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閑話 IFストーリー もしも、セリーヌ達と一夜を共にしなかったら

 第三者視点の閑話です。第一章の第77話と第93話から一部抜粋

 閑話はこれで終わりです。

 次回から本編を再開します。

「さぁ、今夜は良い夢を見れるように、たっぷりと奉仕してあげますわ」

「あ、あわわわ、わ、わたくしもが、がんばるわ、ノ、ノブヤスさま」

「ち、ちょっと、まって、こうゆうのはもっとお互いが分かりあってからでも」

「問答無用、ですわ♥」

「き、きゃあああああああっ⁉」

 セリーヌ達が猪田を押倒そうとした、その時。

「「「「「ちょっっっっと、待ったあああああああああっ⁉」」」」」

 その声と共に寝室のドアが蹴破られた。

 そして、部屋に複数の人達が入って来た。

「っち、邪魔を」

「な、何で貴女達が居るのよっ」

 部屋に入って来た者達を見るなり、セリーヌは舌打ちをエリザヴィアが指を差した。

 部屋に入って来たのは、真田、張、椎名、村松の四人であった。

「それはこっちの台詞なんだけどっ」

「わたし達はノブがこっちに来たと聞いたので、労おうと来ただけだ」

「そうよ。わたしが作った御菓子を食べてもらおうと、頑張って作ったんだからっ」

 そう言って、椎名は手に持っている袋を見せる。それはリボンで結ばれた可愛らしい袋であった。

「わたしは疲れがとれるマッサージをしようと思ったんだけど」

 村松の手には何かの液体が入った瓶があった。

「ちなみ、わたしはこの世界で滋養強壮の薬草で作った薬を作って来たぞ」

 そう言って張は紙で包まれた物を見せて、紙を取り払い丸薬を見せた。

「時に、マイ。お前は何か作ってきたのか? ノブの疲れをとる事をしようとしたのか?」

 張がそう尋ねると、真田は胸を張って答えた。

「そんなの必要ないでしょう。あたしとノッ君の仲なんだから、話をしたら疲れなんか吹っ飛ぶに決まっているじゃないっ」

 自信満々にそういう真田を見て、呆れたように溜め息を吐く椎名。

「はっ、そんな話をしただけで疲れがとれると思うなんて、真田さんは子供だね」

「何ですって⁉ じゃあ、聞くけど、椎名はその御菓子ってどんなお菓子よ。見せなさいよっ」

「こ、これは、猪田君の為だけに作ったお菓子なんだから、見せるのも食べるのも猪田君だけよっ」

「とか言って、本当は変な薬でも仕込んでいるでしょう?」

「そんな訳ないでしょう」

 と言いつつ、椎名は一瞬だけ目を泳がせた。

 それを見逃す張ではなかった。

「ふん。大方。ノブを眠らせるか気を失わせる薬でも入れているのだろう。そして、既成事実を作るか。実にお前らしいな。椎名」

 張にそう言われて、椎名もムッとしたのか、張が作った丸薬を指差しながら言う。

「じゃあ、張さんが作ったその薬もそうじゃないの? 滋養強壮とか言うのだったら、猪田君が元気になり過ぎて、女性に襲い掛からないとか何とか言って、既成事実を作ろうとしたのでしょう?」

