閑話 冒険の終り
前半は天城視点で、後半は西園寺視点です。
「ぼくをころしても、しいなさんがそうかんたんに、すきにさせるのは、むずかしいとおもうよ」
負け惜しみのような事を言って猪田は何処かに転移した。
「ふっ、負け惜しみかどうなのか知らないが、お前の予想通りにはならないぞ。猪田」
懐から綺麗な布を出して、剣に付いた血を拭う。
これで猪田を殺したと思われる証拠は無くなった。
後は、この布を燃やすだけだ。
魔王との戦いが終わり、一息ついていると下から誰かが上がって来た。
敵か? と思い構えると、階段を上がって来たのは、遠山と西園寺だった。
遠山と西園寺は全身がボロボロだったが、何とか生きていた。
話を訊いてみた所、何とか遠山の相手の四魔将の『巨山』とか言う奴を倒したそうだ。
その代わり、武具は全て壊れたそうだ。
逆に西園寺が相手をしていた『疾風』とか言っていた奴は、戦っている最中に手を止めた。そして、少し後ずさるとあの気障男は「陛下、後の事はお任せください」とか言って、消えてしまったそうだ。
最初、魔法で姿を隠したのかと思い、身構えていたが襲われる事はなかったそうだ。
そして遠山が階段を上がって来たので、一緒に来たそうだ。
オレはここであった事を、猪田を殺して、何処かに転移させた所を隠して、話した。
話を訊いて、西園寺達は言葉を失った。
そして部屋を見回したが、部屋には戦闘で破壊された瓦礫と猪田が使っていたグレイヴしかなかった。
グレイヴは壁に突き刺さった所には、赤い血が床を染めていた。
二人はオレの話を何処まで信じたかは分からない。
だが、少なくとも言えるのは魔王は打ち取られ、猪田が居ない事は確かだ。
何時までもここに居ても仕方がないので、俺達はこの事を総大将の王女様に話す為に、階段を下りる。
一階まで下りた俺達は、そこで壁にもたれかかる斉藤を見つけた。
四魔将の一人『輪撃』のコゲンツナとやらは身体に大穴を開けて死んでいた。その後ろの壁も大きな穴を開いていた。
斉藤は死んだのかと思い、近寄ると斉藤は近付いてきた俺達に気付くと顔をあげて「よ、よう」と弱弱しく声を掛けてきた。
何があったのかと訊いてみたら、斉藤がコゲンツナとか言う奴を倒す為に、自己流で編み出した『星皇一殺』とかいう技を使ったそうだ。
何でも、この技は未完成で技の反動で四肢が使い物にならなくなり立つ事も出来ないので、壁にもたれていたそうだ。
身体を動かす事も出来ない斉藤を、オレが背負い、オレ達は王宮を出た。
「良い奴だったな」
「ああ。良い奴だったな」
歩いている途中、遠山と斉藤は猪田の死を聞いて、そう零した。
「だが、あいつのお蔭で、俺達が元の世界に帰れる方法を聞きだす事が出来た。魔人族達は何処かの地に逃げたけど、俺達は帰る事が出来るんだ」
オレの口から帰還する事が出来ると聞いて、二人は喜んでいた。
やがて、王宮を出る。すると俺達は連合軍の兵士達に出迎えられた。
戦況はどうなったのかと聞くと、敵の奇襲などがあったが何とか退け、その奇襲部隊を指揮していた四魔将を椎名さんが討ち取ったそうだ。
魔人族軍の兵は一人も降伏することなく、討ち死にしたそうだ。
オレが魔王を討ち取ったと宣言すると、連合軍の兵士達は歓声をあげた。
そして各軍団の将軍達と共に、本陣に戻り、王女様にオレ達がした事と、猪田がこの場に居ない理由を全て話した。
それを聞いて、王女様は「そうか」と言って従者を呼んで、何事か命じた、従者は一礼してテントから出て行った。
各種族の将軍達も相当ショックを受けているようだ。
それは人間族軍の将達も同じで、特にエリゼヴィアとか言う将軍はかなりのショックだったようだ。
俺の話を聞いて、顔を真っ白にしていた。
従者がテントに戻ってくると、お盆に酒の瓶を乗せてやってきた。
王女様が「ご苦労」と言うと、酒瓶を取り、蓋を開けるとそのまま地面に中身をぶちまけた。
「安らかに眠れ。我が義弟よ」
ギテイだと? つまり、あいつは第二王女様と婚約していたのか?
