第88話 オレバーツビムア攻略戦
王女様の号令により、各種族軍が首都に進撃を開始した。
魔王が生み出した『魔王の軍勢』も僕達に軍が近づいて来るにつれて動き出した。
防塁で防衛する者、僕達に向けて進軍する者など色々な行動を取る。
首都を囲むように攻めているので、何処の軍が先にぶつかるか分からない。
「伝令! 北門付近を包囲していた亜人族軍が敵の魔法と交戦しました!」
「エルカス将軍には、逐次伝令を回すようにしろとだけ伝えろ」
「はっ」
伝令の報告を聞いて指示をだす。
まずは、北門の軍が当たったか、亜人族軍は全軍の中で兵が一番少ない。包囲を崩されないように、何処かの軍を後詰に出すか、援軍を送る様に指示を出した方がいいかな。
「伝令! 西門を攻略に向かった鬼人族軍が敵魔法と交戦したとの事」
「レツゴウ将軍には無理な攻めはするなと伝えろ」
「はっ」
「伝令! 南門に攻め込んだ獣人族軍が敵の魔法と接敵し交戦との事です」
「ライオル陛下にはまだ初戦ゆえ、自重するようにと伝えろ」
「はっ」
伝令が次から次へと来て、報告をしていく。王女様はその報告を聞いて、指示を出した。
「東門はまだ交戦していないようだな。どこの軍が居る?」
「東門でしたら、天人族軍です」
「天人族軍か、他の軍は交戦しているゆえ、そろそろ交戦しても良い頃か」
そう話をしていると、伝令が本陣にやってきた。
「伝令、東門から敵軍が出撃、数は一万以上。更に敵が魔法で一緒に攻撃してきた模様、至急援軍を求むとの事です」
「このタイミングで首都の防衛軍を動かすか、本陣の兵を出すのはまだ早い」
「ならば、竜人族の軍を動かすしかありません」
「そうだな、竜人族のバハクート将軍に伝令。至急、東門に向かい天人族軍を援護せよ!」
「はっ」
「左翼を指揮するアドラーに、いつでも出撃で出来る様に準備しろと伝えろ」
「は? 分かりました」
伝令は何故左翼だけ出撃準備するのか分からず、首を傾げるが、命令を忠実に従い左翼にむかった。
(成程。遊撃機動戦力で各門の攻略軍の援護に向かわせるつもりか)
だから、機動戦力である魔獣騎兵団、遊撃軍団、竜騎兵団の混成軍団なのだと分かった。
まずは、北門に向かわせるのだろうか? それとも、各門の攻略軍で一番兵が多い獣人族軍を援護させて、南門を突破させるのかな。どんな手を打つのだろうか。
しかし、戦線は膠着した。そのままずるずると時間だけ過ぎていき、やがて夜になると敵軍が首都に後退し、敵の魔法も防塁まで後退した。
それを見た各種族軍も後退した。初戦はまずまずかな。
翌日。
連合軍は各種族軍が協力して、首都城壁の周りに張り巡らされた防塁の撤去と魔法の撃退に掛かった。
魔王が発動した魔法は倒しても倒しても何処からか首都の周りに現れるようだ。それを見て、常時発動のタイプだと分かった。
なので、その分負担が半端ないと判断された。それで攻略のめどがつくまでの間は波状攻撃に専念する事になった。これは僕の案だ。
敵が籠城するのであれば、軍を分けて休む間もなく攻撃すればいいと事前に提案していた。
この話を会議でした時、各個撃破されて撤退の憂き目にあうのでは? と言われたが、そこはキチンと反論した。
連合軍の各種族軍は最低でも一万はいる。ならば、殲滅にするにしても一万から、二万は必要だ。
敵は籠城をしている以上、こちらの軍よりも少ない。
なので、休む間も無く攻め続ければ疲労させる事ができるだろう。
そう述べると、反論は無くそのまま採用された。
各種族の軍は少なくとも一万はいる。波状攻撃するにしてもかなりの規模の攻撃になる。
魔人族軍は防戦に徹すれば負けると思ったのか、こちらの隙を見ては兵を繰り出して攻撃をしてきたりした。更に城門以外の場所から兵を出して、各軍を奇襲してきたりもした。
これには流石に手を焼いた。
