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第91話 魔王の策謀(裏)

 前半は真田舞華視点で、後半は椎名視点です。

 あたしが本陣に詰めていると、伝令がテントの中に駆け込んだ。

「報告いたします。先程首都に潜入した部隊が全ての城門を解放に成功しました‼」

 やった‼ これで首都に突入できる。

 これでこの戦いも終わる。

 あたしがそう思っていると、総大将の王女様が号令を下した。

「この機を逃すな。全軍に突入せよと伝えろ」

「敵の奇襲部隊は如何いたしますか?」

「もし聞かれたら、本陣左翼の部隊で叩く故、心配無用と伝えろ」

「はっ‼」

 伝令がテントから出て行った。

「左翼のアドラーに伝令。奇襲部隊を叩けと伝えろ!」

「はっ」

 本陣にいる兵士がそう返事をして、テントから出て行った。

 それからしばらくして、首都から喊声が本陣にまで聞こえて来た。

「ねぇ、ユエ」

「何だ。マイ」

「このまま行けば勝てるかな?」

「それは、わたしも分からん」

「えっ⁉ でも、もう首都の城門は全て開いたし、後は魔王を討ち取ればあたし達の勝ちでしょう?」

「その魔王を討ち取るまでに、戦局がひっくり返されるかもしれんぞ」

「この局面でどうやってひっくり返すの?」

 あたしの頭じゃあ、どうすればいいのかまったく分からない。

 流石に不謹慎な事を言うという事で、ユエはあたしの耳元に顔を近づける。

「例えばだが、各種族の軍団を指揮する将を暗殺する」

「それは確かにひっくり返るね」

「もう一つは、総大将を討ち取る事だ」

「・・・・・・それって、王女様を?」

 流石にそれ以上言うのは憚れるので言わないが、ユエは分かった様だ。

「そうだ。今の状態で攻め込まれたら、本陣はかなり危ない」

「そうだよね。今各種族の軍は首都攻略に目が向いているから危ないね」

 あたし達がこうして、話していると兵士が入って来た。

「伝令! アドラー軍団長よりのお言葉です」

「アドラーはなんと?」

「敵の奇襲部隊が何処かに姿を隠した模様。引き続き捜索するが、本陣も注意されたしとの事です」 

「了解したと伝えろ」

「はっ!」

 伝令が出て行くと、王女様は顎に手を添えて何か考えている。

 ああ~、こんな時にノッ君がいてくれたらな~。

 そう思うのは、どうやらわたしだけじゃないようで、ユエもそんな顔をしていた。

 よく見ると椎名さんとセナッチもそんな顔をしていた。

(むぅ、いつのまに女たらしになったんだろう。帰って来たらそこを含めて、お話しないと駄目かな)

 内心、怒っていると兵士の人が慌ててテントに駆けこんで来た。

「で、伝令! 東門を攻めていた獣人族のライオル陛下からの急報です!」

「何だ。何があった?」

「はっ、首都に居た魔人族軍が東門を突破した模様。数、一万」

「一万か、落ちる首都から抜け出したにしては少し多いな。それでその敵軍は何処に向かった?」

「そのまま南に向かったとの事です」

「南か・・・・・・・、誰か地図を」

 兵士の一人がテーブルに地図を広げた。

 王女様は地図を見て考えていた。

「東門から南か・・・・・・・成程な」

「如何いたしました。王女様?」

「敵は本陣を攻撃するようだ」

「なっ⁉ ま、まことですか?」

「恐らくだ。だが、今この情勢で、敵軍が勝つにはわたしを討ち取らねば勝機はない」

「た、確かにそうですな」

「各人の将軍達に通達。警戒を厳にせよ」

「はっ!」

 王女様の命令を伝えようと、兵士達が出て行こうとしたら、兵士がテントの中に入って来た。

「で、伝令! 魔人族軍が我が本陣に迫っている模様です」

「迎え撃て」

「はっ!」

 王女様の命令を伝えるべく、テントを慌ただしく出る兵士達。

「ユエ、敵はここまでくるかな?」

「恐らく来るだろうな」

「ほんと?」

「確率的に言えば、六分四分だな」

「どっちが六分?」

「本陣に来るのが」

「そっかぁ、じゃあ、準備しないと駄目だね」

 あたしは得物を何時でも抜ける様に身構えた。

 ここが落ちたらあたし達もどうなるか分からない。だから、踏ん張らないと。



 椎名side


 わたし達がいる本陣に兵士達が慌ただしく出入りを繰り返す。

 兵士達の報告を聞いた所だと、戦況は一進一退といった感じのようね。

 こちらは三万、敵は一万。兵数が少ない割に、敵は奮戦しているようね。

 でも、直ぐに戦況はひっくり返る筈ね。

 もう少ししたら、奇襲部隊を撃退する為に出て行った混成軍団が戻って来る筈、それまで耐えればこちらの勝ちね。

(早くこの戦いが終って、猪田君が早く戻ってこないかな)

 わたしの頭の中ではそれが一番大事だ。

 そう思っていると、伝令がテントに駆けこんで来た。

「ご報告申し上げます! 敵軍の後背を混成軍団が強襲した事で、敵軍が混乱している模様です!」

「そうか。思っていたよりも早く来たか。よし、そのまま挟撃せよと伝えろ」

「はっ!」

 伝令がまた命令を伝える為に駆けだした。

 このまま行けば、攻め込んで来た敵軍は壊滅の筈なのだけど。

(どうしてかしら、胸騒ぎがする?)