何時の間にそんな事をしていたんだ。
やがて、ビンの中身が無くなると、王女様は一瞬だけ目をつぶる。そして、他に何かなかったか、俺達に訊ねて来た。
そこで、先程オレは魔王が話した事を話した。
王女様はそれを聞いて、少し考える。そして「王都に凱旋する」と言い出した。
一部の各種族の将軍たちは、逃げた魔人族を追うべきだと主張したが、王女様が「もはや、海を渡ってしまったのだ、追いつくのは不可能だ」と断言した。
それを聞いて、将軍達も渋々だが納得して凱旋の準備に取り掛かった。
オレ達は本陣を出ると、真田達が居た。
四人共、猪田が居ない事に不思議がっていた。
ここは誰かが話さないといけないなと思い、西園寺が代表して話した。
すると、真田と張は顔面を蒼白させるし、村松は言葉が出てこないようだ。
椎名さんはどうだと思い見ると、椎名さんは気を失い倒れた。
慌てて椎名さんを受け止め、軍医に見せた。
軍医は精神的なショックを受けたので、暫く休めば良くなる言った。
その夜。王女様が猪田の死を悼んで、酒を飲む事を許可された。
将軍達も兵士達に酒が行き渡ると、獣人族の王様が代表して「偉大なる大賢者にして、我らの良き友人であったターバクソン男爵にっ」と言うと、一拍、遅れて皆も続いて「偉大なる大賢者にして、我らの良き友人であったターバクソン男爵にっ」と言って、お椀の中の酒を飲まずに、地面に流した。
中には泣く者も居た。
オレはそれを見て、何時の間にあいつはこんなに慕われるようになったんだと思った。
翌日。オレ達は椎名さんを軍医に預けると、オレ達も凱旋の準備をするついでに、王宮にあるとかいう図書館にあるとかいう、帰還魔法を記した書物を探した。
探す事数時間。
ようやく、お目当ての物を見つけた。
この世界の文字で「召喚した物を帰還させる魔法」と記されていた。
「これが、帰還魔法を記した物か」
中身をパラパラめくると、色々な魔法陣が描かれていた。
この魔法陣を組み合わせる事で、俺達の世界に帰れるのだろう。
「・・・・・・流石に専門外だから、詳しい人に見せるしかないな」
俺は本を閉じて、図書館を出た。
それから数日して、オレ達は王都へ凱旋した。
王都を出てから、丸々三ヶ月経っていた。
オレ達が王都に着くと、都で暮らしている人達の大歓声が出迎えてくれた。
その大歓声の中を、オレ達は王宮まで進んだ。
オレ達はそのまま各種族の将軍達と共に、謁見の間に通された。
玉座から少し離れた所で、跪いていると王様がやってきた。
玉座に座ると、王女様が今回の遠征の結果を報告した。
王様も、最初は平然としていたが、魔王を討ち取ったと聞くと、顔を綻ばせていた。
「そうか。よく大業を成し遂げてくれた」
「ですが、陛下。その代償にターバクソン男爵が魔王と相打ちになりました」
「事前にある程度の報告は受けていたが、そうか・・・・・・」
王様は手で顔を覆い、猪田の悲しんでいるようだ。
「もう、三ヶ月だというのに」
「陛下。では、遠征前のあれが上手くいったのですか?」
「うむ。じゃが、父親が居ないとは、あまりに哀れな」
「セリーヌはこの事を知っているのですか?」
「既に知っておる。聞いた時は気を失っていたが、今は大丈夫だ」
うん? 二人は何の話をしているんだ?
