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閑話 IFストーリー もしも天城が猪田を殺さなかったら

猪田視点IFストーリーです。

 第一章の93話から一部抜粋しました。

「どうやら、わたしは、ここまでの、ようだ・・・・・・いせかいからきたものよ。なはなんという?」

 自分を倒した者の名前を知りたいようだ。

「猪田信康」

「イノータ・ノブヤスか、わたしのさいごのあいてだ、しんでもわすれることはない」

「魔王、もう一つ聞きたい。この王宮には、僕達が元の世界に帰る方法を記した書物はあるか?」

 バァボル陛下は有ると言っていたが、本当かどうか疑問だ。

 そう思っていると、魔王は唇を震わせながら話す。

「ある。ここの、おうきゅうとしょかんに、いせかいからきたものたちの、きかんほうほうをしるしたものが、ある」

「そうかっ、良かった」

 これで皆、帰る事が出来る。

「もう、げんかいのようだ。さらばだ」

 そう言って魔王ツシカーヨロウリは、黒い砂となった。

 魔王が居た所には、魔王が来ていた服と黒い砂しか残っていなかった。

「・・・・・・・・これで、戦いは終わった。そして、帰れるんだ!」

 元の世界に帰る事が出来ると喜んでいたら。

 僕の肩をポンっと叩かれた。

「やったな。猪田」

「うんっ。天城君。お互い無事でよかったよ!」

 しかも、此処の王宮にある図書館には元の世界へと帰る事が出来る手段が記された本がある。

 これで帰れるんだ。日本に。

 そう思うと、思わず涙が出た。

「ああ、本当にそうだな」

 天城君は溜め息を吐いた後、僕をジッと見る。

「元の世界に帰ったら、椎名さんの事を気にかけてくれよ」

「えっ⁉」

 僕はその言葉に耳を疑った。

 天城君が何となく、椎名さんに気がある事は気付いていた。なのに、僕にそんな事を言うなんて。

「魔王の攻撃で、頭を打ったの?」

「はは、違う違う」

 僕の問いかけに、天城君は笑いながら手を横に振る。

「決戦が始まる前夜にな、オレさ椎名さんに告白したんだ」

「ああ、そうなんだ」

 これで、天城君が死んでいたらフラグ立っていた事になるな。

「でも、けんもほろろに断られたよ」

 天城君は苦笑いながら言う。

「え、えっと、その、何と言えば良いのか・・・・・・」

「その時に分かったんだ。そう、シイナサンニフサワシイノハ、イノタダケダッテ」

「うん⁉」

 何か、カタコトになってない?

「ソウワカッタカラ、オレハミヲヒイタンダ。スベテハ、シイナサンノタメニ、シイナサンノタメニシイナサンノタメニシイナサンノタメニシイナサンノタメニシイナサンノタメニシイナサンノタメニシイナサンノタメニシイナサンノタメニ」

