第93話 遂に魔王を討ち取った‼ しかし
僕と天城君との連携攻撃で、少しずつだが魔王を追い詰めていった。
片手しかない状態なのに、この魔王強すぎでしょう。
もし、手を切り落としてなかったら、僕達負けてたかも。
『お主、敵を前にしてそのような事を考えるとは、余裕じゃな?』
いや、そうゆう訳ではないよ。今も一杯一杯だし。
と言うか、もし、魔王を倒す事が出来なかったら、大丈夫なように手は考えていたから大丈夫なんだ。
『いつの間に、そんな手を考えていたのやら』
ここに来る前にとしか言えないな。
まぁ、見せる事はないからもういいだろう。それよりも、今は戦闘に集中しないと。
天城君と僕の攻撃でも、びくともしない魔王。
このままだと魔法で強化した効果も、僕の魔力も尽きる。
どうしたものか。
「猪田、俺に良い考えがある」
天城君が攻撃の手を止めて、僕の下に来る。
「なに、天城君?」
「今から魔法を放て」
「ふむ。それで?」
「当然、魔王は迎撃するだろう。そこで・・・・・・・・・するわけだ」
「成程。少なくともこのまま攻めて続けて味方が来るのを待つよりもいいね」
「ああ、任せたぞ」
「分かったよ」
天城君は離れた。
それを見て、魔王は僕の顔を見る。
「何か考えているようだが、所詮は小手先の知恵。そんなものでわたしを倒す事など、百年早いわ‼」
うん。何か、この魔王が言うと死亡フラグに聞こえる。
まぁ、そんな訳で倒させて頂きます。
「これでも喰らえ『爆炎』」
魔王の周りに、火種が幾つも生まれた。
やがて、その火種が弾けた。すると、ド~ンっという派手な音を立てて爆発した。
魔王は煙に隠れた。そこを天城君が切りかかる。
「これで、終わりだっ」
剣を振り下ろしたが、魔王は見えない筈なのに、その剣を難なく受け止めた。
「二度も同じ手が通じると思うな、小童!」
そのまま鍔迫り合いをする二人。
魔王を見て、笑みを浮かべる天城君。
「? 何が可笑しい?」
「ふっ、俺の作戦通りの展開になったから、喜んでいるのさ」
「なにっ⁉」
「今だ。猪田」
そこで、僕を呼んだら駄目だと思うよ。普通。
「まぁ、魔力を練り込んむのこれくらいでいいか」
僕は持っているグレイヴに魔力を込める。
そして、その場で跳び、グレイヴを投擲できるように構える。
「これで終わりだ! 『勝利をもたらす槍』」
魔力を込めた槍は、真っ直ぐ魔王に向かって飛んで行く。
流石にゲイ○ルグは問題なので、少し考えてこうしました。
魔王は片手しかないから、防ぐ事は出来ない。
これで決まりだ。
「ぐ、ぐうおおおおおおおっ⁉」
魔王もただでやられるつもりはないのか、魔力で障壁を張ったが『勝利をもたらす槍』は障壁を貫き進み、魔王すら貫いた。
「ごはっ!」
魔王はそのまま飛んで行き、玉座にぶつかったが壊して進み、壁にぶつかってようやく止まった。
僕は魔王の死を確認しようとしたが、足が縺れて転びそうになった。
何でだ? と思っていると、モリガンが話しかけてきた。
『魔力切れだな。少し休んだらどうだ?』
「いや、ちゃんと確認してから休むよ」
そう言って、僕はフラフラと歩きながら、魔王の下に行く。
魔王の下に行くと、身体に突き刺さったまま抜こうとしない魔王が壁に縫い付けれる様に立っていた。
狙ったつもりは無かったけど、どうやらグレイヴは魔王の心臓に命中したようだ。
グレイヴに貫かれ、胸に大穴を開ける魔王。
「ぐふっ、み、見事だ。・・・・・・どうやら、わたしの負けのようだ・・・・・・」
「そうですね」
とか言って、こっちの隙を伺うつもりかと身構えていたが、魔王の身体から黒い煙が出て来た。
「な、何だ?」
「これは、わたしが使った『魔王の軍勢』は魔力を使い兵士を生み出せるが、代償として生命を削る魔法なのだ」
「生命を、そこまでして勝ちたかったのか?」
「違う。わたしの最後の意地だ」
意地? ここで意地をはってなにがあるのやら。
「そう言えば、首都には非戦闘員を見る事はなかったのは何故だ?」
僕は気になった事を聞く事にした。
すると、魔王はすんなり答えた。
「我が国の民たちは既に、この大陸を出て行ったわ」