なので、アウラ王女は波状攻撃する軍とは別に、敵の奇襲を防ぐ備えで一軍、更にその奇襲部隊が何処から出て来るのか探す為にも一軍を当てた。
おかげで、奇襲を防ぐ事は出来ているが、出て来る場所がいまだに分からない。
防塁の撤去も遅々として進まず、時間だけが過ぎていく。
(このままじゃあ、長期戦になるな。どうにかしないと駄目だな)
兵糧については、問題はない。
問題なのは、兵の士気だ。長期戦でこちらの戦意が削がれていっている。
このまま長対陣が続けば士気は下がり、最後には戦う前に軍が瓦解するかもしれない。
なので、ここは一刻も早く城壁を突破して、魔王を捕らえる又は殺害するしかない。
だが、その手立てが今だ見つからない。
途方にくれていた時に、事態が一転した。
「申し上げます。敵の奇襲部隊が出撃する場所を発見しました!」
獣人族の軍の伝令からその報告を聞いて、本陣のいる人達は皆喜び勇んだ。
「して、敵はどうやって奇襲していたのだ?」
「はっ、ここから東に少し進んだところにある森に、洞穴があります。そこから敵が出て来るのを確認していおり、なおかつ敵の奇襲部隊がその洞穴に入って行くのも確認しました」
「そうか、ご苦労であった」
王女様は労いの言葉を掛けて、下がらせると各種族軍の将に本陣に集まる様に指示した。
数十分後。
本陣に各軍の将達が集まった。
「時間が惜しい故に、直截に言おう。敵奇襲部隊の出撃する場所が分かった」
それを聞いて、ライオル陛下以外の将軍達は喜んだ。
「では、そこに兵を回して敵が出てきた所を叩きましょうぞ」
だが、アウラ王女は首を横に振る。
「いや、もっと別の方法を使うつもりだ」
アウラ王女の言葉を聞いて、何をするつもりなのか気になり、各将軍たちは皆、耳を傾ける。
「城壁を攻撃する。敵の目を攻城に向かせて、更に敵の奇襲部隊を出撃させた後に、その洞穴から選抜した精鋭部隊を侵入させて、城壁を開けさせるのだ」
「成程。素晴らしい策ですな」
「それで各将軍達には精鋭を千人ほど選抜して本陣に送ってもらいたい。各種族の選抜部隊が全て本陣に着き次第、作戦を開始する」
アウラ王女がそう言うと、将軍たちは分かったのか一礼して本陣を出て行った。
これでいよいよ、この戦いに終止符が打てるのか。
「総大将閣下。わたしめもその選抜部隊に参加してもよろしいでしょうか」
「お前がか? ・・・・・・ふむ、よかろう。見事武功をあげろ」
「はっ、ありがとうございます!」
僕は準備をする為、本陣を出る。
その際、アウラ王女が小さい声で「妹の婿になるのだ。これぐらいの武功があれば、誰も文句は言わないだろう」と聞こえた気がするけど、空耳だと思う。多分!
本陣で待つ事数時間。
各種族の軍から選ばれた千人規模の部隊が続々と集められた。
人間族軍の方も、各軍から選ばれた精鋭に加え、僕達に異世界転移組も配属された。
選ばれたのは、僕、天城君、西園寺君、遠山君、斉藤浩太君の五人が選ばれた。
この斉藤君は何と言うか、自由奔放な性格でクラスメート達を翻弄する人だ。
一言余計に言って、クラスの皆の気持ちを逆なでにするので、割と嫌っている人が多い。
僕はどちらかと言うと、何と言うか対応に困る。
何せ話しかけてくる内容が「なぁ、真田とはどこまでいった?」とか「張を堕としたら逆玉じゃん」とか「椎名はお前に惚れているから『ヤラナイカ?』って言えば、直ぐにさせてくれるぜ」と答えずらい事を平然と訊いてくる。
なので、対応に困る。もっともそんな事を言った後には、マイちゃん達に怒られていた。
その斉藤君の職業は『狩人』だ。
実家が弓道を教えているそうなので、弓の扱いが上手い。
数キロ先の的のど真ん中を一発も外す事もなく射る事が出来る。
後方支援要員として選ばれた。
因みに遠山君の職業は『重装騎士』だ。
その職業の特性なのか、それともそういった装備が好みなのか、全身重装鎧だ。
