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第9話 ようやく王様とご対面

 クラスの皆は、各々好きに手を挙げる。

 結果、戦争に参加する者・・・・・・二十八名

    参加しない者・・・・・・十五名

 という結果になった。

 僕は戦争に参加する方だ。

 天城君は参加するのは分かるが、西園寺君も参加するのは驚いた。

 それに加えて、椎名さんとユエとマイちゃんまで戦争に参加する組に入って来た。

 僕は止めた方が良いよと忠告したんだが、三人とも聞いてはくれなかった。

 まぁ、我が校三大女神が参加するということで、戦争に参加組は喜んでいた。

 話し合いも終わり、僕達は渡されたベルを鳴らす。

 すると、部屋の扉が開き、中に入って来たのはライデルだった。

 てっきり、メイドさんが入って来て、その人がライデルを呼んでくるのだろうと思っていた。

「ベルを鳴らすと言う事は、話し合いが終わったという事でしょうか?」

「ええ、決まりました」

 天城君がそう答える。

「では、どのような結果になりましたか?」

「戦争に参加する者と参加しない者と二つに分かれました」

「左様ですか。では、御足労ですが、皆様にはこのまま王宮に来ていただけないでしょうか」

「それはどうしてですか?」

「王の予定が変更になりまして、今日皆様にお会いになるそうです」

「王様が⁉」

 僕達を呼んだ根源。

 確か、別の国で会談があるとかで、今は国外に出ているって聞いたな。

 会談が予定よりも早く終わったのか、それとも会談が物別れになったから帰って来たのか?

 どっちにしろ今は情報が足りないので、判断が出来ない。

(とりあえず、王様に会って話を聞いた方が良いな。今後の為にも)

 クラスの皆も反対はないようで、ライデルの案内で僕達は建物の外に出る。

 エントランスから外に出ると、何台も馬車が鎮座していた。

 更にその馬車の周りには、全身フルプレートの鎧を着た人達が馬の手綱を持って直立不動の体勢で待っている。

 僕達は馬車と馬に乗っている人達を見てポカンとしていた。

 馬車なんて、ドラマか写真でしか見た事がないし、鎧を着ている人なんて見た事もないのだから。

 呆けていたら、鎧を着ている人達の中から、自分が持っていた手綱を近くに居る者に預けて僕達の所にやってくる。

 良く見ると、鎧には豪華だけど実用的な飾りが各所に着けている。どうやら、あの鎧を着ている人達の中で偉い人なのだろうと思う。

「大司教殿、お迎えに参りました」

「ご苦労です、騎士団長閣下」

(今、騎士団長って言ったよね! この人が⁉)

 顔を見たら三十代半ばで、刈り上げの金髪の髪。髭はないが、男くささを感じさせる人だった。

「皆さま、こちらは我が国の騎士団の団長を務めている。レオン・フォン・シルデールと言う者です」

「初めまして、わたしは王国騎士団長のレオン・フォン・シルデールだ。よろしく頼む」

 向こうは頭を下げるので、僕達も向こうに倣い頭を下げる。

「騎士団長、道中の警護を頼みますぞ」

「お任せ下さい。皆様の身は必ずお守りします」

 レオン団長が自信あり気に胸を叩く。

「では、皆様は馬車にお乗りください。一つの馬車には四人程乗れます」

 ライデルがそう言うので、皆四人でグループを作ってそれぞれの馬車に乗る。

(僕も誰かと一緒に馬車に入るか、女子だと気が落ち着かないから、男子と)

 そう思い、何処かの男子だけのグループはないかと見ると、

 ガシッ|(×2)

