第5話 何故、こんな所にいるのだろう?
アドラ兄貴に拉致? された僕は、兄貴の乗騎している魔物に乗った。
兄貴にこの魔物の名前を聞くと『タイラント・ギガントドラゴ』という亜竜だそうだ。
何と言うか大型トレーラーぐらいありそうな大きさのティラノサウルスだ。
背中に身体に見合った鞍を取り付けられており、三人ぐらいは座る事が出来そうだ。
兄貴は僕を前に乗せて自分も鞍に跨った。
部下の人達が兄貴の乗っている魔物よりも一回りほど小さい亜竜に跨りだした。
「兄貴、あれは?」
ここにいたって、僕はただをこねずに大人しくしていた。それで分からない事は兄貴に訊く事にした。
それで部下達が乗っている魔物は何なのか訊いた。
見た感じトリケラトプスに似ている。
でも、角の部分は軽く二メートルはあるしフリルの部分が図鑑で見たと物よりも幾分か小さい。
「あれか、あれはな『ツインホーンサウロス』という亜竜だ」
「亜竜なんだ」
「ああ、雑食だからな。何でも食べるぞ。その分馬力も半端ないけどな」
雑食か。草食じゃあないんだ。
流石は異世界。似たような物でも違うんだな。
「ちなみに、俺の乗騎にしているこいつはな、デカい見た目に反して草食だぞ。面白いだろう?」
このティラノサウルスみたいな魔物が、牛が食べる草みたいな物や人参を食べるのか。かなりシュールだな。
「さて、全員騎乗したな」
部下の人達が全員魔物に騎乗したのを確認した兄貴は手綱を取り、分厚い門の所まで進んだ。
「開門しろ‼ これより、平原に現れた魔物を退治に向かう‼」
「開門します。ご武運を!」
門の前にいた兵士の人が閂を抜いて、門を開けてくれた。
兄貴は兵士の人に手をあげると、兵士の人は一礼して僕達を見送った。
門をくぐると、そこにあったのは街があった。
後ろを振り向くと、出て来た門が見えて更にその後方には立派な城が建っていた。
考えてみれば、僕は魔王の息子ということだから、城に住むのは当然か。
城下街の道をを進むと、街に住んでいる住人達が道の脇に立ち声援を見ている。
中には「おお、あれが。アードラメレク殿下の皇竜騎士団か」とか「でも、殿下が乗ってるいるのって亜竜じゃないのか?」とか言っていた。
皇竜騎士団か。前世じゃあ、魔人族にそんな部隊があると聞いていない。
だとしたら、僕が死んでからかなりの年月が経っていると考えた方がいいな。
どれくらい経ったかは分からないが。一つだけ言える事はある。それは。
「もう皆に会えないのか・・・・・・・」
「うん? 何か言ったか?」
「うんうん。皇竜騎士団って言うんだ。この部隊」
「応、そうだ。ただ、今回の魔物退治は新兵を中心に連れて来たからな。連携が取れる様にこの亜竜にしたからな」
成程。今回魔物退治に連れて行く皇竜騎士団の面々の殆どは新兵なんだ。
つまり、亜竜に乗る=新兵という事か。
ベテランになるとちゃんとした竜を貰えると考えていいのかな?
「じゃあ、こんかいのまものたいじは、れんぺーのため?」
「おっ、良く分かった。その通りだ。凄いぞ。リウイ」
兄貴は僕の頭を撫でる。
それにしても、今回の魔物退治は新兵が中心で、しかも翼を持った翼竜タイプではなく、更に突進力がある地を駆けるタイプの亜竜だという事は、今回狩る魔物は翼は無くそれでいて硬い魔物という事か。
「兄貴」
「おう、なんだ?」
「こんかいかるまものは、何っていうの?」
「ああ、お前に言っても分からないだろうが『ブラウン・ベアー』だ」
ブラウン・ベアー。
熊の魔物か。確か、熊の魔物にしては珍しく群れをつくる習性をあるんだっけ。
「その魔物がこれから向かう所に現れてな。俺達はそれを退治に行くんだ。まぁ、数からしたら五百頭ぐらいいるらしいが、こっちは倍の千騎だ。突撃したら勝てるだろう」
う~ん。何か不安だ。
まぁ、現場を見て、地形に合わせた作戦を考えればいいか。
話してみて分かったけど、この人。強引な所はあるけど、人の話を聞く度量はあるようだ。
度量があるなら、後はどうとでも出来る。
そう思いながら、僕は亜竜に揺られながら目的地がどんな所か思いをはせた。
リウイがアードラメレクと共に城下町の道を進んでいた時。
ミリアリア「リウ~、何処~? いたら返事して~」