「天城君っ⁉ しっかり、帰って来てっ」

 いったい、何があったんだ⁉

「あっ、済まない。そんな訳で、オレは身を引いたんだ。という訳で、気に掛けてくれ」

「う、うん。分かった」

 告白した時に何があったのか気になるけど、此処は素直に頷こう。

 そう話していると、遠山君と西園寺君がボロボロになってやって来た。

 お互いに生き残った事を喜びつつ、僕達は下に降りると、斎藤君を見つけて本陣へと帰還した。



 本陣に帰還すると。

 僕達を出迎えたのは、称賛の声でも歓喜の声でもなく説教だった。

 マイちゃんや椎名さんとエリザさんが、相談も無く敵本陣に突入した事がとてもご立腹だったようで、僕達はその場に座らされて説教された。

 ユエと瀬奈は僕達が説教している姿を見て笑っていた。

 総大将のアウラ王女様も笑っていた。

 正直に言って、皆ボロボロなのに座らされて説教されるのは苦痛だった。

 しかし、皆に相談も無く行動したのは確かなので、此処は甘んじて受ける事にした。

「もう、聞いているのっ。ノッ君っ」

「はいっ。聞いていますっ」

「全く、自分達だけ突入して魔王に倒すとか、そんな羨ましい事をするのなら、あたしのも声を掛けてよっ」

「すいませんでした」

「違うでしょう。マイカ。此処は、勝手に魔王が居る所に突入した事を怒る所で、自分が加われなくて悔しがる事ではないでしょうっ」

「そうだよ。真田さん」

 という具合で、説教しているのか僕達を事をネタに口喧嘩しているのか分からなくなったてきた。

 そんな不毛な時間を終えると、僕達はテントで休んだ。

 その夜。勝利した事で、盛大な宴が行われたそうだが、僕達はぐっすり眠っていたので参加していない。起きて、その話を聞いた僕は内心参加できなくて良かったと思った。

 だって、絶対にライオルダルク陛下が絡んでくるのが目に浮かんだからだ。

 その後。連合軍は王国の首都に凱旋した。

 連合軍の主要将軍と魔王が居る宮殿に突入した僕達が謁見の間に集まった。

 ライオルダルク陛下以外の皆は玉座の前で跪きながら、バァボル陛下が来るのを待った。

 そして、待つ事、数十分。

「バァボル陛下の御成りです!」

 近衛兵がそう告げると、謁見の間の隣にある部屋に続く扉が開いた音がした。

 その音がして少しすると、玉座にバァボル陛下が座る音がした。

「皆の者。面を上げよ」

 その声と共に、僕達は顔を上げる。

 顔を上げた僕は、ギョッとした。

 バァボル陛下の右隣には、仮の玉座が置かれて其処にライオルダルク陛下が座っていた。

 それはまだ良い。

 それよりも驚いたのは、左隣にいるセリーヌ王女であった。

 彼女が着ている服が以前に比べると、ゆったりとしたドレスを着ていた。

 そして、驚くべき事に、お腹が膨らんでいた。

「え、えっと、その王女様?」

「はい。旦那様」

 ニコリと笑顔を浮かべるセリーヌ。

 えっ、旦那様? 

 僕を見ながら言っている事から、つまりは僕が旦那様という事になるのか。

 そう思い、僕は自分を指差した。

 すると、セリーヌ王女は頷いた。

「「「………………………」」」

 その場に居た皆、言葉を失っていた。

「マジで?」

「はい♥」

 セリーヌ王女の言葉を聞いて、僕は驚きのあまり言葉を失った。


 その後は、大変だった。

 セリーヌ王女が妊娠させた事で、バァボル陛下から「まさか、娘を妊娠させて元の世界に帰るとは言わぬよな?」みたいな言葉を言われたので、僕は頷くしかなかった。

 魔王を討ち取った功績も加わり、爵位も男爵から公爵に陞爵した。

 でも、セリーヌ王女が妊娠した話を聞いたマイちゃん達が大激怒。

 これを宥めるのに苦労した。

 宥める事に成功すると、今度は「じゃあ、元の世界に帰らないの?」と聞かれて、返事に困った。

 流石に親が心配しているだろうし、それに友達にも会いたい。

 なので、考えて考えた結果。

 出た答えは、行き来するだった。

 ヒントは異世界で自衛隊が頑張る漫画だ。

 あの漫画では、自衛隊が異世界に通じる(ゲート)を通って異世界に渡った。

 なので、僕は(ゲート)を創る事を考えた。

 ひとまず、皆には魔法で帰還して貰い、僕は残る事にした。でも、僕が残る事を告げると、マイちゃん達も残ると言い出した。

 仕方がないので、僕は貰った領地で(ゲート)の開発に取り掛かった。

 転移魔法自体はあるので、後はその魔法を随時発動できる素材と(ゲート)を起動させる魔石を見つける又は作る事であった。

 試行錯誤を安堵も繰り返して、居ると一年が過ぎた。

 その頃になると、セリーヌ王女のお腹にいた子が産まれた。

 男の子で、皆どことなく僕に似ていると言っていた。

 その子の名前をつけるのにすったもんだとあったが、結局、家康に決まった。

 マイちゃんの華康とか、ユエの月信とか、椎名さんの(はく)()とか、村松さんの瀬太郎とかに比べた結果、これになった。

 セリーヌも不満なく受け入れてくれた。

 子供が生まれた事で、マイちゃん達が「子供っていいね」とか「わたしも子供が欲しいな~」とか僕を見ながら言って来た。

 そんな要求を交わしながら、僕は(ゲート)の開発に専念した。

 幾度に及ぶ失敗を越えて、僕はついに(ゲート)を開発に成功した。

「……」

 僕は開発した(ゲート)の前に立ち、その門を起動させた。

 (ゲート)の門扉が開き、何も無い空間から、黒い空間が生み出された。

 僕は皆に見送られながら、その(ゲート)を潜った。

 その先は、ホワイトアウトだった。

「さむっ、どこ、ここ⁈」

 吹雪いているので、視界が利かない中で、僕は傍で雪かきしている人を見つけた。

「すいません。此処は……って、おじいちゃんっ⁉」

「ああ? おまえ、信康じゃないか?」

 僕の前で雪かきしていたのは、今年で御年九十歳になるおじいちゃんだった。

 すると、此処はもしかして。北海道⁉

 僕は一度、おじいちゃんの家に戻り、電話を借りて家族に電話をした。

 その後は、家族の皆がおじいちゃんの所まで来て、僕に久しぶりに会える事に喜んだ。

 そして、僕がどういう経緯で、此処に来たのか事情を説明して、ついでとばかりに吹雪くのが止んだので見計らい、僕は来た(ゲート)に戻って、(ゲート)を安定させる素材を創った。