 僕の両肩が同時に掴まれた。

「えっ⁉」

「ほら、ノブ、一緒の馬車に乗るぞ」

「ノッ君、行こう」

 僕は二人に肩を掴まれ引き摺られるように、連れて行かれる。

 その様子を見たクラスメート達は「昔、宇宙人がこうして引っ張られる番組を見たな」と言っていた。

 僕達は馬車に乗ろうとドアを開けると。

「猪田君、わたしの隣にどうぞ」

 椎名さんがもう既に座っていた。

 自分の隣を手で叩きながら座るように勧める。

 それを見た二人は凄い目付きで椎名さんを見る。

 椎名さんは気にしてないのか、ニコニコしているが、目が笑っていない。

 僕は王宮に行く前に、一騒動ありそうで、人知れず溜め息を吐いた。


 ゴトゴト・・・・・・・・。

 馬車は揺れながら街道を行く、僕は窓からそっと外の様子を窺う。

 この街道には道に沿うよう田園がある。その田園では汗を掻きながら畑仕事を農夫たちが見えた。

 僕達の馬車を見て、不思議そうな顔をしている

 まぁ、その気持ちは分かる。何せ騎士団が護衛している馬車の一団が通るのだから、何かあったのだろうかと思う。

 馬車は農夫達に見送られながら進む。

 僕は馬車に揺られながら、王宮に着いてからの事を考える。

(僕達を呼んだ理由は本当にこの国を守る為なのか、それとも領土拡大の為に呼んだのかな?)

 もし、領土拡大で呼ばれたのなら、僕は直ぐにこの国から出て、元居た世界に帰る方法を探すつもりだ。

 生きる為に人を殺すのは、本意ではないが仕方がないと諦められる。

 だが、自分達の国を豊かにさせる為だけに、僕達を呼んで人殺しをさせる国に付き合う義理は無い。

 その為には、王宮に着いたら色々と調べないといけない。

 地理、風習、この世界の文化、貨幣、食れる物の有無等々調べないといけない。

 そこまで考えて、自嘲した。

(色々と考えているけど、実際の所、王宮に着かないと分からないよね)

