閑話 別れ
新章開幕。
最初は西園寺視点です。
元の世界に転移した場所は、学校の屋上だった。
皆、帰って来た事に泣いて喜んだ。
「取りあえず、俺達が使っていた教室に行こう。そこに行けば携帯電話もあるだろ」
と俺が言うと、皆頷いた。
屋上から出て階段を下りると、取りあえず自分達が使っていた教室に戻る事にした。
教室の扉を開けると、授業の真っ最中だった。
教室に居た生徒達は俺達を見て驚いたが、教室に俺達以外の生徒が居る事も驚いた。
どうやら、異世界とこちらの世界との時間軸は同じのようだ。
何と説明したら良いかと考えていたら、ふと教壇に立っている先生を見た。
「お、お前達、生きていたのか⁉」
そう驚いた声をあげるのは、俺達の担任だった先生だ。
俺達は先生に事情を話す。
流石に異世界に行って魔王を倒してきたと言っても、信じてもらえないだろうと思い神隠しにあった。その間の記憶は無いとだけ告げた。
これはクラスの皆と話し合って決めた事だ。
勿論、死んだクラスメート達の家族には真実は話す。
担任は俺達の話を聞くと、直ぐに授業を自習にして職員室に連れて行った。
その後は、まぁ大変だった。
警察は来るわ。マスコミは来るわ。しまいには良く分からん宗教団体も来るわで大変だった。
一応、警察とマスコミには神隠しにあったとしか言っていない。
俺達は校長から「暫くの間、自宅謹慎してもらう」と言われて俺達は各々の家に帰った。
家に帰ったが、誰も居なかった。
まぁ、両親は今仕事中だから居ないのも当然だ。
「ニャー」
猫の鳴き声が聞こえたので、視線を下に向けると高校入学前に飼った猫が俺を出迎えてくれた。
「ただいま」
猫を持ち上げて、顎の下を撫でながら帰って来た事を飼い猫に告げる。
一息つきたいので、俺は猫を持ち上げたまま自分の部屋に行った。
俺達が元の世界に帰ってから数ヶ月。
その間、色々と面倒な事があった。
警察の事情聴取を受けたり、病院に行き人間ドックに行き精密検査を受けたりした。
皆至って正常としかでないのは分かっているが、まぁ、三年近く神隠しにあっていたのだから、何処か身体に異常がないか調べるのは変ではない。
その検査結果で驚いたのが、どうやら俺達は向こうの世界で教わった技や魔法を使えるという事がわかった。向こうの世界で身に付けたモノだから、こちらの世界では使えないと思っていた。
まぁ、この技術はみだりに人に見せないという事で、俺達は約束した。
しかし、面倒だったのが変な宗教団体だった。俺達が魔法を使える事を何処からか聞いたようで、俺達の所に来ると「貴方は、神を信じますか?」とか聞いてきたのだ。それを聞いて、皆噴き出すの我慢したと言っていた。
俺達は自分達の家族と死んだクラスメート達の家族以外に真実は話さなかった。
そうした事と俺の家が各出版社に圧力を掛けた事で、マスコミ関係は俺達を調べるのを止めた。
学校側も静かになったので、俺達を処遇を決めた。
全員成人になる年齢ではあるが、今だ高等教育を完全に受け切っていないという事で、特別カリキュラムを組む事で、また高校を通う事が出来た。
無論、中には卒業したい者も居ると思われるので、その者達には高校卒業証明書を送り、大学に通う事を許可するそうだ。
その話を聞いて、クラスの殆どが高校に通う事にした。
中には、高校に通う事はせず高校卒業証明書を貰い大学に行く者、大学に行かず好きに生きる事決めた者も居た。
その中には、真田、張、村松の三人も入っていた。
卒業証明書を貰った数日後の夜。
俺は校舎の屋上に来ていた。
別に肝試しとかをするつもりではなく呼び出されたのだ。ある三人に。
鍵が掛かっていない屋上の扉を開けると、そこにはここの世界に戻ってきた時に浮かんでいた魔法陣があった。
その魔法陣の周りには、真田、張、村松の三人が居た。
「いきなり呼び出して、こんな所に何か用か?」
三人に訊ねながら、俺は何となくだが呼び出された理由を理解していた。
そう尋ねても、三人は何も言わなかった。
俺は肩を竦めた。
「・・・・・・あっちの世界に帰るのか?」
そう尋ねると、三人はコクリと頷いた。
「だが、もう猪田は居ないぞ?」
あいつは死んだ。死体こそ見つからなかったが、あの状況では死んだのは間違いない。
「それでも行くのか?」
「・・・・・・うん。その為に色々と迷惑が掛からないようにしたから」
「そうだな。家族にも分かれは告げたしな」
「あたしも」
そうか。だから、この世界に帰って来たのか。
家族に別れを告げて、色々あるしがらみを捨てて。
真田は芸能界を引退して、張は家の仕事を全て家族に押し付けて、村松は実家の稼業を弟に任せて。
「それで、何で俺だけ呼んだ?」
「西園寺なら、皆を納得させる事も出来るだろう」
「あたし達が密かに向こうの世界に行く方法を準備していた事を」
「その魔法陣は一度きりなのか?」
「どうも、こっちの世界だと魔素が少ないから一回したら、数十年は出来ないようなんだ」
真田が頬を掻きながら言う。
こいつら、クラスメート達が時折「ああ、またあっちの世界に行きたいな」とか零していたのを何処かで聞いていたのだろうな。
まったく、面倒な奴らを友人に持ったものだ。
「じゃあ、椎名に会う事があったら伝言を頼むなら、あいつらへの説得は受け持ってやる」
「いいよ。会えたらね」
「それで、なんて伝えればいいの?」
「〝二度と会えないと思うから言うが、お前の事は手の掛かる妹ぐらいにしか思っていなかった〟とだけ伝えてくれ」
「了解」
「じゃあ、そろそろ行くね」
「達者でな」
「彼女さんとお幸せに~」
真田達は好き勝手に言うと、魔法陣が輝きだした。
そして、その輝きが目を開けるのも無理なくらい強く輝きだした。
しばらくして、輝きが無くなったので目を開けると、其処に真田達は居なかった。
浮かんでいた魔法陣も消えて、そこにはもう何もなかった。
「・・・・・・・行ったか」
まったく、後始末は人任せとか文句を言いたい。
言いたくてもこの世界には居ないから無理だがな。
「さて、クラスの奴らにどう説明したら納得するかな」
そう考えながら、俺は屋上を後にした。
次話から本編です。