ゲームで例えるなら壁役だ。
そう例えたら、天城君は勇者で、西園寺君は魔法戦士で僕は賢者だな。
他のメンバーは本陣の護衛に回された。流石にマイちゃんとセナさんは不満たらたらだったが、何とか了承させた。
目的の場所に向かう前に、この選抜した部隊が誰が指揮するかで話し合いが行われた。
流石にこの作戦が成功したら、首都陥落が決定的になると判断されたようで、話し合いは紛糾した。
「此度の敵が出て来るところは我ら、獣人族が見つけたのだから、我らが指揮を取るのが筋であろう」
「いや、ここは総大将閣下をしている我ら人間族が指揮を取るべきだ」
「それでは依怙贔屓ではないか。それよりも闇夜でも視界が利く我ら亜人族が指揮を取るべきだ」
「それならば、先陣を務めれば良かろう。我ら竜人族が指揮を取れば、如何なる事態になっても問題なく指揮を取る事が出来ようぞ」
「そんなのは我ら天人族も言える事だ。それに我が種族は前回の侵攻戦で総大将を務めたがあえなく敗れた。故にここは汚名を晴らす為の機会として、我らに指揮を取らせてもらいたい」
「はっ、前回の侵攻戦は天人族の総大将が指揮を取ったから敗退したのだぞ。そんな奴らの指揮などうけれるか、貴様らがなるぐらいなら、我ら鬼人族が指揮を取った方がましだ」
「何を⁉」
「事実だろうが⁉」
という具合で一向に話が進まない。
このままだったら、作戦を開始する前に部隊が瓦解するぞ。
どうしたものかな。
「静まれ」
アウラ王女がそう言うと、口論していた部隊長達に口がピタリと止まった。
「貴様らは、わざわざ本陣に来て、わたしに醜い口喧嘩でも見せに来たのか?」
そう言われて、場はし~んと静かになった。
静かになったのを見て、アスラ王女はふぅと息を吐く。
「とは言え、ここに集まった部隊の隊長たちは、皆種族が違うのだ。種族が違えば考え方も違うのが道理だ。そこでわたしから提案だ」
アウラ王女の提案と聞いて、その場に居た人達何をするのかと身体を乗り出す。
「ここに棒が六本ある。その内の一本の先っぽには赤く色づけられている」
アウラ王女はその色が付いた棒を皆に見せてから、箱に入れた。
「この箱の中から赤く色づけられた棒を抜いた者が、奇襲部隊の指揮を取る。それで良いな?」
アウラ王女にそう言われて、皆頷いた。
そして、改めて棒を入れ直してから、不正がない様に皆一斉に抜かせる。
皆、指揮を取りたいのだろう、どれが赤く色づけられているかと慎重に選ぶ。
そうして選んだ棒を掴む。
「選んだな? では、皆一斉に引け」
アウラ王女の言葉と共に一斉に引かれ、そして選ばれたのは。
「よし! これで汚名返上出来る⁉」
選ばれたのは天人族の隊長であった。
外れた者達は憮然としたが、自分で選んだので文句をつける事も出来ない。
これでもし、人間族の隊長が選ばれたら不正だと言うだろうが、選ばれたのは天人族なので誰も何も言えなかった。
「では、天人族の者よ。名は何と言う?」
「はっ。ミヒャエル・セラフィエルと申します」
「うむ。では、このミヒャエルが奇襲部隊の指揮を取る。皆、文句は無いな?」
「「「「はっ」」」」
「では、直ぐに出撃の準備に取り掛かれ。済み次第、目的地の森に行き敵部隊が出て来るまで待機。敵が出たら、その穴を使い敵の首都の城門を開けて友軍を中に入れろ」
「はっ、身命に賭けましても必ずや果たさせて頂きます」
「うむ。では任せた」
僕達は本陣から出て行き、準備を整え目的の洞穴がある森まで駆けだした。
準備を整えた僕達は森に入り、目的の洞穴を見つけた。
この広さでは部隊の全てが一緒に入る事は出来ない。
なので、入る順番を決めた。まずは闇夜でも視界が効く亜人族、次に嗅覚が優れた獣人族、天人族、鬼人族、人間族、最後に竜人族という順番で洞穴に入る事が決まった。
そう決まると、僕達は周囲で待機した。