 頭の中で考えていた事を、片隅にやりまた外の風景を見る。

 今度は先程の田園風景から変わって、何もない原っぱだ。

 その原っぱにこの世界の野生生物が駆け回っている。

 何て名前だが分からない。なので、隣に座っている人・・・・・・・に訊く事にした。

「あの、ライデル司教?」

「はい、何でしょうか?」

「あの動物は何と言う生物ですか?」

 ライデルは身を乗り出して答えた。

「あれは、グレイウルフと言う魔物です」

「魔物ですか?」

 少し遠いので、よく見えないが狼の姿をした魔物のようだ。

「グレイフウルフは魔物の中では、弱い分類に入ります。雑食で与えれば何でも食べます。肉と毛皮と心臓にある魔石を売ればそれなりの値段で引き取られます」

「へえ、そうなんだ」

 僕はポケットに入れていたメモ帳に今言った事を書き記す。

「他に特徴はありますか?」

「そうですな、特徴と言えば、文字通り何でも食べます。鉄でも石でも」

「鉄や石を食べるのですか?」

「ええ、ですから。捕まえて調教して番犬代わりにする事もあります。もっとも、そんな事をするのは裕福な家柄か酒場か飲食店と言った所です」

「成程、自分たちの食べ残しなどを餌として与えると」

「そうです。それにグレイウルフは進化(クラスチェンジ)しますので、警備の面で言えば役に立ちます」

「進化?」

「はい。魔物はある程度まで育つと、自分を進化させることができるのです」

「進化させるとどうなるのですか?」

「研究によって、進化の段階は全部で十段階あるそうです」

「十段階もあるのですか⁉」

「ですが、普通の魔物ではそこまでいきません。せいぜい行っても四~五段階までしか進化しません」

「十段階まで進化するには、何か条件でもあるのですか?」

「わたしもそれほど詳しくはないのですが、与える餌と環境によって影響すると聞いた事があります」

「成程、ありがとうございます」

「いえ、大した事ではありません」

 僕はライデルが言った事を書く。

「猪田、何でお前はそんな事を書くんだ?」

 天城君は不思議そうに尋ねる。

「別に、魔物の生態なんて聞いても、俺達には関係ないだろう」

「いや、そうでもないよ。天城君」

 僕はメモ帳を閉じて、対面に座っている天城君を見る。

「グレイウルフの生態を聞いても、そんな動物が居ると言うだけの事だろう?」

「それだけ聞くと、そうだね。でも、それだけじゃあないんだよ」

「えっと、済まない。分かるように言ってくれないか?」

「まず、このグレイウルフの生態で分かったのは、雑食だと言う事。つまり、何でも食べれると言う事」

 天城君は頷く。

「更に分ったのは、この魔物には肉と毛皮だけじゃなくて、心臓に魔石と言われる物がある事」

「それが?」

「この世界の魔物と言われる生物には、魔石と言われる物を宿している事が分かった」

「・・・・・・・あ、そっか、そうなるな」

 天城君はポンと手を叩く。

「よく、お分かりになりましたね。この世界の魔物には全て魔石を身に宿している事を」

 ライデルも驚いた顔をしている。

「まぁ、ちょっと考えたら、直ぐに分かりますよ」

 ゲームでも魔物は身体の何処かに魔石を宿していて、解体すると出て来るとかよくある。

「更に魔物を調教して、自分達で飼いならしている事」

「そうだな。さっき、ライデルさんも裕福な家庭とかなら飼う事があるとか言っていたな」

「という事は、魔物は狩るだけではなく、調教して自分たちのペット又は戦力として飼っている」

「飼うってことはそうなるな」

「つまり、魔物の中には人の言葉を理解する知性がある個体も居るという事になる」

「ああ、成程、そうじゃないと飼えないもんな」

「ざっと、今の話だけでこれくらい分ったよ」

「魔物の生態を聞いただけで、よくそこまで分かったな」

 天城君は感心していた。

「ふっ、お前の頭の回転が悪いだけだろう」

「なんだとっ‼」

 天城君の隣に座る西園寺君が鼻で笑うと、天城君は顔を顰める。

「二人共、落ち着いて。こんな狭い所で喧嘩したら、馬車が横転しちゃうよ」

「うっ、確かに」

「それも分からなかったのか? お前は」

 天城君はムッとしたが、深く息を吐いて抑えてくれた。

 そして二人は、お互いの顔を見ないように外の風景に目を向ける。

 僕はそんな二人を見て、溜め息を吐く。

 僕の隣に座るライデルも気の毒そうに僕を見る。

(まぁ、あのまま、マイちゃん達と一緒の馬車に乗るよりも良いかな?)

 そう思うと、少しだけ気が楽だ。

 あのまま、マイちゃん達と一緒の馬車に乗っていたら、僕は気が休まる気がしない。

 今乗っている馬車よりもギスギスした空気の中に居ただろう。

 本当は、マイちゃん達と馬車に乗る予定だったのだが、僕の隣に誰が座るかで揉めた。

 その揉めている間に、天城君が僕を自分が乗る馬車に誘ってくれた。

 こんなギスギスした空気の馬車に乗るのは嫌だなと思い、僕は二つ返事で受けた。

 そして、馬車に乗ると、西園寺君とライデルが乗っていた。

 何で、二人が乗っているのと訊くと。

 誰も一緒に乗ろうと誘ってくれなかったので、こいつと乗る事になったと言う。

 どうやら、僕は緩衝材として呼ばれたようだ。

 ライデルでは二人を上手く仲裁できないだろう。

 僕は仕方なく、この馬車に乗った。

 余談だが、マイちゃん達は僕が居なくなった事に気付かず揉めていたが、僕が居ない事に気付いて三人はお前の所為だと言いながら、同じ馬車に乗った。

 三人の口論に聞かされる乗員に合掌した。

 王宮に着くまで、僕は二人の緩衝材をした。

 二人の口喧嘩を聞いていると、西園寺君が揶揄ってそれを天城君が過剰に反応しているようだ。

(この二人って仲が良いんだが悪いんだが分からないな・・・・・・・・・)