「如何にもその通りだ」

 否定すると思っていたのに、張は肯定したので椎名は言葉を詰まらせる。

「ああっ、ユエ。ずるいっ」

「マイ。良い事を教えてやろう。恋愛とは戦争と同じだ。ずるいも卑怯も無い。勝てば良いのだっ」

「ぐぬぬぬ、昔から思っていたけど、そういう腹黒い所は好きになれないわ」

「それを言うのだったら、お前の無駄に考えなしに行動する所は好きになれなかったぞっ」

「何ですって⁉ 幾ら幼馴染の親友でも言って良い事と悪い事があるでしょうっ」

「お前が先に言ったんだろうがっ」

 睨み合う二人。

 その隙を見逃さないとばかりにセリーヌが猪田にしなだれかかる。

「ささ、ノブヤス様。此処は醜い女の争いが起こりますから、別室に行きましょう。そして、改めてそこでしょ」

 セリーヌが言っている最中に、目の前にナイフが横切った。

「ふふふ、王女様。幾ら王女様でも、わたしの猪田君を勝手に連れて行くのは止めていただけます?」

 凄みがある笑顔を浮かべる椎名。

「あら、何時からノブヤス様は、貴女如きの者になったのかしら?」

 こちらも見ていると怖い笑みを浮かべるセリーヌ。

「「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」」

 笑顔なのに怖い二人。

 そんな四人を放って、村松はエリザヴィアに話しかける。

「ねえねえ、イノッチにどんな事をしようと思ったの? 教えて教えて」

「べ、別にわたくしは大したことは……」

「わたしもイノッチと夜を共にする事があるかもしれないから、参考にしたいんだ。ちょっとで良いから、何をしようとしたのか教えて。お願いっ」

 村松は手を合わせて拝み倒していた。

「い、いや、その、べつに、あ、あわわわわ」

 顔を赤らめて照れるエリザヴィア。

 自分がしようとした事が、今になって恥ずかしくなっているようであった。

 六人共、話に夢中で猪田の事は気に留めていない。

 それを見た猪田は六人に気付かれないように、こっそりと部屋を出た。

 部屋を出ると、全速力で西園寺の部屋の前まで駆け込んだ。

「西園寺君。助けてっ」

 西園寺が寝ている部屋の扉を、ドンドンッと何度も叩いた。

 その音で、扉を開けた西園寺は猪田の顔を見るなり、何かあったなと思い、自分の部屋に入れた。

 部屋に入れると理由を聞いた西園寺は、猪田の肩を叩いた。

「今日は此処にいろ。大丈夫だ。あの六人が来ても部屋には通さないから」

 その言葉を聞いて、手を合わせて感謝する猪田。

 こうして猪田は西園寺の部屋で一夜を明かした。


 翌日。


 魔人領に侵攻準備をしている猪田に、セリーヌは近づいた。

 昨日の様な事があったので、猪田は警戒しながら跪いた。

「これは王女様。お見送りに来てくれたのですか?」

 そう尋ねる猪田に、セリーヌは近づいて手にある物を見せる。

 それは、紐を通された匂い袋のようであった。

「これは?」

「わたしの母は魔法の素養がありまして、その魔法の力を使ったお守りです。これを持てば如何なる災難からも守ってくれるそうです」

 セリーヌはそのお守りを猪田の手に握らせた。

「これを貸してあげます。ちゃんと返してくださいね」

「……はい」

 元気よく返事をした猪田であったが。内心では、これってフラグじゃないのか?と思った。

 お守りを首に下げると、そんな思いを頭の隅にやり、魔人領侵攻準備取り掛かった。



 そして、猪田達は魔王ツシカーヨロウリの眼前まで来て倒す事が出来た。

「もう、げんかいのようだ。さらばだ」

 そう言って魔王ツシカーヨロウリは、黒い砂となった。

 魔王が居た所には、魔王が来ていた服と黒い砂しか残っていなかった。

「・・・・・・・・これで、戦いは終わった。そして、帰れるんだ!」

 元の世界に帰る事が出来ると喜んでいる猪田。

 その後ろには、剣を構える天城が居た。

 剣を胸元まで引き寄せて、刃を横にしている。

 その構えから、今にも突きを放とうとしている様であった。

(ここで猪田を殺せば、椎名さんはオレの女にっ)

 そう思いながら、剣を突き出そうと一歩踏み込もうとしたら。

 ズルッ。

「あっ⁉」

 足を踏み出した先には戦闘の余波で出来た瓦礫の欠片があり、それを運悪く踏みこける天城。

 しかも、剣を構えていたので受け身を取る事が出来ず、顔面から勢いよくこけた。

 ズザザザザッ!

 そんな音を立ててこける天城。

「あまぎくん⁉」

 いきなり、顔面からこける級友を見て目をパチクリさせながら驚く猪田。

「っ、たたた、まさかこけるとは」

 こけて擦りむいたのだろう顔を赤くさせながら顔を押さえる天城。

(これじゃあ、後ろから刺す事は出来ないな。仕方がない。気分は良くないが正面から)