 先程からわたしは言いようもない胸騒ぎを覚えていると、伝令がテントに入って来た。

「カシュー軍団長より伝令です。混成軍団と戦士団で挟撃をしているのですが、今だ敵軍は頑強に抵抗しているので、援軍を乞うとの事です」

「ふむ。分かった。至急送ると伝えろ」

「はっ」

「誰か、魔法師団に伝令を送れ、駄目押しをしてやれと」

「直ちにっ」

 伝令が出て行った。

 これで本陣の兵力は騎士団と本陣の近衛兵団の一万だけだ。

 防衛するには少し心もとないが、もう戦いは終わったも当然だから大丈夫ね。

 と、そう思っていた矢先に、本陣の外がざわつきだした。

 どうしたのだろうと思っていると、外を守っている兵士達が駆けこんで来た。

「閣下、一大事です! 敵軍が我が軍の後背に現れ攻撃しています‼」

「な、なんだと⁉」

 仮面越しなので分からないが、王女は驚愕していると思う。

 それはそうよね。敵軍がいきなり後背に現れて攻撃してきたら誰でも驚くわ。

(何かの魔法で姿を隠して、そして本陣まで近づいたのかしら?)

 まぁ、もう少ししたら分かるかしら。

「報告します。敵兵力は三千五百程になります!」

「三千五百だと? 何処かに隠れた敵の奇襲部隊の数は?」

「はぁっ、確か三千五百だったかと」

「・・・・・・その部隊が本陣に攻め込んで来たと考えるべきだな」

「しかし、三千五百で一万の本陣を攻撃するとは、あまりにも無謀では?」

「向こうが相手をするつもりならばそうだが、恐らく違うだろう」

「? それはいったい」

 王女様が側近と話していると、伝令が入って来た。

「急報! 敵軍は騎士団と激突しましたが、一部がそのまま突破した模様です!」

「数は⁉」

「五百程になります!」

「敵はわたしの首を狙いに来たか」

「閣下、直ちにこの場を離れましょう! そして後方で態勢を整えてから」

「愚か者」

 側近の人がなおも言おうとしたが、王女が割り込んだ。

「ここで退けば、今首都攻略中の部隊に影響が出るであろうが」

「っ⁉ し、しかしっ」

「くどいっ! 全軍に命じる。この場を死守せよ‼」

「は、ははぁ‼」

 その場に居た人達は皆、王女の覇気に圧されて命令通りに行動した。

(・・・・・・面倒な事になりそうね)

 このままだと、敵軍がここまで来るのも時間の問題かも知れないわね。

 仕方がないわね。ここはわたしが行くしかないか。

 わたしがテントを出ようとしたら、張さんが声を掛けて来た。

「椎名、お前、何処に行くつもりだ?」

「・・・・・・ちょっと、外に出て風に当たりいくだけだから」

「一人でか?」

「何だったら、張さんも来る?」

「・・・・・・遠慮しておこう。何時、背中から襲われるか分からないからな」

 あら? それは暗にわたしが張さんを暗殺するかもしれないと言っているのかしら?

