第21話 城に戻ると
眠っていたら、肩を揺すられた。
頭を揺すられたので、意識が覚醒した。
眠気はまだ若干残っていたが、目を開ける。
「もう、ついたの?」
「はい。着きましたよ」
アリアンに起こされた僕は、目をこすりながら体を起こす。
馬車が停まると、御者席からティナがやってきた。
「リウイ。着いたよ」
「分かったよ。じゃあ、行こう」
「はい」
僕はティナ達と一緒に馬車を降りた。
降りると、そこは城の中庭の中だった。
僕が降りた馬車は、直ぐに馬車を置く場所へと向かった。
因みに、その馬車を曳いていた魔獣は名前をフェルゲニシュという六本足の馬の姿をした魔獣だ。
空を駆ける事も出来、口から火を吹けるそうだ。
それを見送ると、ヘルミーネ姉さんがやってきた。
「リウイ。大丈夫?」
ヘルミーネ姉さんは優しく頭を撫でながら、訊いてきた。
今は何ともないとので、僕は笑顔で答えた。
「うん。大丈夫だよっ」
元気よく答えたので、ヘルミーネ姉さんも分かってくれただろう。
「そうか」
しかし、ヘルミーネ姉さんは抱き付いてきた。
何故に?
「リウイは良い子」
すいません。姉さん。
あまり胸を押し付けないで、ま、また鼻血が。
「ヘルミーネ。何をしているのですか‼」
おお、神よ。
貴方は、救いでは無く修羅場をお求めか。
こんな所をイザドラ姉さんが見たら。
「リウイは、先程大量の鼻血を出したばかりなのですよ。そんなに力強く抱き締めたら、また鼻血が出るかも知れないじゃないですか⁉」
そう言って、イザドラ姉さんはヘルミーネ姉さんの腕の中に居る僕を強引に奪い、ヘルミーネ姉さんよりも力強く抱き締めた。
こっちもこっちで胸が大きいので、その感触に思わず頬を緩ませる。
って、このままだと、また鼻血を噴射するかもしれない。平常心平常心。
「姉さん。そんなに力強く抱き締めたら、リウイが苦しそう」
「いいえ、リウイはわたしに抱き締められて嬉しいと思っています」
まぁ、嬉しいか嬉しくないかと聞かれたら嬉しいかな。うん。
「・・・・・・リウイは、わたしが抱き付かれたら、嫌?」
ヘルミーネ姉さんは訊ねてきた。
本人はただ聞いているつもりなのだろうが、正直に言って「嫌と答えたら、どうなるか分かっているのだろうな? あぁん⁉」という顔をしている。
目がね、何と言うか人を殺せそうなくらな目付きだから、姉さんの事を知らない人が見たら、睨んでいると思われるだろうな。
「・・・・・・全然、むしろ嬉しい」
ここは無難な答える。
「そうか・・・・・・・・」
口が三日月のように吊り上がった。
本人は喜んでいるのだろうが、見ているこっちからしたら、子供には見せられない顔だ。
イザドラ姉さんは、僕の返答を聞いて、ムッとしたようで僕の顔を自分を見る様にした。
「でも、どちらかと言うと、わたしの方がいいですよね?」
イザドラ姉さんはプレシャーを感じさせる笑顔を浮かべた。
暗に、抱き付かれたら一番嬉しいのはわたしですねと言っていた。
それを聞いて、ヘルミーネ姉さんはイザドラ姉さんを見る。
「違うと思う。リウイの一番は、わたし」
ヘルミーネ姉さんがそう言うと、何処からかピシッという音が聞こえてきた。
それに何故か寒気がする。
「ふっふふふふ、ヘルミーネ。貴方は面白い事を言いますね」
「・・・・・・姉さん程では、ないと思う」
何か、二人の間に火花が散っている気がする。見えないので分からないが。
このままだと、喧嘩も有り得るな。
そろそろ止めないと駄目だ。
僕は二人を止めようと、口を開いた瞬間。
「ウ~ちゃん、ゲット‼」
僕は二人の喧嘩を止めようとした瞬間。
何という事でしょう。イザドラ姉さんの腕の中におさまっていた僕が。
いつの間にか、フェル姉さんの腕の中にいます。
これは何処かの匠も吃驚だろう。
って、変な事を言っている場合じゃないな。
何時の間に、フェル姉さんが現れたんだ?
「んん~、それにしても。ウ~ちゃんの顔は何時でもスベスベしているわね~。羨ましいわ~」
フェル姉さんはそう言って、抱き締めながら僕の頬を頬ずりする。
「フェル。貴方、いつ帰って来たのですか? というよりも、リウイを離しなさい」
「ええ~、久しぶりに会えたのだから、いいじゃない。ん~っちゅ」
フェル姉さんは僕の頬にキスマークを付ける。
それを見て、イザドラ姉さんとヘルミーネ姉さんはムッとした。
「フェル。そんな目立つ所にキスマークを付けるとは、な、何とふしだらなっ」
姉さん、その言い方だと、目立たない所だったら付けて良いのかと思われるよ?
「・・・・・・・いいな。姉さん」
ヘルミーネ姉さん。貴方もキスマークを付けたいのですか?
いや、貴方は無理でしょう。意外と恥ずかしがり屋だから。
二人の〝気〟が高まっている。このままだと、中庭が戦場になりそうだ。
僕はフェル姉さんに話しかける。
「フェル姉さん、ところで何か用なの?」
「あら~、ウ~ちゃんは、わたしが用事もないとこうして、ウ~ちゃんの所にこないと思っているの? もし、そう思っているのなら、お姉さん悲しいわ~」
クスンクスんッと泣き真似をするフェル姉さん。
これじゃあ、話が進まないな。
そう思っていると、フェル姉さんは泣き真似を直ぐに止めた。
「な~んてね。お父様から皆に呼び出しが掛かったわ。直ちに魔都『ニヴルヘイム』に来るようにと、さっき使者が来たから、教えに来たのよ」
「魔都に?」
「わたし達、全員ですか?」
「ええ、イザドラ姉さんもわたしもヘルミーネも、アードラメレクも、勿論、リウイもね」
僕も行くのか。
というか、今知ったよ。この城が王宮じゃないと。
「父上は、わたし達に何の用なのでしょうか?」
「さぁ、詳しくは父様が話すとしか言っていなかったわ」
「ならば、さっさと支度をするとしようか」
「そうですね。アルティナ、リウイの支度を任せますよ」
「はい。畏まりました」
イザドラ姉さんはそう言って、自分の部屋へと向かった。
「わたしはアードラに教えるから、後でね。ウ~ちゃん」
僕を放しウインクして、兄貴の元に行くフェル姉さん。
「じゃあ、後で」
ヘルミーネ姉さんはそう言って、自分の部屋へと行く。
僕も自分の部屋に行き、準備するか。
行こうとしたら、アリアンがティナと話していた。
「先程の事は、ここではしょっちゅう起こるのですか?」
「う~ん。割りと頻繁に起こるね」
「はぁ、我がマスターは大変な姉君達をお持ちですね」
「リウイが係わらなかったら、すっごい有能な人達なんだけどね~」
何の話をしているのだろうか?
「ねぇ、何の話をしているの?」
「何でもないよ」
「それよりも、マスター、早く身支度を整えましょう」
二人に背中を押されて、僕は釈然としない中、部屋へと戻った。