第14話 捕獲失敗
兄貴達と一緒に、僕達はその魔獣が見つかった空域に向かった。
「後、どれくらい飛んだら、その魔獣が見つけれるんだろうな」
「さぁ、アードラメレク殿下の後について行けばいいんじゃあない」
ティナと話していると、兄貴の亜竜が近づいてきた。
「そろそろ、その魔獣が見つけた空域だから、お前らも気を付けろよ‼」
兄貴が声を掛けるので、僕も気になる事を訊く事にした。
「兄貴、その魔獣ってどんな姿をしているの?」
「俺も見てないから知らないが、見た奴の話だと、龍みたいな顔をして全身に鱗がある鹿の胴体をした魔獣だそうだぞ」
それって、麒麟だよな。
流石ファンタジーだ。僕の世界では実在す怪しい動物が居るとは。
「兄貴はその魔獣を捕まえたらどうするの?」
「いや、全然考えてない。ただ、見た事がない魔獣だから見てみたいだけだ」
捕まえた後の事を考えてないとは、いつもながら、兄貴は豪快だ。
出来ればだけど、その魔獣の背に乗ってみたいな。
そう考えていたら、視界の端で何か輝いているのが入った。
顔を向けると、そこには金色に輝く何かが見えた。
遠いのでよく分からないが、何かの動物のように見える。
「ティナ、あそこに居るのって」
「何々? って、あれが話に出ている魔獣?」
「多分、そうだと思う」
まさか、あんなに金色に輝く魔獣とは思わなかった。
そう言えば、麒麟って黄色い毛の種の事って書いてあったな。
もっと近くでみたいけど、これ以上近づけば、兄貴の捕獲の邪魔になるな。
「ティナ、少し離れよう」
「ええ~、もう少し見たい~」
「あまり近づくと、兄貴達の邪魔になるから」
「ぶう~、じゃあ、仕方が無いか」
ティナは魔獣から距離を取る。
どうやらあの金色に輝く魔獣が兄貴達のお目当ての魔獣だったようで、捕まえる為に包囲網を作った。
「包囲を徐々に詰めるように展開、そして捕獲するぞ‼」
「「「解解・殿下」」」
兄貴の号令の下、包囲網は徐々に縮まって行く。
そして、その魔獣の包囲が完了し後は捕まえるだけという所で。
「ヴォモ~~~~~~~~~」
その魔獣が吠えた。
すると、魔獣の周囲に焔が浮かび上がり、兄貴の部下達に向かっていく。
「猪口才なっ」
部下の一人が剣でその焔を斬ろうと振り下ろしたが、剣がその焔に当たった瞬間、一瞬光ったと思ったら派手な爆発をした。
その爆発をもろに喰らった部下の人は乗っている亜竜ごと地面へと墜落する。
「焔を直接攻撃するなっ。魔法で迎撃、出来ない場合は回避しろ‼」
兄貴は直ぐに命令を出した。部下の人達もその命令に忠実従った。
焔を回避しながら、魔獣に近付こうとした。
だが、魔獣も近寄る者達には角や蹄で攻撃をしかけ近づけないようしていた。
そんな風に小競り合いが続いていたが、魔獣はとうとう包囲網を突破した。
包囲を突破すると、魔獣は僕達の方に向かって駆けていく。
「やばっ、あの魔獣あたし達の方に来るんじゃない⁉」
「あの速さだと、旋回しても間に合わないっ」
「ど、どうしよう、リウイ⁉」
ティナは突然の事でパニックになっていた。
僕は気を落ち着かせる為、ティナの頭を撫でた。
「落ち着いて、ティナ。確かに速いけど、目で追える速度だ。ぶつかりそうになったら、旋回して躱せば大丈夫だよ」
「そ、そうだね」
ティナは落ち着きだした。これで大丈夫だろう。
さて、魔獣の方を見ると、目で追える速度で駆けている。
こうして見ると、この魔獣は黄色の鱗が全身を覆い、黄色の毛をしていた。
顔は龍の顔で、胴体は鹿、足の形は馬のようだ。尻尾は馬の尻尾。
これは本当に麒麟だと思った
「これが麒麟か、生まれて初めて見た」
「キリン? なにそれ?」
「この魔獣の種族名だよ」
「へぇ、そうなんだ」
と、そんな風に話している間にも、麒麟は近づいてきた。
うん? でも、よく見ると徐々に速度が落ちてないか?