 僕は二人の口喧嘩を見て思った。


 二人の口喧嘩を宥めていたら、ライデルが窓を見た。

「皆様、ここがヴァベリアの王都シルデアです」

 僕達は窓から言われた方に目を向ける。

「あれが・・・・・・・」

 王都を見た僕達は、絶句した。

 厚く高い三重の白い城壁を巡らせた平城。初めて中世の城を見るので、何処が素晴らしいか分からないが、何か凄いとしか思えなかった。

 城門に近づくと、これだけ大きくて高い城壁だから実用一点張りだと思っていたが、意外にも所々に装飾があり、デザインにも凝っているようだ。

「あの城壁、大きくて実用的だけじゃなくて、所々に装飾があって芸術価値もあるんだ」

「その通りです。この城壁は『白獅子のたてがみ』と言われるもので、古代文明の技術を応用してつくられた城壁です。先程、皆様が居られた輝く(シャイニング)(・ヒル)はその古代文明の施設を改築したものです。そして我が聖フィリアス教の総本山でもあります」

 ライデルが嬉しそうに教えてくれた。

 その総本山とやらは名前から察するに高台に作られのだろう。

 その輝く丘から王宮まで馬車で乗ってそんなに時が経ってない内に着いたので、そんなに離れてない所に王都があると分った。

(京都と比叡山くらいの距離かな? 乗っていて何回か坂があったから、小山の上に建っているんだろうなと思ってたけど)

 やがて、城門に辿り着くと門の前にいる衛兵に先頭に居た騎士団長のレオンと言う人が話し掛けると、衛兵が門に合図を送る。

 すると、門が開き中に入れるようになった。

 一旦止まった馬車が進み始めた。城下町に入ると、僕は町並みを見た。

 一見町並みを見ると言うのは変だと思うかもしれないが、これが意外と馬鹿に出来ない。

 町並みは平凡なつくりか奇抜な形なのか、それとも木造なのか石造りなのか、それを知るだけで国の文化レベルが分かる。例えば、石造りの家が多いとこの国は木材が採る事が出来ないと分かるし、木造だったらその使われている材質で気候が分かる。

 改めて、町並みを見ると、平凡なつくりで木造だ。しかし、馬車が通る事を想定していたのか広い道の両側に整然と立ち並んでいる。

 それに王国の王都なだけはある。あちこちで活気に満ちた商いの声が聞こえてくる。

 活気に満ちた声を聞くと、この国は戦争中だよなと思った。それぐらい活気があった。

 街に入ってかなり進み、二つの門を越えて、僕達はようやく王城の城門に着いた。

 跳ね橋が降りそれを渡り、城内に入る。

 中庭にまで入ると、馬車が止まった。

 どうやら、ここで降りるようだ。ライデルがまず最初に降りる。次に西園寺君、天城君と順に降りる。

 僕は最後に降りた。

 降りた先には、ここの王城の使用人だろう。メイドやら執事やらが僕達を出迎えてくれた。

「「「「ようこそ、同胞にして異世界から来られた方々」」」」

 わざわざ、頭を下げて出迎えてくれた。思ったよりも高待遇だ。

(同胞と言うのは、多分、同じ種族だからという意味だろうな)

 テンプレでは、僕達の事を勇者とか言うものだが、言わないのは僕達が勇者と言われる働きをしてないから言わないのだろう。

 だから、同胞で異世界からきた方々と言ったのだろう。

 クラスの皆は執事やらメイドさんに出迎えられて、鼻を下が伸びていた。

 しかも、男子だけではなく女子もだ。

 綺麗なメイドで男子が、女子は執事をしている人がイケメンが多いので、それでだ。

 その執事の中から、一番年上で白髪でモノクルをしている人が前に出た。

「初めまして、皆様、わたくしは王宮で侍従長をしております。セバス・フォン・チャンドラーと申します。以後お見知りおきを」

 一目見て、この人本当に侍従かと思った。

 黒い執事服に隠されているが、相当鍛えているのが分かる。

 だって、立ち振る舞いに隙が無いんだもん。これは何かの武術をしていたのだろう。

「それでは、皆様を謁見の間までご案内いたします。わたしの後に付いて来てください」

 セバスが体を動かすと同時に、使用人達が道を作るように分かれた。

(映画でこんなシーンあったな、でも、あれは海か)