城の中を駆けながら、リウイに声を掛けるミリアリア。
その声を聞いてか、道の角からロゼティータ、ヘルミーネ、フェルが顔を出した。
フェル「どうしたの? そんな大きな声をだして?」
ミリアリア「それがさ、リウがどっかに行っちゃって」
ヘルミーネ「リウイが?」
フェル「あら、それは大変ね」
ロゼティータ「どうせ、歩けるようになって歩き回って疲れて何処かで休んでいるのじゃろう。放って置けばよかろう」
ミリアリア「でも、城の中探したけど、何処にも居ないんだよ」
ヘルミーネ「・・・・・・・・・・」
何処かに駆けだそうとしたヘルミーネの肩と裾を掴むフェルとロゼティータ。
ロゼティータ「待て。ヘルミーネ。お主、何処に行くつもりじゃ?」
ヘルミーネ「何処って、リウイを探しに」
フェル「もう、落ち着きなさいよ。貴方、ウ~ちゃんが可愛いのは知っているけど、今の貴方じゃあ麾下の部隊を総動員して探し出そうな顔をしていたわよ」
ヘルミーネ「~~~~~~~~~~」
ロゼティータ「図星か。ほんにお主は分かりやすいのう」
ミリアリア「あ、あはは、流石にヘル姉の部隊を総動員するのはやりすぎかな」
フェル「そうよ。ここは人に訊ねれば良いでしょう。ねぇ、そこのあなた」
丁度いいタイミングとばかりに、前からメイドが歩いてきた。
メイド「はい。何か御用でしょうか?」
フェル「三歳くらいで蒼銀髪の子供を知らないかしら?」
メイド「蒼銀髪の子供ですか。わたしは見ていませんが、他の者が見ているかもしれません。少々お待ち下さい」
そう言って、メイドは指を米神に当てて目をつぶりだした。
少しして、メイドが変なポーズを解いて、フェルたちの方を見た。
メイド「見た者の話しによりますと、第二王子のアードラメレク様とその麾下の皇竜騎士団の者達と一緒に魔物退治に向かったそうです」
ロゼティータ「ほれ。そんなに心配する事ではなかろう。アドラは口は悪いが、根は良い奴じゃ。相手をしてくれようぞ・・・・・・・」
ロゼティータは言っていて、メイドの口からとんでもない事を聞き、耳を疑った。
フェル「ねぇ、もう一度言ってくれるかしら、誰が誰と一緒に魔物退治に行ったの?」
メイド「お探しの子供は、アードラメレク王子とその麾下の皇竜騎士団の者達と一緒に魔物退治に向かいました」
聞き間違いだと思いもう一度訊いてみたが、先程と同じ内容の言葉が返ってきた。
ロゼティータ・フェル・ミリアリア「・・・・・・・・・・・・」
三人は言葉を失っていた。
ロゼティータ「・・・・・・こうしてはおられん。イザドラにこの話が耳に入らないようにせねば」
フェル「そうね。イザドラ姉さん、リウイをそれはもう目に入れても痛くない程可愛がっているものね。アードラと一緒に魔物退治に行ったなんて聞いたら」
フェルは口から火を吐きながら怒る姉の姿が容易に思い浮かんだ。
ロゼティータ「それだけなら、まだよい。下手をしたらあやつの麾下の軍団を使うかもしれんぞ」
イザドラは次期宰相と言われる程に政に長けているが、武の方でも姉弟の中でも指折りの実力者だ。
更に自ら鍛え上げた軍団『魔導甲殻兵団』という軍団がある。
この兵団は魔力を動力にした兵器を使う軍団で末端の兵士でも精鋭揃いという軍だ。
もし、今の話を聞けば、すぐさま『魔導甲殻兵団」を集めてアードラメレク達の後を追いかける姿が、二人の目に浮かんでいた。
フェル「イザドラ姉さんの耳に入らないようにしないと」
ロゼティータ「当然じゃ」
ミリアリア「あれ? ヘル姉は?」
ミリアリアの声でロゼティータ達は周りを見ると、ヘルミーネの姿がなかった。
フェル「いつの間に⁉」
ロゼティータ「まずい‼ あやつも自分の麾下の軍を集めるつもりじゃっ」
フェル「直ぐに止めないとっ」
ロゼティータ達は駆けだした。
三人がヘルミーネの下に来た時には、既にヘルミーネの軍がある程度集まっている状態であった。三人はそれを押しとどめていたら、騒ぎを聞きつけたイザドラが現れた。
イザドラは話を聞いている途中から、顔がまるで怒れる龍のような顔になっていった。
怒りのあまりに、口から火を吐き出した。
イザドラは自分の軍を集めようとしたので、三人は実力行使で二人を止める事になった。