第13話 魔獣の捕獲か、初めてだな。
ティナの亜竜に乗って、駆ける事数分。
最初はどこまで行くのだろうと思っていたが、目的地は近かった。
城の近くの平原に向かっているようだ。
「そう言えば、何のために亜竜に乗っている?」
「最初は気晴らしに乗り回していたら、平原を飛んでいたら、アードラメレク殿下に会ったんだ」
「兄貴に? それで?」
「殿下が麾下の騎士団と一緒に何処かに出掛けるようだから、あたしも一緒に付いて行っていいですかって聞いたら、快く承諾してくれたんだ」
「成程。で、僕も一緒に行く理由はなんなのかな?」
「殿下が『ついでにリウイも連れて来い』って言うから連れて来る事になったの」
「そう言う訳か、ところで、兄貴は何処に行くの?」
「たしか、珍しい魔獣を捕まえるとか言っていたな」
「珍しい魔獣?」
兄貴は好奇心旺盛だから、その魔獣を一目見て面白そうだから捕まえようと思ったんだろうな。
「魔獣か、どんな魔獣なんだろうな」
「楽しみ?」
「まぁね。兄貴が行くぐらいだから、凄い魔獣のようだけど」
そう言っている間に、兄貴達が居る所に着いた。
兄貴も僕達に気付いたのか、手を振っている。
「じゃあ、おりるけど。落ちないでね」
「わかった」
ティナは見事な手綱さばきで、亜竜を動かし兄貴達から少し離れた所で地面に着陸した。
僕達は亜竜から降りて、兄貴に挨拶した。
「おお、良く来たな。リウイ」
「御機嫌よう。兄貴」
「はっはは、どうせ暇だろうから、アルティナに連れて来いと言ったが、大丈夫だったか?」
「別に問題はないけど、でも誰にも言わないで来たから、ちょっとまずいかも」
「はっははは、心配いらん。今、部下の一人を城に向かわせたから、大丈夫だ」
「なら、大丈夫だね」
「応とも。それじゃあ、行くとするか」
「分かった」
「総員騎乗、これより、件の魔獣の捕獲に向かう‼」
兄貴がそう号令すると、部下の人達が一糸乱れぬ事無く魔獣に騎乗した。
今回も亜竜なので、また新兵を中心に連れてきたようだ。
「今日の亜竜は翼を持っている亜竜という事は、飛んでいるのか」
「そうだ。これがけっこう早くてな。捕まえるに手間がかかるかもしれん」
「ふ~ん、そうなんだ」
「さて、お前も早く乗れよ。あまり遅いと置いてくぞ」
兄貴はそう言って、傍にいる亜竜に騎乗した。
ティナと声を掛けようとしたら、居なかったので周りを見ると、既にティナは亜竜の背に乗っていた。
「いつの間に」
「そんな事はいいから、早く乗ってよ。殿下達に遅れるじゃない」
「分かったよ」
僕はティナの後ろに座る。僕が乗ったのを確認したティナは亜竜の腹を蹴り飛び立たせた。
リウイがアードラメレクと共に魔獣の捕獲に行っていた頃。
ヘルミーネ「~~~~~~~♪」
ヘルミーネは鼻歌を歌いながらご機嫌な様子で廊下を歩いていた。
今日は久しぶりにリウイの所に顔を出せるので、嬉しいのだろう。
その浮かべている顔がまるで「よし、これからたっぷりと教育してやる。ありがたく思え」という顔でなければ、誰も何とも思わないだろう。
事実、道を歩いているメイド達はヘルミーネの顔を見るなり、悲鳴をあげそうになるのを抑えて、脇にそれてヘルミーネに道を譲る。
ヘルミーネは道を譲ってくれた事に感謝して、笑顔を浮かべた。
だが、その笑顔はどうしようもなく怖くて、皆、全身を生まれたての鹿のように震わせながら、笑顔を浮かべる。
顔は引きつっているのだが、ヘルミーネは気付いた様子はない。
そして、ヘルミーネはリウイの部屋の前に着いた。
部屋の前に着くなり、ヘルミーネは変な所がないか確認した。
そして、ノックもしないでドアを開けた。
「リウイ」
だが、声を掛けても部屋には誰も居なかった。
部屋の中を見回しても、何処かにいる様子はなかった。
しかも、不自然な事に窓だけ開いていた。
「今日は部屋に居ると聞いていたのだけど・・・・・・・・まさかっ⁉」
ヘルミーネの頭の中に誘拐の二文字が浮かんだ。
「た、たいへん。イザドラ姉さんに知らせないとっ」
ヘルミーネは慌てて、部屋を出てイザドラの下に向かった。
何故、イザドラの下に向かったのかと言うと、日頃から親しいのもあるが、他の姉達が用事で城を離れている為、イザドラにしか頼めなかったのだ。
しかも間が悪い事に、ミリアリアも暇つぶしに城を出て城下を散歩していた。
ストッパーといえる者達がいない状態で、暴走する二人がどうなるか火を見るよりも明らかであった。
ヘルミーネはイザドラの下に着くと、自分が見た状況をありのままに説明した。
それを聞いて、イザドラは直ちに自分の麾下の軍とヘルミーネの軍を招集させて、リウイ捜索を行った。
アードラメレクが出した使いが到着したのは、二人が捜索に城を出た後であった。