第10話 ダンスを始めて踊る
宴は僕達を歓迎する為に開かれたので、主賓であるクラスメート達は瞬く間に、貴婦人達に捕まってしまった。
ちなみに僕は捕まらなかった。この顔はどうも貴婦人達の好みではないようだ。
まぁ、知らない女の人に取り囲まれたら、どう対処したらいいか分からないので良いと思う事にした。
別に、他のクラスメート達が女性に取り囲まれていても、羨ましいと思ってなんかないんだ!
僕は何かの果物で味付けられた水を飲みながら、この宴にいる人達の様子を窺う。
(早く部屋に戻って眠りたいな、でも、一応僕も主賓なんだから、僕が先にこの広間を出ると、失礼になるよな、はぁ~)
壁の花になった僕は、貴婦人達が集まるクラスメート達を見ながら、一人水を飲む。
このまま、宴が終るまでこうしていようかなと思っていたら、男性が一人近寄ってきた。
「おや、貴方は召喚された異世界人なのに、何故こんな所に居るのですかな?」
中肉中背で、茶髪の髪を肩口で切り揃えた平凡な顔をした人が話しかけてきた。
「あの失礼ですが、貴方は?」
「これは失礼、わたしは、エゼキエル・フォン・アスクレイと申す。以後お見知りおきを」
「フォン? と言う事は、貴族様でしょうか?」
「左様、わたしの家は侯爵家である」
「こうしゃく? 公の方ですか。それとも候、いや違うもう一つのほうですか?」
「もう一つの方ですな」
「そうですか。それと先程から失礼な態度を取りまして、ご容赦下さい。何分、この世界に来て日が浅いので、ご寛恕の程を」
「いやいや、気にしないで結構。貴方たちは、我らと違う世界から来たのだから、我らと文化と風習が違っているのが当然の事だ」
「ご理解いただきありがとうございます」
僕は頭を下げる。
「それよりも、貴殿はどうしてこんな所に? 貴方のお仲間は先程から御婦人方が取り囲んでいるというのに」
「僕はどうも、女性に好かれる顔ではないようで・・・・・・」
苦笑しながら告げる。
改めて、女性に取り囲まれているクラスメート達を見た。
良く見ると、北畠君が女性の中に入ろうとしているが、入れずしまいには邪魔者扱いされて突き飛ばされていた。それでもあきらめずに入ろうとしていたが、出来ず最後には静かに広間から出て行った。
その様子を誰も見ていないので、余計に哀れだった。
「・・・・・・僕もそろそろ、部屋に行こかな」
「まぁまぁ、そう言わず、もう少し話でもしようではないですか。そうだ。そちらの世界の事を少し話して頂けないでしょうか」
「えっ、僕達の居た世界の事ですか?」
「はい、どのような世界でどんな文化なのか話して頂けないでしょうか」
う~ん、話しても良いのかな?
こっちの技術の事を話したら、色々な事が台無しになりそうな気がするし、でも、いずれはクラスの誰かが話すだろうし、悩むな。
少し悩んだ。結果、僕が説明できることを話す事にした。
「分かりました。僕が説明できる事なら、何でも話します」
「おお、ありがたい」
「じゃあ、まずは僕の国の政治体制とか歴史をお話します」
「お願いします」
僕はこのエゼキエルと言う人に話しだす。
話す途中で、エゼキエルさんが何故そうなったか聞いて来るが、僕は丁寧に説明した。
それで話だして、この人と話していると面白くて、ついつい話し込んでしまった。
「成程、民主主義とはそのような考えなのですね」
「ええ、民主主義のほかにも資本主義、社会主義、共産主義後は自由主義などがあります」
「主義と言うのは、一言で言っても色々とあるのですな」
「そうですね。人一人考え方はそれぞれ違うと言うのが良く分かります」
「話を聞いていたら、そう思えますな。他に何かありますかな?」
「他には」
「あら、普段はこのような宴の席では壁の花になっているアスクレイ侯爵が。誰かと真剣に話している所など久しぶりにみますね」
女性の声が聞こえたので、僕達は振り返ると、そこには女性の取り巻きを連れた。金髪を腰まで伸ばしいる女性が居た。
よく見ると、着ているドレスには胸や肩といった所には、金属のパーツが組み込まれている。
更に篭手に脚甲を着けている。騎士だろうか?
加えて何故か仮面を被っていた。おかげで、顔がよく見えない。
「こ、これは姫様。お早い御帰還で、このエゼキエルお帰りを心よりお待ちしておりました」
「それはありがたい。それでそちの隣にいるのが?」
「ええ、異世界から来た同胞です」
「そうか」
この姫様と言われた女性は仮面越しに僕を見る。
仮面奥に見える目には、何かに怒りを抱いているように見える。
「こちらは、我が国の第一王女であらせられる。アウラ・エクセラ・ロンディバルア様です」
「初めまして、僕は」
名前を言おうとしたら、広間に流れる音楽が変わった。
それと同時に、広間の中央で誰かが躍り出す。
「舞踏会もするのか。僕は踊った事ないな」
「いかがです。姫様と踊るというのは?」
「えっ⁉ でも」
「姫様も偶には踊りませんと、ステップを忘れるかもしれませんからな」
エゼキエルさんはカラカラと笑いながら言う。
「侯爵様、流石に失礼ですよ!」
取り巻きの一人がそう言うが。
「わたしは構わん」
姫様がそう言うと、取り巻きの人達が驚いたような顔をしている。
「姫様⁉」
「よい、偶には誰かと踊るのも、良い余興になろう」
姫様は手を前に出す。
「さて、異世界から来た同胞よ。踊っていただけるかな?」
何か、試されているよな気がするけど、まぁいいや。
僕は姫様の手を取る。
「無作法者ですが、喜んで」
僕は姫の手を取ると、姫は身体をビクンと震えた。
「? どうかしました?」
「いや、別に、そなた、名前は?」
「僕ですか。僕は猪田信康と申します」
「イノータ・ノブヤスか・・・・・・覚えておこう」
姫は僕の手を取り、広間の中央に行く。
僕達は広間の中央で踊る事になった。