出て行ったっ。まさか、ユエが言っていた事が本当になるとは⁉
『・・・・・・ユエは魔人族は自分達の土地を捨てて、何処かの土地で新しく国を作るって言いたいのかい?』
『そうゆう可能性もあると言いたいだけだ』
まさか、本当にするとは思わなかった。
「それで、国民は全員、何処に?」
「東の海を渡り、新大陸に向かったわ。今更、追いかけても遅い」
「だろうな。その為の時間稼ぎをしていたのだから」
首都で籠城したのも、全て国民を連れて国外脱出させる為とは思わなかった。
「このまま、この大陸にいれば、国民は奴隷のような扱いになるのは、目に見て分かっていた。ならば」
「土地はくれてやるから、国民は見逃せってところかな?」
「ふっ、その通りだ」
魔王は笑みを浮かべた。すると、片足が突然黒い砂になった。
そして、身体が徐々に砂になっていった。
「どうやら、わたしは、ここまでの、ようだ・・・・・・いせかいからきたものよ。なはなんという?」
自分を倒した者の名前を知りたいようだ。
「猪田信康」
「イノータ・ノブヤスか、わたしのさいごのあいてだ、しんでもわすれることはない」
「魔王、もう一つ聞きたい。この王宮には、僕達が元の世界に帰る方法を記した書物はあるか?」
バァボル陛下は有ると言っていたが、本当かどうか疑問だ。
そう思っていると、魔王は唇を震わせながら話す。
「ある。ここの、おうきゅうとしょかんに、いせかいからきたものたちの、きかんほうほうをしるしたものが、ある」
「そうかっ、良かった」
これで皆、帰る事が出来る。
「もう、げんかいのようだ。さらばだ」
そう言って魔王ツシカーヨロウリは、黒い砂となった。
魔王が居た所には、魔王が来ていた服と黒い砂しか残っていなかった。
「・・・・・・・・これで、戦いは終わった。そして、帰れるんだ!」
元の世界に帰る事が出来ると喜んでいたら。
ドスッ。
背中から、何かを突き刺された。
その何かは背中を貫き、僕の心臓をも貫いた。
「えっ?」
呆けた声をあげる僕。
そして、痛みが全身を駆ける。
いったい、誰が刺したんだと、痛みに堪えながら振り返ると。
そこには天城君が居た。
「ど、どうして、こんなことを・・・・・・」
今迄、一緒に戦っていたのに、魔王を倒したからといって殺されるとは思ってもいなかった。
僕がそう尋ねても、天城君は答えなかった。
問いの答えの代わりなのか、柄に力を込めて捩じりだした。
「ぐほっ⁉」
刺し貫かれた上に、捩じられたので傷口が広がり吐血した。
そして、一気に剣を引き抜かれた。
血を吐きだしながら、僕はその場に倒れた。
最初、うつ伏せに倒れたが腕に力を込めて、横に倒れて仰向けになった。
(魔力は、もう殆どない。これじゃあ回復する事も出来ない)
傷を回復させるだけ魔力はない。なので、このままでは、ただ死を待つだけだ。
だが、死ぬ前に訊きたい事がある。それを聞かないと死んでも死にきれない。
「どうして、こんなことを、したんだ。あま、ぎ、くん」
喋る度に、口から血を吐き出す中、天城君に訊ねる。
もう一度訊いたお蔭なのか、今度は天城君は答えてくれた。
「お前が邪魔だったからだ」
邪魔ね。そうか、成程ね。
今の言葉で僕を殺す理由が分かったよ。
「・・・・・・きみが、しいな、さんを、すきな、ことは、しっていた、よ・・・・・・」
そうクラスの女子は天城君はよく僕を見ているとか言っていたが、実際は違う。
本当は椎名さんを見たいのに、その視線上に僕が偶々居るから見ている様に見えるだけだ。
僕も天城君の視線に気付いて、椎名さんが見える様に動くのだが、何故か椎名さんも僕の動きに合わせて動いてしまう。
見るだけではなく、時たまアプローチをしていたようだが、全然相手にされていなかった。
一度だけ、僕は椎名さんに天城君の事を訊いてみた。すると
『表の顔は良い人を演じているけど、腹の底では自己顕示欲が強くて自分の思い通りにいかないと気が済まない性質を持っている人』と言っていた。
こんな行動をしたのも、恐らくだが椎名さんも関係しているのだろうな。