身体を見ても、何処も怪我をした様子はない。
じゃあ、何で速度を落とすのだろう。
そう思いながら、僕は麒麟を見ていると、僕達から少し離れた所で止まりだした。
僕達は麒麟が突然止まりだしたので、首をかしげる。
「ど。どうしたんだろう?」
「さぁ」
僕達はそのまま麒麟を見ていると、麒麟の背後から兄貴達が向かって来る。
だが、麒麟は動かないで僕達をいや僕をジッと見ている。
何だろう。僕の顔に何か付いているのだろうか?
そして、麒麟は僕を見るの止めて、地上へと降りて行く。
「リウイ、大丈夫か?」
兄貴が声を掛けて来たので、僕は手を振って大丈夫だと答えた。
「しっかし、随分と手強い魔獣だったな」
「殿下、我らだけではあの魔獣を捕まえるのは無理です。増援を呼ぶか、改めて戦力を整えてから来た方が良いと思います」
「そうだな。俺もそう思う。あの魔獣は改めて捕まえる事としよう」
「分かりました。殿下、これからどうなさいます」
部下の一人がそう尋ねるのは、もう日が暮れかけているからだ。
このまま城まで休みなく駆けるのか、それとも野宿するのか訊いているのだろう。
「戦闘した後で、このまま城まで駆けるのは亜竜に負担を掛け過ぎだろう。今日は野宿するぞ」
「分かりました。先程撃墜した者も捜索がてら、野宿に適した場所を探します」
「ああ、任せた」
兄貴がそう言うと、部下の人達は方々に散った。
部下の人達が行ったのを見送り、兄貴は僕に話しかけて来た。
「しっかし、あの魔獣強いかったな。あんなに強いなら、もっと手勢を連れてこればよかったぜ」
「そうだね」
「それにしても、あの魔獣は見た事もない種だったな。顔が龍っぽいから龍種なのか?」
「多分、違うと思うよ」
「うん? リウイ、何か知っているのか?」
「あれは麒麟という種族の魔獣だよ」
「キリン?」
「うん。地方によっては瑞獣と言われる程ありがたがれる魔獣なんだよ」
「瑞獣? 何、それ?」
「幸運を呼ぶ神聖な獣の事だよ。中には神の使いとまで言われる獣も居るそうだよ」
「おいおい、俺はそんな凄い魔獣を捕まえようとしたのか⁉」
「うん。そうなるね」
「まじか、じゃあ、今回の戦力だったら捕獲も倒すのも無理だったんだろうな」
「でも、そんなに強いのに、どうして被害が少なすぎない?」
「僕が知っている中では、麒麟は瑞獣の中では仁徳が高い獣らしいよ」
「仁徳が高い?」
「うん。地面を歩く際、虫を踏んでも大丈夫なように足の裏に毛が生えているって、本に書いてあった」
「おいおい、随分と慈悲深い生き物だ」
「リウイ、凄いね。そんな事を何処で知ったの?」
「あ、ああ~、本で読んで知ったの」
「流石は俺の弟だ。良く本を読んでやがる。はっははは」
兄貴は豪快に笑いだした。
そうして話していると、墜落した部下の人が乗っていた亜竜と捜索していた人達と共に僕達の所に来た。見た感じ怪我も殆どなく、本人も行動に支障はないと言っていた。
それを見て、兄貴は「やっぱり、リウイの言う通り、慈悲深い魔獣なんだな」と頷いた。
部下の人は兄貴の言う意味が分からず、首をかしげる。
兄貴は気にするなと手を振る。
そして直ぐに方々に散った部下の人達が戻ってきた。
野宿できる場所を見つけと言うので、僕達はそこに向かった。
案内された場所は、山の中腹で川が近くにあり飲み水に不便がない所だった。
「おし、今日はここで野宿するぞ」
兄貴がそう言うと、部下の人達は指示も出されてないのに、テキパキと野宿の準備に取り掛かった。
僕達も手伝おうかと思い、兄貴に訊こうとしたら。
「殿下、大変です!」
周囲を警戒していた部下の人が慌てて、兄貴の前に来た。
「どうかしたか?」
「はっ、麓の方から沢山の灯りが見えます」
「灯り?」
「はい。確認に向かった者の報告によりますと『『魔導甲殻兵団』と『死神騎士団』の旗を見たそうです」
「はぁ? 何で、イザドラ姉貴とヘルミーネがここに居るんだ?」
「わたしも分かりません」
僕もそう思う。
「とりあえず、二人の話を聞きに行くか」
兄貴がそう言うので、僕も一緒に付いて行く事にした。