三ヶ月? 父親? 意味が分からない。
どうゆう意味なのか、訊こうとしたら、王様が口を開いた。
「男爵はお主達の同胞。お主達にとっても悲しい事であろう。じゃが、これも戦の習いじゃ」
「はい。陛下。猪田も陛下にそう言われて、喜んでいると思います」
「そうであればよいがな。さて、いきなり魔王を倒す為に召喚し長らくお主達を拘束してすまなかった。その礼として、これを授ける」
王様が何か指示すると、大臣みたいな人が何人も来て、お盆に小さい皮袋を乗せていた。
その人達は、オレ達の前に来ると膝を付いて「どうぞ」と言ってお盆の上にある皮袋を突き出してきた。
クラスメート達は、その皮袋を受け取る。
困惑した顔で、皮袋の中身を見ると、中には親指ぐらいの大きさの金貨が何百枚も入っていた。
「「「こ、これって⁉」」」
「世界が違っても金の価値は同じであろう。今まで、我らの我が儘で拘束していたのだ。お詫びに授ける」
そう訊いて、クラスの皆は喜んでいた。
オレもずっしりとした重みがある皮袋を持っていると、魔王を倒したんだと思えてきた。
「更に、魔王を討ち取ったアマギ殿には、これも授ける」
何だろうと思い、見てみると金で出来た鞘に色とりどりの宝石を埋め込んだ短剣を持ってきた。
「刃は付けてない。戦闘には使えないが飾りにはなるであろう。これを功績として授ける」
オレはその剣を貰うと、歓喜のあまり声をあげそうになった。
(猪田、あの世で見ててくれ。お前の代わりにオレが椎名さんを幸せにするからなっ)
このまま、元の世界に帰って、椎名さんとの距離を縮めていけばいい。そして、最後は。
バサバサッ。
何だ? 何処からか羽が羽ばたく音がする。
謁見の間に集まっている人達も、羽音を聞いて周囲を見る。
『やれやれ、ここまで来るのに随分と時間が掛かったわ』
そんな声が聞こえてきた。
皆、その声がした方に顔を向けた。
そこに居たのは烏であった。
足が三本ある所をみると、猪田がよく肩に乗せていた烏のようだ。
あいつ、魔法の契約条件でその烏の世話する事になったとか言って、よく餌をあげていたな。
『ふむ。察するに、今は丁度凱旋したばかりといった所か』
この烏喋れるのか⁉
ま、まずい。あの烏、確か猪田を殺した時も肩に止まっていた。
猪田と一緒に転移されたので気にしていなかったが、まさか喋れるとは思わなかったので、特に何もしていない。
もし、オレが猪田を殺した事を話されたら‼
そう思うと、オレは立ち上がり、腰の剣を抜いた。
すると。王女様がオレに怒鳴る。
「慮外者がっ、誰の許しを得て剣を抜いた‼」
「っ⁉ す、すいません」
って、今は謝っている場合じゃない。
あの烏を仕留めないと、そう思っていると、烏は王様の玉座の肘掛けに止まる。
「ふむ。この烏は見た事があるな」
『それは当然であろう。我は猪田の肩に止まっていたのだからな』
「おお、男爵の使い魔であったか」
『使い魔か、まぁ、そうゆう風に見せていたのだから、そう思うのも仕方がないか』
「して、烏よ。お主、ここに何用で来た?」
『決まっている』
烏が僕を見て、羽で指差す。
『そこに居る薄汚い卑怯者の断罪の為に来た』
西園寺side
『そこに居る薄汚い卑怯者の断罪の為に来た』
猪田が使い魔に使っていた烏がそう言って、謁見の間に雷が落ちたかのような衝撃が走った。
卑怯者の断罪。
そう訊いて、俺は何となくだが、猪田を殺したのはやはり天城かと思った。
魔王の間に着いた時、天城はこう言っていた。
『魔力を込めたグレイヴを魔王に投擲して、倒したと思って近づいたら、魔王が猪田に攻撃して猪田が死んだ。そして、魔王はそれで力を使い切ったのか悪あがきだったのか分からないが、程なくして黒い砂になった』と言っていた。
あいつはあれで用心深い。武器が無い状態でまだ死んだと分からない魔王に近付くとは思えない。
更に死んだのなら、どうして死体がない。
魔王は魔法の代償として、砂になったのは分かる。
だが、猪田は違う。魔王の攻撃を受けて死んだのなら、死体は残る筈だ。