 そう思いながら、僕達はセバスを先頭にして歩き出す。

 謁見の間までかなり歩かないといけなかった。それだけこの城は広い事が分かる。

 僕は迷っても大丈夫なように、あちらこちらに視線を走らせていると、いつの間にか、となりに椎名さんが居た。

 びっくりして声をあげそうになったが、口を抑えてなんとか耐えた。

「し、椎名さん、何か用?」

「・・・・・・」

 何故だろう? なんか非難しているような目で僕を見ている。

「えっと、どうしてそんな目で見るのかな?」

「・・・・・・・・・・・・」

 僕が話しかけても、椎名さんは僕を見るだけで何も言わない。

「椎名さん?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 どうしよう、これでは会話にならない。

 悩んでいると、前に言われた事をしたらいいのでどうだろうと思った。

 そう思ったが、ここで言うのと思った。

(で、でも、このままじゃあ、会話にならないし、でもここで言ったら確実に・・・・・・)

 誰か自分を助けになる人は居ないかと周りを見た。

 マイちゃんは取り巻きと話していて、こちらに気付いた様子はない。

 ユエは歩きながら、辺りをキョロキョロ見ている。

 ならば、男子ならと思い、それなりに親しい人に目を向ける。

 天城君は、ライデルに色々と訊いている。

 西園寺君は僕よりも前に居るので、気付いていない。

 周りを見ていたら、椎名さんの眼力が増した気がする。

(もうここは言うしかないっ!)

 意を決して言う。

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ・・・・・・雪奈」

 僕がそう言うと、椎名さんは太陽のような笑顔を向けてくる。

(やめて、そんな笑顔を向けないで、そんな誰もが見惚れる笑顔を向けられたら・・・・・)

 おそるおそる近くにいる男子を見ると、皆嫉妬と羨望と殺意に満ちた目で僕を見る。

(う~、言うのやめておけばよかった)

 いつからか、椎名さんは僕に下の名前で呼んでと頼まれた事があった。

 僕は一度断ったのだが、その後もしつこく呼んでとせがむので、僕は賭けをした。

 今度のテストで僕よりも成績が良かったら、呼んであげるという賭けだ。

 結果、僕は一点差で椎名さんに負けた。

 それ以来、二人きりの時か、偶に椎名さんがせがんで来た時に呼んでいる。

「で、し、ゆ、雪奈」

「うん、なぁに?」

「さっきから、僕を見ていたのは何で?」

「・・・・・・・分からない?」

 僕が頷くと、椎名さんは僕の腕を抓る。

「いた、いたたた」

「もう、鈍感なんだから」

 抓るのを止めると、椎名さんはプイッと顔を背ける。

(ええええ~、僕、何かしたかな?)

