第8話 今後の事で皆と話し合い
ライデルは狂ったよう、ブツブツと呟きながら辺りを歩き回る。
その姿はまるで、親とはぐれた子犬のようだ。
僕達は、どうしたらいいか分からず、取りあえず、ライデルが落ち着くのを待った。
待つ事数分、ライデルは息を深く吸ってようやく落ち着いた。
「御見苦しい所を見せて、大変失礼いたしました。では、続きを致しましょう」
ライデルが落ち着いたので、残ったクラスメート達は自分の職業を得る。
全員終わり、ライデルが口を開く。
「皆さまの職業は把握いたしました。それでここからは、皆様方で話し合いをしていただきたい」
「話し合い?」
「ええ、我らの戦争に参加するのか、またはしないのか。それとも条件付きで参加するのかを決めていただきたいのです」
「俺達で決めれるなら文句はないが、そちらとしては良いのか? 俺達はこちらの世界に来たばかりと比べて、職業によるボーナスを得たのだから、有無を言わさず戦争に参加させても、問題ないと思うが?」
西園寺君がそう言ってライデルを睨む。
その目は、力づくで従わせるなら、こちらにも考えがあるぞと言っているようだ。
しかし、ライデルはそれを聞いて首を横に振る。
「いかに職業を得たとはいえ、皆様の中には戦争に参加するのを嫌う方もおられるでしょう。ですので、皆様はよく話し合って決めて貰っていただきたいのです」
「・・・・・・・成程、理解した。では、俺達が先程集まった部屋をお借りしたい」
「ええ、どうぞ」
「それと、俺達の話が終わるまで、誰も近寄らせないでくれ」
「分かりました。他に何かありますか?」
「他はないな。皆もそれで良いな?」
皆は首を縦に振る。
「じゃあ、また部屋まで案内してもらおうか、司教殿」
「かしこまりました。それとわたしは大司教です」
「失礼した。大司教殿」
僕たちはライデルを先頭にして、集まった部屋に移動する。
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僕たちは部屋に着き最初と同じ席に座る。
「では、お話が終りましたら、このベルを鳴らして下さい。そうしましたら、わたしがここに参ります」
「了解した。大司教殿」
ライデルが僕達に一礼をして、部屋から出て行った。
扉が閉まる音が、部屋に響く。
クラスの皆しかいないなか、西園寺君が司会者のように話し出す。
「さて、目下のところ帰る方法が見当たらず、俺達の居る国は他の種族の国と戦争状態だ。このままでは、俺達もいつ戦火に見舞われるか分からない。そこで、皆に訊きたい」
西園寺君は一度区切り、皆の顔を見る。
「俺達の今後の行動をどうするか、皆の意見を聞きたい」
「皆の意見って言ってもな・・・・・・・」
「もう戦争に参加するしかないんじゃないのか?」
「そうしたら、人を殺す事になるんだろう?」
「わたしは嫌よ。こんな状況だからって人を殺すなんて」
「それを言ったら、俺もそうだ」
「でも、戦争に勝たないと生き残れないし、それに」
「帰れる方法が見つかるかもな、でも、本当の所怪しいぜ」
皆は自分の思っている事を口々に言う。
僕達の居た国は戦争なんか縁遠い所だったので、戦えと言われても皆腰が引ける。
戦争に参加したくないと言う空気になる中、バンッとテーブルを叩く音が響く。
テーブルを叩いたのは、天城君だ。
「皆、俺達の居た国は平和な所だったから、戦争になんか参加したくないのは分かる。でも、こうしている間にも、罪のない人々が他の種族によって危険な目に遭っているかもしれないんだ。俺はそれを放って置くことはできない。だから、俺は戦う。そしてこの世界の人達を救い、皆と一緒に家に帰ろう!」
天城君が握り拳を高く上げる。すると、天城君の体が後光が差したように輝きだす。
その光を見て、クラスの皆はその光に魅せられたように活気づく。皆の顔は絶望の中に希望を見つけたような顔をしている。
女子も何人かは天城君に熱っぽい視線を送る。
「ふん、あいつは口が巧いと思っていたが、この世界に来て、扇動者の才能でも手に入れたか?」
ユエは侮蔑の表情で、天城君を見る。
「ユエ、もう少し声を抑えて、皆に聞かれるよ」
「知った事か。わたしは思った事を口に出しただけだ。それとノブ」
「なに?」
「天城には気付けろ」
「何でかな?」
「あいつと話してみて、こいつは薄っぺらい理想を持っている馬鹿だと思ったぞ」
「薄っぺらい理想?」
「そうだ。まぁ、ノブもあいつもっと接してみたら分かるが、あいつは時として、誰よりも酷な事をするだろう」
ユエがここまで断言するなんて、珍しいな。
僕がユエとの話に夢中になっていると、クラスの皆は戦争に参加する流れになっていた。
中には気が早いのがいるようで、俺の力でこの戦争を終わらせてやるとか戦争なんか俺達が力を合わせれば怖くないとか言っている者も居る。
このままでは、まずいと思っていると、西園寺君が口を開く。
「天城。それはお前の意見であって、皆の意見ではない。自分の思い通りに皆を誘導するな」