死体も残らない程の威力の魔法だと言われれば、それまでだが、死体も残さない程の威力ならそれなりの痕跡を残す筈だ。
だが、その痕跡はなかった。
なので、俺は内心天城が猪田を殺して、何らかの手段で死体を隠したのでは? と考えた。
動機はある。猪田を殺せば、雪奈を口説く事が出来る。
現に王都に戻るまでの間、あいつは雪奈に話し掛けていた。
雪奈は好きな男が死んだショックで、目が死んだ魚のようになっていた。
傷心の女に話し掛ける。傍から見れば気遣っているように見えるが、俺から見ると、いきなり口説くような事はしないで、少しずつ距離を詰めていき信用させて、その内口説けるようにしているようにしか見えなかった。
話し掛けて気を引こうと頑張っているようだが、雪奈はまったくと言って良いほど反応しない。
元々、天城の事嫌っていたからな。露骨に表に出さなかったので、天城は気付いていないようだが。
内心哀れな奴と思っていた。
「それで、烏よ。何故、アマギ殿が卑怯者だと言うのだ?」
バァボル陛下が、烏に話し掛けていた。
魔王を討ち取った者を卑怯者呼ばわりしているのに、王様は平然としている。
『この者は好いた女に振られた腹いせに、我が契約者を殺しあまつさえ魔王を殺した手柄をすら奪った狡賢い卑怯者よ!』
「な、なにをこんきょにっ」
天城の顔が青白い。
これは、何かあるな。
『では、その証拠を見せてやろう』
烏がそう言うと、突然、部屋が暗くなった。
いきなり部屋が暗くなったので、皆動揺していた。
そして、その暗い空間の中からパネルのような物が浮かび上がった。
「これは?」
『我が見た物を映像として、汝らに見せてやろう』
烏がそう言うと、パネルに魔王の間に入った映像が浮かんだ。
「あれは、魔王⁉」
「間違いないか?」
「はい。間違いございません」
バァボル陛下と王女様が話をしている間も、映像は動く。
『本陣が落ちるまで、わたしの相手をしてもらうぞ』
そう言って、魔王は二人に切り掛かって来た。
魔法で生み出した兵士を使い、また魔法を放ちながら戦う魔王。
対して、猪田の魔法の援護を受けながら戦う天城。
最初、魔王に押され気味であったが猪田達の連携で魔王の片手を切り落とす事に成功してから、戦局が一変した。
『これで終わりだ! 『勝利をもたらす槍』』
猪田が飛び上がり、魔力を込めたグレイヴを投げるのを見て、俺は思った。
ああ、あいつもケルトの槍兵が好きなんだな。
『ぐ、ぐうおおおおおおおっ⁉』
魔王は飛んで行った。
そして、ここからが重要な場面だ。
天城の言葉を信じるなら、ここから魔王の攻撃を受けて猪田は死ぬはずだ。
見ている人達も、それが分かっているのか生唾を飲み込んだ。
猪田はフラフラと歩きながら、魔王の下に行った。
すると、魔王は壁に縫い付けられるように立っていた。
胸に大穴を開けているので、これでは動くのも魔法を放つのも難しいと思えた。
『ぐふっ、み、見事だ。・・・・・・どうやら、わたしの負けのようだ・・・・・・』
そう言って、魔王の身体から黒い煙が出て来た。
魔王は魔法を使った代償と話した。
そして、魔王が国の住民をこの大陸から逃がしたと話し、俺達が元いた世界に帰還できる方法を記した書物があると話した所で
『もう、げんかいのようだ。さらばだ』
そう言って、魔王は黒い砂となった。
猪田が喜んでいると、背後から天城が近づいてきて猪田を刺した。
見ている人皆、言葉を失った。
『ど、どうして、こんなことを・・・・・・』
血を吐きながら、天城に問いかける猪田。
『お前が邪魔だったからだ』
天城、お前はっ。
俺は怒りを抑えながら、映像の続きを見た。
『きみが、なんていわれたかしらないけど、しょうじき、ここまですることではない、だから、まだ、なにか、あるのでしょう?』
『・・・・・・・流石だな。そうだよ。お前が居るとオレがただの引き立て役になるからだよっ』
『ひきたてやく?』