後はこの洞穴から出て来た部隊が出て行った後に、この洞穴から敵の首都内に入り、そこから首都内で暴れる部隊と、城門を開ける部隊で分かれる。
(この作戦で成果が決まる。頑張ろう)
そう思っていると、洞穴から誰かが出て来た。
黒い鎧を着て、目以外露出させていないフルフェイスの兜を被っている兵士だ。
その兵士は周囲を確認して、誰も居ない事が分かると洞穴に合図を送る。
すると、洞穴から魔物に騎乗した兵士達がぞろぞろと出て来た。
先に出た兵士も、二本角の馬みたいな魔物に跨った。
その兵士が跨るのを見て、兵士達の中で一番偉い人が手で合図をすると、その一団は駆けだした。
兵士達の姿が完全に見えなくなったのを確認して、僕達は隠れている所から出て来た。
「誰か、洞穴の中に誰かいるか確認しに行け」
ミヒャエル隊長がそう指示すると、兵士の何人かが洞穴に入って行った。
少しして洞穴に入った兵士の一人が戻ってきた。
「誰もおりません。このまま進んでも問題ありません」
「よし、まずは亜人族軍を第一陣とし、次に獣人族、天人族、鬼人族、人間族、最後に竜人族の順で洞穴に入る。洞穴の中には何があるか分からない故、警戒は怠るな⁉」
「では、お先に行かせて頂きます」
そう言って亜人族の部隊が洞穴に入って行った。
何事もないと分かると、次に獣人族、天人族、鬼人族、人間族、竜人族と順で入って行った。
ちなみに僕達は今回の作戦とは別口の作戦を行うつもりなので、一番最後だ。
何せする事が事なので最後が良いと思われたので、ミヒャエル隊長には既にこの事は話しているので問題ない。
(アウラ王女には終わってから報告すれば、怒られないよね。多分)
そう考えていると、竜人族の部隊が洞穴に入って行く。
「俺達も行くぞ」
西園寺君そう言うので、僕達は頷き洞穴に入ろうとしたが、その前に僕は愛騎であるヴァイドに声を掛ける。
「じゃあ、行ってくるけど。良い子で待っているんだぞ」
「クルルル」
ヴァイドの頭を撫でながら言うと、ヴァイドは撫でながら了承と取れる鳴き声をあげる。
「もし、自分の身に危険が襲い掛かって来たら逃げてもいいいからな」
「クルル」
「おい、猪田。そろそろ行くぞ」
「あ、うん。分かった。じゃあ、後でね」
「クルルルル」
僕はヴァイドの鳴き声を聞いて、洞穴に入った。
入った洞穴には人工的に造られたのだろう。明らかに人の手が加えられた所がいくつもあった。
一応、先に部隊の人達が進んでいるので、罠は大丈夫だろうがそれでも警戒しながら歩く僕達。
そして、洞穴の最奥まで到達した。そこには地面に幾何学模様の魔法陣が描かれており、更にその魔法陣に大きな黒い穴みたいなものがあった。
「これが、首都に繋がる道?」
「だろうな。誰も居ないのだから、安全は確保されている筈だ」
そう言って西園寺君が先に入って行く。
「待てよ。西園寺」
天城君もその後に続いた。
残った僕達は顔を見合わせる。そして、恐る恐るその穴の中に飛び込んだ。
穴の先は、何処かの施設のようだった。
周囲を確認すると誰も居ないようだ。
「ここが敵の首都の中なのか」
「少し静かすぎないか?」
「罠ではないだろうな」
「だよな。もし、罠だったら、先に入った奴らの死体の一つはあるだろう」
「だね。だったら作戦は成功なのかな?」
「どうだろう」
西園寺君がそう言い切る前に、派手な爆発音が聞こえて来た。
そして悲鳴も聞こえだす。
「・・・・・・・作戦は成功したようだな」
「だったら、オレ達は」
「ああ、当初の作戦通りに行くぞ」
「うむ」
「へっへへ、腕が鳴るな」
「猪田も良いな」
「勿論。僕が考えた作戦なのだから、異論はないよ」
「そうか。では」
西園寺君は腰に差した剣を抜く。
「俺達はこれより、敵の本陣である王宮に突入して、魔王を討つ‼」
僕達は頷き行動を開始した。