西園寺君がそう言うと、先程まで騒いでいたクラスの皆が静まる。
掛けている眼鏡を直して、天城君を見る。
「天城。お前は戦争に参加するのは良い。それは個人の自由だ。だが、クラスの皆を巻き込むな。皆はお前みたいに、強い訳ではないぞ」
「確かにそうだ。でも、一人一人が弱くても、皆の力を合わせればどんな困難でも超える事は出来る筈だ。俺達にはそれが出来る力がある!」
「確かに、職業のボーナスで力は得る事は出来た。だが、それでも、出来る事には限りがある。俺達はその限りの中で生きて行かなければならない」
「それはつまり、目の前に助ける事が出来る命があっても、見捨てないといけないと言う事か?」
「極端な意見だが、そうだ」
「ふざけるな! 俺は全てを救ってみせる‼」
「そんな傲慢な考えを、皆に押し付けるな! 馬鹿め!」
「なんだとっ⁉ もういっぺん言ってみろ!」
天城君が椅子から立ち上がり、西園寺君の襟首を掴む。
「そんなに聞きたいなら、何度でも言ってやる。その傲慢な考えを、皆に押し付けつけるな!」
「こいつ‼」
天城君が拳を振り上げる。このままでは殴り合いが始まりそうだ。
(このままだったら、二人の間にしこりが残りそうだ。ここは誰か仲裁するしかないけど・・・・・・)
周りに目をやると、誰も止める気配はない。二人のやりとりを見て、怖くて近寄れないのだろう。
仕方がないので、僕が仲裁する。
「まあまあまあまあっ、二人共、今は喧嘩なんかする場合じゃなくでしょう。今は話し合う場なんだから、喧嘩するなら、話し合いが終ってからでも良いじゃないか」
二人は僕に顔を向ける。
「猪田、止めないでくれ。こいつはぶん殴らないと分からない!」
「ふん、お前みたいな理想主義者に何発殴られようが、俺は蚊程にも感じないだろうなっ」
「何いぃ!」
「お、抑えて抑えて、天城君。確かに天城君の意見も間違ってはいない」
「なに?」
西園寺君は不審な顔で僕を見る。
「猪田、お前はそう言ってくれると思っていたぞ」
天城君は嬉しいのか笑顔を浮かべる。
そんなキラキラな笑顔は女性に向けて下さいと思いながら、僕は口を開く。
「確かに僕達はこの世界の人達を救うために呼ばれたんだから、この力で救うのは間違ってはいないし、困っている人を見捨てるのは人として正しい事だ」
天城君は嬉しいのか、僕が話す度にうんうんと首を縦に振る。
「でも、西園寺君も言っている事も間違いではない」
「なんだって⁉」
「当然だ」
西園寺君は嬉しそうに頷く。逆に天城君は説明しろと言わんばかりに僕を見る。
「僕達の居た国は戦争とは程遠い所だった。本当は皆も戦争に参加したくないし、戦う手段なんて知らない人が居てもおかしくないよ」
「だが、皆は俺の意見に賛成してくれたぞ。それに俺達には職業によるボーナスが付いている」
「確かにそうだね。でも、僕達が持っている職業には、戦闘向きではない職業の人もいるよ。そんな人も戦争に参加させるの?」
「うっ、そ、それだったら、後方支援にでも回せば」
「敵がどうやって侵攻してくるか分からないのに? もし後方支援のの人達がいる所に敵が攻めてきたら、僕達が救援に行く前に死んじゃうかもしれないんだよ」
「た、確かにそうだな」
「その通りだ。流石だ。猪田」
西園寺君。普段は素直に褒めない君が褒めると、僕は女子に睨まれそうで怖いんだけど!
と言うか、今も女子が僕を睨んでいる気がする。何か視線が突き刺さるし!
「そこでさ、ここは民主的に決めない?」
「民主的?」
「多数決でもするのか?」
「そう、でも。戦争に参加するしないで、皆に決めてもらおう」
「つまり、多数決で多い方の意見で決めると言う事だな」
「いや、違うよ。戦争に参加する人と参加しない人と分かれてもらうだけだよ」
「そうか、つまり二つのグループに分かれると言う事だな」
「その通りだよ。西園寺君、戦争に参加した人達のグループと参加したくないグループで分かれてもらうのさ」
「そうする事で何か意味があるのか? 別にクラス全員参加しても問題ないだろう?」
「でも、後になって戦争に参加した事を後悔するよりも、良いと思うんだ」
「だったら、最初から参加する奴としない奴とで分かれた方が良いと?」
「そうだよ。もし、後で考えが変わっても問題ないよ」
「ふむ、確かにな、最初は戦争に参加していても、後になって嫌になる奴もいれば、気が変わって戦争に参加する奴が居るかもしれないしな」
「・・・・・・・そうだな。だが、向こうは文句を言って来ないだろうか?」
「大丈夫だと思うよ。向こうからしたら、自分達の為に僕達を呼んだ引け目があるようだろうし、それに戦争に向かない職業を持っている人を戦わせるなんて事をしても無意味だと分かっているよ」
「よし、なら、猪田の意見で決めるとしよう。皆もそれで良いな」
クラスの皆は首を縦に振る。
「じゃあ、まずは戦争に参加する奴は挙手しろ」
西園寺君がそう言うと、まばらに手が挙がる。
さてと、僕はどうしようかな。