『お前が内政でも戦場でも外交でも、各種族から高く評価をされているのに、オレだけは何にも評価されていないっ⁉ 逆にオレの失敗があげつられるのは、全部、お前が功績を立て過ぎる所為だ!』
責任転嫁も良い所だな。その後も話が続いた。
話しが終わりに見えてきた頃、天城は懐から何か出した。
『これはな『転移の魔石』だ』
その魔石を天城は猪田に投げ渡した。すると、魔石が光り輝きだした。
『ああ、その魔石は何処に転移するか分からない不良品だそうだ。だから、海に落ちるのかそれとも土の中に転移するのか、オレにも分からない。ただ、これだけは言える』
天城は楽しそうに笑いだす。
『もう、オレとお前は会う事はないという事は分かる』
『たしか、にね。そう、なるだろうね』
魔石の輝きが、猪田の身体を包みだした。
そして、次の瞬間。パッと輝き、場面が変わった。
次に映し出されたのは、デコボコした地形だった。
『こ、ここは?』
この段階では、まだ猪田は生きていたのか。
『ここか。ここは龍の巣じゃな』
「龍の巣だと⁉」「まさか、あそこに飛ばされるとはっ」
竜人族の将と天人族の将が驚いた声をあげる。
それはつまり、両種族の国境にある場所という事だな。
『さ、さすがに、くろこげになるまでかそうされるか、りゅうにくわれて、いぶくろのなかでしょうかされるのは、いやだな』
『では、どうする?』
『仕方がないから、こうする』
猪田は懐から、何かの筒のような物を出した。
『それは?』
『これはね、あるまほうがはいっている、まほうのつつさ、めいしょうはきめてないな』
『その筒の中には、どんな魔法が入っているのだ?』
『まほうの、なまえは『くりすたる・しーるど』』
『「水晶・封印」とな、名前から察するに、封印する魔法のようだな』
『これはね、まおうが、ぼくたちでたおせなかったばあいを、そうてい、してつくったんだ、まりょくがつきても、つかえるように、このつつのなかに、はいっている』
『成程。それで、その筒を見せるのはどういう事だ?』
『かんたんだよ、そのまほうをぼくにつかって、ぼくのからだをふういんしてくれ』
『何故、そんな事をする?』
『さっきも、いったけど、やきころされるのも、りゅうにかみころされるのはごめんだよ』
『それでこの筒の中の魔法で封印されると?』
『おねがい、できるかな?』
『我が契約者の最後の願いだ。聞き入れてやろう』
『・・・・・・ありが、とう』
『それで、これはどう使うのだ?』
『くさりをひくと、まほうがはっしゃされるから、さきっぽを、ぼくにむければいいよ」
『分かった。他に何か言いたい事はあるか?』
『・・・・・・まいちゃん、ゆえ、しいなさん、むらまつさん、えりざさん、そして、せりーぬおうじょにつたえて、くれ、やくそく、まもれなくて、・・・・・・ご、め・・・・・・ん、って・・・・・・」
そこで映像が途切れ、暗かった謁見の間が元に戻った。
『以上が、我がそこに居る者を卑怯者という理由だ』
烏は天城を見る。
「で、出鱈目だ! これも魔王が考えた策だ!」
『虚けが。死んだ魔王がこんな事をして何が得するのか?』
「ぐっ、そもそも、お前は本当に猪田の使い魔なのか? 偽物じゃないかの⁉」
『成程。そちの言葉を借りて言うならば、あの映像も偽物と言いたいのだな?』
「そうだ‼」
『では、我が契約者は何処にいる?』
「えっ?」
『あの映像が偽物ならば、契約者は何処かに居る筈だ。そちは魔王を討ち取る際一緒に居たであろう』
「そ、それは」
『更に言うのであれば、貴様。我を見た時切り掛かろうとしていたであろう?」
「な、なんのこと、だ」
『惚けても無駄じゃ。そこに居る王女が居なかったら我に切ろうとしていたのであろう』
「ち、ちがう。オ、オレは、ただ魔物が居るから、警戒しただけだ」
語るに落ちたな。天城。
ここに居る人達の大半がこの烏が猪田の使い魔だと知っているんだ。それに切り掛かろうとしていた時点でもはや、この烏に言われたくない事を握られていると言っているようなものだ。
先程の映像と今のやり取りを見て、天城を称賛していた人達は、冷たい目で天城を見ている。