 その作業を見る家族達に、僕の子供を見せた。

 母さんと父さんは孫が出来たと、じいちゃんとばあちゃんは曾孫が出来たと喜んでいた。

 その後は西園寺君に連絡を入れて、どうやったのか知らないが、(ゲート)の周辺一帯を異世界治外法権とか言う権利を行使して、日本からも外国からも影響を受けないようにした。

 ちなみに(ゲート)の周辺一帯の統治権は(ゲート)がある領地の者とするという事で、僕の領地になった。

 と、まぁ、色々な事があったけど、何とか異世界と元の世界を行き来する事が出来た。

 正直、今はそれ以上の苦労が僕を襲っている。

「ノッ君。今日は向こうの世界で花見をしよう」

「賛成。友好の証で、桜を植樹したから、それで花見をしようよ」

「では、わたしの家から、料理人を呼ぼう」

「ふふふ、じゃあ、わたしも料理を作るね」

 マイちゃん、村松さん、ユエ、椎名さんが向こうの世界で花見をしようと言えば。

「いえいえ、今日は旦那様が居た世界で、雪まつりという祭りを見に行きましょう」

「良いわね。わたし達の国ではユキ? という物が見た事が無いから、その祭りを見ましょう」

「そうね。賛成だわ」

 セリーヌ、パリュサ、エリザさんが僕の世界で札幌で行われる雪まつりを見に行こうと誘う。

 ちなみにパリュサが居るのは、セリーヌが妊娠した事を知ったライオルダルク陛下が、僕の所に無理矢理押し付けて来たからだ。

 雪まつりはまだ開催してない。なのに、そんな事を言うという事は、つまり、向こうの世界を観光したいのだろう。

「はぁ、雪まつりは、まだ開催してないわよ」

「大方、それを口実にして、向こうの世界で観光したいのだろう」

「そんなの何時でも出来るでしょうに、そんな事よりも、花が咲いている時に花見の方が良いでしょう」

「うんうん。そうだそうだ」

「あらあら、貴女達はこちらの世界の出身ではないのに、どうしてこちらで花見をするのですか? そちらの世界で花見をしても良いと思いますが?」

「それに花見なんか、何処でしても同じだろう?」

「そうね。結局、酒を飲んで騒ぐだけなのだから」

 僕を挟んで、皆が睨みあった。

 ああ、疲れる。

決戦前夜。


 天城は本陣から少し離れた所で立っていた。

 腕を組みながら、指で二の腕を叩いている姿を見ると、まるで誰かを待っているかのようであった。

 そうして待つ事、数時間。

 人影が見えた。その影を見るなり、顔を輝かせる天城。

「良かった。来てくれたんだっ」

「・・・・・・何か用?」

 嫌そうな声をあげるのは、椎名であった。

「あ、あの。明日は決戦だから、君に言いたい事があるんだ」

「ふ~ん。そう」

 椎名は興味ないのか、前髪を弄っていた。

 そんな椎名に気にしないで、天城は声を掛ける。

「椎名さん。好きだったんだ。この戦いで生き残ったら、僕と付きあッて「嫌」」

 言っている最中で、椎名はバッサリと断った。

 言い終える前に返事を言われた天城は言葉を失った。

「用事はそれだけ? じゃあ、これで」

 椎名は踵返した。

 その背に天城は声を掛ける。

「……どうして?」

「どうして? そんなの決まっているでしょう。わたしは好きな人がいるの。それに、貴方の事は好きじゃないの」

「……お、おれじゃあ、駄目なのか?」

「ええ、その通りよ」

「……じゃあ、猪田は良いのか?」

 天城の言葉を聞いて、椎名は眉をピクリと動かした。

「あいつは良い奴だ。それは認める。でも、あいつは、君の事をどう思っているのか分かっているのかい?」

「知らないわ」

「だったら」

「でも、そんな事はあなたには関係ないわ」

「っ⁉」

 椎名の身体から溢れ出す鬼気に言葉を詰まらせる天城。

「あなたにも、猪田君の良い所を教えてあげる」

 

 数時間後。


「イノタハスバラシイイノタハスバラシイイノタハスバラシイイノタハスバラシイイノタハスバラシイイノタハスバラシイイノタハスバラシイイノタハスバラシイ」

 目い光が無い状態で言い続ける天城。

 そんな天城を見て、椎名は手を叩いた。

 すると、天城は呟くのを止めた。

「じゃあ、猪田君に相応しいのは?」

 椎名は笑顔で天城に訊ねた。

「ハイ。イノタニフサワシイノハ、シイナサンデス」

「そう良かった。猪田君が凄い事が分かってくれて、それで頼みたいんだけど良いかな?」

「ナンナリト」

「わたしと猪田君が上手くいう様にしてね。それと、猪田君を守ってね。例え、貴方が死んでも、ね」

「ハイ。ワカリマシタ」

「そう。ありがとう。じゃあ、わたしは先に帰るわ」

 椎名は嬉しそうな顔で本陣へ戻って行った。




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