「こ、こんなことを、しなくても、ちゃんと、こくはくすれば、いいだけじゃないか」
「したさっ、決戦前夜にな、でも、答えは」
「のーだったの?」
「それの方が遥かにマシだ」
思い出しても納得できないという顔をしている。
どうやら、そうとうキツイ事を言われたのだろう。
「きみが、なんていわれたかしらないけど、しょうじき、ここまですることではない、だから、まだ、なにか、あるのでしょう?」
何となくだけど、そんな気がした。
「・・・・・・・流石だな。そうだよ。お前が居るとオレがただの引き立て役になるからだよっ」
「ひきたてやく?」
意味が分からない。
「お前が内政でも戦場でも外交でも、各種族から高く評価をされているのに、オレだけは何にも評価されていないっ⁉ 逆にオレの失敗があげつららわされるのは、全部、お前が功績を立て過ぎる所為だ!」
「たしかに、それなりに、こうせきはたてたけど、きみだって、せんじょうにでてかつやくしたのは、うそじゃないだろう?」
「お前、オレが蔭で何て言われているか知っているか?」
聞いた事無いので、首を横に振る。
「〝独断でクラスメート達を死なせた上に、戦場に出ても友達に救われて碌な功を立てる事も出来ないハリガル・ティーガーのような奴〟と言われているんだ」
ハリガル・ティーガーとは、虎のような見た目なのに、実は草食で臆病な性格をした魔物だ。
このハリガル・ティーガーは魔物としては弱い部類に入る。だが、毛皮や内臓などが色々な事で使えるの事で有名な魔物だ。
その蔭口はこっちの世界風に言えば、腐っても鯛という意味かな?
それとも、張り子の虎かな? 分からないけど。
「学力だったらオレも負けていないのに、お前は知識だけでどうしてそんなに活躍できるんだ!」
正直、僕も何でか分からない。
「しょう、じき、ぼくも、わからない」
「嘘をつけ! どうせ、口先で上手い事を言って甘い料理を作って、王女様や貴族の奴らに媚びを売ったんだう⁉」
いや、そんな事はしていないかな。
そう話している間に、僕はモリガンと念話で会話した。
『傷を回復できる程の魔力を回してくれるかい?』
『無理だ。先程の戦闘でこの義体のある魔力全て使い切った』
『そっかぁ』
じゃあ、もう無理か。
せめて最後に、皆に一言言いたかったけど、無理だな。
「あまぎ、くん、これから、どうするんだ? さすがに、このままだとばれる、とおもうよ」
魔王の死体は無く、僕の死体だけあったら流石に天城君がやったと思う人が居ると思う。
そこで疑われる事があれば、魔王を討ち取ったという名声に傷がつく。
「なに、ちゃんとそこまで考えている」
天城君は懐から何かを出した。
ピントが合わず、懐から出した物が分からない。
「それは?」
「これはな『転テレ移ポートの魔石』だ」
「てんいのませきということは、まさか・・・・・・・・」
「そうだ。死体がなければ、誰もオレが殺したと思わないだろう」
成程。考えたな。
「それで、したいがないのは、まほうをつかいすぎて、からだがもたなかったとか、いうのかい?」
「まぁ、そんな所だ」
そう言って、天城君は『転移の魔石』を僕に投げ渡した。
胸元に魔石が落ちると、その魔石は輝きだした。
「ああ、その魔石は何処に転移するか分からない不良品だそうだ。だから、海に落ちるのかそれとも土の中に転移するのか、オレにも分からない。ただ、これだけは言える」
天城君は心底楽しそうに笑う。
「もう、オレとお前は会う事はないという事は分かる」
「たしか、にね。そう、なるだろうね」
そして魔石が輝きが、僕の身体を包みだした。
いよいよ転移するようだ。
「じゃあな、猪田。正直お前には色々と世話になっていたし、嫌いじゃなかったぜ」
「そう。じゃあ、さいごの、ぼくもひとこといわせて、くれる、かな」
最期にこれだけは言いたかった。
「何だ?」
「ぼくをころしても、しいなさんをそうかんたんに、すきにさせるのは、むずかしいとおもうよ」
うん。これだけは言いたかった。
正直、あの性格なら、僕が死んでも、その死体を見つけて防腐処理して一生飾りそうな気がする。
そこまで言って、魔石の輝きが増して何も見えなくなった。