各種族の将軍達も同じだ。
そんな中で、一人雪奈が立ち上がった。
「雪奈、どうかしたか?」
「・・・・・・・・・・」
尋ねても反応がない。
そして、フラフラと歩きながら、天城の下に行く。
「天城君」
「し、椎名さん。信じてくれ。オレは猪田を殺してなんかいないっ」
「・・・・・・そうなんだ」
「ああ、本当だ」
「そうだね。さっきの映像は刺しはしたけど、殺してないね」
「ああ、そうだ。オレも流石にクラスメートを直接殺すのは、嫌だった・・・・・・あっ⁉」
「語るに落ちたわね。この卑怯者っ」
雪奈は腰に差しているナイフを抜いた。
「ち、ちが」
「もう、喋らないで『呪いの一撃』」
雪奈は天城を斬った。
「――――――――――――」
斬られた天城は痛がり悲鳴をあげているようだが、肝心の声が聞こえない。
天城も口をパクパク動かすが、一向に声が出なかった。
「これね。わたしが作った魔法なんだ。『呪いの一撃』っていうの。斬った相手の身体の器官を使い物にならなくする魔法なの」
「――――――――――――」
天城は何か喋っているが、一向に伝わらない。
そんな天城に、雪奈は近づく。
「わたしは言ったよね。好きな人が居るって、そして、貴方の事は好きじゃないって!」
また、天城を斬り付けた。
すると、今度は立つ事が出来なくなり、その場に倒れ込んだ。
「使っている香水の匂いも嫌い。話し掛けてくる声も嫌い。時折、わたしをジッと見て来るその目も嫌い。女子から貰った物を好みじゃないからって密かにゴミ箱に投げ捨てる根性も嫌い。わたしが猪田君と話している最中なのに、無理矢理話題に入り込んで自分が思う通りに誘導する性格も嫌い。貴方の存在自体が嫌いなの」
そう言いながら、斬り付ける雪奈。
斬りつける度に、天城の身体は何処かしら異常きたしている。
「―――――――――――――」
哀れな。自業自得なのもあるが、ここまでディスられるのは流石に哀れすぎる。
「もう二度とわたしに話し掛けれないようにしたし、次で最後にしてあげる」
雪奈はナイフを振りかぶった。
「二度とわたしを見る事が出来ない様に、その目を二度と見えない様にするわ」
「―――――――――――」
口をパクパク動かしている。言葉が分からなくても分かる。止めてと言っている。
手は既に動けないのか、ピクリとも動かない。
ナイフが振り下ろされ、天城に当たる。そして、天城の瞳に光を宿さなくなった。
これで目が見えなくなったという事だろう。
そこまでして、雪奈はナイフを仕舞った。
「可哀そうだから、聴覚だけは奪わないであげる」
そう言って、雪奈は天城の下から離れ。烏に顔を向ける。
「ねぇ、烏さん」
『何じゃ?』
「猪田君の遺体が有る所に案内してくれる?」
『ふむ。何故、そこに行くか、理由を聞かせてくれるか?』
「そんなの決まってるじゃない」
雪奈は笑顔で言い出した。
「そこに猪田君が居るからよ」
雪奈が浮かべる笑顔に一片の濁りもない笑顔であった。
まるで、聖人が微笑んでいるかのようだ。
『よかろう。案内してやろう』
烏が雪奈の肩に止まった。
「ありがとう。烏さん」
そう言って、雪奈は謁見の間を出て行こうとした。
「待て、雪奈。一人で行くつもりか?」
「そうよ」
「危険だ! 龍の巣はその名の通り、多数の龍が居る場所なのだぞ!」
竜人族の将がそう叫ぶが、雪奈は一考もせずに答えた。
「なら、邪魔する龍を殺して猪田君の所に行くだけよ」
それを聞いて、唖然とする俺達を尻目に謁見の間を出て行った。
暫く静かになる謁見の間。
そして、バァボル陛下がいち早く気を取り戻した。
「そ、そこにいる卑怯者を捕まえよ。罪状は我が王族を害した罪で、石打ちの刑に処す!」
「はっ」
バァボル陛下の命令で、近衛兵達が天城を持ち上げて外へと連れ出した。
そして、場が白けたのでその場は解散となった。
翌日。
天城が処刑されるというので、俺はクラスメートの最期なので顔を出す事にした。
クラスメート達は誰も刑の執行を止めるように懇願する事も、見に来る様子もない。
