引いているのに、戦闘狂なのは珍しいな。
「ヴァラディエル兄貴もサガモア兄貴も見た目も良くて面倒見あって、性格は良い方なんだが、戦闘狂で全て台無しにしているんだ」
成程。つまりは、残念なイケメンという事か。
「ちなみにヴァラディエル兄貴は王位継承権第十八位で、サガモア兄貴は十九位だ。何で、二人が低いのかと言うと、ヴァラディエル兄貴は天人族の元奴隷の母親だからで、サガモア兄貴の方は、母親の身分が低いからなんだ」
奴隷か。それじゃあ仕方がないな。
先に生まれても、母親の序列で継承権が変わるのは、まぁ王族だったらよくある事だ。
「で、最後は十五男のオルヴェンドと五女ミリアリアだね」
「おう、気軽に兄ちゃんと呼んでくれよっ。何か分からない事や困った事があったら、バシバシ俺に言え」
オル兄ちゃんは胸を叩く。
気になる事があるので、僕は早速訊ねる。
「じゃあ、何でソア兄上は二人の事が嫌いなの?」
本人を前にして、僕はオル兄ちゃんに訊ねる。
「ああ、それはな。ソア兄貴とヴァラディエル兄貴は馬が合わなくてな、しょっちゅう喧嘩しているんだ。サガモア兄貴の事は嫌いという訳じゃなくて、ヴァラディエル兄貴と親しいから嫌いという感じだな」
それって、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって事?
ソア兄上は、意外と子供っぽい所があるんだな。
「オルヴィエ、余計な事を言うな」
ソア兄上は、オル兄ちゃんを見る。
「でもよ~、事実だろう」
「お前という奴は、言って良い事悪い事の区別もつかんのか? ああ、つかないから、こんな性格なのだな」
「いいだろう。別に。それを言ったら、兄貴だって、そんな高慢ちき言い方をするから、人に好かれないんだぜっ」
ソア兄上とオル兄ちゃんが口喧嘩を始めちゃった。
う~ん。どうしようか?
そう思っていると、ユミル兄さんが、僕をそっと押した。
「リウイ。その内、父上からお呼び出しが掛かると思うけど、それまでに他の兄上達と少しでも話をしてきなさい」
これは、ここに居ると喧嘩に巻き込まれるから、離れなさいと言っているのだろう。
兄上達と話すのも良いと思い、僕は頷いてその場を離れた。




