第8話 姉の拘束がきつくなった気がする
アードラ兄貴と一緒に魔物退治に行ってから、どうも姉達が頻繁に部屋に来るようになった気がする。
特にイザドラ姉さんは仕事で忙しい筈なのに一日に一回は顔を出すようになった。
「リウイ、つまらなくはありませんか?」
今日も仕事中なのに、僕を膝の上に乗せてある書類を見ている。
「う~ん、べつに、だいじょぶ」
「そうですか。なるべく早く終わらせるから、少しだけ待っていてくださいね」
イザドラ姉さんは僕を膝に乗せながら、仕事をこなす。
何故、姉さんが僕を膝に乗せているのかというと、これには理由があった。
この前の魔物退治がアードラ兄貴だけではなく、勝手に部屋を出た僕にも一因があるとロゼティータ姉さんが言った。
なので、これからは常時メイドを傍に置くようという提案がされた。
まだ幼いので、僕には嫌だと言える権利もなく、ロゼティータ姉さんの意見は直ぐに採用された。
それからというものの、常に僕の傍に誰かがいる様になった。
とは言えだ。流石に常時誰かに見張られていると思うと息苦しい。
なので、時たまメイドや姉さん達の目を盗んで逃げ出した
でも、どんな手段を使ってるのか分からないが、僕が逃げ出すと直ぐに気付かれ追い駆けられる。
その追い駆ける姿を見て僕は思った。
ああ、某海賊王のアニメと同じ局で鬼ごっこのバラエティー番組に出て来る追い駆けられる人の気持ちがわかった。
追い駆けられるのって意外に怖いな。
そんな訳で結構な割合で捕まるけど、そこは学習して捕まらないようにしていった。
通算二百五十四回の逃亡の末に、僕は自由を手に入れた。
まぁ、今回の監視する人がヘルミーネ姉さんだったので出し抜ける事が出来た。
まずは姉さんにかくれんぼしようと持ちかけた。
姉さんは素直に乗ってくれて、鬼役にしてくれた。
そして、姉さんが数えている間に、僕は部屋を抜け出した。
一目散に走った。
ここは敢えて、目的地を定めない。そうする事で捕まる可能性は少しでも下がる筈だ。
そして適当に逃げた先。僕は一息ついていると、向こうからイザドラ姉さんが部下の人と話しながらこちらに向かってきた。
これはまずいと思い、僕は通路の角に隠れた。
恐らく、姉さん達はこのまま進むだろうと思いそのまま身を潜ませた。
ドキドキしながら、姉さん達が通り過ぎる様に祈った。
そして目論見通りに、姉さん達は曲がらないでそのまま進んで行った。
僕は安堵の息を吐いた。
ここに居たら、誰かに見つかるかもしれないと思い、僕は来た道を戻ろうしたら。
背後から誰かに持ち上げられた。
誰だと思い、振り返るとそこには満面の笑みを浮かべたイザドラ姉さんが居た。
その後ろには、先程まで話していた部下の人も居た。
『な、なんで?』
『ふっふふ、リウイの気配を感じたので一度通り過ぎたフリをしたのは正解でしたね』
イザドラ姉さんは頬ずりしながら、この場に居るのか教えてくれた。
くそ~、ちゃんと行ったか確認すればよかった。
と言うか、気配って、あんたはどこぞの武闘家か⁉
『また、勝手に何処かに行こうとしましたね? そんな悪い子はお姉ちゃんと一緒に居ましょうね~』
この場に僕が居る理由は凡そ予想されていたようで、僕は逃げ出す事も出来ないまま、イザドラ姉さんに連れて行かれた。
そして、今姉さんの膝の上に居るのだ。
暇と言えば暇だけど、こうして誰かの仕事風景を見るのも久しぶりだな。
そのまま姉さんの仕事風景を見ていると、偶々書類が目に入った。
書類内容は、財政関係のようだ。
よく見ると明らかに改ざんした形跡があった。
「ねえさん、これ」
「うん? どうかしましたか?」
僕はイザドラ姉さんにそれを見せると、姉さんはその意味を直ぐに理解してくれた。
「ふむ。収益が明らかに改ざんされていますね。誰か」
「はっ、何でしょうか?」
「至急、この書類に書かれている町に行って内情を把握してきなさい」
「畏まりました」
部下の人がそう言って、部屋から出て行った。
「良く気付きましたね。リウイ」
イザドラ姉さんは笑顔で僕の頭を撫でた。
「それにしても、リウイはまだ文字も数字も教えていないのに、よく理解しましたね」
この世界の文字と数字はこの世界に来た時に学んでいるのだから、読めるのは当然だ。
イザドラ姉さんは戯れなのか、書類を一枚手に取り僕に見せた。
「リウイ、貴方はこの案件をどう処理しますか?」
そう言われたので、僕は書類を見た。
何々、二つの村の間にある山の領有権で揉めているので、どうにかしてほしいという嘆願書か。
流石にこれだけでは判断が出来ないな。
「しりょうがほしい」
「これですね」
イザドラ姉さんは資料を見せてくれた。
ふむふむ。最初この土地には村は一つしかなかったけど、開拓が進んでもう一つ村が出来たのか。
生活する以上、薪は必要だ。しかし、取り過ぎると木が無くなる。それにより二つの村が揉めているのか。これはそうだな。
「ぶつぶつこうかんしたらいいとおもう」
「交換ですか? どんな」
「この二つのむらのあいだには、山のほかにもみずうみがあるから、二つのむらはそれをどちらかをりょうゆうして、さかながほしかったらたきぎをわたして、たきぎがほしかったらさかなをあげればいいとおもう」
「成程、そんな考えもあるのですね。わたしだったら、二つの村を合併させて一つの村にします」
その手もあるけど、そうなったらどちらの村で暮らすかとか問題が起こりそうだ。
なので、ぼくはこうすることにした。
「リウイは本当に頭が良いですね。偶に仕事を手伝ってもらおうかしら」
冗談交じりで姉さんは聞いてきた。
「いいよ~」
「そう、ありがとう」
姉さんはそう言って仕事をして、偶に僕の意見を聞いたりした。
リウイがイザドラに拘束されている頃。
ヘルミーネ「・・・・・・・・・・・・・」
ヘルミーネはロゼティータの部屋で体育座りをしながら、のの字書いていた。
ロゼティータ「ああ、そのなんじゃ。元気をだせ」
ヘルミーネ「・・・・・・・リウイ、逃げた。やっぱり、わたし嫌われているのかな?」
ロゼティータ「そんな事はなかろう。別にリィンはお主の事を嫌ったりはしておらんよ」
ヘルミーネ「嘘。じゃあ、何で逃げるの?」
ロゼティータ「う~ん、あやつも一人になりたい時があるのじゃろう」
ヘルミーネ「・・・・・やっぱり、嫌われている」
ロゼティータ「じゃから違うと言うに」
しかし、ロゼティータがどれだけ言ってもヘルミーネは陰鬱なままであった。
ロゼティータ「ほんに、面倒な妹じゃ」
溜め息を吐き、茶を飲んで喉を潤した。
そして、ようやくイザドラの拘束から抜け出したリウイは、ロゼティータの部屋を訪ねヘルミーネに謝った。
すると、ヘルミーネは直ぐに元気を取り戻した。
リウイを抱っこして遊びに出掛けた。
ロゼティータはその背を見送り、二人が出て行くと叫んだ。
ロゼティータ「面倒くさい妹じゃのうっ⁉」