 普段、温厚な椎名さんがこんな態度を取るなんて、よほどの事をしたのだろう。

 僕はそれを訊こうとしたら、先頭にいるセバスが部屋の前で止まった。

 その部屋の前には衛兵が居るので、どうやらここが謁見の間のようだ。

「王のご命令により、異世界からの来られた同胞をお連れしました」

「はっ、少々お待ちを」

 衛兵が息を深く吸う。

「侍従長セバス様の御入場です!」

 衛兵が大声で言うと、扉が開く。

 セバスが歩くので、僕達はそれに続く。


 *************


 謁見の間に入って思ったのは、割と質素なつくりだなと思った。

 石の床の中央に赤い絨毯が敷かれ、両側には出迎えてくれた騎士達と同じ鎧を着た人や貴婦人や正装した偉い人達|(着ている服からそう判断)がズラリと並んでいた。

 僕はその人達が送ってくる嫉妬、羨望、好奇な視線を浴びて、足がすくんでしまいそうだ。

 周りを見ると、殆ど民は僕と同じように足がすくんでいる。

 中には、そんな視線など気にせず歩く人達がいた。

 名前を挙げるなら、ユエ、マイちゃん、西園寺君、天城君の四人だ。

 僕も四人に倣い、足を震わせながら絨毯を進む。

 他のクラスメート達もそれに続く。 

 絨毯の歩いた先には、石段があり、その石段の二~三段上がった所に玉座がある。

 その玉座の後ろにある壁には、この国の紋章が描かれた旗がかけられていた。

 玉座には一人の老人が座っていた。

 ゆったりとした衣を纏い、顔には豊かな髭が蓄えている。

 見た目から察するに、もう六十は越えてそうな年齢なのに、衰えを感じさせない鋭い視線が僕達を見下ろしている。この人が王様だと直ぐに分かった。

 周りに居る人達が、僕達を見る目に怒りが混じった目で見ている事を感じて、僕は跪いた。

 僕が跪くと、皆もそれに倣うように跪く。

 跪きながら、僕は王様の隣に居る人を見る。

 黒いローブを着ているので、魔法使いだと思う。ここは王宮だから宮廷魔術師と言う役職に就いているのだろう。そして、何時まにか、僕達と一緒に来たライデルとセバスが王様の前に来て跪く。

 王様は右手を出して、ライデルはその手を恭しく取ってキスをした。

 そして、王様の左隣に立つ。

 セバスも差し出された手を恭しく取りキスをした。

 何処に立つのだろうと見ていると、セバスは一礼をして謁見の間から出て行った。

 セバスが出て行き、扉が閉まると、ようやく王様が口を開く。

「お主達が、異世界から来た同胞であるな。儂はバアボル・ファーン五世である」

 威厳に満ちた声が、謁見の間の隅々までとおっていく。

「この度の事は、そなた達に多大な迷惑をかけた。これしか方法がなかったとは言え、このような手段でそなた達を呼んだのは、儂の不徳である。許してほしい」

 ファーン五世が僕達に頭を下げて、謝罪してきた。

 それを見て、この場にいる人たちが騒ぎ出す。

(まぁ、当然だよな。自分たちの王様が、僕達みたいな馬の骨みたいな奴らに謝罪したのだから、驚かない方がおかしい)

 むしろ、僕はこの王様に好感を持った。

 ここに呼んだのは、領土拡大のためになんやかんや理由を言って誤魔化して、僕達を働かせるつもりだと思っていた。

 でも、最初に謝罪したという事は、自分達の都合で僕達を勝手に召喚したという事に罪悪感を持っている事が分かる。

 これで、わざわ手間暇かけて呼んだのだから、我が国の為に戦えと言われたら、僕はさっさとこの国を出て帰る手段を探すつもりだった。

「儂に出来る事は何でもするつもりだ。さしあたり、そなた達の衣食住は儂の名に置いて保障しよう。他に、何かあれば遠慮なく言って欲しい。出来る限り叶えよう」

 お~とクラスの皆は自分達の待遇を聞いて驚く。

「さて、そなた達は客人でもあるのだから、ささやかだが、歓迎の宴を用意した。皆の者、今日は一日、存分に楽しもうぞ」

 ファーン五世がそう宣言すると、居並ぶ一同から歓声が起こる。

 扉が開放され、使用人達が準備の為に入って来た。

 先程、出て行ったセバスが監督しながら準備に走る。

 さっき出て行ったのは、こうゆう訳か。

 やがて、準備が整い、音楽が響き始めた。宴が始まった。



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