第94話 ここが僕の終端
前半は猪田視点、後半はモリガン視点です。
やがて、光が止むと、僕は先程の王宮とはうって変わってデコボコした地形の場所に出た。
空が見える所を見ると、ここは地面の中ではないようだ。
「こ、ここは?」
周囲を見ても、何処も見覚えがある場所はない。
なので、僕が来た事が無い場所のようだ。
『ああ、その魔石は何処に転移するか分からない不良品だそうだ。だから、海に落ちるのかそれとも土の中に転移するのか、オレにも分からない』
と言っていたので、ランダムで何処かに飛ばされたのだろう。
近くに人里があると思うのは、希望的観測と思った方がいいな。
魔力が尽きた状態なので、傷口の回復も出来ない。
万事休すだな。
『お主、このままだと死ぬぞ?』
まさか、一緒に飛ばされているとは思わなかったので、モリガンの声を聞いて驚いた。
「ど、どうして、ここに?」
『我が契約者なのだからな、最期くらいは看取るのも一興だと思ってな』
義理堅いのか、それとも気まぐれなのか分からないが、ついて来るとか酔狂すぎる。
まぁ、最期くらい誰かに看取られて死にたいから助かる。
「も、もりがん、ここはどこか、わかる?」
『ここか。ここは龍の巣じゃな』
「な、なんだって、・・・・・・ぐふっ」
モリガンが言った場所を聞いて、思わず大きな声を出して吐血した。
龍の巣
そこは竜人族と天人族の領地の境目にある山の名前だ。
名前通りにそこは龍の住処だ。
龍とは知性を持ち、龍魔法と言われる特殊な魔法が使える魔獣の事を言う。自尊心が強いので人を乗せる事は滅多にない。
逆に、竜の方は知性がなく魔法も使えない魔獣で、こちらの方は乗り物として使われる。
簡単に言えば、知性があるのが龍。知性がないのが竜ということだ。
で、僕は今その龍の巣にいる。
このままでは、龍が吐くブレス黒焦げになるか。それとも一口で噛み殺されるかのどちらかだろう。
最も、龍に見つからなくてもこの傷だと出血多量で死ぬだろうな。
「さ、さすがに、くろこげになるまでかそうされるか、りゅうにくわれて、いぶくろのなかでしょうかされるのは、いやだな」
『では、どうする?』
「仕方がないから、こうする」
僕は懐から、あるものを出す。
それは小さい筒だった。
『それは?』
「これはね、あるまほうがはいっている、まほうのつつさ、めいしょうはきめてないな」
『その筒の中には、どんな魔法が入っているのだ?』
「まほうの、なまえは『くりすたる・しーるど』」
『「水晶・封印」とな、名前から察するに、封印する魔法のようだな』
「これはね、まおうが、ぼくたちでたおせなかったばあいを、そうてい、してつくったんだ、まりょくがつきても、つかえるように、このつつのなかに、はいっている」
『成程。それで、その筒を見せるのはどういう事だ?』
「かんたんだよ、そのまほうをぼくにつかって、ぼくのからだをふういんしてくれ」
『何故、そんな事をする?』
「さっきも、いったけど、やきころされるのも、りゅうにかみころされるのはごめんだよ」
『それでこの筒の中の魔法で封印されると?』
「おねがい、できるかな?」
『我が契約者の最後の願いだ。聞き入れてやろう』
「・・・・・・ありが、とう」
『それで、これはどう使うのだ?』
「くさりをひくと、まほうがはっしゃされるから、さきっぽを、ぼくにむければいいよ」
『分かった。他に何か言いたい事はあるか?』
「・・・・・・まいちゃん、ゆえ、しいなさん、むらまつさん、えりざさん、そして、せりーぬおうじょにつたえて、くれ、やくそく、まもれなくて、・・・・・・ご、め・・・・・・ん、って・・・・・・」
そこまで言って、僕は意識を保つ事が出来ず、目をつぶった。
モリガンside
動かなかなくなった契約者を見て、我は一時だけ目をつぶる。
今迄、多くの者と契約を結んだが、この者ほど気に入った者は居なかった。
いずれ、この世界で何かしらの種族として生まれ変わるであろう。
その時にまた会えるであろう。
『さて、契約者の最期の願いだ。とは言え、この姿のままでは鎖を引く事も出来ぬな』
仕方がないので、ここは義体を捨てるしかないか。
こやつには秘密であったが、実は義体が無くても、神はこの世界に降臨できる。
しかし、姿形を変える事が出来ないので我らを模した肖像画や彫像とそっくりなので本物だとバレる確率が高い。実際、何柱かの神はバレて、肖像画とか彫像などを作られた上に、他の神の特徴などを根掘り葉掘り言わされたそうだ。なので普段、この世界に降臨する時は色々な姿になれる義体で降臨している。
我は義体を捨てて、本来の姿に戻った。
『ふむ。久しぶりに戻ったな。ここの所、烏の姿でいたが、やはり本来の姿が一番いいの』
身体の調子を確認した我は、契約者に言われた通りに、筒の鎖を引っ張った。
すると、筒の先から透明な魔法弾が発射された。
その弾は、契約者に当たると、幾つもの水晶が出来て契約者の身体を包み込む。
やがて、大きな水晶となった。その中に契約者の身体があった。
『これで良いのだろう。契約者よ』
我がそう尋ねると、契約者は死んだのだが、何故か顔が微笑んだように見えた。
『ではな、輪廻の輪をめぐった先で生まれ変わった姿でまた会おうぞ。我が契約者。猪田信康よ』
我は再び烏の姿に戻って飛び立った。
本人は恨み言一つこぼさなかったが、少々腹が立つ事をしてくれた奴に仕返しをしてやるとしよう。
次の閑話で第一章が終わりです。