 そう思い、剣を構えようとしたら。

 ガチャッ。

 そんな音と共に、天城の肩に何かが当たり、床に落ちた。

 天城は屈んで、その何かを拾う。

「? これは瓦礫?」

 そう呟いたと同時に、天城の頭の上に少し大きい瓦礫が落ちた。

「ぐあっ⁉」

 いきなり、頭に瓦礫が落ちたので、天城は悲鳴をあげて気を失った。

「天城君⁉」

 驚きの声をあげる猪田。

 その声が、気を失う前に聞いた最後の声であった。




 魔王との戦いから数年後。


 西園寺は自分の家が経営している病院の一室に向かっていた。

 其処には魔王との戦いで昏睡状態となった天城が眠っている部屋であった。

 今朝がた、その部屋で経過観察していた看護師から、患者が目を覚ましたと報告を受けた西園寺は急いで病室に向かっていた。

 西園寺が病室に着くと、既に医師が天城の身体を診察していた。

「ふむ。長い間、昏睡状態だったので、少々栄養不足ですが、それ以外は特に問題ありませんね」

「あの、此処は?」

「此処は西園寺グループが経営している病院です」

「さいおんじの? どうして、オレは入院を?」

「それについては、俺から話そう」

 医師と話していたので気が付かなかったのか、西園寺の声を聞いて、ようやく西園寺の見る天城。

「西園寺っ」

「颯真様。いらしていたのですか?」

「ああ、済まないが席を外してくれ」

「分かりました」

 そう答えて、医師は看護師を連れて部屋から出て行った。

「良く目が覚めたな。天城」

「ああ、ところで、オレはどうして昏睡状態になったんだ?」

「覚えていないのか?」

「いや、魔王を討ち取った所は覚えているが、その後はちょっと」

「そうか。じゃあ、話が速い。其処から話すとしよう」

 西園寺は天城が昏睡状態になった経緯を話した。

「つまり、戦闘の余波で天井が崩れて、その瓦礫がオレに当たって、当たりどころが悪くて、オレはそのまま昏睡状態になったという事か?」

「そうだ。で、帰還魔法は確保したから、一部のクラスメート達を除いて、俺達は元の世界に帰って来たんだ」

「そうか。……その、一部って?」

「ああ、猪田達だな」

 それを聞いて納得した天城。

 猪田は向こうの世界で領地を貰ったので、向こうの世界に残っても不思議ではないからだ。

「後は、真田と張と雪奈と村松だな」

「そうか。・・・・・・・ユキナ⁉」

「ああ、済まん。昔の癖でな。お前にも分かりやすく言うと椎名だ。椎名と俺は幼馴染でな、よく下の名前で呼ぶんでな」

「へぇ、・・・・・・・椎名さんが向こうの世界に戻った⁉」

「ああ、本人が希望してな」

「そうなのか・・・・・・」

 西園寺の言葉を聞いて、シーツを握り絞める天城。

(くっ、あの時、殺していれば)

 内心憤る天城。

 そんな思いを抱く事を知らず西園寺は話を続ける。

「まぁ、向こうの世界に居たのは三年前までで、今はこっちと向こうの世界を行き来しながら、俺が起ち上げた会社の副社長をしてもらっている」

「はい?」

 何で、西園寺が会社を立ち上げた事よりも、どうして猪田が西園寺が経営している会社の副社長になっているのか意味が分からなかった。

「あいつな。向こうの世界に残って、こっちの世界と向こうの世界を繋ぐ(ゲート)を創ったんだ」

(ゲート)? それって、あの自衛隊が異世界に行く小説みたいな物か?」

「そんな感じだ。で、その(ゲート)が開発に成功したのが、二年前。あいつは向こうの世界では領地経営を、こっちの世界では俺の会社の副社長をという二足わらじ生活をしているんだ。まぁ、嫁さんが多いからそれくらいはしないとな」

「嫁さん?」

「ああ、真田と張と椎名と村松とセリーヌ王女とエリゼヴィアとか言う師団長とそれと魔人族以外の種族から十人ぐらい娶ったぞ」

「えっ⁉」

 驚きのあまり無表情になる天城。

「ほら、あいつの結婚式の時に撮った写真だ」

 西園寺は天城に猪田の結婚式で取った写真を見せた。

 こちらの世界で(おこ)なったのか、何処かのホテルでエントランスで写真を撮られていた。

 その写真には獣人族、鬼人族、天人族 竜人族の者達とクラスメート達も映っていた。

 更には猪田の親族と思われる人達と、明らかに堅気ではない雰囲気を出している人達と育ちの良い気品のある顔立ちの人達が映っていた。

 その中央には猪田がウェディングドレスを着た女性達に囲まれていた。

 そのウェディングドレスを着た女性達の中には、椎名も居た。

 椎名はちゃっかり、猪田の右隣に侍り満面の笑顔を浮かべていた。

「………………」

 その写真を見た天城は絶句した。

「はは、重婚じゃないのかと思っただろう? まぁ、あいつは向こうの世界でも市民権を持っているようなものだからな。それを活かして重婚できる様に法を改正させた。うちのグループと椎名の家が加われば、総理大臣を変える事も法の改正ぐらい簡単だからな。まぁ、あいつよりも椎名たちの方が喜んでいたがな。今頃、むこうの世界で正妻戦争でもしているんだろうな。はっはははは」

 その後も西園寺は色々と話していたが、天城の耳には入らなかった。

 自分の意中の人が結婚したという事が天城の中ではかなりのダメージだったからだ。

「あ、ああ・・・・・・」

 天城はまた気を失った。

「お、おい。しっかりしろっ」

 話している最中に、気を失った天城の肩を揺らす西園寺。

 それでも気を取り戻さないので、西園寺はナースコールを押して医師を呼んできてもらった。

 医師の処置により意識は取り戻したが、天城は暗い表情を浮かべる様になった。

 やがて、病院を退院した天城であったが、家に帰るなり家族に「探さないでくれ」と一言言って、何処かに行った。その後の天城の事を見た者は誰も居なかった。

 天城が天井から落ちて来た瓦礫で気を失った時。

 

「天城君。しっかりしてっ」

 猪田は軽く肩を揺らすが、起きる気配はなかった。

 そうしていると、西園寺と遠山がやって来た。

「猪田。天城。無事だったか?」

「それが天城君が気を失ってしまったんだ」

「なに、魔王の悪あがきか?」

「いや、何か突然こけて、そして立ち上がろうとしたら天井から瓦礫が落ちて来て、それが頭に当たって気を失っちゃったんだ」

 猪田の説明を聞いて、西園寺と遠山は顔を見合わせた後。口を開いた。

「「それは、何のコントだ?」」

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