残酷な刑なので見に来る奴はいないのは分かるが、刑の執行をとめる奴が一人も居ないのは驚いた。
どうやら、映像で天城の本性を見て、皆助ける気が無くなった様だ。
そして天城がやってきた。
ギロチン拘束されている状態で、二人の兵士に引きずられている天城。
制服は脱がされ、囚人服を着ている。
ゴザのようなもの上に座らされた。
その周りを都で暮らしている人達が見ている。
その人達の前で、兵士の一人が懐から紙を出した。
「罪人、アマギ・ノブナリ。この者は先の魔王討伐の際、同胞であり、我が国の男爵でもあり、第二王女セリーヌ様の婿であったイノータ・フォン・ターバクソン男爵を魔王討伐の功績欲しさに殺害。魔王討伐の偽証と王族の殺害により、石打ちの刑に処す‼」
そう宣言すると、荷車が引かれれきた。荷車には拳大の石の山が乗せられており、その石の山を天城と人達の間に置かれた。兵士達はその場を離れた。
この石を投げろと言う事か。さて、この人達は投げれるだそうか。
そう思っていると、子供の一人が石を取って投げた。
「だんしゃくをかえせ~」
「かえせ~」
子供たちが投げるので、大人たちも投げ出した。
「男爵様を殺すなんて、ふてえ野郎だ‼」
「地獄に落ちろ!」
「こいつの所為で、俺の友人は怪我をしたけど、男爵様はその怪我を治して下さったのに、それを!」
「男爵様は浮浪児を見つけては拾って、自分の領地に送って暮らさせている素晴らしい御方だぞ! そんな方を殺すなんて、てめえは人間か!」
人達は色々な事を言いながら、石を投げている。
「―――――――――――――」
天城は投げられた石は色々な所にあたる。
そう言えば、猪田の奴。王都に来る度に炊き出しやら傷の治療やら色々していたな。
だったら、人気があるのは当然だな。
このままでは、天城は死ぬだろうが、この国の法に触れたのだ。
どうやっても助ける事は出来ない。
(さらばだ。天城)
心の中でそう呟き、俺はその場を後にした。
刑の執行が終る頃に、もう一度その場に、天城は顔はボコボコに膨れ上がり、至る所に傷を作って死んでいた。俺は合掌した。
そして、可哀そうだから髪の一部を切り取り遺髪にした。
数日後。
俺達はとうとう元居た世界に帰れるようになった。
魔法師団の前団長とやらとライデル司祭が協力して、帰還の魔法を解析して作ってくれたようだ。
元居た世界に帰れると聞いて、皆おおいに喜んだ。
そんな中で、あまり喜んだ顔をしていない者達が居る。
真田達だ。
正直、俺はこの三人は雪奈の後をついて行くと思っていた。
なので、一緒に帰還すると聞いて驚いていた。
「雪奈の奴、無事だといいが」
あの後、龍の巣に竜人族、天人族の共同調査隊が派遣された。
そこで見つかったのは、おびただしい数の龍の死体であった。
数えきれない数の死体は見つかったが、雪奈の死体も猪田の死体も見つからなかった。
捜索は続けられているが、今だに発見されていない。
「では、皆さま。準備が整いましたので、魔法を発動させます」
ライデル司祭が魔法を発動させると、俺達の周りに巨大な魔法陣が浮かび上がった。
そして、周囲が徐々に光に包まれて行く。
「これで、皆さまに会うのは最後になるかもしれません。どうか、お元気で」
ライデル司祭と、その前師団長は一礼したので、俺達は挨拶で返した。
思い思いに手を振った。
やがて、光が完全に俺達を包みだした。そこで、俺は気になった事を真田達に訊いた。
「本当に良いのか? このまま帰って?」
「うん、いいの」
「帰って色々としないといけないから」
「だな」
「? しないといけない事?」
何だ。それは?
「今は秘密」
「まぁ、そのうち分かるだろう」
「そうだね。そうまっちにはそのうち話すよ」
何か、そう言われると余計に気になる。
まぁ向こうに行けば分かるか。
そう思い、俺は考えるのを止めた。
これにて第1章終了となります。
第2章に入る前に、少し話が長いと言われましたので編集して短くしてから入りたいと思います。