 流石にそんな事はしないわよ。何だって、猪田君のだい・・じ・な・友・・達・・だからね。

「じゃあ、わたしは出るから」

 わたしはテントを出て、直ぐに魔法を発動させた。

「『(ホーク)の・(アイ)』」

 この魔法は所謂千里眼のような魔法で、半径千メートルはある。

 その中には、本陣を攻撃している魔人族の部隊はバッチリ入っている。

「・・・・・・狙いは付いた。後は」

 わたしは肩に掛けている。大弓を弦を触れた。

 うん。問題なし。

 矢を番えずに、わたしは弓を空に向かって弦を引いた。

「わたしなりにアレンジした魔法をお披露目しましょうか」

 本来なら弓を番える所に風魔法の矢が現れた。

「唸れ。雷光」

 その魔法の矢に雷が宿った。

 わたしの目には『鷹の目』は発動しているので、矢は外れる事はない。

「『雷サン光ダーの・矢嵐ストーム』」

 そう唱えて、弦を離すと魔法の矢は空に向かって放たれた。

 放たれた矢は、空を貫くかの様に飛んで行き、やがて消える。

 すると、空に幾つかの魔法陣が浮かんだ。

 その魔法陣から、槍のような太い雷の矢が出てきた。その矢は敵に魔法陣から放たれた。

 放たれた矢が敵に突き刺さって行くのを、わたしは『鷹の目』で確認していた。

「・・・・・・・・ん、面倒なのが生き残りそうね」

 魔法で確認していると、魔人族軍の中で一番煌びやかな鎧を着た男性が魔法で防いでいた。

 完全に防御しているので、もう一度同じ魔法で倒せるとは思えない。

「仕方がない。直接行って倒すか」

 そう呟き、わたしは足の裏に魔力を集めて走り出した。


 少し走ると、先程まで魔人族軍と交戦していた場所に着いた。

 その場所では阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 魔人族軍の兵は皆、身体の何処かを撃ち抜かれて事切れていたり、四肢の何処かを失い悶え苦しんでいたり、あるいはあまりの痛みで正気を失い、意味不明な言葉を呟きながらぼんやり立っている人が多かった。

 逆にこちら側の兵には一人も矢に刺さった者は居なかった。

 自分達だけ何ともないので、どうしたらいいか困惑しているようだ。

 死傷者多数の魔人族の中でも、魔法で何とか防いだ人も居るようで、その中で一番煌びやかな鎧を着た人が前に出て来た。

 年齢は多分、二十代後半くらいかな?

 金髪で荒々しい雰囲気を持ったイケメンだ。格好は派手なので目つきが悪い不良のようだ。

「先程の魔法を放ったのは、てめえか?」

「そうよ。貴方、お名前は?」

「俺様は四魔将最強の男。銘を「花炎」名をオサーブマだ。ヨロシクゥゥゥ⁉」

 何か、一昔のドラマで出て来た不良を思い出すな。

 まぁそんな事はどうでもいいか。

「わたしは」

「おっと、別に名乗らなくていいぜ。何せ、あんたはここで死ぬんだからなっ!」

 オサーブマは手を翳すと、わたしの周りに火の花が幾つも浮かんだ。

「ぶっ飛びなっ! 『爆エクス散プロー華ジョン』」

 そう叫ぶと、火の花は爆発した。まるで散る花のように。

「ぎゃはははっはは、どうだ。俺の『爆散華』の味は? まぁ、もうどんな味か聞けないけどなっ、ぎゃははははははっ!」

「・・・・・・ふぅ、危ない危ない。もう少しで服が焦げるところだったわ」

 わたしが服に着いた埃を叩き落としていると、そのオサーブマと言う人が吃驚した顔でわたしを見る。

「もう、服が焦げたらどうするつもりっ」

 わたしがそう言うと、オサーブマはわたしを指差して、口をパクパクさせた。

 人に指差したらいけないと教わらなかったのかしら?

「な、なんで、いきてる?」

「そんなの爆発する前に、その場を離れただけよ」

「⁉‼⁉‼」

 何か、言葉にならない叫びをあげているけど、わたしにはどうでもいいか。

 腰に差しているナイフを抜いた。

 鍛冶屋に頼んで、内反りの湾曲したナイフを二本ほど作った。

 刀身を反らせるのは、わたしが日本人だからかな? 直感でこう作ってもらった。

 服に隠してもバレにくいので重宝していた。

 何か村松さんはわたしのナイフを見て「ククリナイフじゃん⁉」とか言っていたけど、調べる事が出来ないので、そのくくりないふ? がどんな物か分からない。

「くそっ、なら。もう一度、『爆」

「遅い」

 相手が魔法を唱える前に、わたしは相手の腕を斬った。

 斬られた腕は血を流しながら何処かに飛んで行った。

「ぎゃああああっ、お、おれのうでがぁぁぁぁ」

「さよなら」

 そう言って、わたしは敵将の首を斬る。

 敵将は目を見開き自分が斬られた事を感じさせない顔をしながら、胴体から離れて行った。

 その様を両軍の兵士達はただ見ていた。

「ふぅ、これでいいかな」

 わたしは本陣に戻ろうとしたら、

「将軍の仇!」

 魔人族軍の兵士達が襲い掛かってきた。その攻撃を躱し、そうしながら攻撃した。

 わたしが通り過ぎると、敵軍の兵士達は身体を真っ二つにして倒れて行く。

「ひいいいいいいっ⁉」

 敵軍が恐慌しだした。後は任せても大丈夫だろう。

 その前に、身体の匂いを嗅ぐ。

 血の匂いがしないか、汗臭く無いか確認した。

 猪田君が戻ってきた時に臭かったら、恥ずかしすぎる。

「・・・・・・・・・・うん、じゃあ後はお任せします」

「えっ、は、はい」

 この場にいる部隊長が返事したので、わたしは本陣に戻った。

「あれは、人なのか?」

 何か、部隊長が失礼な事を言った気がするけど、気の所為ね。

「そう言えば、あの敵将の名前なんて言ったかしら? ・・・・・・・まぁ、いいか」

 早く戻ってこないかな。猪田君。

 そう思いながら、わたしは本陣に戻った。







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